7.11 抄録の和訳と英訳 — 両方向に訳してみる — Epoché
この課でできるようになること ★ 抄録を部分ごとに訳し分けられる 。 ★ 時制を訳で落とさない 。 ★ 数と幅を落とさない 。 ★ 「今後の課題である」を正しく訳せる 。 前提 : 7.10 まで。作は 10.16 まで。型は 3.48 まで。 なぜ訳す ★ 抄録は、 両方向に訳す機会がいちばん多い文書 です。 どんな場面か どちら向きか ★ 日本語の論文に英文抄録を付ける ★ 日 → 英 ★ 外国の論文を紹介する ★ 英 → 日 ★ 学会に出す ★ 日 → 英 ★ そして、 訳すと書き直したくなります 。 ★ 7.10 訳編 で「英訳は日本語の推敲にもなる」と置きました ——★ 抄録では、それがいちばんはっきり出ます。 ★ 理由は、 抄録が短いから です。 ★ 百五十語しかないので、 ごまかせる場所がありません 。 手順 ★部分ごとに、訳し方が違う どの部分か 英語の時制 日本語では ★ I 背景と問い ★ 現在 ★ 日本語では「〜が知られている」 ★ M 方法 ★ 過去 ★ 日本語では「〜した」 ★ R 結果 ★ 過去 ★ 数と幅を落とさない ★ D 結論と限界 ★ 現在 ★ ここがいちばん落ちる ★ 3.41 型編 で学術の時制を置き、 10.17 作編 で抄録の部分ごとの時制を置きます。 ★ 訳すときは、 これを両方向で守ります 。 ★時制は、訳で落ちる ★ 日本語には、 英語の時制に一対一で対応するものがありません 。 ★ 7.8 訳編 で「時制と相を訳す」と置きました ——★ 抄録では、これが 意味を変えます 。 英語 日本語に訳すと 何が変わるか ★ 過去(結果) ★ 〜した ★ この一回の話だと分かる ★ 現在(結論) ★ 〜である ★ いつでも成り立つ話になる ★ 日本語では、 どちらも「〜である」で書けてしまいます 。 ★ そして、 書けてしまうと、書いてしまいます ——★ そのとき、 一回の調べが一般の主張に化けます 。 ★数と幅を、落とさない ★ 10.19 作編 で「平均だけを書くと、ばらつきが消える」と置きます。 ★ 訳でも同じことが起きます ——★ むしろ、もっと起きます。 よくある訳 何が起きているか ★ 「三、四冊」→「約三・五冊」 ★ 幅が消え、正確さが増したように見える ★ 「三十人」→「多数」 ★ 分母が消える ★ 「約」を足す ★ 原文に無いあいまいさが入る ★ 三行目に注意してください。 ★ 「約」は、 訳者が足してはいけない語 です ——★ 足すと、 原文より弱い主張 になります。 ★いちばん落ちるのは、D(限界) ★ 日本語の抄録の終わりには、 「今後の課題である」 がよく出ます。 ★ これは、 そのままでは英語になりません 。 ★ 10.17 作編 で置いたとおり、 何が言えないのかを書いていない から です。 日本語 英語にすると どうすべきか ★ 今後の課題である ★ 中身が無い ★ 何が言えないかを足す ★ さらなる検討を要する ★ 同じ ★ 誰が何を調べればよいか書く ★ 訳者が足してよいのか ——★ 自分の抄録なら、足してください 。★ 人の抄録なら、 書いた人に聞きます 。 ★ ここが、 訳が推敲になる いちばん分かりやすい場所 です。 ★和訳の四段 何段目か 何をするか どうやって 一 ★ 部分を見分ける ★ I・M・R・D に割る 二 術語をそろえる 同じ語は同じ訳語に( 7.9 訳編 ) 三 ★ 時制を写す ★ 「〜した」と「〜である」を使い分ける 四 ★ 数と幅を落とさない ★ 「約」を勝手に足さない ★英訳の四段 何段目か 何をするか どうやって 一 ★ 主語を立てる 7.10 訳編 の四段 二 ★ 部分ごとに時制を決める 3.41 型編 三 数を書く ★ 幅かばらつきも ( 10.19 作編 ) 四 ★ 限界を訳し落とさない ★ 何が言えないかを書く 実例 ★ 10.17 作編 の抄録(クラス三十人の調べ)で、両方向を見ます。 I — 背景と問い どちら向きか 気をつけること ★ 英 → 日 ★ 現在形を「〜である」で受ける ★ 日 → 英 ★ 「〜が知られている」を受動にしない手もある ★ 日本語の「〜が知られている」は、 誰が知っているかを消しています ( 3.35 型編 )。 ★ 英語では、 出どころを書けるなら書きます ( 9.11 論編 )——★ そのほうが強くなります。 M — 方法 ★ ここは、 いちばん訳しやすい部分 です。 ★ やったことは 両方の言語で過去 だから です。 ★ 気をつけるのは、 主語 だけ です( 7.10 訳編 )——★ 日本語では「三十人に聞いた」で済みますが、★ 英語では「誰が」が要ります。 R — 結果 ★ 数と幅を、そのまま運びます。 ★ three or four books a week は、 「週に三、四冊」 です ——★ 「約三・五冊」ではありません。 ★ on average も落とさないでください ——★ 「平均で」が無いと、 全員が三、四冊読んだ ように読めます。 D — 結論と限界 ★ We cannot say why を訳すと、 「なぜかは言えない」 です。 ★ 「今後の課題である」ではありません。 どちらの訳か 読む人はどう受け取るか ★ なぜかは言えない ★ 限界を分かっている ★ 今後の課題である ★ 決まり文句を置いただけ ★ 日本語のほうが、 決まり文句になりやすい です。 ★ 訳すときは、 決まり文句に逃げないでください 。 やってみる ★ 自分の抄録を、両方向に訳す。 ★ 日本語で書いたなら英語に、英語で書いたなら日本語に。 ★ 部分ごとに時制を確かめる。 ★ 背景は現在、方法と結果は過去、結論は現在 ( 3.41 型編 )。 ★ 数を突き合わせる。 ★ 原文と訳文で、 数の個数が同じか を数える。 ★ 幅も一つと数えること。 ★ 「今後の課題である」を探す。 ★ あれば、 何が言えないのか に書き直す。 練習 ★ 10.17 作編 の抄録の R の部分 を 音読 する。3 周する。★ 数のところで一拍おいてください ( 11.9 商編 )。 ★ on average と three or four を 続けて 音読する。★ この二つが、 訳で落ちやすい二つ です。 ★ 自分の訳した抄録を音読する。 ★ 読みにくいところが、 訳しきれていないところ です。 この課のまとめ ★ 訳すと、書いたときに決めていなかったことが出てくる。 抄録は短いので、ごまかせる場所が無い。 ★ 抄録は部分ごとに訳し方が違う ——背景は現在、方法と結果は過去、結論は現在( 3.41 型編 )。 ★ 日本語では、過去も現在も「〜である」で書けてしまう。 ★ 書けてしまうと、書いてしまう ——そのとき、一回の調べが一般の主張に化ける。 ★ 「約」は、訳者が足してはいけない語。 足すと、原文より弱い主張になる。 ★ 幅を落とさない。 「三、四冊」を「約三・五冊」にすると、正確さが増したように見えてしまう。 ★ on average を落とすと、全員がその数だったように読める。 ★ いちばん落ちるのは D(限界)。 「今後の課題である」は、そのままでは英語にならない——何が言えないのかを書いていないから。 ★ 自分の抄録なら足してよい。人の抄録なら、書いた人に聞く。 次の課へ 次の課は 7.12 、 第 6 期の訳編の最後 です。★ 機械翻訳との付き合い方 ——★ 下訳としてはよく働きますが、 決まった型で壊れます 。 ★ その型を八つ置きます。 答え 「やってみる」の四つの答えです。 ★ 訳してみると、 M がいちばん楽で、D がいちばん難しい と分かります。 ★ M は、 やったことを書くだけ だから です。★ D が難しいのは、 もとの日本語が決まり文句 だから ——★ 訳せないのではなく、 中身が無い のです。 ★ 確かめてみると、 結論が過去形になっている ことがあります。 ★ 日本語の「〜した」に引きずられたから です。★ 結論は現在 です——★ 10.17 作編 で置いたとおり、 時制が「どこまでが自分の一回の調べか」を分けています 。 ★ 数えてみると、 訳文のほうが少ない ことが多いです。 ★ 落ちるのは、たいてい 幅 と 分母 です ——★ どちらも、 無くても文が成り立つ から です。★ 成り立つから落ちる ——★ だから、数えるしかありません。 ★ 探してみると、 自分でも何を言いたかったか思い出せない ことがあります。 ★ そのときは、 9.19 論編 の限界の三つ を当ててください ——★ 材料の限界、方法の限界、一般化の限界。 ★ どれか一つは必ず当てはまります。 参考文献 この課に引用はありません。例はすべて Epoché の作例です。