9.6 言い切る形・される形・させる形 — Epoché
この課でできるようになること 者 と 也 が作る言い切りを見つけられます。 為 と 所 のある形から、する側とされる側を取り出せます。 使 ・ 令 の後ろを、人と動作に分けて読めます。 三つの形を書き戻し、現代語の 是 ・ 被 ・ 让 でも書けます。 前提 :9.5。字の位置に加え、字の組を見ます。 この課で見る、三つの骨組み これまでは、一字がどんなまとまりを作るかを見てきました。今回は、字の組が文全体にどんな関係を作るかを読みます。言い切る形、される形、させる形の三つです。 この課では代表的な形に絞ります。長い文の中でも、主語や動作の関係を見つける練習をします。ほかの形は 9.7 以降で見ます。 関係 目印 見る位置 現代語で比べる形 言い切る 者 ・ 也 主語の後ろと文末 是 される 為 ・ 所 する側の前と動詞の前 被 させる 使 ・ 令 人と動作の前 让 字を丸暗記するだけでなく、誰について述べているかを確かめます。誰が実際に動くのかも、一つずつ確かめます。される文とさせる文では、文の主語と、後ろの動作をする人が違うことがあります。 者 と也で、言い切る 南冥者,天池也 [1] は、南の海とは天の池だ、という説明です。南の海を取り上げた後に 者 を置きます。天の池だという判断を也で結びます。 現代語の 是 のように、二つを結ぶ動詞を置いてはいません。名詞を並べ、 者 と也で関係を示しています。書き下しは「南冥なる者は、天池なり」です。 人物紹介にも同じ形があります。 陳勝者,陽城人也 [2] は、陳勝は陽城の人だという紹介です。誰の話を始めるかを先に出し、その人の出身を後ろで説明します。 ただし、 者 と 也 は必ず二字そろうとは限りません。この課では、二字がそろう形を入口にします。 也 が結ぶところを見つけ、どこまでが一つの判断かを読むことが大切です。 也 が無い場合を、決めつけない 也 を外すと、言い切りの終わりを知らせる明確な目印が一つ減ります。それでも、文脈から判断の文だと分かる場合はあります。「也が無ければ文が成り立たない」と覚えないようにしてください。 この課の書き下しでは 也 が「なり」に当たります。原文の字と日本語の結びを対応させると、判断が終わる位置が見つけやすくなります。 是 を、すぐ「である」と読まない 是知也 [3] は「是れ知なり」です。ここで 是 は、これ、という指示の語です。前に述べた、知っていることは知っているとし、知らないことは知らないとする態度を指しています。 現代語の 是 のつもりで、最初から「である」と読もうとすると、何について判断したのかが見えなくなります。原文では何を指しているか、文末の 也 はどこかを確かめます。 同じ字を知っていても、同じ働きとは限りません。この例の 是 は「これ」、言い切りの結びは也です。現代語の 是 を置く位置と分けて読んでください。 判断を否定する例は、 非常道 [4] です。常の道ではない、という判断に 非 を使います。帛書(馬王堆から出た古い写本)では 恆 の字で書かれます。 文編 2課 で分けた、動作の否定と判断の否定を思い出してください。 為 と所で、される側から述べる 其後楚日以削、數十年竟爲秦所滅 [5] は、その後、楚の領土が日ごとに削られ、数十年後についに秦に滅ぼされた、という叙述です。 爲秦所滅 [5] の 爲 の後ろには、滅ぼす側の秦があります。 所 の後ろには、滅ぼすという動詞があります。滅ぼされた側は、前に出ている楚です。 現代語の 被 を使う文と比べると、される側を主語にし、その後で誰に何をされたかを述べる関係が見えます。文の中で後から出た人や国が、いつもされる側だとは限りません。 爲 のすぐ後ろの秦を、滅ぼされた側と取り違えないでください。「する側は秦」「動作は滅ぼす」「される側は前に出た楚」と、役割を別々に言ってから訳します。 文編 4課 の 所 は、動作の向かう先を取り出していました。この受け身でも、その動作の対象となる側から述べています。ただし、字を一つずつ訳すだけでなく、 為 と 所 の組として読むことが必要です。 所 の無い、される形もある 而身爲宋國笑 [6] は、兎を待ち続けた人が、宋の国の笑いものになったという結びです。 所 はありませんが、笑う側は宋の人々、笑われる側はその人です。書き下しでは「笑ひと為る」と「なる」で読みますが、関係としては、その人は宋の人々に笑われる側です。 為 を見て、すべて受け身だと決めないようにします。前後から、何になるのか、誰に何をされるのかを読み分けます。今回は 為 と 所 のある形を中心に、この短い形も比べます。 使 ・ 令 の後ろに、人と動作を置く 天帝使我長百獸 [7] は、天帝が私を獣たちの長にした、という狐の言葉です。天帝がさせる側、 我 がその役目に就く側です。 使 の後ろを二つに分けると、 我 と 長百獸 です。前者はさせられる人、後者はする動作です。長はここでは長となるという働きで、長いという意味ではありません。 書き下しは「天帝我をして百獸に長たらしむ」です。日本語では、百獣の長にする、のように「する」が後ろに来ます。原文は、させる字を先に置き、その後に人と動作を続けます。 令 にも、人にある行動をさせる使い方があります。 使 と同じように、その後で誰が何をするかを探します。 陳勝の話では、呉広がわざと尉を怒らせ、 令辱之 [2] と仕向けます。させる字は 令 、させられる人は書かれていない尉、する動作は 辱 です。 之 は呉広自身を指すので、「(尉に)自分を辱めさせる」と読みます。させられる人が省かれていても、前の文脈から補えます。この前後の文は、 特別編 89篇 で確かめられます。 使 ・ 令 を見たら、後ろの組み立て(させられる人と動作)を確かめてください。 原因となる事柄も、主語になる 輮使之然也 [8] は、木をたわめた処置が、その木をそうさせたという説明です。ここでさせる側にあるのは、人の名ではなく、木をたわめることです。 之 は木を受け、 然 はそのようになることを表します。前に、まっすぐな木を車輪に曲げる話があります。そのため、そう、がどんな状態かを読み取れます。 この形は、誰かに命じた場面だけでなく、原因を述べるときにも使えます。何が原因で、何がどんな状態になったかを分ければ、人でない主語でも関係が追えます。 現代語へ移して、関係を確かめる 言い切りは 型編 2課 の 是 、受け身は 型編 25課 の 被 、使役は 型編 27課 の 让 と比べます。受け身と使役は、動作に関わる側の並びが手がかりです。 言い切りでは、 者 と也で区切った形を、現代語では 是 を置く形にします。同じ意味を保ちながら、どこにどんな語が必要になるかを確かめてください。 語表 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 者 提示の語 〜というものは ここでは話題を示す 南冥者 [1] 南の海とは 也 文末の語 〜である この課では判断を結ぶ 天池也 [1] 天の池である 南冥 名詞 南の海 話題として先に出す 南冥者 [1] 南の海とは 天池 名詞 天の池 南冥を説明する 天池也 [1] 天の池である 是 指示の語 これ この例では現代語の是と違う 是知也 [3] これが知るということだ 爲 受け身の語 〜に…される この原文では爲の字 爲秦所滅 [5] 秦に滅ぼされる 所 受け身を作る語 為と組んで受け身を示す 後ろに動詞が来る 爲秦所滅 [5] 秦に滅ぼされる 竟 副詞 ついに 出来事の結末 竟爲秦所滅 [5] ついに秦に滅ぼされる 滅 動詞 滅ぼす する側とされる側を分ける 爲秦所滅 [5] 秦に滅ぼされる 使 使役の動詞 〜させる 後ろに人と動作 使我長百獸 [7] 私を獣たちの長にする 令 使役の動詞 〜させる 呉広がわざと尉を怒らせる場面。させられる尉は省かれている 令辱之 [2] (尉に)自分を辱めさせる 長 動詞 長となる ここでは長いという性質でない。読みは zhǎng 長百獸 [7] 獣たちの長となる 百獸 名詞 さまざまな獣 ここでは獣全体 長百獸 [7] 獣たちの長となる 輮 動詞・名詞的な語 たわめる・たわめること ここでは処置を原因として述べる 輮使之然也 [8] たわめた処置がそうさせた 然 指示的な語 そのようである 前に出た状態を受ける 使之然也 [8] それをそのようにした 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 この鳥は、海が大きく動くと、南の果ての海へ移ろうとする。南の果ての海とは、天の池である。 陳勝は陽城の人で、字は渉という。呉広は陽夏の人で、字は叔という。 先生が言われた。「由よ、おまえに知るということを教えようか。知っていることは知っているとし、知らないことは知らないとする。それが知るということだ。」 道として言い表せる道は、変わることのない道ではない。名として名づけられる名は、変わることのない名ではない。 その後、楚は日ごとに領土を削られ、数十年たって、ついに秦に滅ぼされてしまった。 兎は二度と手に入らず、その身は宋の国の笑いものになった。 狐が言った。『あなたはわたしを食べてはいけません。天帝はわたしをあらゆる獣の長にしたのです。いまあなたがわたしを食べれば、天帝の命令にそむくことになります。わたしの言うことが信じられないなら、わたしがあなたのために先に立って歩きましょう。あなたはわたしの後ろについてきて、獣たちがわたしを見て逃げださずにいられるかどうか、見てごらんなさい。』 木がまっすぐで墨縄に合っていても、たわめて車輪にすると、その曲がり具合はぶんまわしの円に合うようになる。日にさらして乾かしても、二度とまっすぐに伸びないのは、たわめたことがそうさせているからである。 練習 形を選び、書き戻す 言い切る・される・させるの三つに分けてください。 南冥者,天池也 [1] / 竟爲秦所滅 [5] / 天帝使我長百獸 [7] / 輮使之然也 [8] 空欄に合う字を入れ、原文どおりに書いてください。 陳勝_,陽城人_ 空欄に合う字を入れ、原文どおりに書いてください。 竟_秦_滅 空欄に合う字を入れ、原文どおりに書いてください。 天帝_我長百獸 「秦の滅ぼす所と爲る」を、原文の順で書き戻してください。 「天帝我をして百獸に長たらしむ」を、原文の順で書き戻してください。 「南冥なる者は、天池なり」を、原文の順で書き戻してください。 現代語と役割を比べる 陳勝者,陽城人也 [2] を、是で結ぶ現代中国語にしてください。 爲秦所滅 [5] を現代語の 被 で言い換え、前の文脈の楚国を主語として書いてください。 天帝使我長百獸 [7] を現代語の 让 で言い換え、誰が誰を何にしたかを保ってください。 天帝使我長百獸 [7] を、させる字・させられる人・する動作に分け、日本語の並びと比べてください。 南冥者,天池也 [1] から 也 を取ると、どんな目印が減りますか。文が必ず成り立たなくなるかも考えてください。 前の語で三つの文を作る 語 打扫 ・ 伤害 ・ 导游 を一語ずつ使い、 是 ・ 被 ・ 让 の文を一文ずつ書いてください。誰が実際に動作をするかも確かめます。 語 窗子 ・ 治疗 ・ 护士 を一語ずつ使い、 是 ・ 被 ・ 让 の文を一文ずつ書いてください。誰が実際に動作をするかも確かめます。 語 冰箱 ・ 冷静 ・ 妻子 を一語ずつ使い、 是 ・ 被 ・ 让 の文を一文ずつ書いてください。誰が実際に動作をするかも確かめます。 語 修理 ・ 诚实 ・ 丈夫 を一語ずつ使い、 是 ・ 被 ・ 让 の文を一文ずつ書いてください。誰が実際に動作をするかも確かめます。 語 耳机 ・ 能干 ・ 阿姨 を一語ずつ使い、 是 ・ 被 ・ 让 の文を一文ずつ書いてください。誰が実際に動作をするかも確かめます。 言い切りの終わりまで読む 原文を▶で聞いてから音読してください。判断を結ぶ也で一区切りにし、書き下しの「なり」と位置を合わせます。受け身と使役は、誰が何をするかを考えながら読みます。 この課のまとめ 者 と 也 は、話題と判断の終わりを示します。 為 と 所 の形では、 為 の後ろにする側、 所 の後ろに動作があります。 使 ・ 令 の後ろは、させられる人と、その人の動作に分けます。 事柄を原因として述べる使役もあります。 次の課へ 次の9.7では、疑問と反語を読みます。答えを求める問いか、求めない問いかを、字の位置と前後の文脈から考えます。 答え 順に、言い切る・される・させる・させるです。最後は、処置という事柄を原因として述べています。 陳勝者,陽城人也 [2] 竟爲秦所滅 [5] 天帝使我長百獸 [7] 爲秦所滅 [5] 天帝使我長百獸 [7] 南冥者,天池也 [1] 陈胜是阳城的人。 楚国被秦国消灭了。 天帝让我当百兽的首领。 使 / 我 / 長百獸 です。日本語では「私を百獣の長にする」と、させる働きを表す語が後ろに来ます。 言い切りの終わりを示す目印が減ります。ただし文脈で判断の文だと分かる場合もあるので、 也 が無い文はすべて成り立たない、とは言えません。 他让我打扫屋子。 他被那句话伤害了。 她是这里的导游。 这是我房间的窗子。 我被护士批评了。 医生让我接受治疗。 冰箱被他卖了。 医生让我保持冷静。 她是我的妻子。 他让我修理桌子。 她是一个诚实的人。 她丈夫被公司开除了。 我的耳机被他偷了。 他是一个能干的人。 阿姨让我拿伞。 参考文献 莊子『莊子 逍遙遊』( 南冥者,天池也 、 南冥者 、 天池也 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 27篇 司馬遷『史記 陳涉世家』( 陳勝者,陽城人也 、 令辱之 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 89篇 孔子の弟子たち『論語 為政』( 是知也 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 4篇 老子『老子 第一章』( 非常道 )。パブリックドメイン(著者没後70年