学術書の読み方 — Epoché
要点 大学で読む本には、事典・入門書・概説書や教科書・専門書(研究書)などがあり、書かれた目的が違います。初めてのテーマは、入門書から入ると読み進めやすくなります。 1 ページ目から読み始める前に、題・目次・序文・結論・索引に目を通すと、本の骨組みと、どの章を読むかの見当がつきます。 読む深さは目的で選べます。速く読むほど理解は粗くなりやすいので、全体をつかんで読む範囲を決めてから、大事な章だけを丁寧に読む組み合わせがあります。 章を読み終えたら、問い・主張・根拠を自分の言葉で短くまとめてみます。うまくまとめられない所が、読み直す場所の目印になります。 分からないのは読者だけのせいとは限りません。知識が足りなければ補う、書き方が合わなければ別の本で読む、内容が難しければ時間をかけて人と読む、といった手があります。翻訳書には訳者の解釈が入っていることも、知っておくと役に立ちます。 こんなときに 授業の参考書に 300 ページの本が挙がったのに、どの章を読めばよいかの指示はない。どこから手をつけるか迷う場面です。大学では、参考書の書名だけが示され、どこを読むかの指示がないこともあります [1] 。 ほかにも、次のような場面でこの文書が役に立ちます。 レポートのために図書館で本を 5 冊借りたが、締め切りまでに全部を最初から読む時間はない。 1 章を読み終えたのに、何が書いてあったかを一言で言えない。 3 ページ読んだところで、知らない用語ばかりで止まってしまった。 ゼミで翻訳の古典を読むことになり、訳語の意味がつかめない。 数学の教科書に「明らか」と書かれた 1 行が分からず、1 時間進まない。 論文の読み方は 論文の読み方 、図表と数値の読み方は 図表と統計の読み方 で扱います。 学術書にはいくつかの種類がある 大学では、授業のためにまとめられた高校の教科書と違い、一般の書店にも並ぶ入門書や専門書が教科書や参考書になることがよくあります。本の種類によって書かれた目的が違うので、種類が分かると読み方を選びやすくなります。初めてのテーマなら、入門書から入る方法があります。 日本医療大学のハンドブックによると、大学では一般の書店で売られている本が教科書に指定されることも、講義で説明しない内容を含む本が参考書に挙がることもあります。必要な本は自分で探して読んでいくことになります [1] 。聖隷クリストファー大学の学習支援室の資料も、大学の教科書は学術書や入門書で、授業が教科書に沿って進むとは限らないと説明しています [2] 。 本の種類と、書かれた目的 大阪大学総合図書館の教材は、学術的な図書を次のように分けています [3] 。右の列には、ほかの大学の説明も加えました。 種類 どんな本か 事典・辞書 基本的な定義や解説を確かめられる [3] 入門書 初学者にも分かりやすく書かれている [3] 。書名に「入門」と付かなくても、入門的な内容を扱う本を含む [1] 概説書・教科書 分野の知識を系統的にまとめている [3] 。教科書は、学術の世界で確立した内容を、初学者に学びやすい形で教えることを主な目的にしている [4] 専門書(研究書)・論文集(論文を集めて 1 冊にした本) 絞られたテーマについての研究を収めている [3] 。問いに対する答えを、根拠を挙げて立証することを主な目的にしていることが多い [4] 名古屋大学のアカデミック・スキルズ・ガイドによると、専門書には主な目的とは別の役目を持つ部分も含まれます。問いの背景、本の構成、関連する研究のまとめ、方法の説明などです。本全体と各部分の目的を確かめながら読むと、理解しやすくなります。ただし、知りたい情報にだけ着目して取捨選択してもかまわない、とも書いています [4] 。 たとえば、ある専門書の第 1 章は研究の背景、第 2 章は先行研究のまとめ、第 3〜5 章は事例の分析、終章は結論、という作りかもしれません。この章は本全体の中で何をしている部分か、と考えながら読むと、細部に迷い込みにくくなります。 学ぶ人が読む順は、研究が生まれる順の逆 大阪大学総合図書館の教材は、人文・社会科学分野の学部 4 回生と大学院生が先行研究を調べるための教材です。それによると、研究はまず論文として発表され、引用され議論されるうちに、図書にまとめられることが多くあります。そのため、学び始める段階では事典や辞書、概説書や入門書から読むとよく、研究成果が生まれる順と初学者が読む順は逆になる、と説明しています [3] 。 日本医療大学保健医療学部のハンドブックも、初めて取り組むテーマではまず入門書で背景と基本の知識をつかみ、そこに載っている文献の情報から関連する文献を探す流れを勧めています。迷ったら、自分の関心を伝えて教員に相談する方法も挙げています [1] 。本の探し方は 文献の探し方 で扱います。 教科書も、一人の著者の主張として読む 日本医療大学のハンドブックは、教科書とされる本であっても、内容が本当に正しいかを疑いながら読むことが大学では求められると説明しています。学術文献は、その分野を専門とする著者が自分の研究の成果を示したものだからです [1] 。聖隷クリストファー大学の資料も、学術的な文章は一人の筆者の意見だと述べています [2] 。本や著者が信頼できるかの確かめ方は 情報源の見きわめ方 、主張と根拠の筋道の検討は 論証の組み立てと検討 で扱います。 読み始める前に、本の骨組みをつかむ 1 冊を最初のページから順に読む前に、題・目次・序文・結論・索引を短い時間で見ておく方法があります。本の骨組みが分かると、どの章を読むか、今この本を読むかを決めやすくなります。あとで章を丁寧に読むときの地図にもなります。 大阪大学の教材 阪大生のためのアカデミック・ライティング入門 は、何冊も本が見つかったときに順に読んでいたら何か月もかかるとして、1 ページ目から読む方法を否定せずに、先に全体をつかむ読み方を紹介しています。この読み方を、 本を読む本 の言葉で「点検読書」とも呼んでいます [5] 。琉球大学附属図書館の学習支援資料に載った大学院生のコラムも、点検読書は時間の節約になり、その本が今の自分に必要かどうかも分かると紹介しています [6] 。 見ていく順番の例 題と副題 : 題だけでも、著者がいちばん言いたいことや、内容の水準の見当がつきます [5] 。 目次 : 立教大学図書館は、目次を、書き手が問いをどう小さく分け、どう論じていったかを示す設計図だと説明しています。目次が無い本では、「はじめに」などの序章がその代わりをします [7] 。章や節の題とキーワードから、今の自分に必要な内容がどこにありそうかを予想できます [5] 。室蘭工業大学附属図書館の館報で、哲学を担当する教員も、まず目次でどこが重要かの当たりをつけると書いています [8] 。 序文・はじめに : 本の場合、序文などに全体の目的や要約が書かれていることが多くあります [4] 。本の構成が書かれていることもあります [8] 。 結論・終章・章の終わり : 学術的な文章では、筆者の主張はたいてい序論と結論にあります [2] 。琉球大学のコラムも、要になりそうな章として、特に序章と終章、章の最後を挙げています [6] 。 索引 : 本の中の大事な語句と、それが出てくるページをまとめた一覧です。人名索引と事項索引に分かれている本もあります [1] 。探している語が索引に載っていれば、読みたい箇所に最短でたどり着ける可能性があります [5] 。 用語の説明 : 本の最初か最後に用語の説明があれば、先に目を通します。著者が説明したい語は、その本でとても大事な語だと予想できるからです [5] 。 たとえば、図書館で借りた研究書がレポートに使えるかを確かめたいとします。この順で見ていくと、「第 3 章だけ読めばよさそうだ」「この本は今回のテーマとずれている」といった判断の材料が、短い時間でそろいます。 注・文献リスト・訳者あとがき 注(註)は、本文に対する補足や解説で、ページの下や本文の後ろに置かれます。注と参考文献を分けて載せる文献もあれば、補足も引用した文献もすべて注で示す文献もあります [9] 。最初に読み通すときは注を後回しにし、根拠を確かめたいときに戻る使い分けもできます。注や文献リストから次の本をたどる方法は 文献の探し方 で扱います。 翻訳書では、最後の訳者あとがきで、訳者が著者の学問的な立場の全体像や、本の概要を解説していることがあります。千葉大学アカデミック・リンク・センターは、見当もつかないまま読み始めると理解が難しくなるので、先に概要をつかんでおくと予想しながら読み進められる、と説明しています [10] 。 読む深さを目的で選ぶ 全体を大まかにつかむ速い読み方と、一文ずつ論理を確かめる精読は、目的に合わせて使い分けられます。速く読むほど理解は粗くなりやすい、とする研究の総説があります。全部を速く読むのでも、全部を精読するのでもなく、組み合わせる方法があります。 日本医療大学のハンドブックは、文献の読み方を大きく速読と精読に分けています。速読は全体を大まかに読んで著者の主張をつかむ読み方、精読は一つ一つの内容を確かめて論理を正確に読み取る読み方で、必要に応じて使い分けると説明しています [1] 。 読み方の種類と、向いている場面 3 つの読み方を、何をするかと、向いている場面で見比べると、次のとおりです。 読み方 何をするか 向いている場面の例 スキミング(飛ばし読み) 全体に目を通し、大体をつかむ 予習で教科書に目を通す スキャニング(探し読み) 求める情報を探し、そこを読む 使えそうな箇所を探す 精読 論理を確かめながら正確に読む 復習で講義のノートと照らす スキミングでは、知らない語句は後回しにして全体に目を通し、大体どんな話かをつかみます [2] 。要点だけをおさえながら先へ読み進む読み方です [1] 。章の始めや終わりの近くを選んで読む方法もあります [5] 。向いている場面の例は、予習で授業の前に教科書にさっと目を通すときです [2] 。 スキャニングでは、自分が求める情報を探し、その部分を選んで読みます [1][2] 。向いている場面の例は、レポートに役立ちそうな箇所を探すときです [2] 。 精読は、書かれている内容を正確に受け取る読み方です。線を引き、分からない語を調べ、メモを取りながら読みます [5] 。向いている場面の例は、復習で講義のノートを頼りに内容を確かめるときや、レポートに使えそうな箇所が見つかったときです [2] 。 呼び名は案内によって違います。表の 1 行目は、聖隷クリストファー大学の「下読み」、日本医療大学の「斜め読み」、大阪大学の「飛ばし読み」をまとめたもので、後の 2 つはスキミングとも呼ばれています [2][1][5] 。大阪大学の教材は、スキャニングを「拾い読み」と呼び、目星をつけた重要な箇所をじっくり読む段階としています。そのあとで、その文献を精読すべきかを判断する、という流れです [5] 。名前より、何のためにどこを読んでいるかを意識しておくと、案内ごとの違いに振り回されずに済みます。 大阪大学の教材は、精読は必ずしも時間をかけて読むことを意味しない、とも書いています。先に全体をつかんだ成果を生かせば、効率よく内容を吟味できる、という説明です [5] 。線の引き方やメモの取り方は ノートの取り方 で扱います。 何のために読むのかを決める 名古屋大学のアカデミック・スキルズ・ガイドは、読む目的は複数ありうるとしています。資料全体を理解する、研究の意義や方法を知る、研究を分析し検討する、自分の見解への批判をあらかじめ知る、などです。どの目的で読むかを意識すると、必要な情報を集めやすくなる、という説明です [4] 。 たとえば、同じ本でも「授業で使う用語の定義を確かめたい」なら索引から該当ページを探し読みするだけで済むことがあります。「レポートでこの著者の主張を紹介したい」なら、序章と結論の章を精読することになります。 速く読むと、理解はどう変わるか 英語の読みの研究をまとめた総説は、読む速さと理解の正確さの間にはトレードオフ(一方を上げると他方が下がる関係)があると結論しています。同じ理解のまま速さを 2 倍や 3 倍にするのは難しい、という結論です。深い理解が目的でなければ、速読や飛ばし読みで、中程度の理解のまま速く読み進めることはできます。理解を保って速く読む道は、読む練習と、語彙などの言葉の力だとしています [11] 。 飛ばし読みの効果を調べた実験もあります。説明文を、文書の半分を読むだけの時間しか与えずに読ませる実験です。飛ばし読みをした人は、同じ時間で文書の半分だけを読んだ人に比べて、文章の重要な考えをよく覚えていました。一方で、重要度の低い細部や、文章から推論した内容の記憶は良くなりませんでした。同じ論文の別の実験では、各段落の前半か後半だけを読む方法と比べると、飛ばし読みの有利さは見られませんでした [12] 。 どちらも学術書の章を題材にした研究ではないので、そのまま当てはまるとは限りません。細部を引用したり、推論の筋道をたどったりする箇所は、精読で確かめ直しておくと安心です。 段階 2 以上の人へ。 本を読む本 は、読書の水準を、初級読書・点検読書・分析読書・シントピカル読書の 4 つに分けています [6] 。それぞれの水準の中身は、本棚で紹介する原典で確かめられます。 章ごとに、問い・主張・根拠をまとめる 読んだ内容を理解できているかは、要約してみると確かめられます。要約は、大事な部分だけを残して、自分の言葉でつなぎ直す作業です。章ごとに「何を問い、何を主張し、何を根拠にしているか」を短く書いておくと、本全体の流れも追いやすくなります。 日本医療大学のハンドブックは、他人の書いた文章を理解できているかは、要約することで確かめられると説明しています。要約とは、大事な部分だけが残るように、文章全体から要らない部分を削っていく作業です。学術文献の基本は序論・本論・結論の三部構成ですが、専門書のような長い文献では、込み入った構成になることもあります [1] 。 1 つの章をまとめる手順の例 章の役割を確かめる : こ