8 本棚 — 段階別のおすすめ — Epoché
この本棚の作り方 段階 0 から段階 4 まで、段階ごとに節を分けました。各節の最初に「まずこの 1 冊」を 1 冊だけ置き、迷ったらそこから始められるようにしています。カードの下には、なぜこの本か・役割・何を読んでからか・読み方・注意点を書きました。 原則として、定評があっていま手に入り、出所の違う根拠を 2 つ持つ本を選びました。根拠は大学の授業・図書館の案内・学会誌の書評などです。選び方の詳しいことは この案内について にまとめました。 根拠が 1 件の本が 5 冊あり、紹介文にそう書いています。代わりの本が無いか、新しくて書評がまだ出ていない本で、「まずこの 1 冊」にはしていません。 原典の訳は、授業や図書館の案内ごとに挙げる訳が違います [1][2] 。この棚の訳は、訳者の専門・刊行年・注の量で選んだもので、ほかの訳が劣るという意味ではありません。 棚の見方 — 段階と役割 全部で 39 枚のカードがあり、1 冊につき 1 枚、段階も 1 つです。別の段階でも使える本は、紹介文でそう書きました。段階は 学び方の道筋 — 初学者から専門家まで の 5 つの段階と同じです。 段階 枚数 役割の内訳 0 入口 8 入口 7・原典 1 1 基礎 12 入口 3・教科書 3・演習 3・原典 2・参照 1 2 展開 8 入口 1・教科書 4・原典 3 3 専門 9 演習 1・原典 3・研究入門 5 4 研究 2 展望 2 役割は 7 種類です。カードの札と紹介文に、どの役割かを出しています。 役割 意味 枚数 入口 読み物として読め、問いが分かる 11 教科書 一つの範囲を体系的に通読する 7 演習 手を動かして身につける 4 原典 古典そのもの。現行の訳を指定する 9 参照 通読せず、引いて使う 1 研究入門 研究の方法と論争の配置への入口 6 展望 近年の重要書 2 カントとヘーゲルの本は、各段階の節の中に小見出しでまとめました。読む順の全体は 地図 3 カントとヘーゲル — 近代の転回 の「主著にはどの順で入るか」にあります。 段階 0 の本棚 — 問いに出会う 予備知識なしで読める 8 冊です。問いの一覧・問いの深掘り・身近な題材・非西洋の入口と、入り方の違う本を並べ、短い原典を 1 冊加えました。2〜3 冊読み、気になった問いを 1 つ自分の言葉で書くところまでが目安です。 段階 0 のまずこの 1 冊 哲学ってどんなこと? とっても短い哲学入門 トマス・ネーゲル 著, 岡本裕一朗・若松良樹 訳(昭和堂、1993年) 外界の存在・他人の心・自由意志・死など、九つの問いを短い章で 1 つずつ扱う入口の本です。答えを出さず、問いの立て方だけを渡します。「まずこの 1 冊」にしたのは、特定の主題や潮流に寄らず、哲学の問いを一通り見渡せるからです。前提は要りません。1 章読むごとに、自分はどちらの側に立つか、その理由は何かを 200 字ほど書いてから次へ進むと、問いが自分のものになります。大学の哲学概論で、いまも唯一のテキストに指定されています。刊行は 1993 年で、この棚でいちばん古い本です。問いを一通り並べる同じ役割の新しい本が無いので、残しました。近年の議論は入らず、例も英米の日常に寄っています。いまの研究の姿は、段階 1 の通史で補えます。 段階 0 の代替と発展 問いを問う 哲学入門講義 入不二基義 著(筑摩書房、2023年) 著者の大学講義をもとにした入口の本です。問いの立て方、前提の疑い方、視点の転換という手つきがそのまま見えます。ネーゲルの本が問いを広く並べるのに対し、こちらは少ない問いを深く掘ります。前提は要りません。各章の問いに、読む前に自分の言葉で一度答え、読み終えて答えがどう変わったかを書き留める読み方が合います。大学図書館の初学者向けの案内が入門書に挙げています [3] 。運びは丁寧ですが速くはないので、1 日 1 章くらいが目安です。誰がいつ何を言ったかという配置は得られないので、そこは段階 1 の通史が受け持ちます。 現代思想入門 千葉雅也 著(講談社、2022年) 「現代思想」という言葉は聞くけれど中身を知らない、という読者のための入口の本です。デリダ・ドゥルーズ・フーコーを一人ずつ追います。前提は要りません。通読したら、気になった哲学者の原典の訳に 1 冊だけ進む形が取れます。大学図書館の案内は、並べた入門書のうち最も親しみやすい文体だと書いています [3] 。扱うのは 20 世紀後半のフランスを中心とした潮流で、現代の哲学の全体ではありません。分析哲学・科学哲学・非西洋の現代哲学は出てこないので、 地図 4 近代・現代 — 分かれた道と、いま で補えます。著者の立場が前面に出る本なので、批判的な読み方も並べると見通しが良くなります。 会話を哲学する コミュニケーションとマニピュレーション 三木那由他 著(光文社、2022年) 哲学は特別な言葉で特別な対象を論じる、という思い込みを外すための入口の本です。題材は身近な会話で、フィクション作品の引用とともに解説が進みます。前提は要りません。読みながら、自分が最近した会話を 1 つ選び、本書の区別を当てはめて説明してみると、概念の働きが見えてきます。大学図書館の案内が初学者向けに推し、科学哲学の学会誌にも書評が載っています [3] 。扱う概念には、著者自身の理論の提案が含まれます。定説の要約ではないので、「哲学ではこう考える」とまとめて覚えない読み方が合います。 暇と退屈の倫理学 國分功一郎 著(新潮社、2022年) 「暇」と「退屈」という誰もが持つ経験から入り、スピノザ・ルソー・ニーチェ・ハイデガーらの議論を順に通す入口の本です。この案内は哲学を生き方の指南としては扱いませんが、生活の実感から概念の検討へ進む例として置きました。前提は要りませんが、長い本です。第 1 章から第 3 章までを先に読み、興味が続けば結論の部分へ進む読み方ができます。大学図書館の案内が文庫版を挙げ、倫理学の研究者による書評もあります [3] 。版が多く、この棚が指すのは 2022 年の新潮文庫版です。 日本哲学入門 藤田正勝 著(講談社、2024年) 日本語で書かれた哲学への入口の本です。この案内は、哲学を西洋の哲学と同じ意味では使いません。日本語話者にとって最も近くで原典に届く非西洋の伝統が日本哲学で、本書はその最も新しい概説です。日本で哲学がどう受け入れられたかと、言葉・美・生と死などの主題ごとに、日本の哲学者の思想を紹介します。前提は要りません。関心を持った哲学者が出てきたら、その人の原典(多くは文庫で読めます)に 1 冊だけ進む形が取れます。大学図書館の案内と大学の東洋哲学史の授業が、どちらも挙げています [3] 。主題ごとの構成なので、誰がいつ何を書いたかという年代の骨格は薄めです。 段階 0 で読める短い原典 ソクラテスの弁明 プラトン 著, 納富信留 訳(光文社、2012年) 原典に触れる最初の 1 冊に向く、短い原典です。法廷という具体的な場面で話が進み、分量も短めです。訳者は古代ギリシア哲学の研究者で、訳注と解説が読む支えになります。前提は要りませんが、段階 0 の読み物を 1 冊読んでからだと入りやすくなります。1 回目は注を見ずに最後まで読み、2 回目に訳注と解説を合わせて読む形が取れます。余白にステファヌス版の頁(研究文献が箇所を示す番号)を控えておくと、のちに研究文献と突き合わせられます。大学の西洋哲学史の授業が、この訳を参考書に名指ししています。久保勉訳の『ソクラテスの弁明』も広く挙げられますが、訳は 1927 年の初版にさかのぼります [4] 。 カントとヘーゲル(段階 0) 段階 0 には、カントの入口を 1 冊置きます。 地図 3 カントとヘーゲル — 近代の転回 の「一歩目」に当たります。ヘーゲルの入門は段階 1 にあります。 自分で考える勇気 カント哲学入門 御子柴善之 著(岩波書店、2015年) カントの最初の 1 冊になる入口の本です。約 200 頁で、生涯の章のあと、三つの批判書に 1 章ずつを当て、最後に 1790 年代の永遠平和論を扱います。章題にどの原典の話かが書かれているので、あとで原典を開くときの目次になります。著者はカント研究者で、段階 2 に置いた『道徳形而上学の基礎づけ』の訳者です。前提は要りません。通読して各章の原典名を控えておき、気になった原典を段階 2 で開く形が取れます。根拠は 1 件です(新しいカントの入門で、根拠が 2 件ある本がありません)。『純粋理性批判』の章は自由の問題に絞ってあり、範疇の演繹や神の存在証明はコラムで触れる程度です。主著の全体像は、段階 2〜3 の本で補えます。 この図書館で読める原典(段階 0) 短い原典は、この図書館でも日本語で読めます。図書館の日本語の訳はアプリの機械訳で、訳者の訳ではありません。本棚の訳書と並べ、原文と対照しながら使うと安心です。 ソクラテスの弁明 — 上の納富信留訳と並べて読めます。気になった一文を、訳書と機械訳で比べてみると、訳の違いが見えてきます。 饗宴 — 同じプラトンの対話篇です。『ソクラテスの弁明』の次に開けます。 論語 — 中国の古典から 1 冊です。 地図 1 古代 — 世界のあちこちで問いが立った の中国の節と合わせて読めます。 老子・道徳経 — 同じく 地図 1 古代 — 世界のあちこちで問いが立った の中国の節に、言葉が文字に定着していく経緯が出てきます。 提要 — ストア派の短い手引きです。少しずつ区切って読めます。 段階 1 の本棚 — 通史を 1 冊通し、論証を書き出す 哲学史を 1 冊通して地図を持ち、論証を扱う道具を手に入れる段階です。通史の教科書・調べるための叢書・最初の原典・論理と論述の演習を並べました。カントとヘーゲルの入門と、カントの短い原典もここに置いています。 段階 1 のまずこの 1 冊 新しく学ぶ西洋哲学史 荻野弘之・山本芳久・大橋容一郎・本郷均・乘立雄輝 著(ミネルヴァ書房、2022年) 1 冊で通せる西洋哲学史の教科書です。古代ギリシア・中世・近代・現代を 21 章で通し、巻末に年表と索引があります。分担執筆ですが、部ごとに 1 人が書いているので、部の中の筋が通っています。「まずこの 1 冊」にしたのは、1 冊で通史の骨格が手に入り、カントにも独立の章があるからです。前提は、段階 0 の読み物を 1〜2 冊読んだことくらいです。1 週に 1〜2 章の速さで読み、章ごとに、その哲学者が何を問題にし、どう答えたかを 3 行で書くと、地図が自分のものになります。大学の哲学史の授業で教科書に指定されています。中世が厚めで、ヘーゲルには独立の章がありません。ヘーゲルは下の入門と 地図 3 カントとヘーゲル — 近代の転回 で補えます。西洋以外の伝統は扱わないので、 地図 1 古代 — 世界のあちこちで問いが立った と 地図 2 中世・近世 — 聖典・注釈・そして近代の入口 を並べて読めます。 段階 1 の通史と調べる棚 世界哲学史 1 伊藤邦武・山内志朗・中島隆博・納富信留 責任編集(筑摩書房、2020年) この案内が西洋中心にならないようにするための教科書です。第 1 巻は、古代オリエント・ギリシア・中国・インドを同じ巻の中で並べて扱います。『新しく学ぶ西洋哲学史』と並べると、同じ時代のほかの土地が見えてきます。関心のある地域の章だけを先に読み、後で残りを埋める読み方ができます。全国紙に書評があり、大学の授業も第 1 巻を巻まで挙げています [5][6] 。全 9 巻の第 1 巻なので、1 冊で通史にはなりません。章ごとに執筆者が違う論集で、叙述の密度も文体も一定しません。前から順に理解が積み上がる作りではない点に気をつけてください。 哲学の歴史 第1巻(古代 1) (哲学誕生) 内山勝利・小林道夫・中川純男・松永澄夫 編(中央公論新社、2008年) 段階 1 で「調べるための棚」を 1 つ持っておくための参照の叢書です。各巻に図版・参考文献・索引・年表が付きます。通読する本ではなく、辞書のように引きます。地図の文書で気になった哲学者が出たら、その人を扱う巻の章と巻末の参考文献だけを読む使い方が向きます。大学の授業の参考書や図書館の調べ方案内に挙がっています [7][8] 。本編 12 巻に別巻 1 で、個人で揃えるより図書館で使う前提の本です。刊行は 2007〜2008 年で、西洋哲学史だけを扱います。 現代フランス哲学 渡名喜庸哲 著(筑摩書房、2023年) 20 世紀後半から現在までのフランス哲学の配置を、通しで見せる教科書です。段階 0 の『現代思想入門』が 3 人を深く追うのに対し、こちらは誰がいてどうつながるかの見取り図になります。千葉の本を読んでから進むと入りやすくなります。人名と主題の対応表を自分で作りながら通読し、後で 地図 4 近代・現代 — 分かれた道と、いま と突き合わせる使い方ができます。フランス哲学の学会誌と新聞社のサイトに、別々の評者の書評があります [9][10] 。扱うのはフランス語圏に限られます。同じ時期の分析哲学・ドイツ語圏の現象学・非西洋の現代哲学は入りません。 段階 1 の原典 方法序説 ルネ・デカルト 著, 山田弘明 訳(筑摩書房、2010年) 近世哲学の入口になる原典です。短く、何をどう疑うかという方法の話が正面から書かれているので、『ソクラテスの弁明』の次に読む原典に向きます。訳者はデカルトの研究者で、訳注が本文とほぼ同量あります。第 4 部(「我思う、ゆえに我あり」)だけを抜き読みせず、通読すると方法の筋が見えます。本文を読んでから訳注に戻ると、どこが訳者の解釈かが分かります。大学図書館や授業の案内は、この作品を谷川多佳子訳の『方法序説』で挙げています [2][7][11] 。2022 年には『方法叙説』という題で新訳も出ており、訳ごとに題が変わる例になります [12] 。 段階 1 の論理と論述の演習 一歩ずつマスターする論理学入門 峯島宏次 著(慶應義塾大学出版会、2025年) 記号論理の最初の 1 冊になる演習書です。日本語の文を記号にするところから始めます。扱うのは、命題論理(「かつ」「また