11.57 戰國策 魏策四 唐雎不辱使命 — 豈に直だ五百里のみならんや — Epoché
この篇でできるようになること 秦王と唐雎の発言を往復ごとに分け、問う側が変わる所を示せます。 千里と五百里を並べた反語を現代語にできます。 判断、動作、経験を打ち消す語を分け、二つの怒りの数を比べられます。 前提 :11.56「戰國策 鄒忌諷齊王納諫」。身近な経験から諫める話の後、王と使者が正面から言葉で向き合う話を読みます。 土地を取り替えるという申し出 同じ『戰國策』の魏策四から読む篇です。秦王が五百里の土地で安陵と取り替えたいと申し出ます。本文では安陵は五十里の土地を持つとされ、秦王も十倍という言い方で交換を迫ります。 秦王は始皇帝とされますが、この話が史実どおりかには疑問も出されています。史実かどうかは別に、本文の問答の組み立てを読みます。 大きな土地を小さな土地と取り替えるという形では恩恵ですが、強い国の王が承知するよう迫る話でもあります。安陵君は 甚善 と受けてから、 雖然 、そうではあるが、と断ります。先王から受けた土地なので、生涯守りたいという理由です。 この答えに秦王は 不說 、喜びません。 說 はここでは喜ぶ意味で、yuè と読みます。安陵君は唐雎を使者として秦へ送ります。 同じ字でも、二つの働き 冒頭の 秦王使人謂安陵君曰 では、秦王が人に安陵君へ言わせます。人は、使わされる相手であると同時に、その後で言う人です。現代語の兼語文と並べて読める形です。 安陵君因使唐雎使於秦 には 使 が二つあります。前は唐雎を行かせる働き、後ろは使者として秦へ行くという動詞です。同じ字を続けて、どちらも単に、させる、と読まないでください。 送り出す人と、使者として行く人を対応させることが大切です。 相手より大きい数を先に置く 秦王は唐雎に、なぜ交換を承知しないのかと問います。さらに、韓と魏を滅ぼした自分が安陵を残したのは、その君を長者とみなしたからだ、と言います。 以君爲長者 は、安陵の君を長者とみなす形です。ここの君は、話している相手の唐雎ではなく安陵君を指します。対象を先に置き、何とみなすかを続けます。現代語の 把 ・ 当作 で言い換えられます。 唐雎は、土地を先王から受けて守っているのだと答え、 雖千里不敢易也、豈直五百里哉 と続けます。千里であっても交換しないのだから、五百里などではなおさらだ、という断りです。 相手が五百里を出したところへ、倍の千里を先に置き、それでも断ると述べます。その後で、ただ五百里だけの話ではない、と相手の数を打ち返します。土地が大きければ承知するという前提を崩す答えです。 豈直五百里哉 を、どうしてただの五百里なのか、という質問のまま終えないでください。 豈 ・ 哉 は反語を作り、 直 はただ、だけ、という意味です。千里でも交換しないという前の文とつなげます。 否定しているものを分ける 弗敢易 は、あえて取り替えないという行動の否定です。 不聽寡人 も、秦王の言葉を聞き入れないという動作を否定します。 唐雎の 否、非若是也 では、初めの字が、いいえ、という返事です。続く 非 は、そういうことではないと判断を打ち消します。単に同じ、ない、と訳しても、何に対して否定を置くかは違います。 臣未嘗聞也 の 未嘗 は、まだ聞いたことがないと経験を否定します。後の 此庸夫之怒也、非士之怒也 では、凡人の怒りだと言い、士の怒りではないと判断を退けます。 この本文では、動作の否定、返事、判断、経験を区別できます。一つの否定の字に、いつでも一つの日本語だけを当てるのではなく、その後ろに何が続くかを見ます。 同じ形の問いを返す 秦王が怒り、天子の怒りを聞いたことがあるかと問うと、唐雎は聞いたことがないと答えます。秦王は伏す死体が百万、流れる血が千里という大きな数で威圧します。 ここで唐雎が 大王嘗聞布衣之怒乎 と問い返します。王は庶民の怒りを聞いたことがあるか、という同じ形の問いです。秦王が問い、唐雎が答える流れから、唐雎が問い、秦王が答える流れへ変わります。 布衣 は位のない庶民を指します。秦王は、その怒りなど冠を脱ぎ、裸足になり、頭を地にぶつけるだけだと答えます。唐雎は、それは凡人の怒りであって、士の怒りではない、と退けます。 以頭搶地 の 搶 は qiāng、ぶつけるという意味です。現代語で奪う意味の qiǎng で読まないでください。ここでは頭を地面に打ちつける動作です。 三人の列に、自分を加える 唐雎は專諸、聶政、要離という三人の例を並べ、それぞれの刺殺とともに天の異変を述べます。ほうき星、白い虹、鷹という兆しが、同じ形で続きます。 話の中では、怒りを発する前に天が兆しを示した三人として並べています。 その後に 與臣而將四矣 と、自分を加えれば四人になる、と言います。昔の三人について語るだけでなく、今、王の前にいる自分へ話を戻す言葉です。 小さい数が、目の前の王に届く 士の怒りは 伏屍二人、流血五步 と述べます。天子の怒りの百万、千里に比べれば、二人、五歩は小さな数です。しかし二人には、王自身と唐雎が含まれると読めます。 遠くまで及ぶ大きな害で威圧した王に対し、使者は目の前の二人の話にします。 今日是也 と、今日がその時だと述べ、剣を抜いて立ちます。小さな数が、この場の危機を示す組み立てです。 秦王は顔色を変え、身を起こしてわびます。最後の 安陵以五十里之地存者、徒以有先生也 は、わびる秦王の言葉の続きです。秦王は、安陵が残っているのは先生がいるからだと認めます。 兼語文は 型編 27課 、対象を前に出す言い換えは 型編 24課 で確かめられます。現代語へ直す時も、誰が誰に言わせるかと、誰を何とみなすかを保ちましょう。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 易 動詞 取り替える 易しい意味ではない 弗敢易 あえて取り替えない 雖然 接続の語 そうではあるが 前の言い分を受けて返す 雖然、受地於先王 そうではあるが、土地は先王から受けた 長者 名詞 徳のある人・人柄の厚い人 秦王が与える評価 以君爲長者 安陵君を長者とみなす 直 副詞 ただ・だけ まっすぐの意味ではない 豈直五百里哉 まして五百里だけの話であろうか 非 否定の語 〜ではない 判断を打ち消す 非士之怒也 士の怒りではない 布衣 名詞 位のない庶民 着物から人を指す 布衣之怒 庶民の怒り 搶 動詞 ぶつける 奪う読みと区別する 以頭搶地 頭を地面にぶつける 縞素 名詞 白い喪服 世の人々の服装 天下縞素 天下が白い喪服を着る 撓 動詞 ひるむ 顔色に現れる 秦王色撓 秦王の顔色がひるむ 練習 否定の字を原文どおりに補い、何を打ち消すか書いてください。 願終守之、_敢易 否定の字を原文どおりに補い、何を打ち消すか書いてください。 _聽寡人 否定の字を原文どおりに補い、何を打ち消すか書いてください。 _、_若是也 否定の字を原文どおりに補い、何を打ち消すか書いてください。 臣__聞也 雖千里不敢易也、豈直五百里哉 を、現代語の 即使 ・ 也不 ・ 何况 で言い換えてください。 秦王使人謂安陵君曰 と 以君爲長者 を、現代語の 派人 と 把 ・ 当作 を使って言い換えてください。 天子之怒、伏屍百萬、流血千里 と 伏屍二人、流血五步 を、数を残した現代語の比較文へ言い換えてください。 問う側が変わる所を取り出し、そこで起こる変化を一文で説明してください。 秦王と唐雎の様子を、 激动 ・ 冷静 と 自信 ・ 英勇 を使う短い現代語の二文で書いてください。 前の課の語 害怕 を使い、終わりの秦王の様子を短い現代語で書いてください。 秦王と唐雎のやりとりを、問いと答えの往復ごとに区切り、各往復の初めの句を本文から抜き出してください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 雖千里不敢易也、豈直五百里哉。 雖千里不敢易也 は短く切り、 豈直五百里哉 は反語として調子を上げて読んでください。 この篇のまとめ 交換を迫る王に、使者はより大きい数を出して断り、同じ形の問いを返しました。否定の働きを分け、小さい数が王自身に及ぶ結末を読みました。 次の篇へ 次の11.58では左傳の燭之武退秦師を読みます。包囲する秦へ損得を説き、軍を退かせる話で、何を満足するかという問いの語順を確かめます。 答え 願終守之、弗敢易 。取り替える行動を否定します。 不聽寡人 。聞き入れる動作を否定します。 否、非若是也 。初めは、いいえ、という返事、次は、そうではない、という判断の否定です。 臣未嘗聞也 。聞いた経験を否定します。 即使有千里土地,也不敢交换,何况五百里呢? 秦王派人去告诉安陵君。 我把安陵君当作长者。 天子发怒,死者有一百万人,血流千里;士发怒,死者只有两人,血流五步。 二人には秦王と唐雎が含まれると読めるため、小さい数が目の前の危機を示します。 大王嘗聞布衣之怒乎 で唐雎が問い返し、秦王が答える側に回ります。 秦王激动,唐雎冷静。 唐雎很自信,也很英勇。 秦王害怕了。 秦王謂唐雎曰 (なぜ承知しないのかという問い)/ 秦王怫然怒 (天子の怒りを聞いたかという問い)/ 大王嘗聞布衣之怒乎 (ここから唐雎が問う側)。その後の 秦王色撓 からは、秦王がわびる結末です。 参考文献 劉向(編)『戰國策 魏策四』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。 出所: https://zh.wikisource.org/wiki/古文觀止/卷4