11.6 論語 子罕 — 歲寒くして松柏の彫むに後るるを知る — Epoché
この篇でできるようになること 主語と述語の間の字を、目的語の代詞と区別できます。 寒さと気づきの順序を、二字の働きから説明できます。 句を名詞のまとまりにし、現代語でも内容を表せます。 前提 :11.5「論語 述而 — 三人行けば必ず我が師あり」。同じ代詞に見える字の、別の働きを読んでいきます。 寒くなって初めて この章は、 子曰 を含め、句読点を除くと十三字です。まず 歲寒 で寒い季節を示し、その後に知ることを述べます。 型編 8課 で見た、時を動作より前に置く順が手がかりになります。 然後 は、そうなって初めて、という順序を作ります。寒くなった後に、松や柏の性質に気づくのです。時を示す句を飛ばしてしまうと、ただ木の性質を説明しているだけのように読めます。 この二字は、前の条件を受け、気づきがその後に生まれることを示しています。寒さを経て違いが分かる、という順を保てば、句のつながりが追えます。 何を知るのか 松柏之後彫 の左側は、松や柏という主語です。右側は、しぼむのに後れる(ほかよりしぼむのが遅い)という述語です。二つの名詞を「の」でつないでいるのではありません。間の 之 は、主語と述語をまとめる働きです。 日本語で「松や柏のしぼむのが遅いこと」と言うと、まとまり全体を知る対象にできます。この原文も、そのまとまりを 知 の後ろに置いています。 文編 3課 で見た働きを、実際の短い章で確かめましょう。 部分 働き 読むときの見方 松柏 主語 しぼむのが遅いのは何か 之 主語と述語をまとめる 知る対象となるまとまりを作る 後彫 述語 どうなるのか 知松柏之後彫也 知る内容を含む句 知る動詞の後ろに、まとまり全体が続く この 之 が、まとまりの境目を示しています。 それを、と読む場合と比べる 特別編 1篇 の 時習之 や、 特別編 5篇 の 從之 では、 之 は動詞の後ろの代詞でした。それをおさらいする、それに従うという対象を受けます。 この章では、主語の後、述語の前にあります。位置も働きも違うため、「それ」を機械的に入れると文が崩れます。字を見つけたら、左に動詞があるのか、主語があるのかを先に確かめます。 現代語の 的 で名詞を修飾する働きとも、そのまま同じではありません。ここでは主語と述語をまとめています。日本語の「〜こと」という説明を足場にします。最終的には、原文のどこからどこまでが知る対象かを指せるようにしましょう。 松柏之後彫 を「松や柏は、それが……」と読まないでください。真ん中の字は、何かを指す代詞として置かれているのではありません。 木の名と、しぼむ字 柏 は、ここでは常緑の針葉樹を指します。コノテガシワなど、中国語でこの字を使う木です。柏餅の葉になる日本のカシワと、同じ木だと思わないようにしましょう。松と並べられていることを読む手がかりになります。 彫 は、しぼむ意味の 凋 として使われる通假字です。彫刻するという意味では、木についての文がつながりません。意味が通らないときには、別の字を借りている可能性も語釈で確かめます。 後彫 は、書き下しでは「彫むに後るる」と読み、ほかよりしぼむのが後れるという意味です。「最後まで枯れない」と覚えると、全く枯れないという意味まで広がるおそれがあります。しぼむのが遅いという違いを残し、松や柏の姿を読みましょう。 日本語で見慣れた字でも、木の種類や動作が同じとは限りません。カシワや彫刻を先に思い浮かべて終わらず、この章での意味へ戻ります。 書かれていない人の話 本文には、困難にあった人の性格が分かる、と直接は書かれていません。木の姿だけを置き、人のあり方に重ねられる比喩になっています。説明を足しすぎず、まず寒さと気づきの順を受け取りましょう。 人に重ねるなら、難しい場面に置かれて初めて分かる態度、と読めます。それは木の話から読み手が考えることであり、原文に人柄という語があるわけではありません。書かれたことと、そこから読み取ることを分けると、短い章の余地が見えてきます。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 歲 名詞 年・季節 ここでは寒い季節の場面 歲寒 季節が寒くなる 寒 形容詞 寒い ここでは季節が寒くなる意の述語 歲寒 季節が寒くなる 然後 接続の語 そうなって初めて 気づきの順序を示す 然後知 そうなって初めて知る 松柏 名詞 松と常緑の針葉樹 柏は日本のカシワと別 松柏之後彫 松や柏のしぼむのが遅いこと 之 助詞 主語と述語をまとめる ここではそれという代詞ではない 松柏之後彫 松や柏のしぼむのが遅いこと 彫 動詞 しぼむ 凋の通假字 後彫 しぼむのに後れる 練習 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 歲寒,__知松柏_後彫_ 松柏後彫 の主語と述語の間に一字を入れ、知る対象になるまとまりを書いてください。 前の問いで作ったまとまりを、知る動詞の後に置き、本文の結びまで書いてください。あわせて、一字を入れる前の 松柏後彫 と入れた後とで、何が違うかを書いてください。 歲寒,然後知松柏之後彫也 を、時を先に置き、寒くなって初めて気づく順を保って現代語にしてください。 「歲寒くして、然る後に松柏の彫むに後るるを知るなり」を、本文の字の順で書いてください。 時習之 ・ 從之 と 松柏之後彫 の 之 を、代詞と主語・述語をまとめる働きに分けてください。 しぼむのがほかより遅いことと、最後まで枯れないことは、どう違いますか。 冬の木を見た場面を、寒さと松の姿の二つの短い現代語の文で書いてください。 後彫 の 彫 を何の字として読むかを、書き下しから書いてください。 音読:▶ で 歲寒 、 然後 、 知松柏之後彫也 の手本を聞き、この三つに区切って読みます。順序を示すまとまりの前で長めに間を置き、暗誦してみましょう。 この篇のまとめ 時を先に受け取り、気づく順を読みます。知る対象は、主語と述語をまとめた句です。字の形だけで意味を決めず、木の名と通假字も確かめます。 次の篇へ 次の11.7では、自分の望まないことを人にしないという章を読みます。名詞のまとまり、禁止、相手を結ぶ語を追います。 答え 歲寒,然後知松柏之後彫也 松柏之後彫 知松柏之後彫也 。入れる前の 松柏後彫 は一つの文です。入れた後は、 知 の対象になるまとまりです。 天冷后,才知道松柏最后凋谢。 (寒くなってから、やっと松柏がいちばん後にしぼむと分かる。) 歲寒,然後知松柏之後彫也 時習之 ・ 從之 は動詞の後ろの代詞です。 松柏之後彫 は主語と述語の間で、まとまりを作ります。 しぼむのが遅いは、ほかの木より後にしぼむことです(書き下しの「彫むに後るる」)。最後まで枯れないは、しぼまないことまで言ってしまいます。 天很冷。 (とても寒い。) 可是松树很绿。 (でも、松は青々としている。) 書き下しは「彫むに後るる」で、 彫 を「しぼむ」と読みます。 彫 は 凋 (しぼむ)の通假字として読みます。 参考文献 孔子の弟子たち『論語 子罕』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文は抄。 出所: 当館所蔵の文書