9.10 頻出の固定句型 三十 — Epoché
この課でできるようになること 三十の形を、働きごとに整理できます。 形と特別編の句を結び、読みと意味を言えます。 書き下しから原文を書き戻せます。 所以 ・ 以為 の古今の違いを確かめ、現代語の文も書けます。 前提 :9.9。これまで見た字の働きと語順を使います。 一字から、句のまとまりへ ここでは、特別編を読むときに役立つ三十の形をまとめます。漢文の形が全部で三十しかないという意味ではありません。これまでの字が、どんな組で使われるかを整理する表です。 形だけを暗記するより、原文の句を一つ思い出せるようにします。字を見て句を思い出し、そこから似た文を読めるようにするためです。 表は九つのまとまりに分けました。打ち消す形にも比較が含まれるなど、働きは重なることがあります。 言い切り・名詞・否定を整理する 言い切る 形 書き下しの読み 意味 原文の句 是…也 是れ…なり これは〜である 是知也 [1] (これが知るということだ) 特別編 4篇 …者,…也 …なる者は、…なり AはBである 南冥者,天池也 [2] (南の海とは天の池だ) 名詞を作る 形 書き下しの読み 意味 原文の句 有…者 …する者有り 〜する人がいる 宋人有耕田者 [3] (宋の国に田を耕す人がいた) 所… …する所 〜するもの・ところ 己所不欲 [4] (自分がしてほしくないこと) 所以… …する所以なり 〜する手立て・理由 所以防邪僻而近中正也 [5] (邪や偏りを防ぎ、中正に近づく手立て) 特別編 95篇 打ち消す 形 書き下しの読み 意味 原文の句 非… …に非ず 〜ではない。文末に也が付く形もある 非常道 [6] (常の道ではない) 特別編 8篇 未… 未だ…ず まだ〜ない 未能遠謀 [7] (まだ遠い先を考えられない) 特別編 55篇 莫…於… …より…なるは莫し 〜より〜なものはない 神莫大於化道 [5] (神妙な働きとして、道による教化にまさるものはない) 特別編 95篇 勿… …すること勿かれ 〜するな 勿施於人 [4] (人にしてはならない) 不可… …す可からず 〜できない・してはならない 兔不可復得 [3] (兎は再び手に入らなかった) 問いと条件を読む 問いかける 形 書き下しの読み 意味 原文の句 不亦…乎 亦…ずや なんと〜ではないか 不亦說乎 [8] (なんと喜ばしいことではないか) 何…之有 何の…か之れ有らん 〜など有ろうか、いや無い 何陋之有 [9] (むさくるしいことなど無い) 豈…哉 豈に…んや どうして〜であろうか 豈直五百里哉 [10] (まして五百里では取り換えられない) 特別編 57篇 安…哉 安くんぞ…んや どうして〜であろうか 燕雀安知鴻鵠之志哉 [11] (燕や雀に大きな鳥の志が分かるはずがない) 寧…乎 寧んぞ…んや どうして〜であろうか 王侯將相寧有種乎 [11] (王侯将相は生まれつきで決まるものではない) 特別編 89篇 何… 何れの…か どの〜か。この例は反語 何夜無月 [12] (月の無い夜などない) 特別編 43篇 条件・譲歩・可能 形 書き下しの読み 意味 原文の句 …則… …すれば則ち… 〜なら、そのときは〜 學而不思則罔 [13] (学んでも考えなければ、はっきりしない) 雖… …と雖も 〜ではあるけれども 雖不能察 [7] (すべて見きわめられるわけではないが) 可以… 以て…す可し 〜できる 可以一戰 [7] (一戦できる) 動作の関係、推量、比較を読む させる・される・みなす 形 書き下しの読み 意味 原文の句 使/令 A B AをしてBしむ AにBさせる 天帝使我長百獸 [14] (天帝は私を獣たちの長にした) 為…所… …の…する所と為る 〜に…される 竟爲秦所滅 [15] (ついに秦に滅ぼされた) 特別編 90篇 以 A 為 B Aを以てBと為す AをBだと思う・Bにする 以我為不信 [14] (私を信用できないと思う) 以為… 以て…と為す 〜だと思う 虎以為然 [14] (虎はそのとおりだと思った) 特別編 30篇 推量と当為 形 書き下しの読み 意味 原文の句 將… 將に…んとす 〜しようとする 將徙於南冥 [2] (南の海へ移ろうとする) 當… 當に…べし 〜すべきだ 當立者 [11] (立てるべき人) 特別編 89篇 宜… 宜しく…べし 〜するのがよい・〜のはずだ 宜多應者 [11] (応じる者は多いはずだ) 特別編 89篇 たとえる・比べる 形 書き下しの読み 意味 原文の句 猶… 猶ほ…のごとし ちょうど〜のようだ 非猶此也 [16] (これと同じようではないか) 特別編 15篇 如/若… …のごとし 〜のようだ 逝者如斯 [17] (流れ去るものはこのようだ) 不如… …に如かず 〜に及ばない 不如須臾之所學也 [5] (少しの間に学ぶことにも及ばない) 特別編 95篇 限る 形 書き下しの読み 意味 原文の句 …而已/…耳 …のみ 〜だけだ 一撫尺而已 [18] (拍子木一本だけだ) 特別編 62篇 問いの表の六例は、いずれも反語として働いています。 不亦…乎 も、喜ばしいことを肯定する反語です。ただし、 何 を使う文がすべて反語なのではありません。 文編 7課 と同じく、前後の意味を確かめます。 為 と 所 の受け身も、言い切りとは分けました。表の場所だけで意味を決めず、読みと原文の句を合わせてください。 同じ字でも、現代語とは違う 所以防邪僻而近中正也 [5] の 所以 は、邪で偏ったものを防ぎ、中正に近づくための手立てを述べています。現代語の「だから」として読み始める形ではありません。 文編 4課 の 所 と、 文編 5課 の 以 に分けて考えます。すると、そのために使うもの、手立てという関係が見えます。文によって理由を表すこともあるので、手立てか理由かは後ろと文脈で確かめます。 所以 を見て、すぐ現代語の「だから」を当てないでください。この原文では、どうやって邪や偏りを避けるかという手立てをまとめています。 虎以為然 [14] は、虎がそのとおりだと思ったという意味です。現代語の 以为 は、後で違ったと分かる思い込みに使うことが多い語です。古い文でも、思った内容が正しいかどうかは話を読んで判断します。 この狐の話では、虎がだまされています。ただし、 以為 という字だけで、あらゆる場面に思い違いの結末を足してはいけません。まず「〜と思う」と取り、その後で話の結果を読みます。 為 のある二つを、取り違えない 以我為不信 [14] は、私を信用できないと思う、という形です。 爲秦所滅 [15] は、秦に滅ぼされるという受け身です。前者は何をどうみなすか、後者は誰が何をされるかを述べています。 為 があるという一点だけで同じ形にしないでください。以で対象を出して 為 の後ろで判断するのか、 為 の後ろにする側があり、 所 と動詞が続くのかを見ます。 所 の有無だけでなく、その位置も確かめます。 これから起こることと、すべきこと 將 は、これから〜しようとすることを示します。 當 は〜すべきだという判断です。 宜 には、〜するのがよいという意味があります。そのほか、表の 宜多應者 [11] のように、応じる者が多いはずだという見込みもあります。 三つを全部「今にも起きる」とまとめないようにします。書き下しでは、 將 ・ 當 ・ 宜 のほか、 未 ・猶なども一字を二度読む形に関わります。詳しくは次の課で確かめます。 比較の強さを残す 莫…於… は、比べる範囲に、それより上のものが無いと述べます。 不如… は、あるものが別のものに及ばないという比較です。後者だけで、ほかの全てとの順位まで決まるわけではありません。 表の 不如須臾之所學也 [5] は、前の句と合わせて 吾嘗終日而思矣,不如須臾之所學也 [5] と続きます。「わたしは以前、一日中考えていたことがあるが、少しの間に学ぶことにも及ばなかった」という意味です。及ばない側は、前の句の一日中考えること( 終日而思 )です。 現代語でも 可以 ・ 不如 は見覚えのある形です。 型編 11課 と 型編 21課 を手がかりにしながら、可能なのか、比較なのかを分けて読みます。 表へ戻る読み方を身につける 一度に三十全部を覚える必要はありません。一日に一つのまとまりを選び、形、原文の句、書き下しの順で確かめます。次の周には、原文を読んでから表へ戻る順にします。 知らない形が出たら、否定の字、 之 、 者 と 所 、 以 ・ 於 ・ 而 、 為 と 所 、使などに分けます。表は読みを止める暗記の試験ではなく、つまずいたときに戻って関係を確かめる場所です。 語表 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 所以 名詞のまとまりを作る形 〜する手立て・理由 現代語のだからと区別 所以防邪僻而近中正也 [5] 邪や偏りを防ぎ中正に近づく手立て 以為 動詞の形 〜と思う 思い違いかは文脈で決める 虎以為然 [14] 虎はそのとおりだと思った 可以 可能の形 〜できる 文脈で可能や許可を読む 可以一戰 [7] 一戦できる 不如 比較の形 〜に及ばない 比較の範囲を勝手に広げない 不如須臾之所學也 [5] 少し学ぶことにも及ばない 將 助動詞 〜しようとする この例では今後の動き 將徙於南冥 [2] 南の海へ移ろうとする 當 助動詞 〜すべきだ 時の近さだけでない 當立者 [11] 立てるべき人 宜 助動詞 〜するのがよい・〜のはず この例では見込み 宜多應者 [11] 応じる者は多いはずだ 猶 たとえの語 〜のようだ この例では類似を示す 非猶此也 [16] これと同じようではないか 如 たとえの語 〜のようだ 後ろに比べるもの 逝者如斯 [17] 流れ去るものはこのようだ 而已 限定の形 〜だけだ 範囲を狭く結ぶ 一撫尺而已 [18] 拍子木一本だけだ 罔 形容詞 はっきりしない 学んでも考えない結果 學而不思則罔 [13] 学んでも考えなければはっきりしない 邪僻 名詞・形容詞 邪で偏ったこと 邪と僻(かたよる)を合わせた語。邪で偏った行い 防邪僻 [5] 邪や偏りを防ぐ 中正 名詞 偏らず正しいこと 近づく先を示す 近中正 [5] 偏らず正しいことへ近づく 須臾 時を表す語 しばらく・わずかな間 短い時間 須臾之所學 [5] 少しの間に学んだこと 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 先生が言われた。「学んで、折にふれてそれをおさらいする。なんと喜ばしいことではないか。友が遠いところから訪ねてくる。なんと楽しいことではないか。人が自分を認めてくれなくても恨まない。それこそ君子ではないか。」 先生が言われた。「学んでも自分で考えなければ、ものごとがはっきりしない。考えても学ばなければ、危うい。」 宋の国の人に、畑を耕す者がいた。畑の中に切り株があった。兎が走ってきて切り株にぶつかり、首を折って死んだ。そこで男は鋤を捨てて切り株を見張り、また兎を手に入れたいと願った。しかし兎は二度と手に入らず、男は宋の国じゅうの笑いものになった。 この鳥は、海が大きく動くと、南の果ての海へ移ろうとする。南の果ての海とは、天の池である。 先生が言われた。「それは恕(思いやり)であろうか。自分がしてほしくないことは、人にしてはならない。」 荘公が言った。「大小の訴訟は、すべてを見きわめることはできないが、必ず実情にもとづいて裁いている。」曹劌は答えた。「それは真心をつくすことのたぐいです。これなら一戦できます。戦うときには、どうかお供させてください。」 狐は言った。『あなたはわたしを食べてはいけませんよ。天帝はわたしをすべての獣のかしらにしたのです。今あなたがわたしを食べれば、天帝の命令にそむくことになります。わたしの言うことが信じられないなら、わたしがあなたの前を歩きましょう。あなたはわたしの後ろについてきて、獣たちがわたしを見て逃げださないかどうか、見ていなさい。』 南陽の諸葛亮の草庵、西蜀の揚雄(子雲)の亭。孔子は言っている。「(君子が住めば)何のむさくるしいことがあろうか。」 陳渉はため息をついて言った。「ああ、燕や雀のような小鳥に、どうして大きな鳥の志がわかろうか。」 あなたもあの水と月のことを知っているでしょう。流れ去るものはこのように流れてゆくけれども、(水そのものは)まったく去ってしまったわけではない。 練習 分類して、欠けた字を補う 表から、言い切る・名詞を作る・打ち消す・問いかけるの例を一つずつ選び、原文の句を書いて分類名を添えてください。 残る五つのまとまりから、一例ずつ選び、原文と分類名を書いてください。 空欄を補い、原文の句を完成させてください。 不亦說_ 空欄を補い、原文の句を完成させてください。 逝者_斯 空欄を補い、原文の句を完成させてください。 一撫尺_已 空欄を補い、原文の句を完成させてください。 天帝_我長百獸 空欄を補い、原文の句を完成させてください。 竟爲秦_滅 書き戻しと言い換え 「豈に直だ五百里のみならんや」を原文の字の順で書き戻してください。 「宜しく應ずる者多かるべし」を原文の字の順で書き戻してください。 「何の陋しきことか之れ有らん」を原文の字の順で書き戻してください。 虎以為然 [14] を、思った内容を保って現代語で書いてください。 不如須臾之所學也 [5] を現代語で書いてください。本文で見た前の句の、一日中考えること( 終日而思 )を主語として補います。 莫…於… と不如…では、比べる範囲と強さがどう違いますか。 所以防邪僻而近中正也 [5] の 所以 を、現代語の「だから」と読めないのはなぜですか。 前の語で現代語の三つの形を書く 語 充电 ・ 着急 ・ 巴士 を一語ずつ使い、 可以 ・ 不如 ・ 所以 の現代語の文を一文ずつ書いてください。所以では理由と結果が分かるようにします。 語 窗子 ・ 冷静 ・ 列车 を一語ずつ使い、 可以 ・ 不如 ・ 所以 の現代語の文を一文ずつ書いてください。所以では理由と結果が分かるようにします。 語 耳机 ・ 舒适 ・ 步行 を一語ずつ使い、 可以 ・ 不如 ・ 所以 の現代語の文を一文ずつ書いてください。所以では理由と結果