6.19 朱自清『春』 — Epoché
この篇でできるようになること 草・花・風・雨・人へと移る視線を追って読めます。 重ねた語の形を分け、音と意味を確かめられます。 春を何にたとえているかを言い、自分でも短い比喩を書けます。 前提 :6.18「朱自清『匆匆』」。本文の文書を開き、長い一文を追った前の篇と、短い句が続くこの篇の読み心地を比べましょう。 短い句で春を近づける 冒頭は 盼望着,盼望着,东风来了,春天的脚步近了。 です。読点で区切られた四つの句が続きます。待ち望む言葉を繰り返し、風が来た、足音が近づいたと、春の到来へ進みます。 問いと比喩を重ねる『匆匆』と比べ、この篇は短い句を次々に置きます。同じ作者でも、書く対象に合わせて文の長さや繰り返し方が違います。どちらがよいと決めるのでなく、どんな動きとして読めるかを感じ取ってください。 語釈 季節の景色と、その動きや音を表す語です。語を引いたら、何を描いている段落なのかへ戻ります。 語 品詞 本文での意味 手がかり 盼望 動詞 待ち望む 春への期待 欣欣然 形容詞 うれしそうに 目覚める様子 朗润 形容詞 明るくつややか 山の見え方 钻出来 動詞句 もぐり出てくる 草が土から出る 嫩 形容詞 柔らかく若い 芽や草の様子 瞧 動詞 見る 眺める 田野 名詞 野原 広がる土地 打滚 動詞 転がる 地面での動作 捉迷藏 動詞句 かくれんぼをする 遊びの名 轻悄悄 形容詞 そっと軽い 風の様子 软绵绵 形容詞 ふわふわと柔らかい 草の手触り 杏 名詞 あんず 花と実を付ける木 梨 名詞 なし 果物の名 赶趟儿 動詞 先を争うように加わる 花や人の勢い 霞 名詞 朝焼け・夕焼け 薄紅の色 仿佛 副詞 まるで 想像した景色 蜜蜂 名詞 みつばち 花に集まる虫 嗡嗡 擬音語 ぶんぶん 羽音 蝴蝶 名詞 ちょう 飛び交う虫 遍地 名詞句 至る所 一面に 草丛 名詞 草むら 草の集まり 眨 動詞 まばたく 星や目の比喩 抚摸 動詞 なでる 風の柔らかさの比喩 泥土 名詞 土 掘り返した土 气息 名詞 におい・気配 土から漂うもの 润湿 形容詞 しっとり湿る 空気の状態 酝酿 動詞 熟していく 香りが空気に満ちる比喩 窠巢 名詞 巣 鳥の住みか 繁花 名詞 咲き乱れる花 多くの花 呼朋引伴 動詞句 仲間を呼び集める 鳥の声 卖弄 動詞 見せびらかす ここでは声を披露する 清脆 形容詞 澄んでよく響く 声や音 喉咙 名詞 のど 鳥の歌声のもと 宛转 形容詞 のびやかで曲折がある 旋律の様子 应和 動詞 呼応する 音が響き合う 牧童 名詞 牛飼いの子 笛を吹く子ども 嘹亮 形容詞 高く澄んで響く 笛の音 寻常 形容詞 ありふれた 雨について言う 恼 動詞 いらだつ 雨への反応 斜织 動詞句 斜めに織る 降る雨の比喩 笼 動詞 覆う 屋根を包む 逼 動詞 迫る 目に迫る青さ 黄晕 名詞 ぼんやりした黄色の光 夕暮れの灯り 烘托 動詞 引き立てる 夜の雰囲気を支える 撑 動詞 広げて支える 傘を差す 蓑 名詞 みの 雨を防ぐ着物 笠 名詞 かさ 頭にかぶる雨具 稀稀疏疏 形容詞 まばらな 家の並び 静默 動詞・形容詞 黙って静かだ 雨の中の家 风筝 名詞 たこ 空に揚げる物 舒活 動詞 のびのび動かす 体をほぐす 筋骨 名詞 筋肉と骨・体 体を動かすこと 抖擞 動詞 ふるい起こす 元気を出す 工夫 名詞 時間 ここでは十分にある時間 娃娃 名詞 赤ん坊 春の最初の比喩 花枝招展 形容詞句 着飾って華やか 少女としての春 小姑娘 名詞 少女・女の子 姑娘 で「女の子」 可 副詞 ぜひ・くれぐれも 可别恼 で禁止を強める 健壮 形容詞 たくましい 若者の体 胳膊 名詞 腕 力強さを描く 绵 は「綿」、 疏 は「疎(疏)」に当たります。見慣れた部分だけで読み飛ばさず、本文の柔らかさやまばらさの描写につなげます。 対訳 待ち望む 待ち望んでいた、待ち望んでいた。東風が来た。春の足音が近づいた。 目覚める景色 すべてが眠りから覚めたばかりのように、うれしそうに目を開いた。山は明るくつややかになり、水はふえ、太陽の顔は赤みを帯びてきた。 草の上で 小さな草がこっそり土からもぐり出てくる。柔らかく、青々と。庭にも野原にも、見渡せば一面にいっぱいだ。座り、横になり、二度ばかり転がり、球を何度か蹴り、何度か駆け比べをし、かくれんぼをする。風はそっと軽く、草はふわふわと柔らかい。 咲き競う花 桃、あんず、梨の木。互いに譲るまいと、どれも花をいっぱい咲かせ、先を争う。赤いのは火のよう、薄紅は朝焼けのよう、白いのは雪のよう。花には甘い香りがまじる。目を閉じると、木にはもう桃、あんず、梨がいっぱいなっているかのようだ。花の下では数えきれないみつばちがぶんぶん騒ぎ、大小のちょうが飛び交う。野の花は至る所にある。さまざまな種類で、名のあるもの、名のないものが、草むらに散らばり、目のように、星のように、まだまたたいている。 風と声 「顔に吹いても寒くない柳の風」。そのとおりで、母の手がなでてくれるようだ。風は掘り返したばかりの土のにおいを運び、青草のにおいとさまざまな花の香りが、かすかに湿った空気の中で熟してくる。鳥は咲き乱れる花と若葉の中に巣を作り、うれしくなって仲間を呼び合い、澄んだのどを披露してのびやかな曲を歌い、そよ風や流れる水と響き合う。牛の背に乗った牛飼いの子の短い笛も、このときは一日中、高く澄んで鳴っている。 雨と灯り 雨はごくありふれたもので、降れば二、三日続く。けれどもいらだってはいけない。見てごらん、牛の毛、花針、細い糸のように、びっしり斜めに織られている。家々の屋根は薄いけむりに包まれている。木の葉は緑色に光り、小さな草も目に迫るほど青い。夕暮れには灯りがともり、ぼんやりした黄色い光が静かで穏やかな夜を引き立てる。田舎の小道や石橋のそばには、傘を差してゆっくり歩く人がいる。畑で働く農夫もいて、みのと笠を着けている。彼らの草ぶきの家は、雨の中にまばらに、黙って立っている。 人が動き出す 空のたこがだんだん増え、地上の子どもも増えた。町でも田舎でも、どの家でも、老いも若きも、先を争うように一人ずつ出てきた。体をほぐし、気をふるい起こして、それぞれ自分の仕事へ向かう。「一年の計は春にあり」。始まったばかりで、時間も希望もたっぷりある。 赤ん坊 春は生まれ落ちたばかりの赤ん坊のようだ。頭から足まで新しく、育っていく。 少女 春は少女のようだ。華やかに着飾り、笑い、歩いていく。 若者 春はたくましい若者のようだ。鉄のような腕と腰と脚を持ち、私たちを率いて前へ進む。 視線が動く順を読む 主役は草、花、風、雨、そして人へ移ります。地面の草から木の花、空気や空の様子へ視線が広がり、最後には人の暮らしへ戻ります。事件の筋がなくても、何をどんな順で見るかによって、文章がつながっています。 花の段では色だけでなく香りや虫の羽音が加わります。風の段では土のにおい、鳥や笛の音が聞こえてきます。目に見えるものを並べただけではなく、触れた感じや耳に届く音も春を作っています。段落の主役と、描かれる感覚を組にしましょう。 重ねた語の形と音 型 本文の語 見方 AA+ 的 嫩嫩的・绿绿的 一字の形容詞を重ねる ABB 软绵绵 後ろの同じ字が続く AABB 稀稀疏疏 二字のそれぞれを重ねる ABAB 舒活舒活・抖擞抖擞 動詞を重ね、少し動かす・ふるい起こす 形が違うので、すべてを同じ二拍の繰り返しだと考えないようにします。 嫩嫩的・绿绿的 は柔らかさや青さを感じさせ、 软绵绵 は手触りを描きます。 稀稀疏疏 は家がまばらにある様子です。形を見分けたうえで、何の様子を描く語かを確かめます。 音読では、重ねた語を ▶ の手本に合わせて読みます。AAの読み方をそのまま全種類に当てはめず、型ごとに手本と比べてください。 型と比喩を読み分ける 东风来了 の 了 は、春の風が来たという変化を示します。 从土里钻出来 では、 从 が出てくる場所を示します。 出来 は方向を添えます。 像母亲的手抚摸着你 の 着 は、なでている状態を表します。 小草也青得逼你的眼 では、 得 の後ろが青さの程度を述べます。「小さな草も、目に迫るほど青い」という意味です。日本語の順のまま字を当てず、何がどの程度なのかを分けて読みます。 最後の三段落の 春天像 は、春を別のものにたとえる形です。高い・低いの差を量る比較とは違います。赤ん坊、少女、若者と年齢が上がり、春そのものが育つように描かれます。景色の描写から、育ち進む時間へと話が移り、文章が終わります。 春天像小姑娘 は「春は少女のようだ」という文です。「少女のような春」という名詞のまとまりだけにせず、春が何にたとえられているかを先に捉えます。 練習 草・花・風・雨・人を表す中国語を本文から順に挙げ、視線の移り方を日本語で説明してください。 小草偷偷地从土里钻出来,__,__。 の空欄を、本文の重ねた語で埋めてください。 风轻悄悄的,草__的。 に、手触りを表す重ねた語を入れてください。 __地斜织着 に、雨の密な様子を表す重ねた語を入れてください。 他们的草屋,__的在雨里静默着。 の空欄を、本文に合わせて埋めてください。 红・白・软・轻 をAA+ 的 かABBの形にし、名詞を添えた短い語句を四つ作ってください。 春天像 の形にならい、季節か身近なものを別のものにたとえる文を中国語で二つ書いてください。 文章・作者・写作・文学 から二語以上を使い、この篇について中国語で二文書いてください。 东风来了・从土里钻出来・青得逼你的眼 は、変化、方向補語、程度補語のどれですか。 最後の三段落から、春をたとえた三つのものを中国語で抜き出してください。 冒頭の 盼望着,盼望着,东风来了,春天的脚步近了。 を読み、読点によっていくつの句になるかを答えてください。 戻り語を本文で拾う 本文にある語を手がかりに、描かれた場面を短く中国語で書きます。本文を引いても構いません。 眼睛・星星 を含む部分を本文から探し、野の花の比喩を中国語で書いてください。 精神・希望 を含む部分を本文から探し、動き出す人々を中国語で書いてください。 安静・和平 を含む部分を本文から探し、雨の夕暮れを中国語で書いてください。 音読 第一・第二段を読み、読点では軽く、句点では少し長く間を置きます。続いて重ねた語を読み、手本と自分の読みを比べてください。 この篇のまとめ 短い句を続け、視線を草から人へ動かすことで景色をまとめています。重ねた語は形と音の両面から読みます。最後の三つの比喩では、春が赤ん坊から若者へ育っていきます。 次の篇へ 次の6.20では、魯迅『死火』を読みます。夢の中で凍りついた炎に出会う、現実には起こらない場面の話です。 答え 小草・花・风・雨・人 です。地面から木、空気や空へと広がり、最後は人の暮らしへ戻ります。 嫩嫩的・绿绿的 。本文は 小草偷偷地从土里钻出来,嫩嫩的,绿绿的。 です(朱自清『春』)。 软绵绵 。本文は 风轻悄悄的,草软绵绵的。 です(朱自清『春』)。 密密 。本文は 密密地斜织着 です(朱自清『春』)。 稀稀疏疏 。本文は 他们的草屋,稀稀疏疏的在雨里静默着。 です(朱自清『春』)。 红红的花・白白的雪・软软的草・轻轻的风 のように、形容する語と名詞を合わせられます。どの名詞の様子かを確かめます。 言い換え・作文の例: 春天像一个孩子。 / 树叶像小船。 言い換え・作文の例: 文章的作者是朱自清。 / 作者写了春天的景色。 順に変化、方向補語、程度補語です。 刚落地的娃娃・小姑娘・健壮的青年 です。年齢が上がる並びです。 四つです。三つの読点で区切り、最後に句点があります。 散在草丛里,像眼睛,像星星,还眨呀眨的。 抖擞抖擞精神 / 有的是希望。 烘托出一片安静而和平的夜。 参考文献 朱自清『春』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。繁体字を簡体字に改めた。出所:https://zh.wikisource.org/wiki/春_(朱自清)