8.49 黒馬物語(1)— 語り手が馬である — Epoché
この篇でできるようになること ★ 語り手が人間でない ことが、書き方をどう変えるかを言える。 母馬の助言を、命令文の並びとして読める。 物語が世の中を動かした例を一つ知る。 帯の外の語を、語釈を見ながら読み通せる。 前提 : 8.48 まで。型は 3.24 まで。語は 4.36 まで。 読む前に アンナ・シュウェル( Anna Sewell 、1820〜1878)はイギリスの作家です。『黒馬物語』は、彼女が書いた ただ一つの本 で、出版の五か月後に亡くなりました。 この本には目的がありました。 馬の扱いを変えること です。当時のイギリスでは、馬は道具として使われ、苦しませる器具(首を高く固定する手綱)がふつうに使われていました。シュウェルはそれをやめさせたかった。 そして、 この本は実際に世の中を動かしました 。読んだ人が馬の扱いを改め、法律も変わりました。 物語が世の中を動かした例 として、よく挙げられる一冊です。 固有名詞 何を指すか Darkie ダーキー。語り手の子馬のころの呼び名 Duchess ダッチェス。語り手の母馬の名 Dick ディック。石を投げる少年 Daniel ダニエル。馬の世話をする男 Newmarket ニューマーケット。イングランドの競馬の町 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。全部で 783 語、段落は 11 つです。 The first place that I can well remember was a large pleasant meadow with a pond of clear water in it. 一文めを読んだ時点では、 語り手が馬だとは分かりません 。どこで分かるか、探しながら読んでください。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 わたしがよく覚えているいちばん初めの場所は、広くて気持ちのよい牧草地で、そこには澄んだ水の池がありました。木かげをつくる木が何本か池の上にかぶさるように傾き、深いほうの端にはイグサやスイレンが生えていました。片側では生け垣越しに耕された畑が見え、もう片側では門越しに主人の家が見えました。家は道ばたに建っていました。牧草地のいちばん上にはモミの木立があり、いちばん下には、切り立った土手が上にかぶさるように迫る、さらさら流れる小川がありました。 幼いころ、わたしはまだ草が食べられなかったので、母の乳を飲んで暮らしていました。昼間は母のそばを走り、夜は母にぴったり寄りそって横になりました。暑いときには、木かげの池のそばに一緒に立っていたものですし、寒いときには、木立の近くに暖かくて居心地のよい小屋がありました。 わたしが草を食べられるくらい大きくなると、すぐに母は昼間は仕事に出かけ、夕方に帰ってくるようになりました。 牧草地には、わたしのほかに六頭の若い馬がいました。みなわたしより年上で、中にはおとなの馬とほとんど同じくらい大きいものもいました。わたしはよく彼らと一緒に走り、とても楽しく過ごしました。みんなで一緒に、全速力で野原をぐるぐる駆け回ったものです。ときには、かなり乱暴な遊びになることもありました。彼らは駆けるだけでなく、しょっちゅうかみついたり蹴ったりしたからです。 ある日、蹴り合いがずいぶん激しくなったとき、母がいなないてわたしを呼び寄せ、こう言いました。 「これから言うことをよく聞いてほしいの。ここに住んでいる若い馬たちは、とてもいい子たちよ。でも荷馬車馬の子だから、もちろん行儀を習っていないの。あなたは育ちも生まれもいいのよ。お父さんはこのあたりでは名が通っているし、おじいさんはニューマーケットの競馬で二年続けて優勝杯を取ったわ。おばあさんは、わたしが知っているどの馬よりも気だてがやさしかったし、あなたはわたしが蹴ったりかみついたりするのを見たことがないと思うわ。あなたが穏やかでよい馬に育って、悪い癖を決して覚えないでほしいの。仕事は進んでしなさい。速足のときは足をよく上げなさい。そして遊びでも、決してかみついたり蹴ったりしてはいけませんよ。」 わたしは母の忠告を一度も忘れたことがありません。母が賢い年寄りの馬だということはわかっていましたし、主人も母をとても大事に思っていました。母の名はダッチェスでしたが、主人はよく母をペットと呼びました。 わたしたちの主人は、善良で親切な人でした。わたしたちによい食べ物と、よい寝床と、やさしい言葉をくれました。自分の小さな子どもたちに話しかけるのと同じくらいやさしく、わたしたちに話しかけました。わたしたちはみな主人が好きで、母は主人をとても愛していました。母は門のところに主人を見つけると、うれしそうにいなないて、速足で主人のところへ駆け寄りました。主人は母をなでたりさすったりして、「やあ、ペットばあさん、おまえの小さなダーキーは元気かい?」と言いました。わたしはつやのない黒い色だったので、主人はわたしをダーキーと呼んだのです。それから主人はわたしにパンをひとかけらくれました。それはとてもおいしいものでした。ときには母にニンジンを持ってきてくれることもありました。馬はみな主人のところへ寄っていきましたが、わたしたち母子がいちばんのお気に入りだったと思います。市の立つ日には、母がいつも軽い一頭立ての二輪馬車で主人を町へ乗せていきました。 ディックという畑を耕す少年がいて、ときどきわたしたちの野原に入ってきては、生け垣のブラックベリーを摘んでいました。食べたいだけ食べてしまうと、少年は自分で「遊び」と呼んでいることを若い馬たちを相手にするのでした。石や棒を投げつけて、わたしたちを駆けさせるのです。わたしたちはあまり気にしませんでした。駆けて逃げればよかったからです。けれども、ときには石が当たって痛い思いをすることがありました。 ある日、少年がこの遊びをしていたとき、主人が隣の畑にいることに気づいていませんでした。けれども主人はそこにいて、何が起きているのかを見ていたのです。主人はあっという間に生け垣を跳び越え、ディックの腕をつかんで、耳のあたりをひっぱたきました。少年は痛さと驚きで大声を上げました。わたしたちは主人の姿を見るとすぐに、何が起きているのかを見ようと、速足で近くへ寄っていきました。 「悪い子だ!」と主人は言いました。「悪い子だ! 若い馬を追い回すなんて。これが初めてでも二度目でもないが、これを最後にする。さあ、給金を持って家へ帰りなさい。もうおまえを農場で使うつもりはない。」こうして、わたしたちは二度とディックを見ることはありませんでした。馬の世話をしていたダニエルじいさんも、主人と同じようにやさしい人でしたから、わたしたちは恵まれていました。 語釈 帯の外の語は 55 語です。下に 全部 出します。 馬の動きと、牧草地のもの の語が多いことに気づいてください。 語(品詞) 意味 注 Daniel en 名 ダニエル。馬の世話をする男 Darkie en 名 ダーキー。語り手の呼び名 Dick en 名 ディック。石を投げる少年 Duchess en 名 ダッチェス。母馬の名 Newmarket en 名 ニューマーケット。競馬で知られる町 Pet en 名 ペット。主人が母馬を呼ぶ愛称 bite en 動 かむ The dog wagged its tail and gave a gentle bite to the toy. その犬はしっぽを振り、おもちゃに軽くかみつきました。 blackberries en 名 きいちご(複数) We picked ripe blackberries along the sunny hedge all afternoon. 私たちは午後じゅう日当たりのよい生け垣沿いで熟したきいちごを摘みました。 bread en 名 パン She sliced fresh bread for breakfast every single morning. 彼女は毎朝焼きたてのパンを切り分けました。 bred en 動 育てた( breed の過去分詞) This strong horse was bred on a quiet farm in the countryside. この丈夫な馬は田舎の静かな農場で育てられました。 brook en 名 小川 A cool brook ran along the edge of the green meadow. 冷たい小川が緑の牧草地の端に沿って流れていました。 carrot en 名 にんじん She gave the horse a fresh carrot as a small treat. 彼女は馬にちょっとしたごほうびとして新鮮なにんじんをあげました。 cart en 名 荷車 The old farmer pulled a wooden cart loaded with hay. その老農夫は干し草を積んだ木の荷車を引きました。 chase en 動 追いかける The puppy loves to chase birds around the garden. その子犬は庭で鳥を追いかけるのが大好きです。 colts en 名 若い雄馬(複数) Young colts ran playfully across the wide green meadow. 若い雄馬たちが広い緑の牧草地を元気よく走り回りました。 daytime en 名 昼のあいだ The old dog usually sleeps quietly during the daytime. その老犬はたいてい昼のあいだ静かに眠っています。 dull en 形 くすんだ The sky turned a dull gray before the heavy rain began. 激しい雨が降り出す前に空はくすんだ灰色になりました。 fir en 名 もみの木 Tall fir trees lined both sides of the mountain path. 背の高いもみの木が山道の両側に並んでいました。 fond en 形 be fond of で「好んでいる」 She has always been fond of long walks in the countryside. 彼女はいつも田舎での長い散歩を好んでいます。 gallop en 動 全速力で走る The young horse loved to gallop freely across the open field. その若い馬は広い野原を自由に全速力で走るのが大好きでした。 gate en 名 門 He carefully closed the gate behind the grazing sheep. 彼は草を食む羊の後ろで門を注意深く閉めました。 gentle en 形 おとなしい The old horse was gentle enough for the small children to ride. その老馬は小さな子どもたちが乗れるほどおとなしいものでした。 gig en 名 二輪の軽馬車 The farmer hitched the small gig to his favorite horse. 農夫はお気に入りの馬に小さな二輪の軽馬車をつなぎました。 grandfather en 名 祖父 My grandfather taught me how to plant vegetables in the garden. 祖父は私に庭で野菜を植える方法を教えてくれました。 grandmother en 名 祖母 My grandmother tells wonderful stories about her childhood on the farm. 祖母は農場での子ども時代について素晴らしい話をしてくれます。 grass en 名 草 The horses grazed peacefully on the fresh green grass. 馬たちは新鮮な緑の草をのどかに食べていました。 grove en 名 木立 A small grove of trees offered shade beside the pond. 小さな木立が池のそばに日かげを提供していました。 hedge en 名 生け垣 A thick hedge separated the garden from the busy road. 厚い生け垣が庭と忙しい通りを分けていました。 joy en 名 喜び The children shouted with joy when they saw the new puppy. 子どもたちは新しい子犬を見て喜びの声を上げました。 kindly en 副 やさしく The farmer kindly offered the tired traveler a place to rest. 農夫は疲れた旅人にやさしく休む場所を提供しました。 lilies en 名 すいれん(複数) White lilies floated gently on the surface of the pond. 白いすいれんが池の水面にそっと浮かんでいました。 lodging en 名 寝る場所 The travelers found simple lodging at a small country inn. 旅人たちは小さな田舎の宿で簡単な寝る場所を見つけました。 meadow en 名 牧草地 Horses grazed quietly in the wide meadow near the farmhouse. 馬たちは農家の近くの広い牧草地で静かに草を食んでいました。 neigh en 動 いななく A loud neigh echoed across the quiet farmyard at dawn. 夜明けに大きな馬のいななきが静かな農家の庭に響きました。 overhung en 動 (枝が)覆いかぶさっていた Thick branches overhung the narrow path