3.6 過去と未来 — was/did/will/be going to/used to — Epoché
この課でできるようになること be 動詞の過去( was ・ were )と一般動詞の過去を、作り方が別のものだと分かって使い分けられる。 過去の打ち消しと問いで did を使い、後ろの動詞を元の形に戻せる。 will と be going to を、「いつ決めたか」で選べる。 used to で「昔はそうだった、今は違う」と言え、一度きりの過去には使わないでいられる。 前提 : 3.5 まで。 日本語には「た」があります。「昨日、駅で彼女に会った」の「た」、「あ、財布はここにあった」の「た」、「その本はもう読んだ」の「た」——どれも同じ一字です。ところが英語では、この三つが違う形になります。一つめだけが過去形で、二つめは現在形、三つめは現在完了です。日本語話者が英語の時間の言い方でつまずくのは、 「た」を見たら過去形 という写し方が、三つのうち二つで外れるからです。この課で扱うのは、そのうち 一つめだけ です。残りの二つは第 2 期に置いてあります。ここで全部を片づけようとしないでください。 学校で習ったことを思い出しておきます。 was ・ were 、語尾の -ed 、 did 、 will 、 be going to 、 used to ——この課に出てくる形は全部、中学の教科書に載っているものです。新しく覚える語はありません。それでも 1 課を使うのは、日本語話者の英語で 単純過去が使われすぎている という実測があるからです。学習者の話した英語を集めた調査では、単純過去が百万語あたり母語話者の 589 回に対して 1,315 回——2.2 倍にのぼりました [1] 。多すぎるぶんはどこから来たのか。 現在完了で言うべき場面を、単純過去で言ってしまっている のです。この課ではその入口までを示し、直し方そのものは 3.9 型編 に送ります。 例文で見る まず 10 文を見ます。見てほしいのは 動詞の形だけ です。訳の側には「た」や「つもりだ」や「だろう」が出てきますが、英語の側でその働きを担っているのが語のどの部分なのかを、指で押さえながら読んでください。語の意味はどれも第 1 期の範囲の中にあります。 英文 日本語訳 見るところ I was at home then. [2] その時私は家に居ました。 be 動詞の過去。語そのものが替わる They were very kind to me. [3] 彼らは私に大変親切だった。 主語が複数だと were になる He changed schools last year. [4] 彼は昨年転校した。 一般動詞の過去。語尾に -ed が付く I saw her last week. [5] 私は先週彼女に会った。 語尾ではなく語の形が替わる動詞もある She did not go there. [6] 彼女はそこへ行かなかった。 打ち消すときは did が出て、動詞は元の形に戻る Did he go there? [7] 彼はそこへ行きましたか。 訊くときも同じ。 did が先頭に出る I will get it for you. [8] ぼくが取って来てあげるよ。 will 。その場で決めた申し出 I am going to see him today. [9] 今日は彼に会うつもりだ。 be going to 。前から決めてあった予定 This car is going to break down. [10] この車は故障しそうだ。 同じ形で「そうなりそうだ」という兆しも言える He used to live here. [11] 彼は以前ここに住んでいた。 used to 。昔はそうだった——そして今は違う 十の文に出てくる動詞は多くありません。それでも形は五通りに分かれました——語そのものが替わるもの、語尾が伸びるもの、別の語が前に出てくるもの、二語で一組になるもの、三語で一組になるもの。この分かれ方には理由があります。 骨組み この課の規則は一つです。 英語は、過ぎたことかどうかを動詞の形で必ず示す。そして示し方が be 動詞と一般動詞で違う。 英文を組み立てる順は、 3.1 型編 で決めたとおり動詞から始めて、その動詞を いつの形にするか を次に決めます。 be 動詞の過去は語そのものが替わる be 動詞には語尾を足しません。 am と is が was に、 are が were になります。主語が一人・一つなら前者、それ以外なら後者です。 I was at home then. [2] と They were very kind to me. [3] を並べて読むと、違うのは主語の数だけだと分かります。打ち消すときも did は要りません。 Her story was not interesting. [12] のように、 be 動詞のすぐ後ろに打ち消しの語が付きます。ここは一般動詞と手つきがまったく違うところです。 一般動詞の過去は語尾か、語の形そのもの 一般動詞は二手に分かれます。多数派は語尾に -ed が付くもので、 He changed schools last year. [4] や I moved last month. [13] がその形です。少数派は語の形そのものが替わるもので、 I saw her last week. [5] や I left the company last month. [14] がそれに当たります。形が替わる動詞は 数が限られていて、しかもよく使う動詞に集まっています 。だから、一覧を丸暗記するより、出会うたびにその文ごと覚えるほうが早く済みます。 打ち消しと問いは did が引き受ける ここが日本語話者のいちばん崩れるところです。一般動詞の過去を打ち消すとき、あるいは問いにするとき、 過ぎたという印は did のほうへ移り、動詞は元の形に戻ります 。 She did not go there. [6] の動詞は元の形で、 Did he go there? [7] も同じです。印を二か所に付けないのが英語の決まりで、これは現在形で does が出ると三人称単数の -s が動詞から消えるのとまったく同じ仕組みです。 なお、話し言葉では did not を縮めて言います—— He didn't go there. [15] の形です。この課は縮めない形で通しますが、聞くほうでは縮めた形が多く、音も短くなります。そちらは聞編の聞の課で扱います。 未来は二通り — 決めた時点が違う これからのことを言う形は二つあります。二つの差は いつ決めたか です。 will は、 その場で決めたこと に使います。 I will get it for you. [8] は、相手の困っている様子を見て、言いながら決めた申し出です。だから申し出・約束・引き受けにはこの形が向きます。もう一つ、 He will come. [16] のように 話し手の見通し を言うのにも使います。こちらは決めるも何も、相手の意思とは関係のない予測です。 be going to は、 前から決めてあったこと と、 今そこに兆しが見えていること に使います。 I am going to see him today. [9] は、今日そうしようと前から決めてあった予定です。 This car is going to break down. [10] は決めた人が誰もいませんが、兆しがすでに目の前にあります。二つは別の使い方に見えて、 どちらも「もう始まっている」 という一点で同じです。 使い分けに迷ったら、次のように自分に訊いてください。 この話をする前から、そうすることになっていたか。 なっていたなら be going to 、今この瞬間に決めたなら will です。そして、どちらの形でも 後ろの動詞は元の形のまま だという点は共通しています。 used to — 昔はそうだった、今は違う used to は、二つの意味を一度に運びます。一つは 昔はそうだった 、もう一つは 今はそうではない です。 He used to live here. [11] は「彼は昔ここに住んでいて、今は住んでいない」と言っています。後半を言わずに済ませられるのがこの形の値打ちで、 There used to be a house here. [17] も同じく、今そこに家が無いことまで含んでいます。ですから、今も続いていることには使えません。そこが単純過去との分かれ目です。 使いすぎにも注意が要ります。この形は母語話者の 158 回に対して 331 回と、学習者の側で倍以上の頻度で出ていました。 一度きりの出来事 にまで使うと、「昔はよくそうしていた」という別の話になります。繰り返しか、続いていた状態か——そのどちらかでなければ、単純過去のままにしてください。 形がよく似た別物が一つあります。 He is used to the work. [18] の形です。こちらは前に be 動詞が付いていて、意味は「慣れている」。昔の話ではなく 今の状態 です。見分け方は前に be 動詞があるかどうかだけ。二つを並べて覚えるとかえって混ざるので、こちらはそういう言い方があるとだけ知っておけば足ります。 日本語ならどう言うか 同じところから入ります。 日本語にも過ぎたことを示す形があります。 「会う」に対する「会った」、「住む」に対する「住んでいた」。動詞のほうを変えて示すという点では、英語と日本語は同じ土台に立っています。ずれるのは三つです。 「た」は過去だけの印ではない 日本語の「た」は、過ぎたことのほかに、 今その場で分かった ことや、 今すでに終わっている ことにも付きます。探していた財布を見つけて「あ、あった」と言うとき、見つけたのは過去ではなく今この瞬間です。「もう読んだ」も、読み終わった時点より、今それを読み終えた状態にあることのほうが言いたいことです。この二つを英語で過去形にすると、話が今から切り離されて、相手には別の意味で届きます。 日本語の言い方 「た」の働き 英語ではどうなるか 先週、彼女に会った。 過ぎた出来事 単純過去。この課で扱う あ、ここにあった。 今、見つけた 現在形。過去形にはしない その本はもう読んだ。 今につながる完了 現在完了。 3.9 型編 明日、雨が降ったら まだ起きていない条件 現在形。過去形にはしない この表の二行目と四行目は、英語では 過去形になりません 。そして三行目が、この課の冒頭で触れた「使いすぎ」の正体です。「もう読んだ」「会ったことがある」——日本語ではどちらも「た」で言えてしまうので、英語でも単純過去で押し切れる気がしてしまいます。そこを分けるのが現在完了で、本編は 3.9 型編 にあります。 入口だけ見ておきます。 I saw her last week. [5] は先週という 過ぎた一点 を指していて、今とはつながっていません。同じ出来事でも I have seen her before. [19] と言えば、いつ会ったかは問題でなくなり、 会ったことがあるという事実が今の自分にある という話になります。 I have already read the book. [20] も同じです。見分ける手がかりは一つ、 いつのことかを言っているか 。時の一点を言うなら過去形、今の状態を言うならそちらではありません。 日本語には未来の形が無い 二つめのずれです。「明日、彼に会う」——この「会う」は、「いつも彼に会う」の「会う」と同じ形です。日本語は これからのことを現在形で言います 。時を表す語が肩代わりしているので、動詞を変える必要がありません。英語はそうではなく、これからのことには will か be going to が要ります。日本語から訳そうとすると、原文に手がかりが無いので、この二語をまるごと落としてしまいます。落とすと、相手には「いつものこと」を言っているように聞こえます。 逆向きの誤りもあります。「〜したら」「〜のときに」に当たる部分では、英語は これからのことでも現在形のまま にします。上の表の四行目がその場合で、日本語の「降ったら」の「た」が過去でないのと同じ理屈です。この形は接続詞の課で改めて扱います。ここでは「未来の印は文に一つで足りる」とだけ覚えてください。 「つもり」と「だろう」は目安にならない 三つめです。 will を「〜だろう」、 be going to を「〜するつもりだ」と訳し分ける覚え方は、半分しか当たりません。 I will get it for you. [8] は「つもり」でも「だろう」でもなくその場の申し出で、 This car is going to break down. [10] のほうは、車に「つもり」がありません。訳語で覚えると訳語の側から英語を選ぶことになり、半分の場面で外します。手がかりは、先に書いた問い—— この話をする前から、そうなることになっていたか ——だけです。 丁寧さの段 この節は毎課置きます。日本語話者の英語には丁寧さの段が一段しかない、という実測があるからです。3.1 では四段を並べました。この課の道具は、その段を作っている仕組みそのものに触れます。 英語では、過去形が時間ではなく相手との距離を作ります。 英文 日本語訳 どんな相手に Please help me. [21] 私を手伝ってください。 親しい相手・急いでいるとき Can you help me? [22] 私を助けてくれますか。 同僚・友人。今の形 Could you help me? [23] お手伝いいただけますか。 初対面・目上の相手。過去の形 I was hoping to meet you there. [24] そこでお会いできればと思っていたんですが。 改まった場。切り出しごと過去の形にする 三行目は過ぎたことを言っているのではなく、今この場の頼みごとです。それでも過去の形を使うと 頼みが今の自分から一歩離れて置かれる ので、相手は断りやすくなります。断りやすさが、そのまま丁寧さになります。四行目はそれをさらに進めて、切り出しの部分ごと過去の形にしたものです。同じ手つきは礼を言うときにも使えて、 I wanted to than