0.1 ラテン文字 23 字 — i と j、u と v — Epoché
この課でできるようになること ラテン語の 23 字を、名と音とともに読める。 i/j、u/v が「同じ字の二つの姿」であることを知り、この課程の書き分けの約束を言える。 原典が大文字だけで書かれていた時代の文( ARMA VIRVMQVE )を、いまの綴りに直して読める。 前提 : なし。ここが最初の課です。 ラテン語入門を始めます。最初の課で扱うのは 文字 です。といっても新しく覚える字は一つもありません。ラテン語の文字は、英語のアルファベット 26 字から J・U・W の 3 字を引いた 23 字 。日本語話者はローマ字と英語で全部見慣れています。この課の仕事は「読める」を「正しく読める」に変えることです。 正しく、とはどういうことか。英語で C は city ではス、 cat ではクと読み分けますが、ラテン語の C は いつでもク です。英語の V は ヴ ですが、ラテン語の V は ウ (半母音の w)です。つまり、字は同じでも 読み方の規則は英語より単純 で、例外がほとんどありません。この編の 8 課でその規則を全部通します。 23 字の名と音 下の表は、文字・ローマ人が呼んだ名・この課程で使う音(復元式)の 3 列です。名はいまの日本の教室で使うものに合わせました。音の欄は日本語のカナで近い音を示しただけで、正確な作り方は 0.3 で扱います。 文字 名まえ 読み方 A a アー ア B b ベー ブ C c ケー ク D d デー ド E e エー エ F f エフ フ G g ゲー グ H h ハー ハ行 I i イー イ/ヤ行 K k カー ク L l エル ラ行 M m エム ム N n エン ン O o オー オ P p ペー プ Q q クー ク R r エル 巻き舌 S s エス ス T t テー ト V u ウー ウ/ワ行 X x イクス クス Y y ユー ユ Z z ゼータ ズ K・Y・Z の 3 字はほとんど使いません。K は Kalendae (月の初日)などごく少数の語に残るだけで、Y と Z はギリシア語から入った語( philosophia は ph 、 zōna は z)にしか出ません。実際に働いているのは 20 字 と考えてよく、日本語の五十音より少ない。 R は 巻き舌 (スペイン語やイタリア語の r)です。日本語のラ行は舌先を一度はじくだけで、これは短い r に近い音です。L との区別は、L が舌先を上の歯茎に 付けたまま 声を出す音、R は はじく 音、と覚えてください。日本語話者が一番混ぜやすいのがこの二つで、 lūx (光)と rūs (田舎)は別の語です。 i と j、u と v — 同じ字の二つの姿 ローマ人は I と V の 2 字を、 母音にも子音にも 使いました。 IVLIVS と刻めば、最初の I は子音のヤ行、次の V は母音のウ、三つ目の I は母音のイ、四つ目の V も母音のウで、読みは「ユーリウス」です。J と U という字は中世以降に発明されたもので、ローマには無かった。 では、この課程はどう書くか。約束は二つです。 u と v は書き分ける。 母音は u、子音(ワ行)は v。 vīta (生命)・ ūnus (一つ)。 Perseus の校訂本(当館の古典の本文)と同じ書き方です。 j は使わない。 子音のヤ行も i で書く。 iam (もう)・ Iūlius 。古い辞書や教会の本には jam ・ Julius と書いたものがあり、同じ語です。 見分けは簡単です。 母音の前に立つ i は子音 ( iam ・ iūs ・ maior )、 母音の前に立つ u は子音 ( via ・ servus )。それ以外は母音です。例外は qu と gu の u( aqua ・ lingua )で、これは 0.5 で扱います。 大文字だけの原典を読んでみる ローマの碑文と最古の写本は 大文字だけ・語の切れ目も無し で書かれました。ウェルギリウス『アエネイス』の冒頭をその姿で書くと ARMAVIRVMQVECANO 。これを切って、いまの綴りに直すと Arma virumque canō (武器と人とを私は歌う)になります。V が u に変わったところを見てください。 VIRVM の最初の V は子音(ワ行)、次の V は母音(ウ)。同じ字を文脈で読み分けていたのです。 小文字は 8 世紀ごろに整い(カロリング小文字体)、語の間の空白と句読点はさらに後です。第 4 期以降に読む原典はみな後世の校訂本なので、小文字・空白・句読点つきです。安心してください。ただし 大文字の I と V が両用 だったことは、辞書を引くときに効きます—— iūs を J の項で探しても無く、I の項にあります。 文字だけを頼りに読む — 6 つの実文 ここまでの知識だけで読める、本物の文を 6 つ置きます。聖書(ウルガタ)とセネカの手紙からで、どれも 5 語以下。意味はまだ分からなくて構いません。 字を音に変える ことだけを試してください。音声を再生して、読書ページの「聞き取り」で本文を伏せ、聞こえたとおりに真似る——これがこの課程の音読の型です。 原文 日本語訳 見るところ Ego sum qui sum. [1] 私はあるという者である。 e・g・o、s・u・m。字と音が一対一 Deus meus es tu; [2] あなたは私の神です。 D は英語と同じ。 es は「エス」 Omnia mea mecum sunt ; [3] 私のものは全部、私と一緒にある。 mēcum の c はク Rex noster est animus. [4] 私たちの王は心である。 x はクス。 rēx =レークス Ego sum lux mundi: [5] 私は世の光である。 lūx はルークス。L は付けて出す Vos estis lux mundi. [6] あなたがたは世の光である。 vōs の v はウォース(ワ行) 6 文のうち 3 つに sum ・ es ・ est ・ estis が出ました。英語の be にあたる動詞 sum の形です。ラテン語で一番よく出る動詞なので、意味を知らなくても字面が目に馴染んでおくと、形編で楽になります。 新出語 語(品詞) 意味 注 sum la 動詞・不規則( esse ) 〜である、ある 日本語との差 英語の be 。主語が省かれることが多い Ego sum qui sum. 私はあるという者である。 Anno millesimo nongentesimo octogesimo nata sum. [7] 私は1980年生まれです。 ego la 代名詞 私 日本語との差 強調のときだけ置く。普段は動詞の形で分かる Ego libenter ambulo. [8] 私は散歩が好きです。 In aqua vivere non possum. Ego non sum piscis. [9] 私は水中で生きられない。魚じゃない。 tū la 代名詞 君、あなた 日本語との差 単数だけ。複数は vōs Et tu, Brute? [10] ブルータス、お前もか? Id est quod tu puella es. [11] それはあなたが女の子だからです。 deus la 名詞・第 2 変化・男性( -ī ) 神 日本語との差 複数の主格は dī Deus Iudaeus non est. [12] 神様はユダヤ人じゃない。 Deus Musulmanus non est. [13] 神様はムスリムじゃない。 rēx la 名詞・第 3 変化・男性( rēgis ) 王 日本語との差 属格で語幹 rēg- が現れる Rex noster est animus. 私たちの王は心である。 Leo rex animalium est. [14] ライオンは動物の王さまです。 animus la 名詞・第 2 変化・男性( -ī ) 心、精神 日本語との差 英語 animal の親戚ではない(こちらは anima 系) Sibi in animo esse ire dicit. [15] 彼女は行くつもりだと言っています。 lūx la 名詞・第 3 変化・女性( lūcis ) 光 日本語との差 英語 lux ・ lucid の元 Vos estis lux mundi. あなたがたは世の光である。 Fiat lux! [16] 光あれ! mundus la 名詞・第 2 変化・男性( -ī ) 世界、宇宙 日本語との差 英語 mundane の元。「清潔な」の意味の形容詞も同形 Specula mundi in qua habitamus sumus. [17] 私たちは自分の住む世界を映す鏡である。 omnis la 形容詞・第 3 変化( omne ) すべての、あらゆる 日本語との差 英語 omni- の元 Nocte omnes feles cinereae sunt. [18] 夜中の猫はどれも灰色。 Omnes homines aequales sunt. [19] 人間は全て平等である。 vōs la 代名詞 君たち、あなたがた 日本語との差 tū の複数 Iam pax est inter vos duos? [20] あなたたち二人の間はもう平穏ですか。 練習 練習 1 — 母音の i・u か、子音の i・u か 次の語で、i と u が母音か子音かを言ってください。母音の前に立てば子音です。 iam via ūnus Iūlius servus maior 練習 2 — 大文字だけの原典を直す 次の碑文体を、小文字・u と v の書き分けで書き直してください。 VENI VIDI VICI CIVIS ROMANVS SVM IN PRINCIPIO ERAT VERBVM 練習 3 — 本文を隠して復唱する 上の 6 文を音声で聞き、読書ページの「聞き取り」で本文を伏せて、聞こえたとおりに 声に出して 真似てください。字を見ながらでは目が先に読んでしまいます。 耳から入れて口で出す のが目的です。ラテン語には音読判定がありません(自動判定の対応言語に無い)。代わりに、自分の声を録音して音声と聞き比べるか、次の課からの強勢の印で自己点検します。 この課のまとめ ラテン語の文字は 23 字 (英語から J・U・W を引く)。実際に働くのは 20 字。 C はいつもク、V はウ(ワ行)、R は巻き舌。 英語より規則が単純 。 i と u は母音にも子音にもなる。 母音の前なら子音 。この課程は u/v を書き分け、j は使わない。 原典は大文字だけ・空白なし( ARMAVIRVMQVE )。読む校訂本は小文字・句読点つき。 次の課へ 第 0.2 課は 母音の長短 です。ラテン語の母音は 5 つしかなく、日本語と同じように長短があります。この課程が本文に付ける マクロン ( ā ē ī ō ū )の意味と、音声では長短が聞こえないという事実を、最初に正直に言っておきます。 答え 練習 1 : (1) iam の i は子音(ヤム)。(2) via の v は子音、i は母音(ウィア)。(3) ūnus の u は母音(ウーヌス)。(4) Iūlius : 最初の I は子音、u は母音、次の i は母音、最後の u も母音(ユーリウス)。(5) servus : v は子音、u は母音(セルウゥス)。(6) maior の i は母音の間で子音(マイヨル)。 練習 2 : Vēnī, vīdī, vīcī. (来た、見た、勝った)/ Cīvis Rōmānus sum. (私はローマ市民である)/ In prīncipiō erat Verbum. (初めに言葉があった)。マクロンは次の課で説明します。 参考文献 Vulg . Exod . 3:14( Ego sum qui sum. )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Ps . 30:15( Deus meus es tu; )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Sen . Ep . 1.9.19( Omnia mea mecum sunt ; )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Sen . Ep . 19.114.23( Rex noster est animus. )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Vulg . Ioh . 8:12( Ego sum lux mundi: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Matt . 5:14( Vos estis lux mundi. )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Tatoeba 文 #8505303( Anno millesimo nongentesimo octogesimo nata sum. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/8505303 Tatoeba 文 #1328108( Ego libenter ambulo. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/1328108 Tatoeba 文 #1682751( In aqua vivere non possum. Ego non sum piscis. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sente