11.40 杜甫 春望 — 國破れて山河在り — Epoché
この篇でできるようになること 八句を二字と三字に分け、中央の二組の対句を示せます。 都の春を主語と述語として読み、花と鳥の二つの解釈を訳せます。 山河が残ることと、家族の手紙の価値を現代語にできます。 前提 :11.39「張繼 楓橋夜泊」。景色と人の関係を、今回は八句の対句と結びから読みます。 都が落ちたときの春 安史の乱のさなか、反乱軍に占領された長安にいた杜甫の作です。最初の 國破 は、実際に都が落ちたことを言います。気持ちが壊れたというたとえとして読み始めるのではありません。 ここで都や国家を指す字と、城壁に囲まれた町を指す字を読み分けます。 城 は日本語のお城、天守のある建物ではなく、ここでは長安の都市です。戦乱の中でも、春の草木は伸びています。 国、自然、家族の便り、髪という順で、見る範囲が移ります。初めの大きな景色から終わりの小さな物へ、どの句で移るのかを追ってください。時代の苦しみを、最後には一人の体が受け止めるように読めます。 五字八句と、二組の対 五言律詩は、一句が五字で八句、この本文では四十字です。五言絶句より句が多く、第三・四句と第五・六句が対句になります。同じ位置の字で、品詞と意味の種類をそろえます。 A 読み B 読み 違い 感 感じる 恨 恨む 心の動きを言う動詞 時 時世 別 別れ 心が向かう内容の名詞 花 花 鳥 鳥 自然のものの名詞 濺 そそぐ 驚 驚かす 働きかける動詞 淚 涙 心 心 動きに関わる名詞 字数が同じだけで対になるのではありません。二句を上下に置き、同じ位置を一つずつ読んでいきます。すると、形が似ている所と、意味が替わる所の両方が見えます。 特別編 3篇 の対を、詩の字の位置で確かめる読み方です。 失われたもの、残るもの 國破山河在 は、都が破れたことと、山河が残ることを、五字の中で向かい合わせます。 國破 と 山河在 は、それぞれ主語と述語です。 在 は、場所を後ろに言わず、残っているという意味になります。 城春草木深 にも二組あります。 城春 は、町が春になるという主語と述語の組です。春という名詞が、ここでは春になると述べる働きをします。町で、春に、と場所と時の語を並べただけではありません。 草木深 では、草木が主語、深く茂る状態が述語です。人の営みが壊れた場所で、自然はなお動いています。失われた側と残った側の差を、句の切れ目で読みましょう。 日本語の城の景色を先に置かず、城壁に囲まれた都市と読みます。また、 城春 を、町で、春に、と場所や時を言う語として読まず、何がどうなるかを述べる組として読みます。 花が泣くのか、花を見て泣くのか 感時花濺淚 を「時に感じては花にも淚を濺ぎ」と読むと、時世に心を動かされ、花を見ても涙がこぼれる人を受け取れます。花は人が見るものです。 一方、花を主語として「時に感じて花 淚を濺ぎ」と読み、時世に感じて花が涙をそそぐ、とも取れます。 恨別鳥驚心 の鳥にも二つの読みがあります。鳥が別れを恨んで心を驚かす側だと捉える読みと、鳥を見聞きする人が心を揺さぶられる読みです。 どちらかだけを文の主語として断定してから、別の読みで訳すと食い違います。訳を作るときは、花と鳥が働きかける読みか、人が花と鳥に心を動かされる読みかをそろえてください。景色と心が離れず描かれる点は、二つの読みで共通します。 戦乱の長さと、便りの重さ 烽火連三月 の烽火は、戦さを知らせるのろしから、戦乱を示します。 三月 は三か月とも、春の三月とも読まれます。数字を見つけても、期間の長さにだけ決めないでください。 家書抵萬金 の 抵 は、値するという動詞です。原文そのものに、現代語の比較の型があるのではありません。現代語に言い換えるときは、 型編 21課 の 比 を使い、手紙が万金よりも貴いという文にできます。 この対では、戦乱と手紙という名詞のまとまり、続くことと値することの動詞が対応します。三と万の数、月と金も対応します。時の長さと価値の高さを並べ、戦乱で便りが届かない中の、手紙の大切さを読みます。 家書 は家にある書物ではなく、家族からの手紙です。 烽火 と合わせ、普段どおりには便りが届かない場面として読みます。 髪に表れる心配 白頭搔更短 では、白髪の頭をかくと、さらに髪が短くなります。 更 は gèng と読み、さらに、という副詞です。 渾欲不勝簪 の 渾 は、まったく、という意味で、にごるという動詞ではありません。 欲 は、願ってそうする意志でなく、そうなりそうだという成り行きです。 不勝簪 は、かんざしに耐えられないことです。髪が減り、かんざしも留められなくなりそうな状態を言います。副詞が後ろの動作や状態にかかる位置は 型編 33課 と比べられます。 大きな国や都、戦さから、一本のかんざしへ降りて終わります。最後の二句で体を出すため、そこまでの心配が、髪に表れているように読めます。これはこの詩の閉じ方で、律詩がいつも体の描写で終わるわけではありません。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 國 名詞 都・国家 ここでは落ちた都を指す 國破 都が破れる 城 名詞 城壁に囲まれた都市 天守のある城ではない 城春 都が春になる 濺 動詞 そそぐ 涙に関わる動き 花濺淚 (花が)涙をそそぐ/花にも涙をそそぐ 烽火 名詞 のろし・戦乱 戦さを示す 烽火連三月 戦乱が三月(三か月)続く 家書 名詞 家族からの手紙 家の書物ではない 家書抵萬金 家族の便りは万金に値する 抵 動詞 値する 原文の動詞 抵萬金 万金に値する 搔 動詞 かく 頭をかく 白頭搔更短 白髪の頭をかけばさらに短くなる 渾 副詞 まったく にごるではない 渾欲不勝簪 まったくかんざしに耐えられなくなりそうだ 欲 助動詞 〜しそうだ ここでは成り行き 欲不勝簪 かんざしに耐えられなくなりそうだ 勝 動詞 耐える(shēng) 勝つではない。今は shèng とも読む 勝簪 かんざしに耐える 簪 名詞 かんざし 髪に挿すもの 不勝簪 かんざしに耐えられない 練習 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 國破山河_ 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 城春草木_ 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 家書_萬金 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 渾欲不_簪 第三・四句と第五・六句を上下に並べて書き、対になる字の組に名詞・動詞・数などを書き込んでください。 國破山河在 と 家書抵萬金 を現代語に置き換えてください。前者は失ったものと残るものを並べ、後者は比較の文にします。 感時花濺淚 を二通りに訳し、主語の取り方の違いを書いてください。 前の課で学んだ語を使い、遠い家族の手紙を待つ気持ちを三文で書いてください。 独自 ・ 寒冷 、 着急 ・ 失望 、 激动 ・ 泪水 を組にして使います。 八句を、国や都・自然・自分の体という話題で分けてください。重なる場合は、その関係も書いてください。 國破 と 城春 の主語と述語を示し、 城春 の 春 の働きを一文で書いてください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 感時花濺淚,恨別鳥驚心。 ▶ の手本を聞き、この対句の二句を 感時/花濺淚 、 恨別/鳥驚心 と二字と三字に分けて音読し、暗誦します。対になる二句は同じ調子で続けて読みます。 この篇のまとめ 五言律詩の中央の二組を、字の位置と意味で比べました。都と自然、花と人、戦乱と手紙をつなぎ、一本のかんざしへ降りる結びを読みます。 次の篇へ 次の11.41からは銘・書・記・說などの短い散文に入ります。劉禹錫の陋室銘で、対句と押韻、目的語が動詞より前に出る形を読みます。 答え 國破山河在 城春草木深 家書抵萬金 渾欲不勝簪 感時花濺淚 恨別鳥驚心 感 ・ 恨 は動詞、 時 ・ 別 と 花 ・ 鳥 は名詞、 濺 ・ 驚 は動詞、 淚 ・ 心 は名詞です。 烽火連三月 家書抵萬金 烽火 ・ 家書 は名詞、 連 ・ 抵 は動詞、 三 ・ 萬 は数、 月 ・ 金 は名詞です。 国都沦陷了,山河还在。 家信比万金还贵。 花を主語にすれば「時世に感じて花が涙をそそぐ」、人を主語にすれば「時世に心を動かされ、花を見ても涙がこぼれる」です。 天气寒冷,我独自等信。 没收到家信,我着急又失望。 我很激动,眼里都是泪水。 第一・二句は国や都( 國 ・ 城 )と自然( 山河 ・ 草木 )の両方で、失われた都と残る自然を並べます。第三・四句は自然( 花 ・ 鳥 )で、時世や別れを嘆く点で国や都とも重なります。第五・六句は国や都(戦乱の 烽火 )で、家族の手紙を待つ点で自分の身とも重なります。第七・八句は自分の体(白髪とかんざし)です。 國破 は 國 が主語、 破 が述語です。 城春 は 城 が主語、 春 が述語で、 春 は「春になる」と述べる働きをします。 参考文献 杜甫『春望』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。 出所: https://zh.wikisource.org/wiki/春望