1.3 L と R(聞く) — 10 の声で 33 組 — Epoché
この課でできるようになること L は舌先を上の歯ぐきに付ける音、 R は付けない音だと言え、日本語のラ行がそのどちらでもないことを知る。 基本語の最小対 33 組を、語頭・語中・語末の 3 つの場所に分けて聞き分けられる。 「聞き取り」で文字を伏せて 10 組を聞き、聞き分けられなかった組を自分で書き出せる。 同じ組を別の声で聞き直す理由(多話者訓練)を説明できる。 前提 : 1.2 まで。 前の課で、日本語の 5 つの母音を英語の 12 に広げました。この課はその続きで、子音のいちばん有名な難所、 L と R を扱います。ただし、この課でやるのは 聞く ことだけです。言う練習は次の課に置きました。順序を逆にしないことには理由があって、それはこの課の中で説明します。 まず数から見ます。この課程が使う基本語 2,809 語を音の辞書(CMUdict)で数えると、 L を含む語が 28.9%、 R を含む語が 29.5% ありました。3 語に 1 語です。さらに、1 音だけ違って別の語になる組—— 最小対 ——を数えると、 L と R の対は 33 組 で、母音でいちばん多い対の 17 組より多く、 TH の対の 9 組の 3 倍を超えます。 TH が英語の難所として有名なのは、日本語話者にとって目立つからであって、通じなさの本体ではありません。本体は L と R 、それに母音です。 日本語との差 日本語にも「ラ・リ・ル・レ・ロ」があります。だから、この 2 つの音は「どちらもラ行」に見える。ここが落とし穴です。日本語のラ行の子音は 弾き音 で、舌先を上の歯ぐきに一瞬だけ当てて弾きます。当てる時間が短く、当てたらすぐ離す。 舌の位置は 1 行で済みます: L は舌先を上の歯ぐきに付ける、 R は付けない(どこにも触れない)。 日本語のラ行は、当てはするが離してしまうので、 そのどちらでもありません ——ちょうど 2 つの中間に落ちます。そして日本語では、舌先が触れても触れなくても意味は変わりません。どちらも同じ「ラ」として通ります。 母語で意味を変えない差は、聞くときに捨てられます。 捨てる癖は乳児のうちに作られるので、大人になってから「よく聞け」と言われても戻りません。だからこの課は「集中して聞く」課ではなく、 捨てていた差を拾い直す 課です。拾い直すのに要るのは集中ではなく、回数と、次の節で言う「声の数」です。 言う練習を後に回すのも同じ理由です。自分が区別して聞けない音は、自分が正しく言えたかどうかも判定できません。聞き分けが先、口が後。次の課で、この組のうち綴りの変わるものを音読判定にかけます。 なぜ声を替えるのか L と R の訓練は、第二言語の音の研究でいちばんよく調べられた課題の一つです。 Logan ・ Lively ・ Pisoni (1991) [1] は、日本語を母語とする大人に、 複数の話者 が言った最小対を聞かせて、どちらの語かを選ばせ、その場で正誤を返す訓練を繰り返しました。すると知覚が改善し、訓練に使わなかった語にも、訓練に使わなかった声にも効果が及びました。 Bradlow ら(1997) [2] はさらに、 聞く訓練だけをした人の発音(産出)も良くなり 、訓練をやめたあと 3〜6 か月たっても保たれることを示しました。この課を「聞く」だけにしてあるのは、この結果に従ってのことです。 2 つの実験でいちばん大事なのは、 声を複数にしたこと です。1 人の声だけで練習すると、その声の癖に合わせた聞き分けができるようになるだけで、別の人が言った途端に崩れます。人によって声の高さも話す速さも違い、同じ R でも音の形は 1 つではないからです。いろいろな声で同じ組を聞いて初めて、声の違いを越えた「 L と R の差そのもの」が耳に残ります。 そこでこの課程は、課ごとに読み上げの声を替えます。当館は英語の声を 10 用意しています(男 3・女 3・子ども 2・高齢 2)。 この課は男の声 、次の 1.4 は 女の声 で、同じ 33 組を聞きます。聞編でも課ごとに声が替わり、高齢の声で聞く課もあります。同じ語をいろいろな声で聞くこと自体が目的なので、次の課を「同じ内容の繰り返し」と思って飛ばさないでください。 声が替わると、今日できた聞き分けができなくなる ——それが分かることに意味があります。 読み上げの速さは、第 1 期のあいだ 0.85 倍にしてあります。ゆっくりでも 2 つの音の差は消えません。むしろ、速さのせいで聞けなかったのか、差そのものを拾えていないのかが分かります。 33 組の最小対 組は手で選んだのではありません。音の辞書で基本語を総当たりし、 1 音だけ違う語の組 を機械が数えて 33 組でした。下の表はそれを音の場所で 3 つに分け、語頭 10 組・語中 8 組・語末 10 組を並べたものです(残る 5 組も同じ形です)。機械が数えたので、耳を鍛える価値の低い組も混じります。そういう組には「聞き分けどころ」にその旨を書きました。 角かっこの中は発音記号です。音編だけの印で、読み上げには渡していません。表の行を押すと 2 つの語が続けて鳴り、 先に鳴るのが舌先の触れるほう( L )、後が触れないほう( R ) です。 語頭の L と R 差がいちばん大きいのはここです。語の最初なら、舌先が触れてから声が始まるか、触れずに始まるかが、音の形の差としても長さの差としても出ます。最初はこの表だけで十分です。 L の語(発音記号) R の語(発音記号) 聞き分けどころ late [lˈeɪt] rate [ɹˈeɪt] 舌先が触れてから母音が始まるか、触れずに始まるか。綴りが変わるので次の課の音読判定に使える light [lˈaɪt] right [ɹˈaɪt] この課程でいちばん有名な対。母音も語末も同じで、違うのは最初の 1 音だけ light [lˈaɪt] write [ɹˈaɪt] 音は上の行と同じ対。綴りは 3 通りあっても、耳に入る差は 1 つ long [lˈɔŋ] wrong [ɹˈɔŋ] 語末の鼻音まで同じ。最初の 1 音を聞き逃すと、逆の意味に取れる lead [lˈɛd] read [ɹˈɛd] どちらも短い母音の語(金属の名と、読むの過去形)。綴りからは音が決まらない対 lead [lˈɛd] red [ɹˈɛd] 上と同じ音の対で、綴りだけが違う。音から綴りを当てにいかない leader [lˈidɚ] reader [ɹˈidɚ] 2 音節の対。強勢は同じで、差は最初の 1 音だけ load [lˈoʊd] road [ɹˈoʊd] 母音も語末も同じ。文の中では前の語とつながって、いっそう区別しにくい lock [lˈɑk] rock [ɹˈɑk] 短く終わる語。語末の子音で止めるので、聞ける時間が短い low [lˈoʊ] row [ɹˈoʊ] 母音 1 つで終わる最短の対。差は出だしの一瞬しかない 語中の L と R 子音のすぐ後ろが難所です。前の子音と一息でつながるので、 L や R だけを取り出して聞けません。 1.1 音編 でやった「続く子音は一息で」がここに効きます。かたまりごと覚えるほうが速い。 L の語(発音記号) R の語(発音記号) 聞き分けどころ glass [ɡlˈæs] grass [ɡɹˈæs] 子音のすぐ後ろ。前の音と一息でつながるので、取り出して聞けない play [plˈeɪ] pray [pɹˈeɪ] 唇を閉じた音のあと。息が漏れる間に舌先が触れるかどうか climb [klˈaɪm] crime [kɹˈaɪm] 語末まで同じ。前の子音と合わせて 1 つのかたまりとして覚える cloud [klˈaʊd] crowd [kɹˈaʊd] 上と同じ組み合わせで母音が違う。かたまりごと聞き分ける pleasant [plˈɛzənt] present [pɹˈɛzənt] 2 音節。強勢も語末も同じで、差は 2 番目の音だけ false [fˈɔls] force [fˈɔɹs] 母音の後ろ。舌先が触れて次の子音へ移るか、触れずに移るか salt [sˈɔlt] sort [sˈɔɹt] 上と同じ形。日常語どうしなので、文の中で取り違えやすい ugly [ˈʌɡli] agree [əɡɹˈi] 強勢の位置まで違うので、実際には聞き分けやすい。機械が数えた組にはこういう対も入る 語末とその他の L と R 語末の R は、舌先を上げないまま直前の母音の色を変えて終わります。語末の L は、舌先が上の歯ぐきに触れて終わります。触れる・触れないの差が、語の終わりでは 母音の響きの差 として聞こえる——ここが日本語話者にいちばん残る弱点です。この場所の対は全部で 15 組あり、下には 10 組を出しました。 L の語(発音記号) R の語(発音記号) 聞き分けどころ all [ˈɔl] or [ˈɔɹ] どちらも短い語で、文の中では弱く速く鳴る。基本語の中でとくに出会う回数が多い対 fall [fˈɔl] for [fˈɔɹ] 同上。舌先が触れて終わるか、触れないまま母音の色が変わって終わるか call [kˈɔl] core [kˈɔɹ] 語末が触れる音で終わると、そこで音が止まって聞こえる tell [tˈɛl] tear [tˈɛɹ] 触れないほうは、終わりの母音が曇ったように響く well [wˈɛl] where [wˈɛɹ] どちらも毎日出会う語。語末だけの差なので、最後まで聞く well [wˈɛl] wear [wˈɛɹ] 上と同じ語の別の相手。同じ音の語が 2 つあることに注意 wall [wˈɔl] war [wˈɔɹ] 母音も出だしも同じ。終わり方だけが違う fill [fˈɪl] fear [fˈɪɹ] 触れて終わる語と、母音が伸びて終わる語 bill [bˈɪl] beer [bˈɪɹ] 上と同じ形。終わりを聞き逃すと別の語になる pool [pˈul] poor [pˈuɹ] 唇を丸めたまま終わる語どうし。終わりの一瞬に舌先が上がるか 聞き分けの手順 道具は読書コントロールの「聞き取り」です。英語の走りだけを伏せて、音だけにします。手順は 5 つ。 伏せずに、表の行を押して 2 語を聞く。文字を見ながら、音と綴りを結びつける。ここは答え合わせではなく下ごしらえです。 「聞き取り」を入れる 。表の英語が伏せられ、音だけが残ります。 行を押し、2 語が 違って聞こえたら「違う」、同じに聞こえたら「同じ」 とノートに書く。「たぶん違う」は「同じ」に入れてください。迷った時点で、まだ拾えていません。 伏せを外して答え合わせ。「同じ」と書いた組だけを、語で書き出す。 1 日 10 組まで 。全部を一度にやらない。翌日、同じ 10 組をもう一度やってから、次の 10 組へ進む。 表の 33 組はすべて 違う語 ですから、「同じ」と書いた組があなたの弱点です。最初は半分が「同じ」でも普通です。回数と日数で減ります。1 日で全部を潰そうとすると、耳が慣れて差が分からなくなるので、10 組で切り上げるほうが結局速い——これは間隔をあけた反復の効果で、 0.1 門編 の学び方そのままです。 ノート機能を使うなら、「同じ」の組だけを 1 行ずつ書いておくと、次の課でそのまま使えます。次の課は声が替わるので、今日「違う」と書けた組が「同じ」に戻ることがあります。戻っても失敗ではありません。それが多話者訓練の入口です。 実文で聞く 語だけで聞き分けられても、文の中では速さと連結で消えます。次の 6 文には、どちらの音の語も入っています。「聞き取り」を入れたまま 3 回聞き、聞こえた語を綴りで書いてから、文字を戻して確かめてください。6 文とも、実際に使われた文です。 英文 日本語訳 聞くところ Turn right at the light. [3] その信号を右折して。 同じ母音の 2 語が 1 文に。触れない音で始まる語と、触れる音で始まる語が並ぶ There is enough light to read by. [4] 物を読めるだけの明るさだ。 light と read 。どちらも短い語で、文の中では速く流れる Can you tell right from wrong? [5] 君に善悪の区別ができるのか。 tell の語末と、 right ・ wrong の語頭が 1 文に 3 か所 Where does this road lead? [6] この道はどこに出ますか。 road の語末と lead の語頭。 where の語末も触れない音 I've been writing letters all day long. [7] 私は1日中手紙を書いていた。 writing ・ letters ・ all ・ long と 4 か所。書き取りの練習に向く He may well be right. [8] たぶん彼の言うことはただしいだろう。 well の語末と right の語頭が続く。切れ目なくつながる 語表 この課の 10 語は、第 1 期の帯(基本語の上位 600 語)から、対の片方ずつを選んだものです。新しく覚える語ではありません—— 音を直す ための語です。「カタカナとの差」の列を見ると、カタカナに直すと同じ形になってしまう対があることが分かります。同じ形で保管されてきた 2 語は、あなたの中では 1 つの音です。それを 2 つに分けるのが、この課と次の課です。 light en 名詞・形容詞 ● [lˈaɪt] カタカナとの差 ライト → ● (3 拍を 1 音節に) 連語 turn on the light Turn right at the light. [3] その信号を右折して。 There is enough light to read by. [4] 物を読めるだけの明るさだ。 right en 名詞・形容詞・副詞 ● [ɹˈaɪt] カタカナとの差 ライト → ● (3 拍を 1 音節に) 連語 you are right Can you tell right from wrong? [5] 君に善悪の区別ができるのか。 He may wel