調査 — Epoché
要点 調査票を作る前に、何をたずね、どんな集計表を作りたいかを決めておくと、要る質問と要らない質問を分けられます。質問が増えるほど、答える人の負担も増えます。 質問文は、読んだ人が同じ意味に受け取れるように書きます。1 つの質問に論点を 1 つだけ入れ、答えをにおわせる前置きや否定の疑問文を避けると、答えのずれが減ります。 選択肢の作り方や質問の並べ方でも、答えは変わります。段階の数は資料によって勧めが違い、「どちらともいえない」を置くかは何を分析したいかで変わります。選んだ理由を説明できるようにしておくと安心です。 面接・郵送・ウェブなど、調査の方式によって答え方が変わることがあります。方式の違う調査の結果を比べるときは、その違いを考えに入れます。 本調査の前に、予備調査で調査票の不具合を探します。不注意な回答を見つける方法はありますが、除外にも危うさがあります。まず答えやすい調査票にして防ぐことが勧められています。除外するなら、その基準をデータを得る前に決めて記録しておく方法があります。 こんなときに 卒業研究やゼミの課題で、アンケートを自分で作ることになった。フォームの作成画面を開いたものの、1 問目の聞き方で手が止まった。調査票づくりは、そんな場面から始まることが多いものです。ほかにも、次のような場面で役に立ちます(どれもこの文書で作った例です)。 「アルバイトや部活動で忙しいと感じますか」と書いたら、ゼミの先輩に「それ、2 つ聞いてるよ」と言われた。 5 段階にするか 4 段階にするか、「どちらともいえない」を入れるかで迷っている。資料を読んでも、勧めが 1 つに決まらない。 飲酒の量や家計の悩みを、対面で聞くかウェブで答えてもらうかで、答えが変わるのか知りたい。 ウェブ調査で、全問に同じ番号を付けた人や、60 問に 2 分で答えた人がいた。消してよいのか分からない。 この文書が扱うのは「何をどう聞くか」です。誰に何人に答えてもらうかは 標本と一般化 で、集めた回答の分析は 量的データの分析 で扱います。 調査票を作る前に — 何をたずね、何を集計するかを決める 調査票は、思いついた質問を並べたものではなく、知りたいことを測るための道具です。何をたずね、どんな表を作りたいかを先に決めると、必要な質問が見えてきます。調査そのものが要るかどうかも、この段階で考えられます。 総務省統計局の教材 Data StaRt は、調査を企画から報告までの一続きの過程として説明しています。企画、調査票の作成と対象者の選定、予備調査、実際の調査、データの入力と点検、集計、報告という流れです。企画では、何をたずねるか、誰にたずねるか、どのようにたずねるかの 3 点を決めることが鍵だとしています [1] 。対象者の選び方は 標本と一般化 で扱います。 本当に調査が要るかを確かめる 米国世論調査学会(AAPOR)の実践の手引きは、計画の段階で次の点を考えるよう勧めています。ほかの調査がすでに同じデータを集めていないか。フォーカスグループ(少人数での話し合い)や内容分析(記事などの文書の中身を分類して調べる方法)のほうが目的に合わないか [2] 。名古屋大学の学習ガイドも、報告書の存在を知らないだけのことがあるので、集める前に既存のデータを十分に調べるよう勧めています [3] 。探し方は 資料とデータの探し方 で扱います。 作りたい表から質問を決める Data StaRt は、調査項目を 3 つに分けています。関心の中心である意識や行動をたずねる記述項目、性別や年齢などの属性をたずねる基礎項目、違いを生む原因の候補をたずねる説明項目です [4] 。 総務省統計局の「なるほど統計学園」は、結果の表(クロス集計表)を思い浮かべながら項目を決める方法を紹介しています。職業ごとに受講したい講義を見たいなら、職業と講義の項目が要ります。年齢でも違いそうなら、年齢の項目を足します [5] 。作りたい表に出てこない質問は、入れる理由をもう一度考える候補になります。 項目が不必要に多いと回答する人の負担が増え、最後まで答えてもらいにくくなります。反対に、必要な項目が足りなければ知りたい情報が得られません [5] 。既存のガイドラインを整理した一覧もあります。名古屋大学などの研究者が日本テスト学会の大会で発表したもので(坪田ほか)、目的をはっきりさせ、項目数を目的に照らして最小限にすることを挙げています [6] 。 調査票の組み立て 名古屋大学の学習ガイドは、調査票の部分として、説明文(題・目的・依頼)、フェイスシート(属性や経験)、調査項目、自由記述、終了文(お礼)を挙げています [3] 。属性の質問をどこに置くかは、目的で選ぶことになります。Data StaRt は、基本的な属性は最後にまとめてたずねることが多いと説明しています [4] 。医療安全の研究向けの手引きで、芳賀は、属性の質問は前に置かれることが多いとしつつ、自分は回答に偏りがかからないよう最後にたずねると書いています。自分の立場を踏まえて答えてほしいなら最初に置くとよい、とも述べています [7] 。既存の心理尺度を使うときの確かめ方は、 概念と測定 で扱います。 質問文の作り方 — 同じ文が同じ意味に届くように 回答する人は、質問を読んで意味を考え、記憶をたどり、判断をまとめ、選択肢に合わせて答えます。質問文があいまいだと、どの段階でもずれが生まれます。1 つの質問に 1 つの論点、偏りのない前置き、分かりやすい言葉を心がけると、ずれを減らせます。 『教育心理学年報』のチュートリアルの報告で、増田は回答の過程を 4 段階で紹介しています。項目を解釈する、関係する情報を思い出す、情報をまとめて判断する、回答の形式に合わせて答えを整える、の 4 つです。同じ報告で荒井は、調査の最中には回答者の質問に答えたり補足したりできないので、言葉の意味が人によって変わらないようにすることが基本だと述べています [8] 。Data StaRt も、特に意識調査では言葉の使い方で結果がゆがみやすいと説明しています [9] 。 言葉と形のつまずき よくあるつまずきを表にまとめました。例の質問文は、この文書で作ったものです。 つまずき 例 直し方の例 「最近」「ときどき」など、思い浮かべる期間や頻度が人によって違う言葉 [5][8] 「最近、図書館をよく使いますか」 「この 1 か月に、大学の図書館に何回行きましたか」と、期間と回数を数で聞く 1 つの質問に 2 つ以上の論点が入っている(ダブルバーレル質問)。一方に賛成で他方に反対の人が答えられない [9][5] 「アルバイトや部活動で忙しいと感じますか」 アルバイトと部活動を別々の質問にする 否定の疑問文。「はい」が肯定と否定のどちらを表すのか分かりにくい [8] 「朝の授業は得意ではないですか」 「朝の授業は得意ですか」と、肯定の形で聞く 世間一般の話か、自分のことかが分からない [9][8] 「授業中にスマートフォンを使うことをどう思いますか」 自分の行動を知りたいなら「あなたは授業中にスマートフォンを使いますか」と主語を示す 難しい言葉、固定観念を思い起こさせる言葉、地域で意味が違う言葉 [9][5] 略語や流行語をそのまま使う 答える人がふだん使う言葉に言い換える 名古屋大学の学習ガイドは、将来の起業の意向をたずねる質問を例にしています。「将来」が卒業直後なのか卒業後 10 年以内なのかがあいまいなこと、「起業」と聞くか「自営業」と聞くかで、答える人が受け取る意味が変わることを説明しています [3] 。 答えを誘導してしまう聞き方 権威のある人の発言や世間の見解を前置きに入れると、その方向に答えが動くことがあります(威光暗示効果)。Data StaRt は、入学時期を海外の多くの国に合わせる議論があると前置きしてから賛否をたずねると、賛成が多くなるおそれがあるという例を示しています [9] 。危機感をあおる文を置いてから意向をたずねるのも、誘導の例として挙げられています [5] 。 どんな質問にも肯定しやすい人がいます(黙従傾向)。一方の立場だけを示すと、その方向の回答が増えるので、賛成と反対の両方がありうることを質問文で示す方法が勧められています [9] 。荒井も「賛成ですか、反対ですか」と両方向で聞く形を紹介しています [8] 。人から良く見られる方向に答えが寄る社会的望ましさにも、注意が促されています [10][2] 。これは質問文だけでなく、調査の方式でも変わります(「調査の方式を選ぶ」の節)。 他の人に読んでもらう 書いた本人には意味が分かっているぶん、別の読み方に気づくのは難しいものです。名古屋大学の学習ガイドは、作った質問文を他の人に見てもらうこと、準備の段階で教員に相談することを勧めています [3] 。 選択肢と質問の並べ方 — 答え方の枠も答えを変える 選択肢は、どの人も当てはまるものを選べるように、重なりなく漏れなく作ります。段階やラベル、並び順、質問の順番は、どれも回答の分布を動かすことがあります。段階の数のように資料によって勧めが違う点や、分析の仕方で決まる点は、目的に合わせて選び、理由を書けるようにしておきます。 自由回答か、選択肢か なるほど統計学園によると、1 つを選ぶ単一回答は集計しやすい一方、1 つに絞れない人には選びにくくなります。複数を選べる回答は状況に合った答えが得られますが、集計は複雑です。自由回答は詳しい内容が分かりますが、集計に手間がかかります [5] 。Data StaRt は、どんな意見が出るか想像しにくいときや、少数の意外な意見を拾いたいときに自由回答が向くと説明しています [11] 。 選択肢を作るときの目安 1 つだけ選ぶ質問では、選択肢を網羅的に、かつ互いに重ならないように作ります [11] 。たとえば「1〜3 回」「3〜5 回」と区切ると、3 回の人は迷います。 順序のある選択肢では、段階の数とラベルを考えます。Data StaRt は、賛成の側に選択肢が 4 つ、反対の側に 1 つしか無いような偏った並べ方は、回答を誘導しうると説明しています。選択肢の作り方しだいで、分布がまったく変わることさえあるとしています [11] 。坪田ほかの一覧は、番号だけでなく言葉のラベルを付けることを挙げています [6] 。数字をどう集計できるかという尺度の考え方は、 概念と測定 で扱います。 段階の数 — 資料によって勧めが違う 段階の数は、資料によって勧めが違い、迷いやすいところです。 坪田ほかの一覧は、人が見分けられる段階には限りがあり、細かくすると答えが一貫しにくくなるとしています。賛否をたずねるなら、4 段階ほどで十分に働くという考え方です [6] 。 名古屋大学の学習ガイドは、意見や考えをたずねるなら 5 段階ほどがよいとしています。粗すぎると興味深い結果が得られず、細かすぎると答える人の負担が増えるという理由です [3] 。 どちらか一方が正解というより、何を知りたいか、どう分析するかで選ぶことになります。 中立の選択肢と複数回答 — 条件で決まる 「どちらともいえない」を置くかは、資料どうしが食い違っているわけではありません。何を分析したいかという条件で決まります。坪田ほかの一覧は、回答を賛否の 2 つに分けて分析したいなら、中立の選択肢を置かないことを挙げています [6] 。AAPOR は、妥当な選択肢をすべて含めるという勧めの中で、場合によっては中立の選択肢も含めるとしています [2] 。 「わからない」は、中立の選択肢とは別のものとして扱われています。坪田ほかの一覧は、答えるための情報を持たない人が想定されるなら「わからない」を用意することを、中立の選択肢とは別の項目で挙げています [6] 。 複数を選ぶ質問について、坪田ほかの一覧は、「あてはまるものすべて」を選ばせる形を用いず、選択肢ごとに当てはまるかをたずねることを挙げています [6] 。Data StaRt は、複数を選ぶ形の中では、すべてを答えてもらう形を基本に、上限を設ける形や順位を付ける形もあると紹介しています [11] 。Data StaRt のこのページは、選択肢ごとにたずねる形とは比べていません。 2 つの形の比較や、中間の選択肢が選ばれる理由は、本棚の ウェブ調査の基礎 が日本のウェブ調査のデータで章を立てて扱っています(出版社の目次)。どれを選んだかと、その理由を方法の節に書いておくと、読み手が結果を判断しやすくなります。 選択肢の並び順 AAPOR によると、自分で読んで答える方式では最初のほうの選択肢が、調査員が読み上げる方式では最後のほうの選択肢が選ばれやすい傾向が観察されています。そのため、場合によっては、半数の人には逆の順で見せるなど、並び順を入れ替えることを勧めています [2] 。最初に目に入ったもっともらしい選択肢を選ぶことは、後の節で扱う「努力の最小限化」の現れの 1 つとされています [12] 。 質問の順番 Data StaRt は、質問を並べるときのポイントを 4 つ挙げています [4] 。 同じ論点の質問をまとめ、広い質問から具体的な質問へ進む。 冒頭には答えやすい質問を置き、収入や学歴など抵抗のある質問を冒頭に置かない。 前の質問が後の答えに影響しないようにする。 必要に応じて、回答によって次の質問を分ける(分岐)。 前の質問が後の答えを動かすことを、キャリーオーバー効果と呼びます。Data StaRt は、少子化が進んでいることを知っているかをたずねた後に、子育て支援の予算への賛否を聞く例を挙げています。こうすると賛成が偏って高く出るので、関係する質問を離して置くことや、順番を入れ替えることを勧めています [4] 。ウェブ調査では、参加者ごとに質問の提示順をランダムにして、この効果を打ち消す方法もあります [10] 。質問の順番の影響と、選択肢の並び順の影響は別のものなので、分けて点検すると漏れが減ります。 分岐を使うなら、オンラインの調査では分岐の機能が正しく動くかを実施の前に確かめます [6] 。 (段階 2 以上)同じ調査を繰り返して変化を見るときは、質問文と方式を変えないことが基本になります。AAPOR は、質問文や前の質問の文脈