10.35 書・画・印 — 文人の芸 — Epoché
この課でできるようになること 文人の四つの芸と、文房四宝を中国語で挙げられます。 書が高く評価された理由と、工筆・写意の違いを説明できます。 絵に詩・題跋・印が重なる理由を言えます。 真跡・模本・拓本を分け、今見ている作品の伝わり方を考えられます。 前提 :10.34「京劇と語り物」。決まった形を読み取る目を、書と絵にも向けます。 四つの芸は、文人の教養 琴を弾き、碁を打ち、字を書き、絵を描く。この四つが、文人の教養として重んじられました。中国語では 琴棋书画 とまとめます。ここでの琴は七弦の 古琴 で、日本の箏とは別の楽器です。役人としての仕事とは別に、読書人としては、こうした芸を身につけるべきだと考えられたのです。 ここでの文人は、好きなことだけをする人という意味ではありません。学問や文章を学び、公の仕事に関わる人の教養を見ています。 知編 27課 で学んだ科挙の世界ともつながります。 蘇軾は官僚であり、文章家・詩人・書家・画家でもありました。多くの芸が一人の中で結び付くことが、理想の人物像に関わります。誰もが蘇軾と同じ力量だった、という意味ではありません。何を価値ある教養としたかを読む手がかりです。 書は、読むと同時に見る 书法 は、中国語で書道を指す言い方です。文人の世界では、書は絵よりも上に置かれるほど高く評価されました。書いた字に、その人の手の動きや人柄が表れると考えられたためです。「書は人なり」という見方です。 同じ言葉でも、線の太さ、筆の止まり方、字どうしの間で見え方が変わります。文の意味を読むことと、書かれた姿を見ることを、同時に行います。 篆书 ・ 隶书 ・ 楷书 ・ 行书 ・ 草书 は、古いものから順に新しいものへ入れ替わり、消えていった字ではありません。書の表現として今も使われます。読みやすさ、速さ、崩し方の違いを、 知編 13課 で見た字の形と結び付けます。 这是什么文字? [1] は「これは何の文字ですか」という実文です。字の形が違うとき、この問いが、何を見ているかを尋ねる入口になります。分からないまま内容を決めないようにします。 日本語の「書道」を、そのまま中国語の 书道 にしないようにします。この課で使う語は 书法 です。中国語の字形も、 书 ・ 画 ・ 纸 ・ 砚 で確かめます。 王羲之と『蘭亭集序』 王羲之は「書聖」と呼ばれます。代表作の『蘭亭集序』は、特別編54篇で読む文章です。同時に、書の最高作の一つとされています。文章を読むときも、その文面が名筆として伝わってきたことを思い出せます。 内容には、宴の楽しさと、人が死ぬことへの悲しさが重なります。酔って書いた下書きを、後の清書で越えられなかったという話も伝わります。清書の整い方だけでなく、その時の筆の動きに価値を見いだす考え方です。 形の細かさと、意を写すこと 絵を、どれほど実物に似ているかだけで測らない見方があります。文人画では、その物の気配や勢いにも目を向けます。竹なら、外形だけでなく、風に耐えて立つ感じを描こうとします。 A 意味 B 意味 違い 工笔 細い線で細かく描く 写意 意を写す 工筆は形を細かく描き、写意は筆の動きで気配や勢いを捉える 工筆は宮廷絵画にも多く、写意は文人画を読む手がかりになります。同じ絵でも、どこを見るかで受け取る所が変わります。細部の形を見るのか、筆が作る気配を見るのか、という違いです。 写意 の「写」を、日本語の「写実」と同じ向きに読まないでください。写意で写すのは、物の形を細かく似せることより、その気配や勢いです。 工笔 と並べて、何へ力をかけるかを分けます。 山水画も、目の前の風景を一つの位置から再現するだけではありません。心の中の山と水が描かれています。手前の道、中腹、頂からの景色が、一枚に重なるように見ます。 一つの視点だけを固定せず、絵の中を歩くように視線を移します。同じ山が何度も描かれるときも、場所を当てるだけでは終わりません。どんな山水として表されているかを見ます。 詩と字と絵が、一枚に重なる 文人の絵には、詩や文章が書き込まれています。空いた所を埋めるだけではありません。絵を描き、それにふさわしい詩を作り、その詩を自分の字で書く。詩・書・画が一つのものだという考え方が表れています。 三つとも、同じ筆を使う芸です。絵は贈り物としてやりとりされ、そこに詩が添えられます。 知編 32課 で見た、詩が人と人とのやりとりにもなることとつながります。 後から見た人が、感想や由来を書き足すこともあります。これが 题跋 です。作品を作った時だけでなく、その後に誰がどう見たかも、一枚の中に残ります。 絵の中の字を見たら、誰の言葉かを考えます。全てを作者が同じ時に書いたとは思わないようにします。絵、作者の詩、後の人の題跋を分けると、作品が受け取られた道筋を追えます。 赤い印にも、書き手と持ち主がいる 印章 には、作者の名前や雅号、好きな言葉を刻んだものがあります。所蔵者の印が加わることもあります。そのため、同じ絵に歴代の持ち主の印が並ぶ場合があります。 印を彫る芸術が 篆刻 です。篆書を用いることが、その名に残っています。古い書体が印の中で使われています。これも、書体が新しいものに全て入れ替わるわけではない例です。 印の習慣は、日本の印鑑文化にもつながります。ここでは、赤い印を単なる飾りとして飛ばさず、作者のものか、所蔵者のものかを見ます。字と絵に加え、誰の手を経たかを知る手がかりです。 真跡がなくても、字と文が伝わる 拓本 は、石に刻まれた字を紙へ写す複製です。石に湿らせた紙を密着させ、上から墨を打ちます。すると、くぼんだ字は白く、平らな面は黒く残ります。原寸で写せるのが強みです。 名筆を石に刻み、そこから拓を取れば、石が複製のもとになります。書を学ぶ人は、その拓本を手本にしてきました。拓本は、石が残るかぎり何度でも同じ大きさの字を写せます。 先ほどの王羲之の真跡は残っていません。今見られるのは、後の人が写した 模本 や、石から取った拓本です。中国語では真跡を 真迹 と書きます。『蘭亭集序』の原本を唐の太宗が墓へ入れさせたという話も伝わります。ただし、今見る複製を本人の一枚だとは扱いません。 それでも『蘭亭集序』の文章は、完全な形で読むことができます。本人が動かした筆の跡そのものがあることと、書かれた言葉が伝わることは、分けて考えます。模本や拓本を通じて、文面も受け継がれてきたのです。 文房四宝と、筆が作る字 書画の四つの道具は 文房四宝 と呼ばれます。筆・墨・紙・硯で、中国語では 笔 ・ 墨 ・ 纸 ・ 砚 です。書斎の道具を宝と見る呼び名で、日本語の「文房具」にもつながります。 道具 材料や使い方 形との関わり 笔 動物の毛を使う柔らかい筆 弾力で線の太さや動きが変わる 墨 煤と膠を練り固め、硯で磨る 筆に含ませて線を描く 纸 書画には吸いのよい宣紙を使う 墨を受け止める 砚 石を彫り、墨を磨る 書くための墨を用意する 書画に使う紙には 宣纸 があります。隷書の大きなはらいや、楷書のとめ・はねを考えてみてください。そこには、柔らかい毛の弾力と墨の含み方が関わります。漢字の形は、言葉を記すための約束だけでなく、筆をどう動かすかとも結び付いてきました。 語表 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 文人 名詞 学問・文芸の教養を持つ人 ここでは士大夫の教養を見る 文人的画 文人の絵 古琴 名詞 七弦の古琴 日本の箏とは別の楽器。文人の芸の琴 弹古琴 古琴を弾く 棋 名詞 碁などの盤上の遊び ここでは碁を打つ芸 下棋 碁を打つ 书法 名詞 書法・書道 中国語では 书道 でなく 书法 练书法 書を練習する 画 名詞・動詞 絵・絵を描く 文人の芸の一つ 画山水 山水を描く 山水 名詞 山と水・山水画 絵の題材にもなる 山水画 山水画 工笔 名詞 細い線で細かく描く技法 工は細かな仕事 工笔画 工筆画 写意 名詞 気配や勢いを描く技法 写実と同じ意味ではない 写意画 写意画 题跋 名詞 作品に添える文章・感想 後の人も書き足す 写题跋 題跋を書く 印章 名詞 印章 作者や所蔵者の印もある 盖印章 印を押す 篆刻 名詞・動詞 印を彫る芸術 篆書を使う 学篆刻 篆刻を学ぶ 拓本 名詞 石などの字を紙へ写したもの 原寸の複製 看拓本 拓本を見る 模本 名詞 手本を写したもの 本人の真跡とは分ける 这幅模本 この模本 真迹 名詞 本人が書いた本物の筆跡 模本や拓本とは分ける 他的真迹 その人の真跡 笔 名詞 筆 ここでは毛筆 一支笔 一本の筆 墨 名詞 墨 固めた墨を磨る 磨墨 墨を磨る 纸 名詞 紙 日本語の紙と字体が違う 一张纸 一枚の紙 砚 名詞 硯 日本語の硯と字体が違う 这方砚 この硯 宣纸 名詞 宣紙 書画に使う紙 用宣纸 宣紙を使う 篆书 名詞 篆書 印にも残る書体 写篆书 篆書を書く 隶书 名詞 隷書 日本語の隷と字体が違う 写隶书 隷書を書く 楷书 名詞 楷書 とめなどの筆の動きを見る 写楷书 楷書を書く 行书 名詞 行書 書の表現として用いる 写行书 行書を書く 草书 名詞 草書 崩しの大きい書体 写草书 草書を書く 練習 字と道具の名を音読する 琴棋书画 ・ 书法 ・ 文人 ・ 山水 ・ 工笔 ・ 写意 ・ 题跋 ・ 篆刻 ・ 文房四宝 ・ 笔 ・ 墨 ・ 纸 ・ 砚 を、▶で手本を聞いてから一つずつ言ってください。 芸と作品を説明する 文房四宝を、筆・墨に続く二つも含めて、中国語で書いてください。 文人の四つの芸を、中国語で順に書いてください。 ある文人が琴と碁、書と絵を身につけていることを、できることを表す助動詞を使って、中国語で二文書いてください。 工筆と写意を、細かさと意趣への重点で比べ、中国語で短い二文を書いてください。 盖 ・ 松树 ・ 植物 ・ 贴 から二つ以上を使い、絵と印について中国語で書いてください。 中国の絵に文字と印がある理由を、詩・書・画、題跋、所蔵者の印の三点から日本語で説明してください。 王羲之の書を今どう見られるかと、『蘭亭集序』の文面が読める理由を日本語で説明してください。 拓本の強みと、筆が字の形に関わる例を一つずつ、日本語で挙げてください。 書画に触れる場面を書く 前の課の語 松树 ・ 宁静 ・ 诗人 を一語ずつ使い、書画を学ぶ人や作品を見る場面を中国語で三文書いてください。 前の課の語 植物 ・ 放松 ・ 导游 を一語ずつ使い、書画を学ぶ人や作品を見る場面を中国語で三文書いてください。 前の課の語 毛巾 ・ 专心 ・ 拍照 を一語ずつ使い、書画を学ぶ人や作品を見る場面を中国語で三文書いてください。 前の課の語 箱子 ・ 自信 ・ 步行 を一語ずつ使い、書画を学ぶ人や作品を見る場面を中国語で三文書いてください。 前の課の語 窗子 ・ 优秀 ・ 毕业 を一語ずつ使い、書画を学ぶ人や作品を見る場面を中国語で三文書いてください。 この課のまとめ 琴・棋・書・画は、文人の教養として結び付いていました。 書では字の姿を見て、工筆と写意では何を描くかの違いを見ます。 詩・書・画に題跋や印が重なり、受け取られた歴史も残ります。 模本・拓本と真跡を分け、文房四宝と字の形の関係を考えます。 次の課へ 次の10.36「成語と故事」で知編は最後です。日常の言い回しのもとにある古典の場面を読み、特別編へつなぎます。 答え 笔、墨、纸、砚。 琴、棋、书、画。 他会弹琴,也会下棋。 他会写书法,也会画画。 工笔比写意更细致。 写意比工笔更重意趣。 画上有一棵松树。 作者在画上盖印。 詩・書・画を一つのものと考え、絵に詩を作って自分の字で書くからです。さらに後の人が題跋を書き、所蔵者も印を押すため、作品が受け取られた歴史が一枚に残ります。 本人の真跡ではなく、模本や拓本を通して見ています。それらの複製を通じて言葉も受け継がれたため、本人が書いた一枚がなくても、文章を完全な形で読めます。 拓本は石の字を原寸で写せることが強みです。隷書のはらいや楷書のとめには、柔らかい毛の弾力や墨の含み方が関わります。 画上有几棵松树。 我觉得这幅画很宁静。 这位诗人也会画画。 画上有各种植物。 我看画时很放松。 导游给我们介绍书法。 练完书法,我用毛巾擦手。 我专心练书法。 我想给这幅画拍照。 箱子里有笔和纸。 我练书法时很自信。 我步行去看画。 窗子旁边挂着一幅画。 我觉得他是优秀的画家。 我毕业后想学篆刻。 参考文献 Tatoeba 文 #3630325( 这是什么文字? )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/3630325