6.39 廬隱『海濱故人』(抄) — Epoché
この篇でできるようになること 五人を性格・姿・交友で分けて読めます。 紹介を先に置く書き方の強みと限界を説明できます。 比較や可能補語を使い、人物を短く書き分けられます。 前提 :6.38「蕭紅『回憶魯迅先生』(抄)」。本文は別の読書ページにあります。五人の紹介から露沙の生い立ちが語られ始めるところまでを読みます。 五人を一度に見渡す 廬隱の小説の冒頭では、海辺で夏を過ごす五人の女子学生が紹介されます。露沙、玲玉、雲青、蓮裳、宗瑩です。名前を追うだけでなく、誰が誰と親しいかを組にします。そうすると、後の会話を見失いにくくなります。 人物 性格や考え方 姿の描写 交友 露沙 活発で強く、考えが深い。 清瘦 、 短小精悍 と評される。 宗瑩と親しいが、考えの俗っぽさには反対する。 玲玉 感情が豊かで、優しくされるのを好む。 たいそう弱々しい体つき。 雲青と最も親しい。 雲青 理知が感情より強い。 この紹介には具体的な体つきの説明はない。 玲玉と蓮裳に親しい。 蓮裳 周到で、誰とでも付き合える。 この紹介には具体的な体つきの説明はない。 雲青と親しい。 宗瑩 温和で人当たりがよいが、誇示も好む。 最もあでやかで、華やかな装いを好む。 露沙と親しい。 すべての人に同じ分量の情報があるわけではありません。書かれていない体つきを、想像して表へ足さないようにします。交友の線は交差しています。全員がまったく同じ理由で仲がよいのでもありません。 先に説明する紹介の強みと限界 この段落は、場面で動き始める前に、性格と関係の見取り図を渡します。誰にどんな傾向があるかを知ってから会話を読むので、短い場面でも関係をつかめます。一方、紹介の評を読んだだけでは、それぞれの実際の行動を十分に見たことにはなりません。 読編 30篇 の『孔乙己』は、立って飲みながら長い上着を着る姿などから人物を見せました。こちらは説明で人物の枠を先に作り、その後に人物を動かします。どちらが優れているかではなく、読者が何を先に受け取るかの違いです。 五人を紹介した後には、海の船を見て、露沙の幼いころの船旅へ話が移ります。紹介で得た関係が、誰が話し、誰が聞くかを理解する手がかりになります。 露沙へ集まる語り 露沙は名前が最初に出て、性格だけでなく過去の暮らしまで長く語られます。他の四人の将来まで、この抄では追いません。分量と取り上げる出来事の違いから、ここでの語りの関心が露沙へ寄っていることを読み取れます。 過去を語る人も分かれます。幼いころの船の出来事は露沙自身が語り、誕生のいきさつは宗瑩が語ります。宗瑩はまず露沙の顔を見て、話してよいかをうかがいます。露沙は、自分も覚えていないから聞かせてほしいと応じます。本人がその場にいながら、自分の過去を他人の口から聞いています。 祖母の死と誕生が重なったことを、不吉だと感じるのは母の側です。生まれた子に責任があったとする説明ではありません。誰がどう受け止めたかを分けて、重い生い立ちの語りを読みます。 一人の中の二つの面を比べる 云青是个智理比感情更强的人。 は、雲青と別の人の比較ではありません。一人の中の理知と感情を比べ、前者がより強いと述べています。本文は 智理 という順で書いています。 比較の形は 型編 21課 を使って読みます。 比 の後ろが基準、 更强 が差を述べる部分です。 更 を 很 へ機械的に替えることはできません。 比感情更强 では「感情よりさらに強い」です。日本語の「とても強い」に引かれて、比較の中へ程度の 很 を入れないようにしましょう。 受け身と、止められない動き 而且到处都被人欢迎 は、どこでも人に歓迎されるという、よい評価の受け身です。一方、 被她搅得急起来 では、父が子にかき乱されて気を立てます。同じ受け身でも、出来事が好ましいかどうかは文ごとに読みます。 被 は望ましくないことを述べる場面でよく使いますが、この文学の例のような用法もあります。自分で日常の紹介を書く時は、「誰もがその人を好む」と、行う側から述べる文も考えましょう。たとえば 大家 + 都喜欢 + 她 と、好む人を主語にして能動で組み立てます。 日本語で受け身になる文を、いつも 被 で作るわけではありません。この文があるからといって、人柄を褒める紹介をすべて受け身へ変えないようにします。 也止不住哭声 では、泣き声を止めることができません。程度を表す 搅得急起来 と、可能を否定する 止不住 を分けます。何が起きたかと、何ができないかを、それぞれの形から読み取ります。 語表 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 白绡 名詞 白い薄絹 朝の光の比喩 早晨披白绡的安琪儿 朝に白い薄絹をまとう天使 女郎 名詞 若い女性 若い娘たち 五个青年的女郎 五人の若い女性 凝思 動詞 じっと考える 考えに集中する 默默凝思 黙って考え込む 赏鉴 動詞 味わい眺める 景色を鑑賞する 每天两次来赏鉴海景 毎日二度海の景色を眺めに来る 短小精悍 成句 小柄で力強い 人物への褒め言葉 她们给她的赞语是「短小精悍」 彼女たちが露沙に贈った褒め言葉は「短小精悍」だった 诙谐 形容詞 おどけた・ユーモラスな 人と接する調子 总是诙谐的 いつもおどけている 温存 名詞・形容詞 優しいいたわり ここでは受けたい優しさ 喜欢人们的赞美和温存 人からの称賛と優しさを好む 智理 名詞 理知 本文での語順 智理比感情更强 理知が感情より強い 温慰 動詞 優しく慰める 相手をなだめる 不能十分温慰玲玉 玲玉を十分優しくなだめられない 周到 形容詞 行き届いた 人への気配り 莲裳为人最周到 蓮裳は最も気配りが行き届いている 娇艳 形容詞 あでやかだ 目立つ美しさ 是最娇艳的一个 最もあでやかな一人だ 夸耀 動詞 見せびらかす 誇示する 夸耀她的美和她的学识 美しさと学識を誇る 近俗 形容詞 俗っぽい 考え方の評価 她思想的近俗 彼女の考え方の俗っぽさ 附和 動詞 調子を合わせる 自分の考えを抑えて同調する 来附和她 彼女に調子を合わせる 抱负 名詞 志 将来への大きな思い 都是很有抱负的人 みな志を持った人だ 醉生梦死 成句 何も考えず日を送る 目的のない暮らしの評 和那醉生梦死的不同 何も考えず暮らす者とは違う 止不住 動詞句 止められない 可能の否定 也止不住哭声 泣き声も止められない 搅 動詞 かき乱す 落ち着きを乱す 被她搅得急起来 彼女にかき乱されて気が立つ 恬适 形容詞 安らかな 落ち着いた様子 闭目恬适睡在她臂膀上时 目を閉じて腕の中で安らかに眠る時 不祥 形容詞 縁起が悪い 母親が抱いた見方 有些不祥 いくらか不吉だ 憎厌 動詞 憎み嫌う 愛情が変わる先 变成憎厌露沙的心了 露沙を憎み嫌う心に変わった 対訳 ああ、なんと美しい絵だろう。傾いた日は血のように赤く、深い緑の海の波を照らして、紫のばらのような色を浮かび上がらせている。あのポプラと青い松の木かげの下に、彼女たちの一行がちょうど足を止めている。五人の若い娘たちで、この土地ではもうなじみの客だと言ってよい。彼女たちは海に面した村に住んでいて、朝、薄絹をまとった天使が空でほほえむころになると、めいめい本を手に、踊るように駆けてくる。夕暮れに赤い衣の若者が帰っていくころにも、彼女たちは必ずやってくる。 彼女たちはいったいどういう素性なのか。ひとりは露沙という名で、五人のうちでいちばんはつらつとしている。いつも白いうすもののスカートをはくのを好み、雲母の石をまくらにして、あおむけに草地に寝ころび、黙ってじっと考えこむ。彼女は町で学んでいて、今はちょうど夏休みのあいだ、仲のよい友人——玲玉、蓮裳、雲青、宗瑩を誘って海辺で避暑し、毎日二度、海の景色を眺めに来るのだ。五人の顔だちも気性も、はっきりした違いがある。露沙はほっそりした顔つきと体つきだが、しんはたいそう強い。彼女たちが露沙に贈ったほめ言葉は「短小精悍」である。気性はさっぱりしているが、考えはひどく深く、世界のなぞはもう見破ってしまったかのようで、人とつきあうときはいつもおどけている。玲玉は感情に富み、体つきはひどくきゃしゃで、人からほめられ、やさしくいたわられるのをいつも好んだ。彼女が認める世界の偉大さと神秘は、ただ愛のはたらきだけである。笑うのが好きで、泣くのはもっと好きで、雲青といちばん仲がよい。雲青は理知が感情よりも強い人だ。ときには彼女がじれてしまって、玲玉を十分にやさしくなだめてやれないことがあり、そうなると玲玉は必ず人に隠れて涙をぬぐい、ときには声を上げて激しく泣くまでになった。蓮裳は人がらがいちばん行きとどいていて、どんな人とでもつきあうことができ、しかもどこへ行っても人に歓迎される。雲青ととても仲がよい。宗瑩は彼女たちのうちでいちばんあでやかで、はなやかな装いをたいそう好み、自分の美しさと学問を人に見せびらかすのも好きで、しばしば度を超したことを言った。露沙は宗瑩ととても仲がよいが、その考え方が俗っぽいことには強く反対している。それでも人柄はおだやかで、人への接し方がよいと思うので、ときどき自分のかたよった見方のほうを犠牲にして、宗瑩に調子を合わせるのだった。何もかも違う彼女たちが、それでいてほかのどの同級生よりも親しくしていられるのは、みなこころざしのある人たちであって、何も考えず日を送る者たちとは違っていたからである。だから彼女たちは、同級生たちのただ中に高いとりでを築いて、自分たちを隔てていた。 ある日、朝焼けが白い雲をおおうころ、五人はまたやってきた。露沙は海のがけに寝ころび、宗瑩はそのそばにしゃがんだ。蓮裳と玲玉と雲青は海べりに立って、荒波の狂ったような歌を聞き、青い波がきらめいて映るのを見ていた。宗瑩と露沙が低く小さく語り笑っていると、はるか遠くにふいに、一筋の白い煙が海から立ちのぼるのが見えた。玲玉が言った。「船が来た」。そこでみな立ち上がって眺めた。だんだん煙突が見えてきた。船体が見えてきた。五分とたたないうちに、船全体がはっきり見えるようになった。船の上の多くの水夫が彼女たちのほうを見ていて、それはずいぶん遠くまで行ってからやっとやんだ。彼女たちはそこでまた輪になって腰を下ろし、海の上の話をした。 はじめに露沙が、幼いころ両親についてよその省へ赴任していったときのことを語った。そのときもこういう海の船に乗ったのだという。ある日、心がひどくうっとうしくなって、声を止めずに泣きわめいた。兄がたくさんの菓子を持ってきてなだめても、泣き声はやまない。母がしかりつけて泣きやませようとしても、効き目がない。このとき父はちょうど公の書きつけを書いていたが、かき乱されて気が立ってきて、彼女を抱き上げて海へ投げようとした。そのとき彼女は、あの油のように深く青い海の水を恐れて、やっと泣き声を止めたのだった。 宗瑩が口をはさんで言った。「露沙の小さいころの話は、たくさんあるのよ。私はみんな知っているの。うちの母が露沙の家と知り合いで、露沙が生まれたその日、母もそこにいたから」。玲玉が言った。「知っているなら、私たちに話して聞かせてくれない」。宗瑩は露沙を見てほほえんだ。許してくれるかどうかを探る顔つきである。露沙は言った。「小さいころのことは私もまったく覚えていないから、話してくれてもいいわ。私にも知らせてちょうだい」 そこで宗瑩が話しはじめた。「露沙が生まれたとき、親類も友人もみなその運を祝いました。露沙の母がもう四人も男の子を産んだあとだったからです。露沙を身ごもったとき、望んでいたのは女の子でした。そこへちょうど露沙が生まれたのです。母親はこのやわらかく弱い花のしべのような子を、たいそういつくしみました。しかし同時に思いがけないことが起きて、どうしても露沙のしあわせをさまたげることになりました。露沙が生まれたその日に、母方の祖母が亡くなったのです。しかもその前に人をよこして母を迎えに来ていたのに、露沙が生まれたために、とうとう行けずじまいになりました。あとになって思い返すたびに、露沙が目を閉じて安らかに腕の中で眠っているのを見ると、母親は自分の母の死を思い、きらきらした涙のしずくがしばしば露沙のほおに落ちたのです。そのうち母親はふいに、露沙が生まれたことに何か縁起のよくないものを感じるようになり、自分の母を思う熱い思いを、露沙を憎み嫌う心に変えてしまったのでした」 練習 紹介と関係 五人を性格・姿・交友で整理し、紹介を先に置く強みを日本語で一文にしてください。 『孔乙己』の人物の出し方と比べ、ここでは何を先に受け取りますか。露沙への語りの近さも、本文の扱いから説明してください。 穴埋めと人物を書く練習 空欄を埋め、語句全体を中国語で書いてください。 云青是个智理_感情更强的人 空欄を埋め、語句全体を中国語で書いてください。 到处都_人欢迎 空欄を埋め、語句全体を中国語で書いてください。 被她搅_急起来 空欄を埋め、語句全体を中国語で書いてください。 也止_住哭声 二人を一人ずつ取り上げ、それぞれの中の理知と感情を 比 ・ 更 で比べる中国語を二文書いてください。 姐妹 ・ 能干 ・ 自信 を使い、知っている二人か架空の二人を四〜六文で書き分けてください。仲のよさも一文で入れます。 被 の文と、 得 を使って動作の程度を述べる文も一文ずつ書いてください。 止不住 と 睡不着 を使い、人の様子を二文の中国語で書いてください。 戻り語 人柄の語で、紹介に添える短い中国語を書いてください。 天真 を使い、一人の人柄を書いてください。 老实 を使い、別の人柄を書いてください。 优秀 を使い、人を紹介する一文を書いてください。 音読 五人の紹介を ▶ で聞いて読みます。人物が替わるところでひと呼吸置き、次の名前と、その人についての説明を一つのまとまりにします。 この篇のまとめ 性格と交友を先に紹介し、後の場面を読む枠を作ります。 分量と生い立ちの扱いから、露沙へ関心が集まることが読めます。 抄の外にある五人の行く先までは、ここから決めません。 次の篇へ 次の6.40は魯迅『阿Q正傳』第二章の抄です。読編の最後に、負けても負けたと思わずに済ませる人物の描き方を読みます。 答え 露沙は小柄で強く宗瑩と親しい。玲玉は弱々しく感情豊かで雲青と親しい。雲青は理知が強く、蓮裳も雲青と親しい。蓮裳は周到、宗瑩は華やかで温和で