6.6 道案内 — 「すみません」も「まっすぐ」も無い — Epoché
この課で言えるようになること 行き先の名前が帯に無いときに、相手の知っている建物で目的地を指せる。 曲がる場所・曲がる向き・曲がったあとの位置を、1 行に 1 つずつ渡せる。 遠さを分で言い、歩けるかどうかを相手が決められる形で伝えられる。 聞いたことを言い直して確かめ、相手の言い直しから言い落としを見つけられる。 前提 : 6.5 まで。 6.5 では店に入りました。品物は棚にあり、値段は札にも書いてあります。つまり 言葉が足りなくても、周りが助けてくれる場面 でした。この課の道案内は、そこがまるきり違います。 5.3 聞編 で、同じ道案内を 聞く側 から見ました。あのとき立てた構えは「全部の語を取らずに順路だけ取る」でした。取りこぼしても相手の口はまだ動いているので、次の一言で埋まるからです。ところが 言う側 に回ると、この助けが消えます。相手が黙ってうなずいて歩き出したら、それで終わりです。だからこの課では、聞く側には要らなかった手を 1 つ足します—— 言ったことを相手に言い直させ、こちらも言い直して確かめる 。 場面と話し手 対話 A は初めて来た町の道ばたで、通りがかりの人に市場までの道をたずねる場面です。一度きりの相手なので、丁寧さは中くらいで足ります。 対話 B は自分の事務所への道を、初めて来る取引先に渡す場面です。こちらが教える側に回り、相手の時間を預かるので、A より一段上の形を使います。 先に語の話を片づけます。この課には穴が 4 つあります。1 つ目は 声のかけ方 。日本語なら「すみません」から入るところですが、 excuse と sorry の 2 語はどちらも 600 番より外です。 声をかけるための言葉が 1 つも無い ので、前置きを置かずに 用件そのもので入り ます。 2 つ目は 行き先の名前 です。 station ・ bank ・ hotel ・ hospital ・ restaurant ・ library ・ museum ・ church ・ store ・ park の 10 語は全部外で、道案内でいちばん行きたくなる先が、そろって言えません。残っているのは school ・ shop ・ market ・ office ・ house ・ building の 6 語だけ。この課の目的地が学校と市場と事務所なのは、そのためです。 3 つ目は 道の形を言う語 です。 corner ・ straight ・ block ・ cross と、東西南北に当たる 4 語——合わせて 8 語がどれも外にあります。「角を曲がる」も「まっすぐ行く」も「北へ」も言えません。残っているのは street ・ road ・ way ・ left ・ right ・ turn ・ light ・ along ・ past ・ across ・ front ・ behind ・ side の 13 語。左右と、道そのものと、位置を言う前置詞。これだけで形を作ります。 4 つ目は 距離の単位 です。 mile も block も外なので、残っているのは minute ・ hour ・ foot ・ walk ・ far ・ near 。 遠さは分でしか言えない 。これは不便に見えて相手に親切です。分で言えば、相手はその場で歩くか乗るかを決められます。 そこでこの課では、 用件で入る ・ 相手の知っている建物で指す ・ 遠さは分で言う の 3 手で埋め、4 つ目に言う側だけの手—— 確かめの一往復 を置きます。 対話 A 話者 英文 日本語訳 A I am lost. [1] 道に迷ってしまいました。 B Are you looking for something? [2] 何かお探しですか。 A Where is the market? [3] 市場はどこにありますか? B Take the first street to the right. [4] 最初の通りを右へ入ってください。 B It's just down the street on your left. [5] この道をまっすぐ行ったところの左側にありますよ。 A Do I take the second street on the left? [6] 二番目の通りを左に曲がるのですか。 B You're going the wrong way. [7] それだと反対の方へ行ってしまいますよ。 B Take the road on the right. [8] 右の道へ入ってください。 A How far is it from here? [9] ここからどのくらいの距離がありますか。 B It's only ten minutes' walk from here. [10] ここから歩いてほんの十分です。 A Thanks for telling me. [11] 教えてくださってありがとうございます。 11 行あり、上から下へ 用件・道・確かめ・遠さ・礼 の順に進みます。1 行目は 3 語で、この対話でいちばん短い行が、そのまま入口になっています。日本語なら「すみません、ちょっとうかがいますが」と二段構えで入るところを、前置きの語が無いので 自分の状態をそのまま置き ます。これは無作法に見えて、よくできた入口です。「困っている」と言われた相手には、次にすることが見えるからです。現に 2 行目で、B のほうから用を聞きにきています。 3 行目が行き先で、4 語しかありません。市場は、帯に残った 6 つの行き先の名前の 1 つです。駅でも銀行でも病院でも、この期の語では同じ形が作れません。 4 行目と 5 行目が 道案内そのもの です。命令の形が 2 つ並び、間につなぎの語がありません。5.3 では、この並びを聞く側から「息の切れ目しか区切りが無い」と見ました。言う側から見ると、同じことが 楽な方に 働きます——つなぎ方を考えず、指示を 1 つずつ置けばよいからです。5 行目の訳をよく見てください。「まっすぐ」と出ています。ところが英語の側に「まっすぐ」に当たる語は 入っていません 。「その道を下って行った先の、あなたの左」と言っているだけです。道を外れずに進めば、それはまっすぐ行くことなので、わざわざ言う必要がない。帯に無い語を、道そのものが引き受けています。 6 行目が 確かめの一往復 です。9 語あり、この対話でいちばん長い行になっています。A は聞いたつもりを言い直しているのですが、 二番目・左と、2 か所とも取り違えて います。道案内でいちばん取り違えやすいのが順番の語と左右の語です。7 行目で B がそれを直し、8 行目で言い直しています。もし A が 6 行目を言わなければ、間違った道を歩き出していました。 この一行だけで、道案内は成功と失敗に分かれます。 9 行目の問いは距離を聞く形ですが、10 行目の答えは 分 で返っています。11 行目の礼は「手伝ってくれてありがとう」ではなく 「教えてくれてありがとう」 ——相手がしたのは話すことだけだからです。 対話 B 話者 英文 日本語訳 B Can I come to your office now? [12] 今から事務所にうかがってもよろしいでしょうか。 A Please come to my office any time. [13] いつでもお越しください。 B How long does it take on foot? [14] 歩いてどれくらいかかりますか。 A You can get there in less than thirty minutes. [15] 三十分かからずに着きますよ。 B Could you tell me which way I should go? [16] どちらにいったらいいのか教えてくださいませんか。 A Take the road on the left. [17] 左の道へ入ってください。 A Turn right at the light. [18] 信号を右に曲がってください。 A The building on the right side is a school. [19] 右側の建物が学校です。 A It's across the street. [20] 事務所はその通りの向かい側です。 B Where is the meeting point? [21] 集合場所はどこですか? A I'll wait for you in front of the school. [22] 学校の前でお待ちしています。 B Thank you for your help. [23] 助かります。ありがとうございます。 12 行あり、対話 A より 1 行長くなっています。こんどは こちらが教える側 で、渡すものが 道・目印・位置・落ち合う場所 と多いからです。この対話でも A が学習者ですが、今度はたずねるのが B のほうです。 1 行目と 2 行目が入口で、B が来訪を申し出て A が受けています。2 行目の「いつでも」に当たる 2 語が、時刻を相手に選ばせています。 3 行目と 4 行目が遠さです。教える側は、 道より先に遠さを言い ます。3 行目の問いには「足で」に当たる 2 語が入っています。4 行目の答えは、ぴったりの数ではなく 上限 で返しています。言い切ると、混んでいた日に約束を破ったことになります。 5 行目で B が道をたずねます。頭に「教えていただけませんか」に当たる 3 語が付き、そのうしろに「どちらへ行くべきか」の節が丸ごと入っています。 問いを 1 つ、頼みの中にしまう ——これが第 1 期でいちばん上の段です。 6 行目から 9 行目までの 4 行が、この課の中心です。 1 行に 1 つずつ 置いてください。6 行目が入る道、7 行目が曲がる場所と向き、8 行目が曲がったあとに見えるもの、9 行目が最後の位置で、ここだけ 4 語に落ちています。日本語なら 1 本の文にしたくなるところですが、つなごうとして途中で崩れるより、切って 4 回言うほうが確実に通ります。 8 行目に置いてあるのが 目印 です。事務所の名前は、初めて来る相手には言っても見えません。そこで学校を目印に立て、9 行目でその学校との位置だけを言っています。 行き先を名前で指せないなら、見えるもので指す。 10 行目と 11 行目が 確かめの一往復 に当たります。対話 A では A が言い直しましたが、こちらでは B が落ち合う場所をたずねています。道を間違えても、待っている人がいれば取り返せます。11 行目で待つ場所が、8 行目で立てたのと同じ学校であることも見てください—— 目印は 1 つに絞り、最後までそれを使う。 12 行目の礼は、対話 A の礼と違って「手伝ってくれて」の側です。A は道を教えただけでなく、待つとまで言っているからです。 言い回し 対話に出なかった言い方を足しておきます。下の 7 つは、たずねる側と教える側の両方から選びました。 英文 日本語訳 使いどころ Can you show me the way? [24] 道を教えてくれませんか。 案内そのものを頼む。「言う」ではなく「見せる」で頼む形 Are you sure this is the right way? [25] 本当にこの道で合ってる? 歩き出したあとで確かめる。相手の言った道を疑う形なので、身内にだけ使う Believe me, this is the right way. [26] 大丈夫この道でいいですから。 教える側の念押し。「私を信じて」が頭に付く Keep to the right. [27] 右側を通ってください。 曲がらずに右側を保てと言う。曲がる形との違いに注意 Walking from here is a bit far. [28] ここから歩いて行くにはちょっと遠いですよ。 歩きでは遠いと伝える。断定を避ける 2 語が入っている This way, please. [29] こちらへどうぞ。 連れて行きながら言う一言。動詞が 1 つも無い The school is across from our house. [30] 学校はうちの向かいにあります。 位置を「〜の向かい」で言う。道の名前が要らない 4 番目に印を付けておきます。「右側を保て」であって「右に曲がれ」ではありません。英語ではこの 2 つが別の動詞で、取り違えると分かれ道で反対に入ります。日本語では「右へ」の一言で両方まかなえるので、混ざりやすいところです。5 番目の「ちょっと」に当たる 2 語も見ておいてください。「遠い」と言い切ると相手は乗り物を探しにいきますが、この 2 語が入ると「歩けなくはない」に落ちます。 無い語をよけて言う 上で見た 4 つの穴を、600 語だけでどう埋めるかをまとめておきます。真ん中の列は Epoché の作例で、 間違いではありません 。英語として正しく、道案内ではむしろこちらがふつうです。ただ、この期の 600 語には無いので、いま使うと同じ語を返されて話が止まります。 言いたいこと 帯の外の語で言う形 この期の 600 語で言う形 すみません、と声をかける Excuse me. I am lost. [1] まっすぐ行った先です Go straight ahead. It's just down the street on your left. [5] 角を右に曲がってください Turn at the corner. Turn right at the light. [18] 駅はどこですか Where's the station? Where is the market? [3] ここから一マイルです It's one mile away. It's only ten minutes' walk from here. [10] 1 行目は用件そのものに、2 行目は道に、3 行目は信号に、4 行目は帯に残った行き先の名前に、5 行目は分に置き換えています。遠回りに見えますが、置き換えた形のほうが 相手を選びません 。距離の見当が付かない土地でも、分なら通じます。 言い