6.47 李白『春夜宴從弟桃花園序』 — Epoché
この篇でできるようになること 対句を五組探し、対応する語を書き出せます。 古い判断、修飾、たとえ、手段の言い方を現代語にできます。 文章の骨を三つにまとめられます。 語の意味だけでなく、故事の知識が必要な所を見分けられます。 前提 :6.46『論語』里仁篇。中国語の本文は、別の読書ページで読みます。 詩をまとめる前の言葉 李白が、春の夜に年下のいとこたちと園で宴を開いたときの序文です。序は前書きのことで、ここでは宴で作った詩をまとめる前置きに当たります。 ここでも簡体字の本文を使い、字形とは別に、古い言葉の組み立てを読みます。 天地や長い時間の話から始まり、春の景色、親族の集まり、詩と酒へ進みます。身近な宴だけを述べるのでなく、大きな世界の中へ一夜を置く文章です。 対句の片方から、もう片方へ 対句は、二つの句を同じような形で並べる仕掛けです。冒頭の 夫天地者,万物之逆旅也;光阴者,百代之过客也 では、天地と時間が対になります。天地を宿屋、時間を旅人にたとえ、二つを同じ形に収めています。 片方で「何は、何である」という形を取れれば、もう片方でも、同じ位置に来る語の役割を予想できます。難しい語を全部ばらばらに処理するより、形を先に受け取って読めます。 冒頭の 夫 は、夫婦の「夫」ではありません。「そもそも」と文を起こす語なので、「夫の天地」とはつなぎません。 前の『論語』の抄では、章ごとの短い言葉を受け取り、離れた章を結びました。この序文は、一続きの流れです。その中に、対応する句が次々と現れます。同じ漢文でも、読む足取りが違います。 今の言い方を手がかりにする 者 ・ 也 で挟む判断の形は、 型編 2課 の 是 を使う文へ言い換えて考えられます。本文の天地と宿屋、時間と旅人の関係を残し、二つの判断を並べます。 桃花之芳园 の 之 は、ここでは 型編 4課 の 的 に当たります。桃の花と園の関係をつなぐ字です。 浮生若梦 の 若 はたとえで、 像 と 一样 を使う 型編 21課 の形が手がかりになります。 为欢几何 は、楽しめるのはどれほどかという問いです。楽しめる時間はわずかだ、という思いを問いの形で述べています。 几何 を数学の分野名だと思うと、この文の流れをつかめません。 手段が後ろに来る句 阳春召我以烟景 は、春が私を招くという動作を述べます。その後に、かすむ景色で、という手段を続けます。現代語では 用 の後に手段を置き、そのまとまりを動詞の前へ出して考えます。 漢文を日本語へ返して読む順だけで覚えません。本文では「招く・私を・かすむ景色で」の順に意味を受け取り、現代語へ替えるときに手段の位置を動かします。 飞羽觞而醉月 の 而 は、杯を飛ばすことと月に酔うことをつなぎます。二つの動作を同じ宴の中で重ねて読む手がかりです。 語表 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 夫 助詞 そもそも ここでは文を起こす語 夫天地者 そもそも天地は 天地 名詞 天と地 世界の大きな枠 夫天地者 そもそも天地は 万物 名詞 あらゆるもの 天地の中のもの 万物之逆旅也 万物の宿屋である 逆旅 名詞 宿屋 逆向きの旅ではない 万物之逆旅也 万物の宿屋である 光阴 名詞 時間 光と影から時をいう 光阴者 時間は 百代 名詞 幾世代もの長い時 多くの世代 百代之过客也 百代にわたる旅人である 过客 名詞 通り過ぎる旅人 とどまらない客 百代之过客也 百代にわたる旅人である 浮生 名詞 はかない人生 浮かぶような生 而浮生若梦 そしてはかない生は夢のよう 若 動詞 〜のようだ ここではたとえ 浮生若梦 はかない生は夢のよう 几何 疑問詞 どれほど ここでは幾何学ではない 为欢几何 楽しめるのはどれほどか 秉烛 句 ろうそくを手にする 灯りを持つ 古人秉烛夜游 昔の人は灯りを手に夜も遊んだ 良 副詞 まことに ここでは本当にという意味 良有以也 まことにわけがある 况 接続詞 まして さらに強めて続ける 况阳春召我以烟景 まして春はかすむ景色で私を招く 阳春 名詞 うららかな春 春の様子 阳春召我以烟景 春はかすむ景色で私を招く 召 動詞 招く 呼び寄せる 召我以烟景 かすむ景色で私を招く 烟景 名詞 かすむ景色 煙そのものではない 召我以烟景 かすむ景色で私を招く 大块 名詞 大いなる自然 ここではかたまりの大小ではない 大块假我以文章 自然は私に美しい彩りを貸してくれる 假 動詞 貸す・与える ここでは偽物の意味ではない 假我以文章 私に美しい彩りを貸してくれる 文章 名詞 彩り・美しい模様 書いた文章ではなく、自然の彩りや模様 大块假我以文章 自然は私に美しい彩りを貸してくれる 芳园 名詞 かぐわしい園 花の咲く園 会桃花之芳园 桃花の咲く園に集まる 天伦 名詞 親族のつながり ここでは親族が集うこと 序天伦之乐事 親族が集う楽しいことを記す 群季 名詞 年下のいとこたち 実の弟に限らない 群季俊秀 年下のいとこたちは優れている 俊秀 形容詞 才があって優れる 人への評価 群季俊秀 年下のいとこたちは才があって優れる 惠连 固有名詞 謝惠連 詩才で知られた人 皆为惠连 みな謝惠連のようだ 惭 動詞 恥じる 及ばないことを恥じる 独惭康乐 ひとり康楽に及ばぬことを恥じる 康乐 固有名詞 謝康楽・謝霊運 ここでは人の呼び名 独惭康乐 ひとり康楽に及ばぬことを恥じる 幽赏 名詞 静かな観賞 景色を味わうこと 幽赏未已 静かな観賞はまだ終わらない 已 動詞 終わる ここではやむこと 幽赏未已 静かな観賞はまだ終わらない 高谈 名詞 高らかな談論 話し合うこと 高谈转清 談論はいよいよ澄む 琼筵 名詞 美しい宴の席 玉のように美しい席 开琼筵以坐花 宴の席を開き花の中に座る 羽觞 名詞 羽の形の杯 酒の器 飞羽觞而醉月 杯を飛ばして月に酔う 佳咏 名詞 すぐれた詩 詩を作る場面の語 不有佳咏 すぐれた詩がなければ 雅怀 名詞 みやびな思い 心の中の思い 何伸雅怀 どうしてみやびな思いを述べよう 金谷 固有名詞 金谷園 宴の故事を指す 罚依金谷酒数 罰は金谷園の酒の決まりに従う 対訳 天地と時間 そもそも天と地は、万物にとっての宿屋である。時間は、百代にわたる通り過ぎる旅人である。そして浮かぶようなこの生は夢のようで、楽しめる時間はどれほどもない。昔の人がろうそくを手にして夜まで遊んだのは、まことにわけのあることであった。 春の宴 まして、うららかな春はかすむ景色でわたしを招き、大いなる自然はわたしに美しい彩りを貸してくれる。桃の花の咲くかぐわしい園に集まって、親族が集う楽しいできごとを書き記す。年下のいとこたちはみな才があって優れており、そろって謝惠連のようだ。わたしの詩歌だけが、謝康楽に及ばぬのを恥じ入るばかりである。静かな観賞はまだ終わらず、高らかな談論はいよいよ澄んでいく。美しい宴の席を開いて花の中に座り、羽の形の杯を飛ばして月に酔う。 詩と罰酒 すぐれた詩がなければ、どうしてこのみやびな思いを述べられよう。もし詩ができあがらなければ、罰として金谷園の故事にならって酒三斗を飲ませることにする。 三つの骨と、対句の飾り 骨だけを拾うなら、三つにまとめられます。人生は短い、だから春の夜に集まって楽しむ、詩ができなければ罰酒、という三つです。それでも、原文の対句は取り去ってよい余分なものではありません。 時間を幾世代もの旅人にたとえると、今夜の集まりが長い時間の中へ入ります。春と自然を対応させ、園と親族の楽しさを対応させると、目の前の宴が広い枠に結ばれます。対句は、同じ音数を並べるだけの道具ではないのです。 辞書だけでは届かない所 惠连 は詩才で知られた謝惠連、 康乐 は謝霊運の呼び名です。謝惠連は謝霊運の一族の年下の詩人です。いとこたちを謝惠連にたとえ、自分は謝霊運に及ばないと述べます。人の名と分かると、ほめる言葉と謙遜が対応していることを読めます。 罚依金谷酒数 は、晋の石崇の金谷園の宴にまつわる故事です。詩ができない者が酒三斗を罰として飲まされた話にならいます。単に金色の谷の酒、と字を追うだけでは意味が出ません。 分からない所に出会ったら、何が足りないかを分けます。語の意味なのか、人名や昔の話の知識なのかを考えます。どんな助けを使えば読めるかを見分けることも、読む力です。 練習 対になる 开琼筵以坐花 を見て、 飞羽觞_醉月 の空欄を埋め、句を書いてください。 幽赏未已 と対になる 高谈_清 の空欄を埋め、句を書いてください。 冒頭の二つ目の判断 光阴_,百代之过客_ を、本文の形に戻して書いてください。 本文で天地を宿屋にたとえる句を、 是 と 的 を使った現代語に言い換えて、一文で書いてください。 本文で時間を旅人にたとえる句を、 是 と 的 を使った現代語に言い換えて、一文で書いてください。 浮生若梦 のたとえを現代語に言い換えて、主語のある短い一文で書いてください。 阳春召我以烟景 を、 用 で手段を動詞の前に置く現代語に言い換えて、一文で書いてください。 時間か季節について、 是 を使う同じ形の短い二文で、自分の対句を一組作ってください。 本文から対句を五組探し、それぞれの対応する語も示してください。 惠连 ・ 康乐 ・ 金谷 について、人の名なのか故事を指すのかを選び、それぞれ何を指すか説明してください。 文章の骨を三つにまとめ、対句がどんな働きをするか、日本語で二、三文にしてください。 戻り語 前の課で学んだ語を使い、春の夜の集まりを現代中国語の三文で書きます。 鲜花・诗人・拍照・兴奋・放松・姐妹 から三つ以上使います。 姐妹・鲜花 を使って、集まりに人が来る場面を一文で書いてください。 诗人・拍照 を使って、花の下で何をするかを一文で書いてください。 兴奋・放松 を使って、集まった人たちの気分を一文で書いてください。 音読 ▶で全文を聞き、対句の二句を同じ長さ、同じ調子にそろえて読みます。特に宴の席を開く句と杯を飛ばす句を、同じ間合いで声に出し、対応する語の位置を聞き取ります。 この篇のまとめ 対句の形を先に受け取り、対応する語を読みます。判断、修飾、たとえ、手段を現代語へ言い換えると、古い文との距離が縮まります。人名や故事が必要な所は、字の意味だけで決めず、注を使います。 次の篇へ 次の6.48は読編の最後、『禮記』大學篇の冒頭です。その後は、中国古典を繁体字のまま読む特別編へ渡ります。 答え 飞羽觞而醉月 。二つの動作をつなぐ字を入れます。 高谈转清 。いよいよ澄むという意味です。 光阴者,百代之过客也 。最初の判断と同じ二字で結びます。 天地是万物的旅店。 光阴是百代的过客。 人生像梦一样。 阳春用烟景召唤我。 春天是开始,冬天是结束。 阳春召我以烟景/大块假我以文章 では春と自然、招くと貸す、景色と彩りが対応します。 会桃花之芳园/序天伦之乐事 では集う場所と親族の楽しさ、 群季俊秀,皆为惠连/吾人咏歌,独惭康乐 では年下のいとこたちと自分、 幽赏未已/高谈转清 では観賞と談論、 开琼筵以坐花/飞羽觞而醉月 では席と杯、花と月が対応します。 前の二つは人の名で、謝惠連と謝康楽、すなわち謝霊運です。最後は金谷園の宴の故事を指し、詩ができない者に罰酒を飲ませた話を踏まえます。 人生は短いので今夜は集まって楽しみ、詩ができなければ罰酒を課す、という三つです。対句は一夜の宴を天地や長い時間へ結び、身の回りのことを広い枠の中へ置きます。 姐妹们带着鲜花来了。 诗人在花下拍照。 大家很兴奋,也很放松。 参考文献 李白『春夜宴從弟桃花園序』( 夫天地者,万物之逆旅也;光阴者,百代之过客也。 )。繁体字を簡体字に改め、底本に混ざっていた註・校勘を本文から外した。パブリックドメイン。出所:https://zh.wikisource.org/wiki/春夜宴從弟桃花園序