1.10 脱落と同化 — 消える音と、隣に移る音 — Epoché
この課でできるようになること 子音が三つ続いたときに真ん中が落ちることを知っていて、落ちる場所を目で見つけられる。 隣り合う音が引き合って形を変える組を、よく出るものだけ見分けられる。 崩れた形を 聞いて 分かる。自分では崩さない、という線を引ける。 聞き取れないとき、原因が脱落と同化にあることを疑える。 前提 : 1.9 まで。 前の課の連結は、音が移るだけでした。移っても音そのものは残っているので、慣れれば「あ、そこに入っていたのか」と分かります。この課で扱う二つは、もっと手ごわい。 音が無くなる か、 別の音になっている からです。無いものは探せませんし、別の音になったものは別の語に聞こえます。 それでも、起きる場所は決まっています。でたらめに落ちたり変わったりするのではありません。落ちる場所も、変わる組も、数えられるほどしかない。この課では その場所を目で見つけられる ようにします。目で見つけられれば、耳は先回りできます。 そして最初に線を引いておきます。 この課の崩れを、自分で真似る必要はありません。 崩さずに言っても、英語の話し手は困りません。むしろ、まだ作れていない音まで崩すと通じなくなります。この課は 聞くための課 です。 落ちる — 子音が三つ続くと真ん中が消える 英語では、子音が三つ以上続くと、 真ん中の子音が落ちます 。落ちやすいのは t と d で、この二つは舌の先を当てるだけの短い音なので、前後にまぎれて消えます。 落ちるのは 語と語のあいだ で起きます。一つの語の終わりが子音二つで、次の語の頭も子音なら、そこで三つ続くことになります。英語には子音二つで終わる語が多いので、この型は絶え間なく出ます。 next ・ last ・ just ・ most ・ first ・ best ——どれも終わりが st で、後ろに子音が来れば t が落ちます。 同じ子音が二つ隣り合うときも、二度鳴らしません。 一度だけ、少し長く 鳴ります。前の課で見た三つめの型と同じことで、落ちるというより 溶けて一つになる と言うほうが近い。日本語話者は二度きちんと言おうとするので、ここで不自然な間が空きます。 変わる — 隣に引かれて別の音になる もう一つは、隣り合う音が互いに引き合って形を変えることです。口の形を変えるのに時間がかかるとき、 手前の音のほうを次の音に近づけて しまいます。楽をしているだけですが、結果として別の音になります。 よく出る組は三つ 一つめ。 you が後ろに来ると、手前の d や t が you の頭と溶け合って、別の一つの音になります。 Did you ・ Would you ・ Don't you ・ Can't you ——これは ほぼ必ず起きます 。二語だと思って聞くと取れないので、 一語として覚えてしまう ほうが速く済みます。 二つめ。 d や t の後ろに、 唇を閉じる音 が来ると、手前の音も唇を閉じる音に変わります。 good boy ・ good morning のような組で、舌を当てる手間を省いて、はじめから唇で作ってしまいます。 三つめ。 n も同じように変わります。後ろに唇を閉じる音が来ると、 n が m に近づきます。 ten people ・ in bed のような組です。日本語の「ん」がまったく同じ動きをするので、ここは日本語話者に有利な場所です。 ★聞く側だけでよいもの 話し言葉では、二語がくっついて一語のようになる組があります。 want to ・ going to ・ got to ・ kind of など、どれも非常によく使われる組です。速く言うと、もとの二語の形はほとんど残りません。 これらは 聞いて分かれば十分 です。自分で崩す必要はありません。理由は二つあります。一つ、崩さずに言っても英語の話し手はまったく困りません。二つ、崩した形は くだけた話し言葉 なので、初対面や仕事の場面で使うとかえって幼く響きます。 それでも聞き取れる必要はあります。相手は崩して言ってくるからです。だから練習の仕方も変わります。 聞いて、もとの二語に戻せるかだけ を確かめてください。口で真似るのは、第 6 編「話」で場面に慣れてからで間に合います。 池の文 15 本で確かめる 実際に使われた文で確かめます。行を押すと音が鳴ります。 先に、落ちる場所と変わる場所に指を置いてから 聞いてください。最後の三つは印を付けたもので、 聞いて分かればよい 組です。 英文 日本語訳 見るところ Just do it. [1] いいからやれよ。 子音が三つ続き、真ん中が落ちる Just take it. [2] まあ受け取って。 同じ子音が二つ。一度だけ、少し長く鳴る I wasn't here last year. [3] 去年はここにいなかったんだ。 終わりの子音が、次の子音の前で落ちる This is the last time. [4] これが最後だから。 同じ形。同じ子音が続くので一度になる I'll be thirty next year. [5] 来年30歳になります。 同じ形。よく使う組み合わせほど落ちやすい See you next time! [6] またね! 落ちる場所が 1 つ。速く言うほど落ちる Did you do this? [7] これをやったのはあなたなの? 前の子音と you の頭が溶け合う Did you know that? [8] 君はそれを知ってたんですか? 同じ形。この組は必ず溶け合う Don't you know? [9] 知らないの? 落ちるのと溶け合うのが同時に起きる Would you come with me? [10] 一緒に来ていただけますか? 同じ形。頼む言い方でよく出る It was a very good day. [11] とてもいい一日だったよ。 前の子音が、次の子音に引かれて変わる There are ten people in this room. [12] この部屋には10人いる。 同じ形。唇を閉じる音の前で変わる I want to go. [13] 私は行きたい。 ★聞く側だけ。話し言葉では 2 語が 1 語になる I'm going to go. [14] あとで行くね。 ★聞く側だけ。同じことが起きる What are you going to do? [15] 君は何をするつもりなの。 ★聞く側だけ。長い文でも崩れ方は同じ 十五の文で起きていたことは二つだけでした。落ちるか、変わるか。そして落ちる場所は 子音が三つ続くところ 、変わる場所は 口の形が遠い音が隣り合うところ です。どちらも、次の音を見れば予想がつきます。 日本語との差 日本語にも、落ちる音と変わる音があります。「せんたくき」の k が落ちて「せんたっき」になる。「ん」が次の音に引かれて、唇を閉じたり、奥で鳴ったりする。 現象そのものは日本語話者に未知ではありません 。ずれるのは三点です。 一つめ — 日本語は語の中で起き、英語は語と語のあいだで起きる 日本語の脱落と同化は、ほとんどが 一つの語の中 で起きます。しかも起きたまま固定していて、いつ言っても同じです。英語は 語と語のあいだ で起き、しかも 速さによって起きたり起きなかったり します。ゆっくり言えば落ちない音が、速く言うと落ちる。だから同じ文が、場面によって違う形で耳に届きます。 二つめ — 崩れた形は辞書に載っていない これがいちばん厄介な差です。日本語なら、崩れた形も「せんたっき」として書けますし、辞書やかな表記で確かめられます。英語の崩れた形は つづりが存在しません 。辞書を引いても出てこないし、書かれた英語のどこにも現れません。つまり、 読むことでは一生身に付かない 種類の知識です。聞いて覚えるしかない。この課が音編にある理由がそれです。 三つめ — 日本語は母音が落ちる、英語は子音が落ちる 日本語で落ちるのはたいてい 母音 です。「です」の終わりの母音、「した」の最初の母音——落ちても子音は残るので、語の形は保たれます。英語で落ちるのは 子音 です。英語は子音が意味を運ぶ言語なので、子音が落ちると 語の形そのものが変わります 。日本語話者が英語の脱落に弱いのは、「落ちても分かる」という日本語での経験が、ここでは通じないからです。 読み上げと音読 この課の練習は、前の課とは向きが逆です。前の課は つなげて言う ことで耳を変えました。この課は 崩さずに言い、崩れた音を聞く という形になります。自分の口と耳で別のことをするので、少し座りが悪い。それでかまいません。話すときの目標は 通じること 、聞くときの目標は 相手に合わせること で、この二つは別だからです。 音読判定はこの課でも使えますが、使い方が変わります。 崩さずに読んで、正しい綴りが返るか を確かめてください。崩して読んで綴りが崩れても、それは失敗ではありません。判定は書き言葉の綴りを返す道具なので、話し言葉の崩れは測れないのです。崩れた形が聞き取れているかどうかは、 聞いてから書き起こす ことでしか測れません。 動画で見る この課の内容に近い解説動画です。押すと再生されます(再生は YouTube に接続します)。「画面に固定して見る」を押すと、本文を読みながら見られます。 Pronunciation: Elision of /t/ BBC Learning English (4:00, 2016) /t/ が消える Pronunciation: Assimilation of /s/ BBC Learning English (3:34, 2016) /s/ が隣に移る 練習 「池の文 15 本で確かめる」の 15 行を、 先に落ちる場所と変わる場所に指を置いてから 行を押して聞く。そのあと続けて 崩さずに音読 する。3 周する。3 周目は 7 番めと 11 番めの 2 行だけを、音声に重ねて シャドーイング する。この 2 行は必ず溶け合う組なので、崩さずに読むと音声とずれる。ずれること自体を確かめるのが目的。 最後の 3 行(印の付いたもの)を、 聞いてからもとの二語に戻す 。紙に書いてもよい。戻せたら成功で、 自分で崩して言う必要はない 。戻せなかった行は、二語をゆっくり言ってから速く言い、どこまで速くすると崩れるかを自分の口で確かめる。 次の三つについて、落ちる子音がどれかを声に出して決めてから音読し、音読判定にかける。崩さずに読んで正しい綴りが返れば合格。① Just do it. [1] ② This is the last time. [4] ③ See you next time! [6] この課のまとめ 子音が三つ続くと、真ん中が落ちる。 落ちやすいのは t と d 。 next ・ last ・ just の後ろでよく起きる。 同じ子音が隣り合うと、二度鳴らさず 一度だけ少し長く 鳴る。 隣り合う音は引き合って形を変える。 よく出るのは三つ—— you の前の d ・ t 、唇を閉じる音の前の d ・ t 、唇を閉じる音の前の n 。 Did you ・ Would you は 一語として覚えてしまう ほうが速い。 ★ 崩れた形は聞く側だけ。 自分で崩す必要はない。崩さずに言っても通じるし、崩すとくだけすぎて場面を選ぶ。 英語の崩れた形には つづりが存在しない 。読むことでは身に付かない。聞いて覚えるしかない。 日本語で落ちるのは母音、英語で落ちるのは子音。英語は子音が意味を運ぶので、落ちると語の形そのものが変わる。 落ちる場所も変わる組も数えられるほどしかない。 次の音を見れば予想がつく 。 次の課へ 次の課は 1.11 、題は 有気音と語末子音の処理 です。この二課で、語と語のあいだで起きることを見てきました。次の課は 語そのものの端 に戻ります。語の頭の子音に息を乗せること、語の終わりの子音を 開かない こと——どちらも、日本語話者が母音を足してしまう場所です。そして終わりの子音を開かないことは、この二課で見た連結と脱落が起きるための 前提 でもあります。 答え 7 番めと 11 番めは、崩さずに読むと音声とずれます。ずれて当然です。大事なのは ずれている場所が、指を置いた場所と同じか です。同じなら、耳が正しい場所を聞いています。違う場所でずれたなら、そこにも何かが起きているので、もう一度ゆっくり聞き直してください。 戻せなかった行があっても、この段階では問題ありません。二語をゆっくり言ってから少しずつ速くすると、自分の口でも同じ崩れが起きます。 自分の口で起きた崩れは、耳でも分かるようになります 。それが分かれば、意識して崩す必要はもうありません。 ①は子音が三つ続く場所が一つ。②は同じ子音が隣り合う場所が一つ。③は落ちる場所が一つです。崩さずに読んで綴りが返っていれば、 言う側の目標は達成 しています。崩れた形が聞き取れるかどうかは、第 5 編「聞」で測ります。 参考文献 Tatoeba 文 #431271(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/431271 Tatoeba 文 #2249487(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/2249487 Tatoeba 文 #2546145(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/2546145 Tatoeba 文 #56235(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/56235 Tatoeba 文 #6666250(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/6666250 Tatoeba 文 #773534(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/773534 Tatoeba 文 #1886160(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/1886