3.24 there/it の構文 — Epoché
この課でできるようになること ★ there で新しいものを話に出せる。 ★ it を主語・目的語の席に置いて、長い中身を後ろへ回せる。 天気・時刻・距離の it を使える。 It is … that … で言いたいところを強められる。 前提 : 3.23 まで。 この二つの語には、ほとんど意味がありません。 there は「そこ」ではありませんし、 it は何も指していません。それでも、この二つ抜きに英語の文は組み立てられません。 意味は無いが、席は要る ——日本語にはこの考え方そのものがありません。日本語は主語を言わなくても文が立つので、 空席を埋める必要が起きない からです。 だからこの二つは、日本語話者にとって 最後まで残る差 の一つになります。冠詞( 3.18 型編 )と並んで、「意味が無いのに省けないもの」の代表です。第 3 期の型編は、ここまで「1 文の中では決まらないもの」と「文を部品にする置き場所」を順に扱ってきました。最後のこの課は、その 置き場所をやりくりする仕組み です。 例文で見る まず 10 文を見ます。1 番めと 2 番めが there 、3 番めから 9 番めが it 、10 番めが強める形です。2 番めには there が二つ出てきます。 前は場所取り、後ろは本当の「そこ」 です。語はどれも第 3 期の範囲(上位 1,980 語)の中にあります。 英文 日本語訳 見るところ There are seven of us. [1] 我々は全部で、7人です。 ★ there で人やものを話に出す There were about twenty people there. [2] そこには約20人の人がいました。 ★ there が二つ。前は場所取り、後ろは場所 It is time to go. [3] 出発の時間だよ。 ★ it が主語の席に座っている。中身は後ろの to 以下 It is good to do your best. [4] 最善をつくすことはよいことである。 同じ形。長い中身を後ろへ回した It is better to give than to take. [5] もらうより与える方が良い。 二つを比べる形でも同じ It takes two hours to read this book. [6] この本を読むのに2時間かかります。 ★ it takes + 時間 + to + 動詞 It is cold. [7] 寒いです。 天気の it 。指すものが無い It is five minutes to nine. [8] 9時まであと5分だ。 時刻の it 。これも指すものが無い I found it easy to answer the question. [9] その問題に答えるのは簡単だと思った。 ★ it が 目的語 の席に座った It was here that I saw her. [10] 私が彼女を見たのはここでした。 ★強める形。 It was と that で挟む 骨組み この課の規則は一つです。 英語は長いものを後ろへ回す。空いた席には場所取りの語を置く。 置く語は二つだけ—— there と it です。 ★ there — 新しいものを話に出す there の文は「〜がある」と訳されますが、働きは 存在を言うこと ではありません。 まだ話に出ていないものを、話に出すこと です。 There are seven of us. [1] 、 There were about twenty people there. [2] は、どちらも聞き手がまだ知らない人たちを持ち出しています。 だから、 すでに話に出たものには使えません 。「その本は机の上にある」を There is the book と始めることはできません。その本は もう話に出ている からです。この場合は The book is から始めます。 見分け方は簡単です。 there の後ろに来る名詞に the が付くなら、たいてい間違い 。 3.18 型編 で見た初出と既出の区別が、ここでもう一度効いてきます。 a ・数・ some ・ no が付く名詞が来るのがふつうです。 なぜ後ろへ回すのか。 新しいものは重いから です。英語は 軽いものを先に、重いものを後に 並べます。すでに知っているものは軽く、初めて聞くものは重い。だから新しいものは後ろに置きたい。しかし主語の席が空いてしまうので、 there を置いて席を埋めます。 ★ it — 主語の席を借りる 主語が長いときも同じことをします。「最善をつくすことはよいことだ」を英語の語順どおりに書くと、主語が長くなりすぎます。そこで主語を後ろへ回し、空いた席に it を置きます—— It is good to do your best. [4] 。 後ろへ回せる中身は三つです。 to + 動詞 ( It is time to go. [3] )、 that 節 、 -ing 。どれも 3.12 型編 ・ 3.16 型編 ・ 3.20 型編 で「文を名詞にする道具」として見たものです。名詞にできるものは、だいたい長い。だから it の出番が多くなります。 目的語の席でも同じことが起きます。 I found it easy to answer the question. [9] は、 easy の前に目的語の席があるので、そこに it を置いて中身を後ろへ回しています。この形は find ・ make ・ think の後ろでよく出ます。 動詞のすぐ後ろの it は、たいてい場所取り だと思ってください。 指すものが無い it 天気・時刻・距離・明暗を言うときの it は、何も指していません。後ろに中身もありません。 It is cold. [7] 、 It is five minutes to nine. [8] がその形です。英語は 主語が無いと文が立たない ので、何も無くても置くしかないのです。 日本語は「寒い」だけで文になります。だから日本語話者は Is cold. と言ってしまうことがあります。 主語の席は必ず埋める ——このひと言を覚えておけば、この種の誤りは全部防げます。 it takes も同じ仲間です。 It takes two hours to read this book. [6] の it は何も指していません。時間や労力がかかることを言う決まった形なので、 形ごと覚えて ください。 強める形 — It is … that … 文の中の一か所を強めたいとき、 It is と that で挟みます。 It was here that I saw her. [10] は、会った 場所 を強めています。 It was I that came here first. [11] は、来た 人 を強めています。 日本語では「〜のは…だ」と言います。「私が彼女を見たのは、ここでした」—— 仕組みまで同じ です。違うのは、日本語が 後ろ に印を置くのに対して、英語は 前後で挟む ことだけです。下の「実文で通す」に置いた 8.41 読編 の It was Toto that made Dorothy laugh [12] が、その形です。 日本語ならどう言うか 同じところから入ります。 日本語にも「長いものを後ろへ回す」ことはあります。 「〜のは…だ」がまさにそれです。ずれるのは 空いた席を埋めるかどうか です。 ★日本語に無い区別 — 席を埋めるという考え方 伝えたいこと 日本語では 英語では 寒い 寒い(主語なし) It is cold (席を埋める) 本が机の上にある 本が机の上にある There is a book on the desk (席を埋める) 最善をつくすのはよい 最善をつくすのはよいことだ It is good to do your best (席を埋める) 日本語の側では、三行とも 席を埋めていません 。一行めには主語がありませんし、三行めは長い主語をそのまま前に置いています。日本語は 主語が無くても、長くても、文が立つ からです。 英語はそうではありません。主語の席は必ず埋めます。そして長い主語は嫌います。この二つが重なると、 中身を後ろへ回して、席に代わりの語を置く しかなくなります。 there と it は、その やりくりの結果 として生まれた語です。意味が無いのは、意味を持つために生まれたのではないからです。 なぜ「重いものは後ろ」なのか 英語の癖は、聞き手の側から見ると理にかなっています。聞き手は文を 頭から順に 受け取ります。最初に長い塊が来ると、 それが主語なのかどうか分からないまま 待たされます。 It is と先に言ってもらえれば、「これから説明が来る」と分かって待てます。 日本語は逆で、 最後まで聞かないと分からない 言語です。そのかわり、途中に「〜のは」という印を置いて、聞き手に構えさせます。 どちらも聞き手を助けている のですが、助け方が逆なのです。英語を話すときは、 先に枠を出して、あとで中身を入れる ——この順に慣れてください。 丁寧さの段 この節は毎課置きます。日本語話者の英語には丁寧さの段が一段しかない、という実測があるからです。この課の道具は そのまま角を取る道具になります 。 it を主語にすると、 誰のせいでもなくなる からです。下の四つは、どれも「そろそろ帰ろう」を伝えています。 英文 日本語訳 どんな相手に Time to go. [13] 出かける時間よ。 言い切る。いちばん短い It's time to go. [14] 出発の時間だよ。 ★ it を立てる。時間のせいにして、誰も責めない It's about time we went back. [15] そろそろ戻る時間だ。 about を足して幅を持たせる It's getting late, so we'd better get going. [16] 遅くなってきましたので、そろそろお暇いたします。 ★理由を先に置き、 we で言う。相手だけを急かさない 一行めは言い切りです。二行めで it が立ちました。帰りたいのは誰なのか、文に出てきません。 時間がそう言っている という形になっています。三行めは about を足して、きっかりその時刻だと言い切らずに済ませています。四行めは理由を先に置き、 we で言うことで 相手だけを急かしていません 。 日本語でも同じことをしています。「帰りましょう」より「もう遅いですから」のほうが角が立ちません。 時間のせいにする という逃げ方まで同じです。違うのは、日本語では主語を言わずに済むのに対して、英語では it という代役を立てる ことだけです。 よくある誤り 三つ挙げます。どれも日本語の仕組みを英語にそのまま持ち込んだ形で、下の誤文は Epoché の作例です。書いた英文ではなく、 話した英文 で自分を確かめてください。 主語を言わない。 Is cold today. → It is cold today. 日本語は「寒い」だけで文になりますが、英語は主語の席を必ず埋めます。天気・時刻・距離には 指すものが無くても it を置きます。 主語の席は必ず埋める ——このひと言でこの種の誤りは全部防げます。 すでに出たものに there を使う。 There is the book → The book is there there は 新しいものを話に出す ための語です。後ろの名詞に the が付いたら、たいてい間違いです。 3.18 型編 の初出と既出の区別が、ここでも効きます。 長い主語をそのまま前に置く。 To do your best is good → It is good to … の形に。間違いではありませんが、英語らしくありません。 英語は長いものを後ろへ回します 。日本語の語順のまま組み立てると、動詞がいつまでも出てこない文になります。 実文で通す 物語の書き出しには there がよく出ます。 読者がまだ何も知らない ところから始めるので、新しいものを持ち出す語が要るからです。五つ引きました。 どの篇から 原文 何が起きているか 8.49 読編 There were six young colts in the meadow besides me [17] ★仲間の子馬を 初めて 読者に出している 8.67 読編 There was something mysterious in the air that morning [18] まだ正体の分からないものを出す。 something と相性がよい 8.51 読編 There was no noise now [19] ★ 無い ことを言うのにも使う。 no が付く 8.69 読編 It was true that there was no one in the bungalow [20] ★ it と there が 同じ文に 8.41 読編 It was Toto that made Dorothy laugh [21] ★強める形。 トトこそが 笑わせてくれた 四行めを見てください。場所取りの語が 二つとも 入っています。 It was true の it は、後ろの that 節を待つ席。その節の中の there は、「誰もいない」ことを持ち出す席。 意味を持たない語が二つ並んで、文を支えています 。日本語に訳すとどちらも消えます——「バンガローには自分と蛇のほかに誰もいないのは本当だった」。 訳すと消えるものこそ、英語の骨組み です。 練習 「例文で見る」の 10 文を、行を押して音を聞いてから続けて 音読 する。読むときは there と it を弱く短く 言う。意味が無い語なので、英語の話し手はここをほとんど飲み込む。3 周する。3 周目は 2 番めと 9 番めの 2 文だけを、音声に重ねて シャドーイング する。2 番めには there が二つあり、 前は弱く、後ろは強く 読まれる。その差を耳で取る。 次の五つを英語で言う。 先に枠を出してから中身を入れる こと。①我々は全部で 7 人です ②出発の時間だよ ③最善をつくすことはよいことだ ④