9.5 以・於・而 — 三つの働き者 — Epoché
この課でできるようになること 以 と 於 の句が、動詞などの前後のどこにあるかを指せます。 於 の示す相手・場所・出どころ・比較を読み分けられます。 而 が順につなぐか、逆につなぐかを前後の意味から考えられます。 原文を書き戻し、現代語の介詞を使う形へ言い換えられます。 前提 :9.4。句のまとまりを作る字に注目して読みます。 まず、動詞との位置を見る 以 ・ 於 ・ 而 は、原文を読むと繰り返し出てくる字です。訳を一つずつ暗記する前に、動詞などの前後でどんな関係を作るかを見ます。 字 この課の例での位置 主な働き 書き下し 以 動詞の前 手段・材料・根拠など 〜を以て 於 動詞・形容詞の後ろ 相手・場所・出どころ・比較 〜に・〜より・〜よりも 而 二つの句のあいだ 前後をつなぐ 〜て・〜ども、など 以 と 於 は、語を動詞などに結び付ける介詞です。 而 は、二つの句をつなぎます。同じ短い字でも、読み方には違いがあります。後ろの語と一緒に読むか、前後の内容を比べるかという違いです。 以 は、手段や根拠を先に置く 矛盾の話で、見物人は 以子之矛陷子之楯,何如 [1] と尋ねます。あなたの矛で、あなたの盾を突いたらどうなるか、という問いです。 以子之矛 [1] が、あなたの矛を使って、という手段です。その後ろに、突き通すという動詞の 陷 が来ます。 以 と矛のまとまりを読んでから、何をするかへ進みます。 書き下しは「子の矛を以て子の楯を陷さば、何如」です。手段を先に述べてから動作に進む大きな順は、原文と同じです。ただし「以子之矛」の内部では、日本語の「子の矛を以て」に語順を替えます。 以五十步笑百步 [2] は、五十歩逃げたことを根拠に、百歩逃げた人を笑う、という形です。ここで 以 が示すのは道具ではなく、判断の根拠です。それでも笑うという動詞より前にあります。 同じ「〜を以て」でも、実際の道具か、材料か、根拠かは場面に合わせます。位置を手がかりにまとまりを作り、その後で自然な日本語にしてください。 於 は、後ろから関係を添える 勿施於人 [3] は「人に施すこと勿かれ」です。原文では、施すという動詞の後ろに相手が来ます。日本語では、人に、を前にして読みます。 この課で見る 於 の働きは、四つです。相手、場所、出どころ、比較を分けます。「に」「より」だけでは同じに見えるところも、何と何を結んでいるかで区別できます。 示す関係 原文の例 書き下し 自然な意味 相手 勿施於人 [3] 人に施すこと勿かれ 人にしてはならない 場所 戰於長勺 [4] 長勺に戰ふ 長勺で戦う 出どころ・起点 始於足下 [5] 足下より始まる 足もとから始まる 比較 靑於藍 [6] 藍よりも靑し 藍よりも青い 場所の例では、 於長勺 が 戰 にかかっています。 於 を見つけたら、後ろの地名だけを見ないようにします。その前の動詞へ戻って関係を確かめます。 現代語で場所を先に言う形に慣れていると、動詞の後ろの場所を切り離しやすくなります。戦う、どこで、という組にしてから、「長勺で戦う」と日本語の順へ移してください。 同じ藍でも、出どころと比較が違う 靑,取之於藍而靑於藍 [6] は、青い染料を藍から取るが、その染料は藍よりも青い、という意味です。同じ藍の前に、 於 が二度あります。 前半の 取 は取るという動詞なので、この 於 は何から取るかを示します。後半の 靑 は青いという性質なので、この 於 は何より青いかという比較です。 この二つを見分けるには、 於 の前の語の種類が役立ちます。ただし、動詞の後ろなら必ず出どころというわけではありません。先ほどの戦う場所や、施す相手もあります。動詞の意味と一緒に判断します。 後半を「藍から青い」と読むと、比較が失われます。取る対象の出どころなのか、青さを比べる基準なのかを分け、「から」と「よりも」を選んでください。 現代語にも、前置きと後ろ置きがある 現代中国語では、 在 ・ 从 ・ 比 の句を動詞や形容詞の前に置く形を学びました。場所なら 型編 8課 、起点なら 型編 9課 、比較なら 型編 21課 を手がかりにできます。 一方、 住在 ・ 放在 ・ 送给 のように、動詞の後ろに場所や相手を続ける形もあります。 型編 17課 で見た後ろのまとまりと比べると、 於 の位置が読み取りやすくなります。 漢文だけが後ろ、現代語はすべて前、と覚えないでください。どの動詞と組む形かを見ます。現代語へ言い換えるときも、字を一つ替えるだけでは済ませません。場所や起点を置く位置まで整えます。 而 は、前後の意味で読む 學而時習之 [7] は、学んで、折にふれておさらいするという順につながります。学んだ内容を習うので、二つの内容は同じ方向へ進みます。 人不知而不慍 [7] では、人に理解されないのに、恨まないという対比です。理解されなければ腹を立てそうですが、そうはしない、と続きます。同じ而でも、前後の意味の向きが違います。 而 を見ただけで、いつも「そして」や「しかし」と決めることはできません。まず前後を一つずつ読みます。後半が前半を受けて続くか、予想とは逆へ進むかを確かめます。 書き下しの「て」も、いつも順接だけを表すとは限りません。「人知らずして慍みず」は、文脈では対比として読みます。仮名の形だけでなく、内容を比べることが大切です。 仮名になった字も、原文で探す 於や 而 は、書き下し文では「に」「より」「て」「ども」などに姿を変え、字そのものが残らないことがあります。詳しい読み方は後の課で扱いますが、今は原文と対応させて見てください。 逆に、書き下しに「て」があっても、原文に必ず 而 があるとは限りません。動作を続けて読むために、日本語側で補うこともあります。原文の字を探してから、どの関係を表していたかを考えます。 語表 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 以 介詞 〜で・〜を根拠に この課では動詞の前 以五十步 [2] 五十歩を根拠に 於 介詞 〜に・〜から・〜より 四つの関係を分ける 施於人 [3] 人に行う 而 接続の語 〜て・〜のに 前後の意味でつなぎ方を決める 學而時習之 [7] 学んで折にふれておさらいする 陷 動詞 突き通す 矛で盾を突く 陷子之楯 [1] あなたの盾を突き通す 子 代詞 あなた この問いでは相手を指す 子之矛 [1] あなたの矛 矛 名詞 矛 手段として使う物 子之矛 [1] あなたの矛 楯 名詞 盾 日本語では普通「盾」と書く 子之楯 [1] あなたの盾 笑 動詞 笑う ここでは他人をあざける 笑百步 [2] 百歩逃げた人を笑う 施 動詞 行う・施す 後ろの於で相手を添える 施於人 [3] 人に行う 戰 動詞 戦う 於で場所を添える 戰於長勺 [4] 長勺で戦う 長勺 地名 長勺 戦いの場所 戰於長勺 [4] 長勺で戦う 始 動詞 始まる 於で起点を添える 始於足下 [5] 足もとから始まる 取 動詞 取る 何から取るかを見る 取之於藍 [6] それを藍から取る 靑 形容詞・名詞 青い・青い染料 青の旧字形 靑於藍 [6] 藍よりも青い 藍 名詞 藍 染料のもととなる植物 取之於藍 [6] それを藍から取る 慍 動詞 恨む・腹を立てる 前後の対比を読む 不慍 [7] 恨まない 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 ある人が言った。『あなたの矛で、あなたの盾を突いたら、どうなるのか。』その人は答えることができなかった。 どんどんと太鼓を打って進軍し、刃と刃が交わると、鎧を捨て武器を引きずって逃げだす。ある者は百歩逃げてから止まり、ある者は五十歩逃げてから止まる。五十歩逃げた者が百歩逃げた者を笑ったとしたら、どうでしょうか。 先生が言われた。「それは恕、つまり思いやりだろうか。自分がしてほしくないことは、人にしてはならない。」 公は彼と同じ兵車に乗った。長勺で戦った。 ひとかかえもある大木も毛の先ほどの芽から生じ、九層の高い台も積み重ねた土から築かれ、千里の旅も足もとの一歩から始まる。 君子は言う。学問は途中でやめてはならない。青い染料は藍から取るが、藍よりも青い。氷は水からできるが、水よりも冷たい。 先生が言われた。「学んで、折にふれてそれをおさらいする。なんと喜ばしいことではないか。友が遠いところから訪ねてくる。なんと楽しいことではないか。人が自分を認めてくれなくても恨まない。それこそ君子ではないか。」 練習 位置を見て、字を選ぶ 次の 於 を、相手・場所・出どころ・比較に分けてください。 勿施於人 [3] / 戰於長勺 [4] / 始於足下 [5] / 靑於藍 [6] 空欄に 以 ・ 於 ・ 而 を入れて、原文の形で書いてください。 學_時習之 空欄に 以 ・ 於 ・ 而 を入れて、原文の形で書いてください。 勿施_人 空欄に 以 ・ 於 ・ 而 を入れて、原文の形で書いてください。 _子之矛陷子之楯 空欄に 以 ・ 於 ・ 而 を入れて、原文の形で書いてください。 取之_藍_靑_藍 原文と現代語へ書き換える 「長勺に戰ふ」を原文の字の順で書き戻してください。 「五十步を以て百步を笑ふ」を原文の字の順で書き戻してください。 「藍よりも靑し」を原文の字の順で書き戻してください。 戰於長勺 [4] を現代中国語に言い換えてください。主語を 他们 とし、場所を 在 で動詞の前に示します。 始於足下 [5] を現代中国語に言い換えてください。起点を 从 で動詞の前に示し、主語は 旅程 の前に 千里的 を付けた形にします。 學而時習之 [7] と 人不知而不慍 [7] で、 而 のつなぎ方が違うと考える理由を書いてください。 前の語で、前後の位置を試す 各問の三語から一語を選び、場所・起点・比較のいずれかを示す文を一つ書きます。五問を通して、介詞の句を動詞などの前に置く形と、 放在 ・ 住在 などの後ろに続ける形を、それぞれ一つ以上使ってください。 語 楼梯 ・ 身高 ・ 巴士 から一語を選んで、文を一つ書いてください。 語 窗子 ・ 体重 ・ 列车 から一語を選んで、文を一つ書いてください。 語 镜子 ・ 舒适 ・ 航班 から一語を選んで、文を一つ書いてください。 語 箱子 ・ 宁静 ・ 步行 から一語を選んで、文を一つ書いてください。 語 包裹 ・ 寒冷 ・ 拍照 から一語を選んで、文を一つ書いてください。 まとまりごとに音読する 原文を▶で聞いてから読みます。 而 のところで前後の句を意識し、 以 ・ 於 は後ろの語と続けて読んでください。書き下しでも、同じ意味のまとまりを探します。 この課のまとめ この課の 以 の句は動詞の前、 於 の句は動詞・形容詞の後ろです。 於 の相手・場所・出どころ・比較を分けます。 現代語にも、動詞の後ろに場所や相手を続ける形があります。 而 は、前後の意味を比べて順か逆かを判断します。 次の課へ 次の9.6では、言い切る形、される形、させる形を読みます。 者 と 也 、 為 と 所 、 使 ・令などが作る、文の骨組みに注目します。 答え 順に、相手・場所・出どころ(起点)・比較です。施す相手、戦う場所、始まるところ、青さを比べる基準を示します。 學而時習之 [7] 勿施於人 [3] 以子之矛陷子之楯 [1] 取之於藍而靑於藍 [6] 戰於長勺 [4] 以五十步笑百步 [2] 靑於藍 [6] 他们在长勺作战。 千里的旅程从脚下开始。 前者は学び、その内容をおさらいするという同じ方向です。後者は人に理解されないのに恨まないという、予想に逆らう関係です。字だけでなく前後の意味で決めます。 見本(三語それぞれ): 我从楼梯走下来。 他的身高跟我一样。 我在巴士上看书。 見本(三語それぞれ): 他站在窗子前。 我的体重比他轻。 我在列车上休息。 見本(三語それぞれ): 我把镜子放在桌上。 我在舒适的房间里休息。 我在机场等航班。 見本(三語それぞれ): 我从箱子里拿书。 我住在宁静的地方。 我从家里步行去学校。 見本(三語それぞれ): 我在邮局寄包裹。 我住在寒冷的地方。 她在公园拍照。 参考文献 韓非『韓非子 難一』( 以子之矛陷子之楯,何如 、 以子之矛 、 陷子之楯 、 子之矛 、 子之楯 、 以子之矛陷子之楯 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 13篇 孟子『孟子 梁惠王上』( 以五十步笑百步 、 以五十步 、 笑百步 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 36篇 孔子の弟子たち『論語 衛靈公』( 勿施於人 、 施於人 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 7篇 左丘明『春秋左氏傳 莊公十年』( 戰於長勺 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 55篇 老子『老子 第六十四章』( 始於足下 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 11篇 荀子『荀子 勸學篇』( 靑於藍 、 靑,取之於藍而靑於藍 、 取之於藍 、 取之於藍而靑於藍 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 95篇 孔子の弟子たち『論語 學而』( 學而時習之 、 人不知而不慍 、 不慍 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 1篇