11.56 戰國策 齊策一 鄒忌諷齊王納諫 — 王の蔽はるること甚だし — Epoché
この篇でできるようになること 三度の比較の問いを書き分け、語順の違いを言えます。 妻、妾、客の答えと、それぞれの理由を対にできます。 三つの理由を王の周りへ当てはめ、二重否定を現代語にできます。 前提 :11.55「春秋左氏傳 曹劌論戰」。君への答えを追った後、自分の経験を先に語って君を諫める文章を読みます。 自分の話から諫める 『戰國策』は、戦国時代の遊説の言葉を国ごとに集め、前漢の劉向が整理した書です。この篇では齊の鄒忌が威王を諫めます。題の 諷 は、それとなく諫めることです。 初めから王の目がふさがれていると言うのではなく、自分が受け取った言葉の話から始めます。妻、妾、客に同じことをたずね、同じ方向の答えを聞きます。ところが、その答えをする理由は同じではありません。 一人の身近な経験を、王の周りの人々へ当てはめるのが話の筋です。同じ返事が重なる部分と、その背後の理由が分かれる部分を分けて読んでください。 比較の問いが、少しずつ変わる 妻への問いは 我孰與城北徐公美 です。自分と城北の徐公では、どちらが美しいかとたずねます。 孰 は、この二人のどちらかを問う言葉です。 妾には 吾孰與徐公美 とたずねます。自分を指す字が変わり、城北という場所を省いています。客には 吾與徐公孰美 とたずね、二人を先に並べてから、どちらが美しいかを問います。 最初の二つでは、自分を出し、どちら、と問う語を置いてから相手を出します。三つ目では、自分と相手を並べた後に、どちら、と問います。問いの中身は同じでも、言い方が少しずつ変わります。 孰 を単に誰と読んで、私は誰と、とつながないでください。この場面では二人が決まっています。自分と徐公のどちらか、という比較です。現代語では 谁更美 と尋ねられます。 反語で答える人、比較で答える人 妻は 君美甚 、あなたはとても美しい、と述べてから、 徐公何能及君也 と続けます。徐公がどうしてあなたに及べようか、及ばない、という反語です。妾もこの反語で答えます。 客の答えは 徐公不若君之美也 です。徐公はあなたの美しさに及ばない、と比較して述べます。妻と妾の反語に対し、客は問いの形を使わずに言っています。 三人とも鄒忌のほうが美しいという点では一致します。反語と普通に述べる形の違いを確かめましょう。 見る、もう一度見る、考える 徐公が来ると、鄒忌は 孰視之 、じっと相手を見ます。この 孰 は 熟 に通じ、どちらという疑問ではありません。そして自分では及ばないと思います。さらに 窺鏡而自視 と、鏡で自分を見て、はるかに及ばないと確かめます。 人から聞いた評価をそのまま信じず、相手を見、自分も見ています。続く 暮、寢而思之 では、夕暮れに横になって考えます。三人を問い詰める場面ではなく、自分で返事の理由を考える場面です。 この順を飛ばすと、三人はそれぞれ別の理由でほめた、という結論だけが残ります。言葉を聞いた後、目で確かめ、考えるという順があるから、初めの返事と実際の違いが見えてきます。 美しいとするのは、なぜか 吾妻之美我者、私我也 は、妻が自分を美しいとするのは、自分をひいきするからだ、ということです。 美我 は私を美しいとみなす意動用法です。形容詞に対象が付き、そうだとする働きになっています。 者 が、妻が自分を美しいとするという前のまとまりを受け、 也 で理由を言い切ります。同じ形で、妾は自分を恐れるから、客は自分に頼みごとがあるから、と並べます。 吾妻之美我者 を、私の妻の美しさ、としないでください。美しいとされている対象は私です。妻自身の容姿を説明する文ではありません。 ひいき、恐れ、求めることは、この三人の返事について鄒忌が述べる理由です。 三つの理由を、王の周りへ写す 鄒忌は王の前でも、自分が徐公に及ばないことを先に認め、自分をほめた三人の事情を述べます。その後に、王の周りにも同じ関係があることを示します。 妻のひいきは宮中の女性と側近に、妾の恐れは朝廷の臣に対応します。客の頼みごとは、国内の人々に対応します。三人の話が、三つの人々のまとまりへ広がっています。 莫不私王 は、王をひいきしない者はいない、という二重否定です。続く 莫不畏王 と 莫不有求於王 も、恐れない者はいない、王に求めることのない者はいない、と例外をなくして述べます。 単に恐れる人がいるという話ではありません。いないという否定と、しないという否定を重ね、皆がそうだと強く述べています。現代語の 没有人不 と比べると、二つの否定が見えます。 この三つを並べてから 王之蔽甚矣 、王の目がふさがれていることは甚だしい、と結びます。鄒忌が、王にも同じことが起きていると言い切る所です。 諫めを受け入れた後の変化 王はよいと答え、三段階の賞を設けます。面と向かって過ちを指摘する人には上賞、書面で諫める人には中賞を与えます。人の集まる所で論じて王の耳へ届かせる人には、下賞を与えます。 令の直後は 門庭若市 と、門の前が市場のようににぎわいます。数か月後は時折になり、一年後には、言おうとしても進言することが無いと述べます。諫める人の減り方と、言うべきことが無くなる変化を順に示しています。 最後に周りの国が朝見し、 戰勝於朝廷 と結びます。朝廷で意見を受け入れることが、外の国々にも及ぶ結末です。初めの鏡の前の小さな出来事が、ここまで広がりました。 比較は 型編 21課 で確かめられます。三つの問いを現代語にする時も、誰と誰を比べるかを保ちます。理由の文では、ほめるという行動と、その人の事情を一組にしましょう。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 孰 疑問詞 どちら ここでは二人を比べる 吾與徐公孰美 私と徐公ではどちらが美しいか 窺 動詞 のぞく 鏡を見る動き 窺鏡而自視 鏡をのぞいて自分を見る 孰 副詞 じっと・よく 熟に通じる。ここはどちらの意味ではない 孰視之 じっと彼を見る 美 意動の語 美しいとみなす 対象の我を伴う 吾妻之美我者 妻が私を美しいとするのは 私 動詞 ひいきする 私有だけではない 私我也 私をひいきするからだ 畏 動詞 恐れる 妾の返事の理由 畏我也 私を恐れるからだ 蔽 動詞 ふさがれる 王に事実が届かないこと 王之蔽甚矣 王の目がふさがれていることは甚だしい 面刺 動詞 面と向かって指摘する 刃物で刺す意味ではない 面刺寡人之過 面と向かって私の過ちを指摘する 門庭若市 成語 門前が市場のようににぎわう 人が多く訪れる 羣臣進諫、門庭若市 臣たちが諫めに来て門前が市場のようになる 期年 名詞 まる一年 期日の期ではない。まる一年 期年之後 まる一年の後 練習 問いの空欄へ 孰 ・ 與 を入れ、全文を書いてください。 我__城北徐公美 問いの空欄へ 孰 ・ 與 を入れ、全文を書いてください。 吾__徐公美 問いの空欄へ 孰 ・ 與 を入れ、全文を書いてください。 吾_徐公_美 前の三つの問いを、それぞれ現代語の 和 ・ 谁更 を使って言い換えてください。 吾妻之美我者、私我也、妾之美我者、畏我也、客之美我者、欲有求於我也 の三句を、現代語の 说我美 ・ 是因为 で言い換えてください。 宮婦左右、莫不私王、朝廷之臣、莫不畏王、四境之內、莫不有求於王 の三句を、現代語の 没有人不 で言い換えてください。 妻、妾、客の理由は、王の周りのどの人々に対応しますか。 鏡を見たり、背を比べたりして、人と比べる短い現代語の文を二つ書いてください。 镜子 ・ 帅 、 身高 を使います。 前の課の語 诚实 ・ 老实 を使い、友人が本当のことを言う人だという短い文を作ってください。 鄒忌が返事の理由を考える前に、目で確かめた二つのことを答えてください。 三つ目の問い 吾與徐公孰美 は、前の二つの問いと比べて、 孰 の位置がどう違いますか。日本語で答えてください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 吾妻之美我者、私我也、妾之美我者、畏我也、客之美我者、欲有求於我也。 私我也 ・ 畏我也 ・ 欲有求於我也 の三つの理由を、同じ調子で並べて読んでください。 この篇のまとめ 三人は同じ方向の答えをしましたが、理由はひいき、恐れ、頼みごとに分かれました。自分で確かめた経験を王の周りへ写し、諫めを受け入れる結末へつなぐ文章を読みました。 次の篇へ 次の11.57では戰國策の唐雎不辱使命を読みます。国を取り替える要求に使者が言い返す場面で、反語と判断を打ち消す語を押さえます。 答え 我孰與城北徐公美 吾孰與徐公美 吾與徐公孰美 我和城北的徐公谁更美? (別解: 我和城北徐公相比,谁更美? ) 我和徐公谁更美? 我和徐公谁更美? 原文では違う語順ですが、この言い換えでは同じになります。 我妻子说我美,是因为她偏爱我。 我的妾说我美,是因为她怕我。 客人说我美,是因为他想求我。 宫中的女子和侍从,没有人不偏爱大王。 朝廷的大臣,没有人不怕大王。 国内的人,没有人不想求大王办事。 妻のひいきは宮中の女性と側近、妾の恐れは朝廷の臣、客の頼みごとは国内の人々に対応します。 他照镜子,觉得朋友更帅。 我们比身高,他比我高。 朋友很诚实,常说老实话。 実際に来た徐公をじっと見て、次に鏡で自分を見ました。その後、横になって返事の理由を考えました。 前の二つでは、 孰 が主語のすぐ後、 與 の前にあります。三つ目では 與徐公 が先に来て、 孰 は 美 の直前に移っています。 参考文献 劉向(編)『戰國策 齊策一』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。 出所: https://zh.wikisource.org/wiki/古文觀止/卷4