6.46 『論語』里仁篇(抄) — Epoché
この篇でできるようになること 十四の章を、一続きの物語にせず読めます。 小さな字の働きを、前後の言葉から説明できます。 離れた章を同じ話題で集めて比べられます。 古い言い方を、短い現代語の文にできます。 前提 :6.45「宋詞三首」。中国語の本文は別の読書ページで読みます。 十四章を、一章ずつ読む 『論語』は、孔子と弟子たちの言葉を集めた書物です。この抄では里仁篇の第八章から第二十一章までを読みます。以下では、抄の中の順を「一章」と書きます。原書の番号も「里仁八」のように併記します。 本文は簡体字です。古い言葉の意味と、字の繁簡は別に考えます。現代の字形で書かれていても、言い方まで現代語になったわけではありません。 道、衣食、世の中、地位、父母と、章ごとに話題が変わります。前の章の登場人物が次の章でも行動している、と考えて補う必要はありません。一章で何を述べるかを受け取り、同じ話題の章を後から並べます。 話題が離れていることだけで、編集されていない書物だと決めません。ここで練習するのは、章の切れ目を保ちながら、共通する語や形を探す読み方です。 つなぐ字と、結ぶ字 而 は前後をつなぎます。 见不贤而内自省也 では、賢くない人を見て、そして内に自分を省みます。一方、 劳而不怨 では、骨を折っても恨まないという、逆向きのつながりです。 型編 34課 と同じく、両側の内容を先に見ます。 于 は、前の語と関係する先を示します。 士志于道 では志す先が道です。 君子喻于义 では、よく分かっている対象が義です。一つの日本語だけを全部の 于 に当てはめず、前の動詞と組にして読みます。 也 ・ 矣 は、短い文を結ぶ手がかりになります。ただ字を取り除くだけにはしません。どこまでが一つの説明や言い切りかを確かめます。小さな字にも、言葉どうしの関係や語気を表す働きがあります。 時、否定、問いを前から追う 朝闻道,夕死可矣 では、朝と夕が、それぞれの動作の前にあります。 型編 8課 で学んだ時の置き方が手がかりです。誰が聞くかは書かれていません。訳では読み手自身を補って、道を知ることの重さを受け取れます。 不患无位 は、心配するという動詞の前に否定があります。 可谓孝矣 の 可 は、そう言ってよいという助動詞です。今の語に言い換えるときも、否定や「よい」を落とさずに残します。 何谓也 は「どういう意味か」という問いです。疑問詞の 何 が、動詞の 谓 より前に出ています。今の中国語では、 说什么 のように疑問詞を動詞の後ろに置きます。意味を尋ねるときも 是 の後ろに 什么意思 を置きます。この例では、動詞の目的語に当たる 何 が前に出る古い語順を見ています。現代語の主語や、時・理由を尋ねる疑問詞まで、すべて動詞の後ろに置くという規則ではありません。 語表 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 曰 動詞 言う 発言の始まり 子曰 先生が言われた 朝 名詞 朝 ここでは時を示す 朝闻道 朝に道を聞く 闻 動詞 聞く 古い文で聞くこと 朝闻道 朝に道を聞く 道 名詞 人の歩むべき道 ここでは道路ではない 朝闻道 朝に道を聞く 矣 助詞 言い切る語気 文の終わりを示す 夕死可矣 夕方に死んでもよい 士 名詞 学び道を志す人 ここでの人の呼び方 士志于道 士は道に志す 志 動詞 志す ここでは動詞 士志于道 士は道に志す 于 介詞 〜に 関係の向かう先 士志于道 士は道に志す 耻 動詞 恥じる ここでは恥と思う 而耻恶衣恶食者 それでいて粗末な衣食を恥じる者 恶衣恶食 名詞 粗末な衣服と食事 悪事の意味ではない 而耻恶衣恶食者 それでいて粗末な衣食を恥じる者 君子 名詞 徳のある人 ここでは人のあり方 君子怀德 君子は徳を心にかける 小人 名詞 目先の利を重んじる人 体の小さい人ではない 小人喻于利 小人は利に明るい 怀 動詞 心にかける ここでは思いを向ける 君子怀德 君子は徳を心にかける 德 名詞 徳 人のよいあり方 君子怀德 君子は徳を心にかける 刑 名詞 刑罰・法 ここでは法を心にかける 君子怀刑 君子は法を心にかける 惠 名詞 恩恵 受け取る恵み 小人怀惠 小人は恩恵を心にかける 利 名詞 利益 自分にとっての得 放于利而行 利によりかかって行動する 怨 名詞・動詞 恨み・恨む 文によって働きが違う 劳而不怨 骨を折っても恨まない 礼让 名詞 礼と譲り合い 国を治める姿勢 能以礼让为国乎 礼と譲り合いで国を治められるか 患 動詞 心配する ここでは病気ではない 不患无位 地位がないことを心配しない 位 名詞 地位 ここでは量詞ではない 不患无位 地位がないことを心配しない 贯 動詞 貫く 一つのことが通る 吾道一以贯之 私の道は一つのことで貫かれる 唯 感動詞 はい ここでは応答 曾子曰:「唯。」 曾子は「はい」と答えた。 何谓 句 何を言うのか・どういう意味か 疑問の 何 が動詞 谓 の前に来る古い語順 何谓也 どういう意味か 忠恕 名詞 誠実さと思いやり 曾子が道を説明する語 夫子之道,忠恕而已矣 先生の道は忠と恕、それだけだ 喻 動詞 よく分かる たとえるという意味ではない 君子喻于义 君子は義に明るい 义 名詞 正しい道理 利益との対比で読む 君子喻于义 君子は義に明るい 贤 形容詞 賢い・優れている ここではそのような人 见贤思齐焉 賢い人を見て肩を並べたいと思う 自省 動詞 自分を省みる 省略の省ではない 而内自省也 そして内に自分を省みる 几谏 動詞 それとなくいさめる ここで几は数ではない 事父母几谏 父母に仕え、それとなくいさめる 违 動詞 逆らう 相手に背く 又敬而不违 なお敬って逆らわない 方 名詞 決まった行き先 旅の行き先 游必有方 旅には必ず行き先がある 孝 名詞 親を大切にすること 本文の価値観を読む 可谓孝矣 孝と言ってよい 惧 動詞 恐れる 喜びと対になる 一则以惧 一方ではそれを恐れる 対訳 一章(里仁八) 先生が言われた。「朝に道を聞くことができたなら、その日の夕方に死んでもかまわない」 二章(里仁九) 先生が言われた。「士として道に志していながら、粗末な衣や粗末な食を恥じるような者とは、まだ語り合うに足りない」 三章(里仁十) 先生が言われた。「君子が世の中のことにあたるときは、こうでなければならぬということも、こうであってはならぬということも無い。義に従って、それに寄り添うだけだ」 四章(里仁十一) 先生が言われた。「君子は徳を心にかけ、小人は土地を心にかける。君子は法を心にかけ、小人は恩恵を心にかける」 五章(里仁十二) 先生が言われた。「利によりかかって行動すれば、恨みを買うことが多い」 六章(里仁十三) 先生が言われた。「礼と譲り合いによって国を治めることができるなら、何の難しいことがあろう。礼と譲り合いによって国を治めることができないなら、礼があっても何になろう」 七章(里仁十四) 先生が言われた。「地位が無いことを憂えるのではなく、その地位に立つだけのものが自分にあるかを憂えよ。自分を知る者がいないことを憂えるのではなく、知られるに足るものになるよう努めよ」 八章(里仁十五) 先生が言われた。「参よ、わたしの道は一つのことで貫かれている」。曾子は「はい」と答えた。先生が出ていかれたあと、門人たちが尋ねた。「どういう意味でしょうか」。曾子は言った。「先生の道は、忠と恕、それだけです」 九章(里仁十六) 先生が言われた。「君子は義に明るく、小人は利に明るい」 十章(里仁十七) 先生が言われた。「賢い人を見たら自分もそうなりたいと思い、賢くない人を見たら、心の中で自分を省みる」 十一章(里仁十八) 先生が言われた。「父母に仕えるときは、それとなくいさめる。自分の思いが受け入れられないと分かっても、なお敬って逆らわず、骨を折っても恨まない」 十二章(里仁十九) 先生が言われた。「父母が生きているあいだは遠くへ旅をしない。旅をするときは、必ず行き先を定めておく」 十三章(里仁二十) 先生が言われた。「三年のあいだ父のやり方を改めなければ、孝と言ってよい」 十四章(里仁二十一) 先生が言われた。「父母の年齢は、知らずにいてはならない。一方ではそれを喜び、一方ではそれを恐れる」 同じ形を、離れた章から集める 四章(里仁十一)の 君子怀德,小人怀土 と、九章(里仁十六)の 君子喻于义,小人喻于利 を並べます。君子と小人を主語にして、何に心や理解が向くかを対にしています。 義と利を直接対にするのは九章です。四章は徳や土地、法や恩恵を対にします。五章(里仁十二)の 放于利而行,多怨 も加えると、何を基準に行動するかという話題で三つの章を結べます。同じ話題でも、全部の章に義と利の二字があるわけではありません。 七章(里仁十四)は、地位がないことと、その地位に立てるものが自分にあるかを分けます。さらに、知られないことと、知られるに足る人になることを分けます。二つの文は、関心を向け直しています。周りから与えられるものから、自分のあり方へ向け直しているのです。 一字の返事と、四章の並び 八章(里仁十五)は対話です。孔子が語り、曾子が 唯 と答えます。孔子が出た後で門人が尋ね、曾子が説明します。一字の返事の後に、別の人たちの問いが来ます。そのため、誰が何を分かっているかに目が向きます。 最後の四章(里仁十八〜二十一)は孝について述べます。父母をいさめること、旅に出ること、父のやり方を改めないこと、年齢を知ることの順です。生きている間の接し方から、父の死後のあり方、さらに親の年齢へと目が移る並びとして読めます。 一则以喜,一则以惧 では、喜びと恐れが同じ年齢から出ます。長生きを喜ぶと同時に、残された時間を思って恐れるのです。違う二つの出来事の話に分けないようにします。 古い書物の価値観を説明することと、今の生活で全員がそのまま従うよう勧めることは別です。まず本文が何を孝と呼んでいるかを、章の言葉に即して読みます。 練習 本文を見て、 士志_道 の空欄に一字を入れ、句を書いてください。 朝闻道,夕死可_ の空欄を埋め、句を書いてください。 见不贤_内自省_ の二つの空欄を埋め、句を書いてください。 七章(里仁十四)の、地位がないことを心配しないという部分を、自分を主語にした短い現代語へ替えてください。 十二章(里仁十九)の、旅には行き先を決めるという部分を、自分を主語にした短い現代語へ替えてください。 十四章(里仁二十一)の、父母の年齢は知らずにいてはならないという部分を、短い現代語へ替えてください。 九章(里仁十六)の君子と小人の対を、 懂得 を使って現代語の二文へ替えてください。 心配しないことと心配することを一つずつ選び、 不担心 ・ 担心 を使って自分の短い一文を書いてください。 八章(里仁十五)で、説明の意味を尋ねているのは誰ですか。その問いを本文から写し、意味を尋ねる現代語の一文も書いてください。二つの文で、疑問詞が動詞の前と後ろのどちらにあるかも答えます。 十四章を「義や利など、行動の基準」「知られること」「孝」「その他」に分け、抄の章番号を書いてください。一つの章を複数に入れても構いません。 四章と九章の共通する形を説明し、最後の四章の順から読めることを日本語で二、三文にまとめてください。 戻り語 前の課で学んだ語を使い、君子と小人を比べる対の文を、今の中国語で二組以上書きます。 诚实・老实・优秀・能干・自信・冷静 から三つ以上使います。 诚实 と 老实 を使い、「君子は…、小人は…」の対の文を中国語で書いてください。 优秀 と 能干 を使い、「君子は…、小人は…」の対の文を中国語で書いてください。 冷静 と 自信 を使い、「君子は…、小人は…」の対の文を中国語で書いてください。 音読 ▶で本文を聞き、十四章を一章ずつ読みます。章の間で一呼吸置きます。八章では、孔子、曾子、門人の発言の切れ目も分けます。一人で、それぞれの発言を順に声に出します。 この篇のまとめ 短い章を独立して受け取り、同じ語や対句で結びます。つなぐ字と文を結ぶ字を手がかりにし、義と利、知られること、孝という話題を読み分けます。最後の喜びと恐れは、一つの事実から生まれる二つの思いです。 次の篇へ 次の6.47は李白『春夜宴從弟桃花園序』です。短い章を拾い集めた後は、一続きの散文で対句がどう働くかを読みます。 答え 士志于道 。志す先を示す 于 です。 朝闻道,夕死可矣 。文を結ぶ 矣 です。 见不贤而内自省也 。つなぐ 而 と、文を結ぶ 也 です。 我不担心没有地位。 我旅行时一定有目的地。 我不能不知道父母的年龄。 君子懂得道义。 小人懂得利益。 我不担心名声,只担心学习。 門人たちです。本文は 何谓也? 、現代語の例は 这句话是什么意思? です。本文では疑問詞の 何 が動詞の 谓 の前、現代語では 什么 が 是 の後ろにあります。 一例は、行動の基準が三・四・五・九章、知られることが七章、孝が十一〜十四章、その他が一・二・六・八・十章です。道や省察も行動の基準と読むなら、一・二・八・十章をそちらへ加えられます。どの語を根拠にしたかも添えます。 四章と九章は、君子と小人を主語にして、心や理解の向かう先を対にします。最後の四章は、父母との接し方、旅、父のやり方、年齢の順です。生前の接し方から死後のあり方を経て、親の年齢へ目を向ける並びと読めます。 君子诚实,小人不老实。 君子优秀,小人只是能干。 君子很冷静,小人不自信。 参考文献 孔子とその弟子たち(編者不詳)『論語 里仁篇(抄)』( 子曰:「朝闻道,夕死可矣!」 )。里仁篇の第八章から第二十一章までを続けて抜いたもの。繁体字を簡体字に改めた。パブリックドメイン。出所:https://zh.wikisource.org/wiki/論語/里仁第四