6.29 산골 나그네(山里の旅の女)抄 — Epoché
前提 ぜんてい : 6.28 まで。 この 篇 へん でできるようになること 来 き た 夜 よる と 去る さる 夜 よる の 音 おと を 比べ くらべ 、 女 おんな を 迎え むかえ た 家 いえ の 変化 へんか を 説明 せつめい できる。 結末 けつまつ の 服 ふく と 銀 ぎん のかんざしを 手がかり てがかり に、 分かる わかる 事実 じじつ と 人物 じんぶつ の 推測 すいそく を 分け わけ られる。 方言 ほうげん を 標準 ひょうじゅん 語 ご に 戻し もどし 、 時 じ ・ 理由 りゆう ・ 推量 すいりょう を 習っ ならっ た 形 かたち で 短く みじかく 書ける かける 。 この 文章 ぶんしょう について 金 きん 裕 ひろし 貞 てい の 山里 やまざと の 物語 ものがたり です。 秋 あき の 夜 よる 、 客 きゃく の 来 こ ない 酒屋 さかや に、ひとりの 女 おんな が 宿 やど を 求め もとめ て 訪ね たずね ます。 女 じょ 主人 しゅじん は 女 おんな を 引き留め ひきとめ ます。 静か しずか な 音 おと の 描写 びょうしゃ と、 人 ひと の 話す はなす 身の上 みのうえ に 注意 ちゅうい して 読み よみ ましょう。 この 抄 しょう は、 女 おんな が 来 き た 場面 ばめん から、 婚礼 こんれい 後 ご に 姿 すがた を 消す けす 場面 ばめん へ 移り うつり ます。 間 ま には、 客 きゃく に 酌 しゃく をして 乱暴 らんぼう に 扱わ あつかわ れる 女 おんな を、 女 じょ 主人 しゅじん がかわいがり、 息子 むすこ トクトルの 嫁 よめ に 迎える むかえる 出来事 できごと があります。 女 おんな は 婚礼 こんれい を 迎え むかえ 、トクトルは よそ行き よそいき の 服 ふく を 大切 たいせつ にしまうようになります。 語釈 ごしゃく — 夜 よる と 暮らし くらし 語 ご 本文 ほんぶん での 意味 いみ 나그네 ・ 산골 ・ 고적하다 旅人 たびびと ・ 山里 やまざと ・ひっそりして 寂しい さびしい 。 화로 ・ 반짇그릇 ・ 은비녀 火鉢 ひばち ・ 裁縫 さいほう 箱 ばこ ・ 銀 ぎん のかんざし。 외상값 ・ 좁쌀 ・ 겹옷 つけの 代金 だいきん ・ 粟 ぞく ・ 袷 あわせ の 服 ふく 。 물방앗간 ・ 며느리 水車 すいしゃ 小屋 こや ・ 嫁 よめ 。 쥔 ・ 얼골 ・ 계서유 底本 ていほん の 字 じ ( 方言 ほうげん )。 主人 しゅじん ・ 顔 かお ・いらっしゃいますか。 내뺏음 底本 ていほん の 字 じ 。 逃げ出し にげだし たこと。 訪れ おとずれ た 女 おんな の 問いかけ といかけ 、 女 じょ 主人 しゅじん の 勧める すすめる 言葉 ことば には 方言 ほうげん が 使わ つかわ れます。 相手 あいて への 丁寧 ていねい さを 保っ たもっ て 標準 ひょうじゅん 語 ご へ 戻す もどす と、 距離 きょり を 取り とり ながら 迎える むかえる 会話 かいわ が 読め よめ ます。 文法 ぶんぽう メモ — 場面 ばめん をつなぐ 地 ち の 文 ぶん では 現在 げんざい と 過去 かこ が 交じり まじり ます。 現在 げんざい 形 かたち は、 音 おと が 聞こえ きこえ 、 人 ひと が 動く うごく 場面 ばめん を 目 め の 前 まえ に 置き おき ます。 時 とき を 示す しめす 部分 ぶぶん と、 人物 じんぶつ を 指す さす 部分 ぶぶん を 別々 べつべつ に 追っ おっ てください。 本文 ほんぶん の 제 を、いつも「 私 わたくし の」と 読ま よま ないようにします。 用言 ようげん の 連体形 れんたいけい - ㄹ の 直後 ちょくご の 제 は「とき」で、 今 いま の 때 です( 갈 제 = 갈 때 )。 名詞 めいし の 前 まえ の 제 は「 私 わたくし の」です( 제 가방 )。すぐ 前 まえ が- ㄹ の 形 かたち かどうかで 見分け みわけ ます。 食事 しょくじ の 場面 ばめん では、 女 おんな が 匙 さじ を 置く おく とすぐ、 主人 しゅじん が 身の上 みのうえ を 尋ね たずね 始め はじめ ます。 怖 こわ がって 匙 さじ を 置い おい たという 動機 どうき でなく、 二 ふた つの 動作 どうさ の 間 あいだ の 短 みじか さを 描い えがい ています。 本文 ほんぶん の 古風 こふう な 形 かたち は、 習っ ならっ た 形 かたち に 次 つぎ のように 対応 たいおう します。 自分 じぶん で 書く かく ときは 右 みぎ の 形 かたち を 使い つかい ます。 本文 ほんぶん の 形 かたち 習っ ならっ た 形 かたち ・ 意味 いみ 本文 ほんぶん の 例 れい - ㄹ 제 - ㄹ 때 (〜するとき) 꼽뜨릴려 할 제다 - 기에 - 아서 / 어서 (〜ので)。 後ろ うしろ に 命令 めいれい ・ 勧誘 かんゆう は 来 こ ない 온종일 일하기에 피곤하여 - 리라 - ㄹ 것이다 (〜だろう) — - 기가 무섭게 〜するやいなや — - ㄹ 리 없다 〜するはずがない( 리 は 道理 どうり ) — - ㄴ대야 - ㄴ다고 해야 (〜したところで) 술을 판대야 対訳 たいやく 夜 よる が 更け ふけ ても、 酒 さけ の 客 きゃく はやはり 入っ はいっ てこない。 味噌 みそ 玉 たま 麹 こうじ を 寝かせる ねかせる ときのような、 かび臭い かびくさい においがして、 部屋 へや の 中 なか はしんとしている。 上 うえ の 間 あいだ ではネズミがちゅうちゅう 鳴く なく 。やもめの 母親 ははおや は、 縁 えん の 欠け かけ た 火鉢 ひばち を 抱え かかえ て 座り すわり 、さびしいまま、じっと 物思い ものおもい にふけっている。ただでさえ 薄暗い うすぐらい 小さな ちいさな 灯 あかり が、 北側 きたがわ の 戸 と に 開い ひらい た 穴 あな から 吹きこむ ふきこむ 風 かぜ にゆらめいて、 光 ひかり を 失う うしなう 。 古い ふるい 足袋 たび の 片方 かたほう で 穴 あな をふさぐ。それから 灯 あかり 皿 さら の 下 した へ 裁縫 さいほう 箱 ばこ を 引き寄せ ひきよせ て、 力なく ちからなく 針 はり を 取りあげる とりあげる 。 山里 やまざと の 秋 あき は、どうしてこうもさびしいのだろう! 家 いえ の 前後 ぜんご の 垣根 かきね で、かさかさと 枯れ葉 かれは が 散る ちる 。それがまるで 耳もと みみもと で 聞こえる きこえる ように、ひそひそとささやく。いっそうたまらないのは 水 みず の 音 おと で、 谷 たに をめぐって 澄ん すん だ 泉 いずみ が 流れ落ち ながれおち 、 不思議 ふしぎ にも 調べ しらべ を 口ずさむ くちずさむ 。 ポン!ポン!ポン!チョロッ、ポン! 外 そと で 足音 あしおと がさくさくと 聞こえる きこえる 。 耳 みみ がぴんと 立っ たっ て、 彼女 かのじょ は 部屋 へや の 戸 と を 軽く かるく 開け放つ あけはなつ 。 頭 あたま を 突き出し つきだし て、 「トクトルかい?」と 喜ん よろこん で 声 こえ をかけたが、しんとしている。 前庭 ぜんてい の 向こう むこう の 茂み しげみ をめぐって、 冷たい つめたい 風 かぜ が 落ち葉 おちば を まき散らし まきちらし ながら 顔 かお に 吹きつける ふきつける 。 屋根 やね の 棟 むね が 風 かぜ に 鳴る なる 。 激しい はげしい 風 かぜ の 音 おと に 驚い おどろい て、 遠く とおく で 夜 よる の 犬 いぬ がけたたましく 吠える ほえる 。 「ご 主人 しゅじん 、おいでですかね?」 向き直っ むきなおっ て、 縫い物 ぬいもの をまた 手 て に 取ろう とろう としたそのとき、 今度 こんど は 本当 ほんとう に 人 ひと の 気配 けはい がする。あわてて「どなたかね?」と 立ちあがり たちあがり ながら、 戸 と を 開け あけ てみた。 「 何 なん ですかね?」 初めて はじめて 見る みる 女 おんな が、 縁側 えんがわ の 端 はし に 来 き て 立っ たっ ていた。 月 つき の 光 ひかり を 斜め ななめ に 受け うけ た 赤黒い あかぐろい 顔 かお が、 青ざめ あおざめ ている。 寒い さむい らしい。 女 おんな は 片手 かたて で、 頭 あたま に 巻い まい ていた 手ぬぐい てぬぐい を 外し はずし て 持ち もち 、もう 片方 かたほう の 手 て で 乱れ みだれ た 髪 かみ をまとめあげながら、 恥ずかし はずかし そうにもじもじしている。 「あのう、ひと 晩 ばん だけ 泊まっ とまっ ていかせてくださいな。」 男 おとこ でもないのに、こんな 夜中 よなか にどうしたことか、 素足 すあし に 草鞋ばき わらじばき で。それはともかく、 「さあ、 入っ はいっ て 火 ひ にあたりなさいな。」 旅 たび の 女 おんな はおずおずと 部屋 へや に 入っ はいっ てきて、 火鉢 ひばち のそばに 身 み を 縮め ちぢめ て 座る すわる 。 古い ふるい チマの 裾 すそ から はみ出し はみだし そうになる 肌 はだ を 隠そう かくそう と、 腰 こし をそっとひねる。そしてだまりこむ。 主人 しゅじん はじっと 見 み ていたが、 ご飯 ごはん を 少し すこし 食べる たべる かと 聞い きい ても、 黙っ だまっ ている。 けれども、 食べ残し たべのこし の ご飯 ごはん を かき集め かきあつめ て、 大根 だいこん の 塩漬け しおづけ を 添え そえ て 持っ もっ ていくと、ありがたそうに 受けとる うけとる 。そして 水 みず ひと口 ひとくち も 飲ま のま ずに、あっという 間 ま に 茶碗 ちゃわん の 底 そこ をさらう。 匙 さじ を 置く おく やいなや、 主人 しゅじん は 話しかけ はなしかけ はじめた。 根掘り ねほり 葉掘り はほり 聞く きく ので、 話 はなし はきりがない。 自分 じぶん でもしつこく 聞き きき すぎたかと 思う おもう ほど、しきりに 問いつめ といつめ た。 旅 たび の 女 おんな は、いやそうな 顔 かお もうれしそうな 顔 かお もたいして 見せ みせ ず、 少し すこし ずつ 答え こたえ た。 夫 おっと もなく、 身 み を 寄せる よせる 所 ところ もないことを 手短 てみじか に 話し はなし たあと、 「あちこちで 恵ん めぐん でもらって、 食べ歩い たべあるい てるんですよ」と 言っ いっ て、あごを 胸 むね にうずめる。 一番 いちばん 鶏 にわとり が 羽ばたい はばたい て 鳴く なく ころ、ようやく、 村 むら へ 出かけ でかけ ていたトクトルが 帰っ かえっ てくる。 戸 と を 開け あけ て、ぼさぼさの 荒っぽい あらっぽい 頭 あたま を 突っこもう つっこもう として、 見知ら みしら ぬ 女 おんな に 目 め を 丸く まるく してたじろぐ。 開い ひらい た 戸 と から 激しい はげしい 風 かぜ が 吹きこん ふきこん で、 部屋 へや の 中 なか が 真っ暗 まっくら になる。 主人 しゅじん は 戸口 とぐち まで 歩い あるい てきて 立ち たち 、トクトルの 背中 せなか をとんとんとたたく。 若い わかい 女 おんな の 寝 ね ている 部屋 へや に、 髪 かみ を 長く ながく 編ん あん だ 未婚 みこん の 若者 わかもの を 寝かせる ねかせる のは、 縁起 えんぎ のよくないことだった。 「なあトクトル、 今夜 こんや は 村 むら へ 行っ いっ て 寝 ね て、 朝 あさ おいで。」 取り入れ とりいれ の 時期 じき が 過ぎ すぎ たから、 小金 こがね ぐらいはたっぷり 出回っ でまわっ てもいいころだ。その 金 かね がどこへ 集まる あつまる のか、この 酒屋 さかや ではめったに 金 かね の 顔 かお を 拝め おがめ ない。 酒 さけ を 売っ うっ たところで、ひと 缶 かん で 五、六十 ごろくじゅう 銭 せん のもうけだ。そのひと 缶 かん を 首尾 しゅび よく 売っ うっ ても 三、四 さんよん 日 か はかかるのに、このごろときたら、そのわずかな 酒 さけ の 客 きゃく までいなくなった。 以前 いぜん つけにしておいた 酒代 さかだい も、さっさと 持っ もっ てくる 気配 けはい がない。やもめはかっとなって、 朝 あさ 早く はやく から 代金 だいきん を 取り立て とりたて に 回っ まわっ た。けれども、 足 あし を 棒 ぼう にしたかいもなかった。 払う はらう 人 ひと がその 気 き にならなければどうにもならないのに、もじもじして 言う いう ことは、せいぜい「もう 少し すこし 待っ まっ てくれ」だった。だからといって 行か いか ないわけにもいかない。 日 ひ に 日 ひ に 食べ物 たべもの は 足り たり なくなり、 支店 してん からは 差し押さえ さしおさえ をするだの 何 なん だのと、 並 なみ 大抵 たいてい でなく 督促 とくそく してくるのだから……。 「 私 わたくし も、もうそろそろ 発ち たち ますね。」 朝ご飯 あさごはん のあと、 彼女 かのじょ が よそ行き よそいき の 服 ふく に 着替え きがえ て 出かけよう でかけよう とすると、 旅 たび の 女 おんな もついて 立ちあがろう たちあがろう とする。その 手 て をやさしくつかんで、 主人 しゅじん は、 「 疲れ つかれ ているだろうから、もう