11.78 劉基 賣柑者言 — 金玉其の外、敗絮其の中 — Epoché
この篇でできるようになること みかんの外と中の落差が、官人の姿へ移る所を示せます。 前に出た目的語を通常の順へ戻して読めます。 武官と文官への問いを対応させ、書き手が黙る結びを説明できます。 前提 :11.77「蘇轍 黃州快哉亭記」。問いを残して終わる記の後、売り手の言葉を借りて世を批判する文章を読みます。 買い手より、売り手が長く語る 作者は劉基、字は伯溫で、明の建国を助けた人です。この文章は元末の作とされますが、本文自体が制作年を示すわけではありません。 杭州の果物売りと、みかんを買って疑問を持つ書き手が登場します。書き手が責め、売り手が長く答え、最後に書き手は黙ります。教える側に立ったはずの人が、言い返せなくなる話です。 題の、売り手の言葉、というとおり、文章の中心は売り手の反論にあります。話す人が替わる所に印を付け、誰が何を主張しているかを分けて読んでください。 外は光り、中は乾いている 売り手はみかんの保存が上手で、寒さや暑さを経ても崩れません。外へ出すと輝き、 玉質而金色 、玉のような肌と金の色をしています。 しかし割ると 乾若敗絮 、乾いて古い綿くずのようです。見た目の美しさを先に描いてから中を開くため、期待と中身の落差が際立ちます。 後で売り手が使う外と中の言葉は、この場面を人へ当てはめたものです。冒頭の描写を、売り手は 金玉其外、敗絮其中 とまとめ直します。 二つの問いで、売り手を責める 書き手は、祭りの器を満たし、客をもてなすための品なのか、と問います。それとも外側を見せびらかして人を惑わす品なのか、と二つ目の問いを置きます。 どちらも同じ程度に可能な選択肢を尋ねているわけではありません。使い物にならない中身を見た後なので、後の、人をだますのか、という非難が強く響きます。 甚矣哉爲欺也 、だますにもほどがある、と責めます。書き手はこの時、見た目に惑わされず中身を見抜いた人として、売り手に説明を求めています。 私だけか、と世の中へ話を広げる 売り手は笑い、これを長年の生業とし、これで食べてきたと述べます。自分が売り、人が買い、これまで文句を聞かなかったという、自分の側の事情を挙げます。 続いて 世之爲欺者不寡矣,而獨我也乎 と、世にだます者は少なくないのに、自分だけなのかと問い返します。ここで話が一つのみかんから世の中へ広がります。 売り手の言葉で、だます行為が正当になるわけではありません。読むべきなのは、責められた人が、責める人の目の向け先を変えさせる言葉の働きです。 次の武官と文官への問いも、見た目は立派だが本当に中身があるのか、という形です。書き手がみかんに向けた基準を、今度は人へ向けます。 武官と文官を、同じ形で問う 佩虎符、坐皋比者 は、虎の割り符を帯び、虎の皮の敷物に座る武官です。いかめしく国を守る人物に見えるが、本当に孫子や呉子の兵法を授けられるか、と問います。 峨大冠、拖長紳者 は、高い冠をかぶり長い帯を引く文官です。堂々と朝廷を担う人物に見えるが、本当に伊尹や皋陶のような仕事ができるか、と問います。 身に付けた物、堂々とした様子、担うはずの役目、本当にできるかという問いが、二度同じ順に並びます。どちらか一方だけを責めず、武官と文官に同じ基準を当てます。 皋比 は gāo pí、虎の皮です。本文の 伊、皋 の後者が指す人名は 皋陶 、Gāo Yáo と読みます。 人名の 皋陶 では、 陶 を táo ではなく yáo と読みます。普通の語で知っている読みを、そのまま人名へ当てないでください。 堂々と見えることと、できること 洸洸 と 昂昂 は、いかめしい、堂々とした様子を描く畳語です。後の 巍巍 と 赫赫 も、高く立派で輝かしい外見を示します。 これらは、その人物が実際に国を守ったり政治を整えたりできるという証明ではありません。だから 果能授孫、吳之略耶 の、本当にできるのか、という問いが続きます。 果 は、本当に、という意味です。 型編 3課 と比べ、ただの情報を尋ねる問いより、見かけと能力の差を疑う文脈を読みましょう。 人物を説明する二つの動作を 者 で受ける形は、 型編 4課 と 型編 15課 の 的 と 着 を使う現代語に言い換えられます。 五つの、知らない 盗賊が起きても防ぐことを知らず、民が困っても救うことを知らない、と並べます。役人の不正を禁じることも、乱れた法を整えることも知らない、と続けます。 法斁 の 斁 は dù、ここでは法がすたれ、乱れることです。前の四つは役目を果たせない姿を重ねています。 最後に 坐縻廩粟而不知恥 と、座って官の穀物を費やしながら、恥も知らないと述べます。最後の一点は仕事の技能でなく、本人の態度に向かいます。 同じ 不知 が続くため、欠けた仕事を積み重ね、その全体を恥じない人として締める力があります。本文が書いているのは行いと態度で、心の中までは述べていません。 外と中の主語を、戻して読む 金玉其外、敗絮其中 は、その外は金玉、その中は古い綿くず、という意味です。名詞を述語として先に置き、主語となる外と中を後ろに置いた形と見るのが一般的です。 外を金玉に変える、という動作の意味ではありません。外がどうで、中がどうかを対にして読みます。現代語でも成語の 金玉其外,败絮其中 として使われます。 売り手は 又何往而不金玉其外、敗絮其中也哉 と、どこへ行っても外は金玉、中は綿くずでない所があろうか、と問い返します。 特別編 77篇 と同じく、反語と否定が、どこでもそうだという強い主張になります。ここでは売り手が世の中へ批判を広げる言葉です。 こちらを見ず、みかんだけ見るのか 今子是之不察,而以察吾柑 の 是 は、これ、という目的語です。それを動詞の前に出し、 之 を印として挟んでいます。 是之不察 を、これの察しない、と字順だけで訳さないでください。通常の順では 不察是 、これを見きわめない、です。主語のあなたと、目的語のこれを分けます。 ここでの、これ、は前に述べた人々の姿です。そちらを見ず、自分のみかんばかり見るのか、と書き手へ返します。 型編 1課 の主語・動詞・目的語へ戻すと、非難の向きが見えます。 黙った後に、二つの問いが残る 書き手は返す言葉がなく、退いて売り手の言葉を考えます。東方朔のような機知のある人物に似ていると思います。そして、世を憤り邪悪を憎む人なのか、みかんに託して諷刺しているのか、と問います。 売り手の素性を確かめ、そういう人物だったと断定して終わりません。問いを残すことで、みかんを通じて世を批判する働きを、この文章そのものにも持たせています。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 柑 名詞 みかん 外と中を対にする品 善藏柑 みかんを上手に保存する 敗絮 名詞 古く傷んだ綿くず 乾いた中身のたとえ 乾若敗絮 乾いて古い綿くずのよう 皋比 名詞 虎の皮の敷物 武官の見かけ 坐皋比者 虎の皮の敷物に座る者 長紳 名詞 長い帯 文官の見かけ 拖長紳者 長い帯を引く者 果 副詞 本当に 果物の意味ではない 果能授孫、吳之略耶 本当に孫子や呉子の兵法を授けられるか 斁 動詞 すたれる・乱れる ここでは dù と読み、すたれる意 法斁而不知理 法が乱れても整え方を知らない 廩粟 名詞 官の倉の穀物 役目を果たさず費やす物 坐縻廩粟而不知恥 座って官の穀物を費やし恥を知らない 諷 動詞 それとなく批判する みかんに託した言葉 而託於柑以諷耶 みかんに託して諷刺しているのか 練習 原文の字を補って書いてください。 今子是_不察 原文の字を補って書いてください。 世之爲欺者不寡矣,而獨我也_ 原文の字を補って書いてください。 果能授孫、吳之略_ 原文の字を補って書いてください。 金玉_外、敗絮_中 今子是之不察,而以察吾柑 の前半を通常の語順に戻し、全体を現代語にしてください。 佩虎符、坐皋比者 と 峨大冠、拖長紳者 を、現代語の 着 と 的 を使い、どんな人かを述べる文にしてください。 西瓜 ・ 失望 ・ 老实 を使い、見た目は立派で中身が悪い物を買った話を、短い現代語の三文で書いてください。最後に 金玉其外,败絮其中 を使いましょう。 五つの知らないことを本文から選び、仕事の技能ではなく態度を言うものを一つ示してください。 最後に書き手が黙り、売り手の素性を問いのまま残すことで、この文章にはどんな働きが生まれますか。二文で書いてください。 次の句を、本文の順に並べてください。 賣者笑曰 / 予默默無以應 / 杭有賣果者 / 予怪而問之曰 武官を述べる 洸洸乎干城之具也 と 果能授孫、吳之略耶 に、それぞれ同じ形で対応する文官の句を本文から選び、対にして示してください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 玉質而金色。剖其中,乾若敗絮。 外側の 玉質而金色 は明るく張って読み、 剖其中 の後で少し間を置きます。中身の 乾若敗絮 は声を落とし、外と中の落差が聞こえるように読み分けてください。 この篇のまとめ 外は美しく中は乾いたみかんから、見かけばかりの官人へ話が移りました。同じ形の問いと五つの否定、前に出た目的語を読み、責めた書き手が黙って問いを残す結びを捉えました。 次の篇へ 次の11.79は杜牧の阿房宮賦です。秦の宮殿と集めた人や財を描き、秦を滅ぼしたのは秦自身だとして、後の人への戒めへ進みます。 答え 今子是之不察 世之爲欺者不寡矣,而獨我也乎 果能授孫、吳之略耶 金玉其外、敗絮其中 今子不察是 你不察看这些人,却来察看我的柑子。 这是佩着虎符、坐在虎皮上的人。 这是戴着高帽、拖着长带的人。 买的西瓜外面好看,里面坏了。 我很失望,卖瓜的不老实。 这瓜金玉其外,败絮其中。 防ぐ 不知御 、救う 不知救 、禁じる 不知禁 、整える 不知理 、恥じる 不知恥 です。最後の 不知恥 が本人の態度を言います。 売り手を単に不正な商人と決め付けた書き手の視点が揺さぶられます。みかんに託して世を批判する人なのかと問いを残すため、文章自体も物を通じた諷刺として読めます。 杭有賣果者 (みかんの外と中)→ 予怪而問之曰 (書き手の非難)→ 賣者笑曰 (売り手の答え)→ 予默默無以應 (書き手が黙り、問いで閉じる)の順です。 洸洸乎干城之具也 には 昂昂乎廟堂之器也 、 果能授孫、吳之略耶 には 果能建伊、皋之業耶 が対応します。どちらも、堂々とした様子を述べてから、本当にできるのかと問う形です。 参考文献 劉基『賣柑者言』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。 出所: https://zh.wikisource.org/wiki/古文觀止/卷12