ルサンチマンと価値の反転 — Epoché
解説 ルサンチマンが価値を生む 『道徳の系譜』第一論文第10節。ルサンチマンは、ここでは行動で反応できず、想像の復讐で埋め合わせる感情として描かれる。 原文:Der Sklavenaufstand in der Moral beginnt damit, dass das Ressentiment selbst schöpferisch wird und Werthe gebiert: das Ressentiment solcher Wesen, denen die eigentliche Reaktion, die der That versagt ist, die sich nur durch eine imaginäre Rache schadlos halten. 独自訳:道徳における奴隷の反乱は、ルサンチマンそれ自体が創造的になり、価値を生み出すことから始まる。それは、本来の反応、つまり行動による反応を妨げられ、想像の復讐だけで埋め合わせをする者たちのルサンチマンである。 単なる悲しみや不快感の全てを、この言葉にまとめない。 出典1 肯定から始めるか、否定から始めるか 続く一文は、価値づけの出発点を対比する。 原文:Während alle vornehme Moral aus einem triumphirenden Ja-sagen zu sich selber herauswächst, sagt die Sklaven-Moral von vornherein Nein zu einem „Ausserhalb“, zu einem „Anders“, zu einem „Nicht-selbst“: und dies Nein ist ihre schöpferische That. 独自訳:高貴な道徳は全て、自分自身への勝ち誇った肯定から育つ。それに対し、奴隷道徳は初めから「外部」「異なるもの」「自分でないもの」に否を言う。そして、この否定が、その創造的な行為なのである。 「奴隷道徳」はニーチェの分類名。現代の人々を単純に強者と弱者へ振り分ける基準にはしない。 出典1 誰の説明として読むか ここは第10節のニーチェ側の叙述であり、直前の第9節で引用された「自由精神」の発言とは分ける。 価値が生じる過程の説明と、その価値が誤りだという論理的な証明は別。この二文だけで道徳の歴史全体が証明されたとはしない。 出典1 ニーチェが対比する、価値づけの出発点 本文の分類名 出発点 対比の要点 高貴な道徳 自分自身への肯定 自分に「よい」を与える 奴隷道徳 自分でないものへの否定 否定が価値を生む行為になる 本人の論争的な説明を整理した表。教材が奴隷制や、特定の人々への決めつけを支持する表ではない。 参考文献 [1] Friedrich Nietzsche『道徳の系譜』1892年第2版、第一論文§10。印刷16頁から本教材が転記・日本語訳。画像・現代訳は非転載。「ニーチェ『道徳の系譜』第一論文§10(1892年第2版、16頁)」。 出典 本教材の独自訳・解説 CC BY-SA 4.0(ニーチェ原文)