精読:『ニコマコス倫理学』から、習慣と徳についての一節 — Epoché
解説 引用一:徳の二つの成立の仕方 第2巻第1章、1103a14–18。 原文:Διττῆς δὴ τῆς ἀρετῆς οὔσης, τῆς μὲν διανοητικῆς τῆς δὲ ἠθικῆς, ἡ μὲν διανοητικὴ τὸ πλεῖον ἐκ διδασκαλίας ἔχει καὶ τὴν γένεσιν καὶ τὴν αὔξησιν, διόπερ ἐμπειρίας δεῖται καὶ χρόνου, ἡ δ’ ἠθικὴ ἐξ ἔθους περιγίνεται, ὅθεν καὶ τοὔνομα ἔσχηκε μικρὸν παρεκκλῖνον ἀπὸ τοῦ ἔθους. 訳:徳には二つあり、一方は思考に関わる徳、他方は性格に関わる徳である。思考に関わる徳は、その成立も成長も大部分を教えによって得る。それゆえ経験と時間を必要とする。他方、性格に関わる徳は習慣から生じる。そのため、その名も習慣を意味する語から少し形を変えたものとなっている。 大部分という限定と、経験・時間の必要を残す。ἠθικήとἔθοςの語形の話であり、日本語の性格と習慣の形が似ているという意味ではない。 出典1 引用二:素質と、習慣による完成 ここからは中間の議論を省いた別の引用。1103a23–26。 原文:οὔτ’ ἄρα φύσει οὔτε παρὰ φύσιν ἐγγίνονται αἱ ἀρεταί, ἀλλὰ πεφυκόσι μὲν ἡμῖν δέξασθαι αὐτάς, τελειουμένοις δὲ διὰ τοῦ ἔθους. 訳:したがって、徳は生まれつき生じるのでも、自然に反して生じるのでもない。私たちはそれを受け入れる素質を持ち、習慣によって完成されるのである。 したがっては、省いた石と火の例の議論も受ける。最初の引用だけからの完全な証明にはしない。 出典1 生まれつきでないことと、素質がないことは違う 引用二は、徳が生まれつき完成しているとはせず、受け入れる素質と習慣による完成を分ける。性格に関わる徳の成立を、持って生まれた完成品か、自然への逆らいかの二択にしない。 どんな行為でも回数を重ねれば徳になる、という条件はここに書かれていない。徳の内容や良い習慣の基準の全てを、この短い引用だけで説明したとはしない。 出典1 二つの引用から、成立の違いと素質を分ける。 本文の区分 述べられる成立 限定 思考に関わる徳 大部分は教えから成立・成長 経験と時間も必要 性格に関わる徳 習慣から生じる 受け入れる素質と、習慣による完成を分ける 二つの引用の間の議論は省略している。この表だけを、徳についての完全な論証や訓練手順にしない。 参考文献 [1] Aristotle/I.Bywater編。印刷版II.1から本教材が独自転記・日本語訳。中間の議論を省く二箇所「アリストテレス『ニコマコス倫理学』II.1(抜粋二箇所)」。 出典 本教材の独自訳・解説 CC BY-SA4.0(原典は古代の文言)