10.3 「中国語」は一つではない — 七大方言 — Epoché
この課でできるようになること 七つの方言区分の名前を、主な地域と組にして言えます。 話し言葉が離れていても、文字が共通の手がかりとなることを説明できます。 日本語の音読みから、昔の音の終わり方を考えられます。 自分や人が話せる言葉を、中国語で短く言えます。 前提 :10.2。食べ物や暮らしの次は、話す言葉の地域差です。ここで読む七つの名前は共通語での呼び方で、それぞれの方言そのものを話す練習ではありません。 同じ「方言」でも隔たりが違う 中国語の 方言 は、日本語の方言と同じ字です。しかし、少し発音が違うだけと考えると実際の隔たりを見誤ります。北京と広州の土地の言葉は、それぞれ相手の言葉を知らずに話せば、互いに通じないほど違います。 それでも「中国語」という大きな名前で扱われてきた背景には、共通の歴史と文字があります。話して通じることと、同じ文字で読めることを分けて考えるのが、この課の出発点です。 日本語の方言も、どれでも容易に理解できるとは限りません。「方言」という名前だけから、聞けば分かる程度の差だと決めないでください。名前の分類と、実際に通じるかどうかは別の問いです。 七つのまとまりと地域 分け方は一つだけではありません。ここでは七つに分ける数え方を使います。官話は北から西南まで広く分布し、ほかの六つは南に細かく分かれています。地図を、北の広いまとまりと南の寄せ木のようなまとまりとして見ます。 名前 主な地域 官话 北方から西南まで 吴语 上海・蘇州・杭州付近 粤语 広東・香港・マカオ 闽语 福建・台湾・海南など 客家话 広東東部・福建西部・江西南部など、移住の歴史に沿って各地に点在 湘语 湖南 赣语 江西 北の広い平原と、南の山や川で分かれた土地の違いは、言葉の分布を見る手がかりにもなります。ただし、七つの区分の内側にも差があります。とくに閩語は内部の違いが大きく、同じ区分なら全部通じるとは限りません。 粤语 を日本語で「えつご」と呼べても、中国語で名前を言えるとは限りません。名前に付くルビの拼音で音節と声調を確かめ、共通語で名前を読んでください。名前の読みと、その土地で話される言葉を区別します。 声調と、音の終わり方 共通語では、音編で練習した四つの声調を使います。広東語などには、それより多くの声調の区別があります。数え方にも違いがあります。そのため、この課では数の暗記よりも、共通語の区別だけでは聞き分けられない音があることを押さえます。 南の言葉には古い音の区別が残る一方、北では別々だった音が一つになったものがあります。新しい形が劣っている、古い形が優れているという話ではありません。それぞれの言葉が違う変化をしてきたと考えます。 昔の中国語には、音の終わりで -k・-t・-p のように息を止める音節がありました。この終わり方に関わる区別を入声と呼びます。共通語にはこの三つの終わりの子音が残っていませんが、広東語などでは残っています。 日本語の音読みを手がかりにする 日本語の音読みで「く・つ・き・ち・ふ」で終わる読みがあります。これらは、昔の終わりの子音を探す手がかりになります。今の読みだけでなく、古い仮名遣いを見ないと分からない字もあります。すべてを一つの機械的な規則で判定するのでなく、音の名残を見る目安にしましょう。 字 日本語の音読み 学 がく 立 りつ 石 せき 国 こく 学の日本語の「がく」には最後の「く」があり、広東語の読みも -k で終わります。石も日本語は「せき」、広東語は -k で終わります。一方、立は日本語では「つ」で終わりますが、広東語では -p で終わります。日本語の仮名と昔の終わりの子音は、一対一で対応するわけではありません。 日本語の「りつ」から、共通語の立の後ろへ t を足さないでください。字に付くルビの共通語の拼音には、末尾の -k・-t・-p がありません。昔の音を考える作業と、今の共通語を発音する作業を分けます。 「答」は今の音読みでは「とう」ですが、古い仮名遣いの「たふ」が手がかりになります。練習では、今見えている終わり方だけで除かないようにしましょう。一方、確かめられない古い読みを想像して足すこともしません。 アモイとカントンの音 アモイは厦門の呼び名です。地元の閩南語の音をヨーロッパ人が Amoy と写し、それを通じて日本語にも入りました。共通語での 厦门 の読みと同じ音ではありません。 カントンは広東に関わる呼び名で、広東語の音が Canton と写されました。日本語のカタカナの地名には、このように共通語以外の土地の音が伝わったものがあります。 字の日本語での呼び方と、カタカナで定着した呼び名を分けて覚えます。今学んでいる共通語の読みも、それらと分けます。異なる呼び名を見ても、別の土地だとすぐ決めず、どの言葉の音をもとにした名前かを考えてみてください。 文字がつなぐもの 音が違っていても、同じ字や書き言葉を読めれば、意味を伝える手がかりになります。話し言葉の隔たりを越えて、共通の文字が人々をつないできました。日本人と中国人が漢字を書いて意思を伝える筆談にも、同じような働きがあります。 ただし、漢字が同じなら何でも誤解なく通じるわけではありません。この課程でも、日中で意味が違う語を見てきました。文字は大切な手がかりですが、語の意味や使い方まで確認する必要があります。 書き言葉の歴史には、話し言葉の歴史と重なる面も、別の面もあります。今は、音が通じないことと、文字を使ったやりとりができることを区別しておきましょう。 話せる言葉を伝える 我会说中文。 [1] 私は中国語を話せます。習ってできることを表す 会 が、話す動詞 说 の前にあります。言語名は話す動詞の後ろです。否定は 不会说 というまとまりで使います。 你会说什么语言? [2] あなたは何語を話せますか。何の言葉かを尋ねる部分が、言語名の位置にあります。地域の名前を知っていることと、その言葉を話せることも区別して答えましょう。 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 方言 名詞 地域の言葉 中国語では大きく隔たる言葉も含む 说方言 方言を話す 官话 名詞 官話 北方から西南まで広い 说官话 官話を話す 吴语 名詞 呉語 上海など 会说吴语 呉語が話せる 粤语 名詞 広東語(日本語では「えつご」とも) 広東・香港など 会说粤语 広東語が話せる 闽语 名詞 閩語 福建など 会说闽语 閩語が話せる 客家话 名詞 客家語 各地に分布する 说客家话 客家語を話す 湘语 名詞 湘語 湖南 会说湘语 湘語が話せる 赣语 名詞 贛語 江西 会说赣语 贛語が話せる 中文 名詞 中国語 我会说中文。 [1] 中国語が話せます。 语言 名詞 言語 你会说什么语言? [2] 何語が話せますか。 練習 音読:地域の表の七つの名前を共通語で読みます。次に 方言 という語も読み、各名前と地域を組にして確認します。 実文 我会说中文。 [1] を変形して、①私は英語を話せます、②彼は広東語を話せません、③私は中国語を話せません、の三文を書いてください。 语言・中文・英语・同学 から二語以上を使い、自分や同級生が話せる言葉について二〜三文書いてください。 表の地域対応を使い、上海の言葉は _语 、広東の言葉は _语 、福建の言葉は _语 と、空欄に字を入れてください。 吴・粤・闽 から選び、完成した名前を読みます。 音読みの表を隠し、 学・立・石・国 の日本語の音読みを書いてください。次に字のルビの拼音と比べ、共通語に末尾の -k・-t・-p があるか確かめます。 国・花・月・山・竹・答から、入声だった字を選んでください。「答」は本文で見た古い仮名遣いも使って考えます。 アモイとカントンは、それぞれどの土地の言葉の音から来ましたか。日本語で一文ずつ答えてください。 話すと通じない言葉が一つの中国語として扱われてきた背景を、文字に触れて日本語で説明してください。 戻り語 語編 7課 、 語編 6課 、 語編 5課 で学んだ語を使って書きます。 中国語で知り合った人に、学校・食事・日常生活の話をするつもりで、指定語ごとに一文作ります。短い文から始めてください。 高中・年级・开学 :一語ずつ使い、相手に伝える学校・食事・暮らしの文を三つ書いてください。 放学・教师・面包 :一語ずつ使い、相手に伝える学校・食事・暮らしの文を三つ書いてください。 牛奶・早餐・晚餐 :一語ずつ使い、相手に伝える学校・食事・暮らしの文を三つ書いてください。 做饭・习惯・洗澡 :一語ずつ使い、相手に伝える学校・食事・暮らしの文を三つ書いてください。 全身・个子・健康 :一語ずつ使い、相手に伝える学校・食事・暮らしの文を三つ書いてください。 この課のまとめ 七つはこの課で使う分け方で、各区分の内側にも差があります。 名前を共通語で読むことと、その方言を話すことは別です。 日本語の音読みは古い音の手がかりですが、今の共通語へ末尾の子音を足しません。 文字が人々をつなぐ一方、同じ字でも意味の確認は必要です。 次の課へ 次の10.4「漢族と55の少数民族」では、公式の民族の数え方を見ます。人民元の紙幣に並ぶ文字も手がかりにします。 答え 我会说英语。/他不会说粤语。/我不会说中文。 。問いの実文の言語・主語・肯定と否定を替えた形です。 例: 我会说中文。 [1] 我的同学会说英语。 (私は中国語を話せます。同級生は英語を話せます。)自分たちが話せる言葉に合わせて替えてください。 吴语・粤语・闽语 。地域の代表的な対応で、そこに住む全員が同じ言葉だけを話すという意味ではありません。 がく・りつ・せき・こくです。共通語の拼音には、末尾の -k・-t・-p はありません。 国・月・竹・答です。国のこく、月のげつ、竹のちく、答の古い仮名遣いたふが手がかりです。花と山は、この例では入声ではありません。 アモイは厦門の閩南語の音、カントンは広東語の音に由来する呼び名です。 共通の歴史に加え、音が異なっても文字や書き言葉を通じてやりとりできたことが背景です。文字が同じなら意味も必ず同じ、とは説明しません。 汤姆是个高中生。 [3] (トムは高校生です。)/ 她是个二年级学生。 [4] (彼女は二年生です。)/ 大学四月开学。 [5] (大学は四月に始まります。)。 学校3点半放学。 [6] (学校は三時半に終わります。)/ 他是个教师。 [7] (彼は教師です。)/ 我吃面包。 (私はパンを食べます。)。 我喝了牛奶。 [8] (私は牛乳を飲みました。)/ 我还没吃早餐。 [9] (私はまだ朝食をとっていません。)/ 昨天的晚餐是鱼。 [10] (昨日の夕食は魚でした。)。 我不擅长做饭。 [11] (私は料理が得意ではありません。)/ 我习惯早起。 [12] (私は早起きに慣れています。)/ 我每晚洗澡。 [13] (私は毎晩入浴します。)。 她全身都疼。 [14] (彼女は全身が痛いです。)/ 她个子很高。 [15] (彼女は背が高いです。)/ 吸烟有害健康。 [16] (喫煙は健康に有害です。)。 参考文献 Tatoeba 文 #1476168( 我会说中文。 )。簡体字に改めた。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/1476168 Tatoeba 文 #6047131( 你会说什么语言? )。簡体字に改めた。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/6047131 Tatoeba 文 #872139( 汤姆是个高中生。 )。簡体字に改めた。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/872139 Tatoeba 文 #1363308( 她是个二年级学生。 )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/1363308 Tatoeba 文 #12686379( 大学四月开学。 )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/12686379 Tatoeba 文 #375357( 学校3点半放学。 )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/375357 Tatoeba 文 #810682( 他是个教师。 )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/810682 Tatoeba 文 #770691( 我喝了牛奶。 )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/770691 Tatoeba 文 #805877( 我还没吃早餐。 )。簡体字に改めた。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/805877 Tatoeba 文 #12686386( 昨天的晚餐是鱼。 )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/12686386 Tatoeba 文 #9989858( 我不擅长做饭。 )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/9989858 Tatoeba 文 #860933( 我习惯早起。 )。簡体字に改めた。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/860933 Tatoeba 文 #707281( 我每晚洗澡。