8.8 特別編の版面に慣れる — 白話と文言のあいだ — Epoché
この課でできるようになること 特別編の原文、書き下し文、解説を使い分けられます。 演説に現れる文言の語を見つけられます。 繁簡の字形を替え、短い内容を白話へ言い直せます。 学生への三つの望みと、話し手の二つの仕事を説明できます。 前提 :8.7までです。繁編の最後の課で、特別編への入口を見ます。 原文、書き下し文、解説 特別編の一篇は、三つの文書でできています。原文には訳や註を混ぜず、書き下し文と解説を別に置きます。原文を読み、分からない所で書き下し文へ移り、背景や型の説明が必要なら解説を見る、という使い方ができます。 原文は漢文として扱われるため、簡繁の変換がかかりません。たとえば 發 と 髮 は、簡体字ではどちらも 发 になります。このようにまとめる向きに変換すると、元の字には戻せません。そのため、原文の字の区別をそのまま残します。 字体ではなく、語が目印になる 白話は話し言葉に近い書き言葉、文言は古典の書き言葉です。二つは完全に離れた箱ではなく、その間の文体もあります。この課では、一九一七年に蔡元培が北京大学の校長に就任した際の演説を読みます。 口で述べる演説でも、書かれた形は文言に近いものです。繁体字だから文言なのではありません。自分を指す 予 ・ 余 、聞き手を指す 諸君 など、使う語を手がかりにします。 この演説の語 白話でなら 働き 予 ・ 余 我 一人称 諸君 你們 聞き手を呼ぶ 者 ・ 也 是 何であるかを言い切る形の手がかり 苟 如果 条件を示す 莫如 不如 比べて勧める判断 不惟 ・ 更 不但 ・ 而且 前の内容にさらに重ねる 於 在 ・ 對 場所や向かう相手を示す 第一段落には 予 、その後には 余 が出ます。日本語の「あらかじめ」「余り」だけを思い浮かべないようにします。ここでは、どちらも話し手を指すと読みます。 問いの形で、念を押す 又豈本心所願乎? [1] は、それがもともとの望みだろうか、いや違うという反語です。答えを集めたい質問ではなく、聞き手へ念を押しています。 この演説の文末の 乎 は、反語として読みます。ただし 同乎流俗 の 乎 は文末ではありません。字が一つ見えただけで、全部を同じ問いの終わりとして扱わないようにします。 数え上げの頭と終わりを読む 五段落のうち、最初は前置きです。次の三段落が学生への望みで、最後に校長として取り組む仕事を二つ述べます。一度目は、次の頭と各段の終わりを拾って骨組みを取ります。 段 頭の目印 話題 二 一曰 学ぶ目的を定める 三 二曰 行いを磨く 四 三曰 教師と学友を敬い愛する 五 一曰 ・ 二曰 講義録を改め、書籍を買い足す 二〜四段落の終わりは、諸君に望むことの一つ目、二つ目、三つ目という形で戻ります。細かい語で止まっても、今どの望みを述べているかを見失わずに読めます。二度目は段落を通し、理由や具体例を追います。 三つの字形を混ぜない この演説には、簡繁で形の違う字が多く出ます。硬い語の字も、知っている形との対応から読めます。 學 ・ 國 ・ 將 ・ 數 ・ 會 ・ 當 ・ 禮 ・ 稱 ・ 與 ・ 萬 ・ 體 は、簡体字が日本の字形と重なる側です。一方、次の字は日本語が第三の形を持ちます。 繁体字 簡体字 日本の字形 價 价 価 圖 图 図 廣 广 広 嚴 严 厳 惡 恶 悪 讀 读 読 辯 辩 弁 驗 验 験 中国語を簡体字へ直すとき、日本語の「価・図・広」を入れません。 价 ・ 图 ・ 广 へ直します。日本語の字を知っていることと、中国語の字を書けることを分けて確かめます。 語表 簡体字 繁体字 意味 日本語との差 例文 訳 予 予 私 ここでは一人称 予擔任 私が担当する 余 余 私 ここでは余りではない 余到校 私は学校に着任する 诸君 諸君 皆さん 聞き手を呼ぶ 諸君來此 皆さんはここに来る 宗旨 宗旨 目的・方針 学ぶ目的をいう 抱定宗旨 目的をしっかり定める 学问 學問 学問 大学の役割に関わる 高深學問 高く深い学問 苟 苟 もし 条件を示す 苟能愛惜 もし大切にできれば 莫如 莫如 〜に及ぶものはない 勧める判断に使う 莫如自修 自ら修めるのが一番だ 不惟 不惟 〜だけでなく 更などへ続く 不惟思 考えるだけでなく 砥砺 砥礪 磨く 行いを磨く 砥礪德行 徳行を磨く 德行 德行 徳行 人としての行い 砥礪德行 徳行を磨く 敬爱 敬愛 敬い愛する 師と友へ向ける 敬愛師友 師と友を敬い愛する 讲义 講義 講義録 ここでは配る文書 改良講義 講義録を改める 书籍 書籍 書籍 図書館へ足すもの 添購書籍 書籍を買い足す 图书馆 圖書館 図書館 圖は日本語では図 去圖書館 図書館へ行く 广 廣 広く ここでは広く買い求める 廣爲購辦 広く買い求める 价 價 代金 價は日本語では価 付價接物 代金を払い品物を受け取る 対訳 第1段落の訳 五年前、厳幾道先生が本校の校長であったとき、私は教授を務めており、始業の日に同じ学校の皆さんにいささか申し上げたことがある。諸君の多くは予科を卒業して来たのだから、きっと聞いているだろう。士は別れて三日たてば目をこすって見直すべきだという。まして数年を経たのだから、諸君は以前に比べて必ず長足の進歩を遂げているはずだ。私はいまこの学校の長となり、あらためて三つのことを諸君に告げたい。 第2段落の訳 一つ目は、目的をしっかりと定めることである。諸君がここへ学びに来た以上、必ず定まった目的があるはずだ。その目的が正しく大きいかどうかを知ろうとするなら、まず大学の性質を知らなければならない。今の人が専門学校で学び、学び終えて職に就くのは、もとより当然の成り行きだが、大学ではそうではない。大学とは、高く深い学問を研究するところである。外部の人はしばしば本校の腐敗を指摘し、ここで学ぶ者はみな役人になって金持ちになろうという考えを胸に抱いているという。だから予科を卒業する者の多くは法科に入り、文科に入る者はきわめて少ない。法科を出世への近道とみなしているからである。役人になりたい気持ちが熱いので、教員に対しては、その学問の深い浅いを問わず、ただ官位の大小を問い、官位の高い者を特に歓迎する。将来卒業したときに引き立ててくれる人がいるからである。現在、わが国で政治や法律に通じた者の多くは政界に入り、教授に専念する者はきわめて少ない。そのため教員を招くにも、兼職の人を招かざるを得ず、これもやむを得ないことである。外部の指摘が当たっているかどうかはしばらく論じないが、悪口を止めるには自ら修めるのがいちばんである。人が私を腐敗していると謗っても、私が腐敗しておらず、心に問うて恥じるところがなければ、私に何の傷があろうか。もし本当に役人になり金持ちになるという目的を果たしたいのなら、北京には専門学校が少なくない。法科に入りたい者は法律学堂で学べばよく、商科を学びたい者も商業学校を受験すればよい。どうしてこの大学に来る必要があろうか。だから諸君は目的をしっかりと定め、学問を求めて来なければならない。法科に入るのは役人になるためではなく、商科に入るのは金持ちになるためではない。目的が定まれば、おのずと正しい道を進む。諸君がここで学ぶのは三年か四年で、時間は決して少なくない。わずかな時間も惜しんで熱心に学問を求めれば、その到達するところにどうして限りがあろうか。もしただ役人になり金持ちになることだけを志すなら、目的がゆがんでいるのだから、向かう先もおのずと異なる。ふだんは放蕩して遊び歩き、試験になれば講義録を丸暗記し、学問があるかないかを考えず、ただ点数の優劣を争う。試験が終われば書物は棚の上に放り上げてまったく顧みず、三、四年をいいかげんにやり過ごし、ぞんざいに責任を果たしたことにして、卒業証書を手に入れれば、それを頼りに社会で立ち回ることができる。これは学問を求めた初めの志とまるで反対ではないか。月日をむなしく過ごし、学問がまったくないのは、自分を誤ることである。そのうえ辛亥の役で我々が革命を起こしたのは、清朝の官吏が腐敗していたからである。今日でも我々が当局に多く不満を抱くのは、やはりその道徳が失われているからである。いま諸君がこのときに基礎を築き、学問に励まなければ、将来万一生計に迫られて職に就き、教壇に立てば必ず学生を誤らせ、政界に身を置けば必ず国家を誤らせる。これは人を誤ることである。自分を誤り人を誤ることが、どうして本心から望むところであろうか。これも目的が正しくないからにほかならない。これが私が諸君に望むことの一つ目である。 第3段落の訳 二つ目は、徳行を磨くことである。今や風俗は日ごとに軽薄になり、道徳は失われ、北京の社会はとりわけひどい。徳を損ない行いを毀つことは目に触れるところどこにでもあり、根がよほど深く固くなければ、世の悪い風に染まらない者はまれである。諸君は大学で学んでいるのだから、身を慎み自らを愛することができるはずだ。しかし国の盛衰は風俗の厚薄を見ればわかる。世の風がこのようでは、行く末は思いやられる。だから必ず抜きん出た人物が自ら手本となり、崩れた風俗を力を尽くして正さなければならない。諸君は大学生であり、その地位はたいへん高い。この重任を担うのは、ほかに譲れない責任である。だから諸君は自分を正すことを考えるだけでなく、さらに人を励まさなければならない。もし徳を修めず、学問を講じず、世の悪い風と同じくし、汚れた世に合わせるなら、自分さえ人に侮られるのに、どうして人を感化することができようか。とはいえ、諸君が一日じゅう机に向かって懸命に勉強し、何の楽しみもなければ、きっと体に苦痛を感じるだろう。諸君のためを考えるなら、正しい楽しみで正しくない楽しみに代えるのがいちばんで、そうすれば道徳を損なわず、体にも益がある。諸君は分科に入るとき誓約書を書き、本校の規則を守ると誓った。もし途中でそれに背くなら、初めの志と反対ではないか。これが私が諸君に望むことの二つ目である。 第4段落の訳 三つ目は、師と友を敬い愛することである。教員が口で説き指で示し、職員が務めを果たしているのは、みな諸君が学ぶのに便利なようにと図ってのことであるから、誠意をもって接し、礼を尽くすべきである。同じ学生がひとつの教室に共に過ごすのであれば、なおさら互いに親しみ愛し合うべきで、そうしてこそ切磋琢磨の効を得られる。心を開いて公明に接するだけでなく、さらに道義をもって互いに励まし合うべきである。同じこの学校にいる以上、誉れも謗りも共にする。同級生の中に道徳の欠けた者、行いの正しくない者がいて、社会から非難されれば、自分がいくら品行方正でも弁解のしようがない。だからこそ必ず互いに戒め励まし合わなければならないのである。私がドイツにいたとき、店へ品物を買いに行くたびに、店主は丁寧にもてなし、代金を払い品物を受け取るときには互いに礼を言い合った。これは小さなことではあるが、人づきあいにはやはり欠かせない。普通の人でさえこうなのだから、まして堂々たる大学生においてはなおさらである。これが私が諸君に望むことの三つ目である。 第5段落の訳 私は学校に着任してまだ数日で、学校の事情にはまだ詳しくない。いま計画していることが二つある。一つは講義録を改めることである。諸君は高く深い学問を研究するのだから、中学校や高等学校とはおのずと異なり、教員の講義に頼るだけでなく、なおさら自ら静かに学ぶことに頼らなければならない。今後の講義録は要点だけを並べ、細かな点や精密で奥深い意味は、講師が口で伝えるか、自分で参考書にあたるかして、学んだことが身につき、実際の役に立つことを期する。もう一つは書籍を買い足すことである。本校の図書館は書籍が多いとはいえ、新しく出たものはきわめて少ない。広く購入しなければ、学生の参考には到底足りない。いま資金を集めて新しい書籍を多く買う計画を立てている。将来、棚いっぱいに典籍が並べば、おのずと広く調べ集めることができ、不足を憂えることはなくなるだろう。今日諸君に申し上げることはこれだけである。これからお会いする日は長いのだから、その都度また話し合えばよい。 練習 本文の次の文を、字形だけ簡体字に書き換えてください。 大學者,研究高深學問者也。 [1] 次の本文の語句を簡体字に書き換えてください。 苟能愛惜分陰 [1] 次の本文の文を簡体字に書き換えてください。 此余所希望於諸君者一也。 [1] 本文の 予擔任教授 [1] を、私が教授を担当するという短い白話の簡体字に言い換えて書いてください。 本文の 諸君來此求學 [1] を、短い白話の簡体字に言い換えて書いてください。 時間を大切にすれば進歩できるという、自分たちを主語にした短い条件文を、 如果 を使って書いてください。 次の本文の空欄に、白話の 如果 に当たる一字を入れ、語句を書いてください。 _能愛惜分陰 次の本文の空欄に、白話の 不如 に当たる語を入れ、句を書いてください。 然弭謗__自修 次の本文の空欄に、白話の 不但 に当たる語を入れ、句を書いてください。 __開誠布公,更宜道義相勗 大学の役割を言い切る一文、条件を示す 苟 のある箇所二つ、反語の一文を、本文から選んで示してください。 特別編の三文書の使い方、学生への三つの望み、校長の二つの仕事を日本語で説明してください。 戻り語 字体だけを替える段では、元の文の意味を変えません。 学習や将来の希望、学ぶ準備について、語ごとに短い簡体字の文を書いて、繁体字に書き換えてください。使う語: 专心 ・ 诚实 ・ 优秀 。 学習や将来の希望、学ぶ準備について、語ごとに短い簡体字の文を書いて、繁体字に書き換えてください。使う語: 自信 ・ 冷静 ・ 毕业 。 学習や将来の希望、学ぶ準備について、語ごとに短い簡体字の文を書いて、繁体字に書き換えてください。使う語: 准时 ・ 诗人 ・ 护士 。 学習や将来の希望、学ぶ準備について、語ごとに短い簡体字の文を書いて、繁体字に書き換えてください。使う語: 运动员 ・ 眼镜 ・ 耳机 。 学習や将来の希望、学ぶ準備について、語ごとに短い簡体字の文を書いて、繁体字に書き換えてください。使う語: 充电 ・ 窗子 ・ 闹钟 。 音読 ▶で本文を聞き、第一段落を読みます。四字や六字のまとまりを手がかりにしながら、意味の切れ目を大切にします。最後に少し速く