8.2 偏旁の対応 — 六つ覚えれば二百組が読める — Epoché
この課でできるようになること 六つの部品の対応を使い、繁体字を書けます。 さらに六つの部品を手がかりに、知っている語へ戻して読めます。 部品だけでは戻せない字を見分けられます。 「海世間」を読み、飛び魚と人の問答を追えます。 前提 :8.1。前の課の意味による書き分けから、共通する部品が役立つ側へ進みます。 一字ずつ覚えず、部品を見る 簡体字の偏や旁には、多くの字に共通して短い形が使われています。偏は字の左側、旁は右側の部品です。同じ部品の対応を知れば、別々の字でも手がかりが共通します。日本語の漢字で見慣れた形は、思い出しながら読んでいきましょう。 HSK 3.0 の語彙表(一〜七級)の字で数えると、簡繁で形の違う字の組は千四百あまりあります。下の六つの部品で、そのうち約15%になります。 [1] 数字はこの教材が数えた目安で、語彙表の範囲に限ったものです。一つの部品を覚えることが、複数の字を読む助けになります。 まず六つの部品 簡体字 繁体字 意味・部品の名 組の数(目安) 例 讠 言 ごんべん。偏では 訁 の形 61 说 → 說 饣 食 しょくへん。偏では 飠 の形 12 饭 → 飯 纟 糸 いとへん。偏では 糹 の形 61 红 → 紅 钅 金 かねへん 46 镜 → 鏡 车 車 車の字・部品 17 轮 → 輪 门 門 門の字・部品 21 问 → 問 初めの四つは左側に立つ偏です。 說 ・ 請 のごんべん、 紅 ・ 經 のいとへんを見ると、日本語の知識も手がかりになります。 车 と 门 は左の偏に限りません。字そのものでも、 輪 や 間 の部品としても使います。 もう六つと、規則の限界 簡体字 繁体字 意味・部品の名 組の数(目安) 例 贝 貝 かい 40 贵 → 貴 页 頁 おおがい 20 题 → 題 马 馬 うま 18 验 → 驗 鸟 鳥 とり 11 鸭 → 鴨 鱼 魚 うお 8 鲜 → 鮮 见 見 みる 5 视 → 視 こちらは右側や下など、字の中の位置がさまざまです。先の六つと合わせると、形の違う字の組のおよそ二割になります。 題 なら右の 頁 、 貴 なら下の 貝 を見つけて、知っている簡体字へつなぎます。 经验 を繁体字にすると 經驗 です。日本語の「経験」の形をそのまま写しません。 验 では、うまの部品を 馬 へ戻し、右側も 驗 の形として見ます。 觉 と 覺 では、下の 见 が 見 へ戻るのが手がかりです。ただし上も変わるので、部品一つだけでは完成しません。規則が半分まで届くのは、こういう字です。 鸡 と 雞 は違います。左の 又 は 奚 に、右の 鸟 は 隹 になります。左右とも別の形です。 鸟 → 鳥 の規則は、この字には使えません。異体の 鷄 なら、右は規則どおり 鳥 です。ただし、左の 奚 は字ごとに覚えます。 部品を一つ見つけたら、残りもそのままでよいとは限りません。 鸡 ・ 雞 、 觉 ・ 覺 を字全体で見比べ、規則の手がかりと、別に覚える形を分けます。 語表 簡体字 繁体字 意味 例文 訳 说话 說話 話す 他在說話 彼は話している 经验 經驗 経験 有經驗 経験がある 银行 銀行 銀行 去銀行 銀行へ行く 车轮 車輪 車輪 換車輪 車輪を替える 房间 房間 部屋 大房間 大きな部屋 问题 問題 問題・質問 問問題 質問する 鲜花 鮮花 生の花・切り花 買鮮花 生の花を買う 颜色 顏色 色 顏色好看 色がきれいだ 說話 はごんべん、 銀行 はかねへん、 車輪 は車、 房間 は門が手がかりです。 問題 は門と頁、 鮮花 は魚を見ます。 經驗 や 顏色 では、日本語の字と細部まで同じだと思わず、表の形を確かめます。 許地山「海世間」を読む 読書ページの「海世間」は、海へ出た人と飛び魚の問答です。 [2] 人の造った世から離れようとしても、人の世の考え方を海へ持ち込んでしまう様子を読みます。飛び魚の言葉と、人が想像する海との違いを追いましょう。 本文には、ごんべんの 計 ・ 許 ・ 試 ・ 話 ・ 語 ・ 說 ・ 請 ・ 誰 ・ 識 、いとへんの 紅 ・ 紗 ・ 結 ・ 給 ・ 經 ・ 縷 、もんがまえの 閉 ・ 間 ・ 悶 があります。部品が共通する字を見つけてから、語として意味を取ります。 対訳 中国語の文書の段落ごとの訳です。先に原文を読んでから見てください。 私たちの人の世は、想像か淡い夢の中でしか実現できないのだ。人の造った上海の社会を離れたとき、心の中では、これからは社会のさまざまな掟という枷を脱して、楽しければ行い、憂えれば避ける、潜む竜のような暮らしを楽しもうと思っていた。ところが船に乗ったとたん、人の造った世に残っていた受・想・行・識が、みな私たちについてこの自然の海原に入ってきたのだ。これらのものは私たちの荷物よりも多く、この一万二千トンの小さな船を左右に揺らした。同行の人々も船が荷を積みすぎていることを知っていて、何かよい方法で船の負担を少し軽くしようと考えた。けれども、誰が人並み外れた知恵を持っていようか。考えに考えた末、いくらか吐き出すほかに、うまい手立ては何もなかった。 この方法はありふれたものだったが、それでも船はずいぶん軽くなった。この船はもともと新世界へ行くはずなのだが、新世界が自然の人の世だとは限らない。航海の途中で、服を脱いで海に飛び込み、大きな魚の泳ぎをまねたところで、それが自然だとは限らない。目を閉じて黙って座っていれば、まだいくらか無理にでも気ままでいられる。 船が陸から遠ざかると、遠くの山もまばらな木々もすべて流れる雲に変わった。断ち切れない淡い煙が、ひとすじひとすじ煙突からほどけ出て、ゆっくりと後ろへ伸びてゆく。故国では、誰かがこの煙をつかんでいるのだろう。さもなければ、私たちのうちの誰かの別れの思いが凝り固まって、淡い煙に乗って家へ帰ってゆくのだ。 ああ、彼の魂も淡い煙について飛んでいってしまった。淡い煙は彼を載せきれず、彼を投げ落とした。落ちた人には波しぶきさえつらく当たり、弾丸のような水の粒を一つ一つ彼の体に打ちつける。彼は幾度も波とともに浮き沈みし、力が尽きかけて、いまにも沈みそうになった。幸いトビウオが哀れんで、帆のようなひれを広げて彼を救った。 トビウオは言った。「あなたはなんと愚かな人だ。燃え尽きた冷たい灰が、あなたの炎のように赤い思いを載せられるものか。あなたがたの船にはきっと情の深い人がたくさんいて、故郷を恋しく思っているのだと知っている。私たちは群れをなして船について行き、飛んだり泳いだりして、あなたがたのために働こうと思っていたのに、あなたがたはかえって手をたたいて私たちを笑い、追い払ったのだ。」 彼は言った。「あなたの言葉を、私たちがどうしてわかりましょう。人の造った世の人間には、人の造った言葉しかわからないのです。」 トビウオは口もとの二本の短いひげを揺らし、いかにも老成したふうを装って言った。「誰があなたに区別を教えたのか。何が人の造った世で、何が自然の世だというのか。あなたの心がむやみに差別を生んでいるだけだ。私たちにあるのは、海の世と陸の世の区別だけだ。陸の世はあなたにはなじみ深いだろうが、海の世となると、想像から少しわかるにすぎない。あなたがたは、海にも女神がいて、五官六感もあなたがたと同じだと思っている。珊瑚だの真珠貝だのを身につけ、鮫のうすぎぬだの昆布だのをまとっていると。実はそういうものは、ここでは珍しくも得がたくもない。それに、人の姿を言ったとたん、それはもう神ではない。私たちには神などいない。この青い塩水だけが私たちの命の源だ。ところが私たちの命の出どころである水は、あなたがたにはかえって害になる。海の水はあなたがたの命を奪う。海に神がいるというのなら、あなたは水を崇めるべきで、ほかに偶像を造る必要はない。」 彼は聞き入って呆然とし、両手でトビウオの帆のようなひれにつかまった。そして、海の世へ連れて行ってほしいと頼んだ。トビウオは笑って言った。「水の中ではあなたは生きられないと、はっきり言ったではないか。命を失うのが怖くないのか。」 彼は言った。「一分ほど下りるくらいなら、かまわないでしょう。私はいつも海の神の清らかさ、やさしさ、しとやかさといった美徳を思い、また海の底の花園には私の見たことのない生き物や景色がたくさんあると思って、誰かに連れて行ってもらいたくてたまらないのです。」 トビウオは言った。「何もない、何もない。塩からくて冷たい水があるだけだ。海の美しさはそれほど単純なのだ――冷たくて塩からい。ひと目で見渡せる。私が連れて行くまでもない。美しいものは、みなそれほど単純なものだ。それが込み入って熱烈であってほしいと求めるなら、それは間違いだ。海の世の暮らしに、あなたは慣れることができない。船へ送り返してやるほうがいい。」 魚がひとたびひれを振るうと、たちまち波の丘を離れて、船べりまで飛んできた。彼はそれでもこの本当に人の造った陸の世に戻るのが名残惜しく、ただ恨めしげに空の果てを眺めるばかりだった。海がさっき聞いたとおりのものだとは信じなかった。想像の中で、海の底の世界の光景を組み立てようとした。すると彼の思い描いた海の景色が、本当に彼の夢の中に現れたのだった。 練習 形を変える — 中国語で書く 次の語を繁体字で書き、使った部品を添えてください。 说话 ・ 经验 ・ 银行 ・ 车轮 ・ 房间 ・ 问题 ・ 饭馆 ・ 鲜花 ・ 颜色 ・ 贵 。 空欄へ、括弧内の簡体字に対応する繁体字を入れてください。 請_ ( 问 )、 坐列_ ( 车 )、 我想換房_。 ( 间 )、 她在_行工作。 ( 银 )、 她站在_子前。 ( 镜 )、 我想和他說_。 ( 话 )(文は Tatoeba の文 #9419163・#1419300・#7768235・#9475958 を繁体字に改めたもの。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR) 次の繁体字の文を簡体字で書いてください。 誰在說話? / 請關門。 / 他經驗豐富。 / 哪裡有問題? / 你和誰說話呢? (三文目から五文目は Tatoeba の文 #348923・#60・#7771910 を繁体字に改めたもの。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR) 經驗 ・ 銀行 ・ 問題 から二語を選び、繁体字で自分の文を一文ずつ書いてください。 本文の 計 ・ 許 ・ 試 ・ 紅 ・ 結 ・ 給 ・ 閉 ・ 間 ・ 悶 ・ 海 をごんべん・いとへん・もんがまえに分け、三つのどこにも入らない字も答えてください。 鸡 ・ 雞 と、 觉 ・ 覺 では、どこまで部品の表が使えますか。 「海世間」について、船を軽くした方法、海へ落ちた人を助けたものとその言い分、海の美しさの説明を日本語で答えてください。 戻り語 前の課で学んだ語を使って書きます。 語ごとに身近な人や生活の文を簡体字で作って、繁体字へ書き換えてください。 镜子 ・ 眼镜 ・ 鲜花 。 語ごとに身近な人や生活の文を簡体字で作って、繁体字へ書き換えてください。 闹钟 ・ 充电 ・ 诚实 。 語ごとに身近な人や生活の文を簡体字で作って、繁体字へ書き換えてください。 喜爱 ・ 兴奋 ・ 舒适 。 語ごとに身近な人や生活の文を簡体字で作って、繁体字へ書き換えてください。 冷静 ・ 诗人 ・ 护士 。 語ごとに身近な人や生活の文を簡体字で作って、繁体字へ書き換えてください。 列车 ・ 孙女 ・ 导游 。 音読 「海世間」を段落ごとに声に出して読みます。飛び魚の台詞は鉤括弧の中を続けて読み、誰が何に答えているかを追います。二度目は、部品を手がかりに通して読みます。 この課のまとめ 共通する部品を見れば、複数の字をまとめて読む手がかりになります。ただし、もう一方の形も変わる字は、全体を確かめます。日本語の字形をそのまま当てはめず、繁体字の形で読み書きしましょう。 次の課へ 次の8.3では、日本の新字体と繁体字がずれる字を見ます。日本語の知識が役立つ場合と、それだけでは読めない場合を分けます。 答え 說話 ・ 經驗 ・ 銀行 ・ 車輪 ・ 房間 ・ 問題 ・ 飯館 ・ 鮮花 ・ 顏色 ・ 貴 。順に、言、糸と馬、金、車、門、門と頁、食、魚、頁、貝が手がかりです。 請問 ・ 坐列車 ・ 我想換房間。 ・ 她在銀行工作。 ・ 她站在鏡子前。 ・ 我想和他說話。 谁在说话? / 请关门。 / 他经验丰富。 / 哪里有问题? / 你和谁说话呢? 我在銀行工作。 我有一個問題。 ごんべん: 計 ・ 許 ・ 試 。いとへん: 紅 ・ 結 ・ 給 。もんがまえ: 閉 ・ 間 ・ 悶 。この三つに入らない字: 海 。 覺 は、下の 見 までは部品の表で戻せますが、上の形は別に覚えます。規則が半分まで届く字です。 雞 は、左の 又 が 奚 に、右の 鸟 が 隹 になるので、 鸟 → 鳥 の規則は使えません。左右とも、字全体で覚えます。 船の負担を軽くするため、少し吐き出しました。海へ落ちた人を助けたのは飛び魚で、哀れんで助けました。飛び魚は、故郷を思う人々の役に立とうと船について来たのに、笑われ追い払われたと責めます。海の美しさは冷たく塩からい水という単純さにあり、込み入った熱烈さを求めるのが違うと述べます。 镜子在桌上。 → 鏡子在桌上。 我戴着眼镜。 → 我戴著眼鏡。 她喜欢鲜花。 → 她喜歡鮮花。 闹钟在房间里。 → 鬧鐘在房間裡。 我需要充电。 → 我需要充電。 她很诚实。 → 她很誠實。 我喜爱诗歌。 → 我喜愛詩歌。 他们很兴奋。 → 他們很興奮。 这个房间很舒适。 → 這個房間很舒適。 他现在很冷静。 → 他現在很冷靜。 她是一位诗人。 → 她是一位詩人。 我想当护士。 → 我想當護士。 我坐的列车很快。 → 我坐的列車很快。 我的孙女喜欢读书。 → 我的孫女喜歡讀書。 导游在门口。 → 導遊在門口。 参考文献 HSK 3.0 語彙表(一〜七級)。字の組と部品の組の数は、この語彙表の字の簡体字と繁体字を突き合わせて数えた目安。部首の欄が空の字は部品の組に含めない。 許地山「海世間」。中文維基文庫。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。字体は原文の繁体字のまま。