12.15 いまの学術英語 — 書き手が消えるまで — Epoché
この課で分かるようになること ★ 書き手が消えた のがいつか言える。 ★ 「誰が言ったか」から「どこに書いてあるか」へ の変化が分かる。 ★ 英語が共通語になった時期 が言える。 ★第 5 期の知編の三課を、ひととおり言える。 前提 : 12.14 まで。読は 8.136 まで。 ★書き手のいない文章は、新しい ★ 12.14 知編 で読んだ三人は、全員「私」を使いました。 いつの文章か 書き手はどこにいるか ★ 8.119 読編 ファラデー(一八六〇) ★ 「私はこうしようと思います」 ★ 8.124 読編 ダーウィン(一八五九) ★ 「私は急いではいない」 ★ 8.127 読編 都市化(いま) ★ いない ★ この差は、文体の好みではありません。 ★ 誰が書いたかが 本当に分からない のです。 It is predicted that by 2050, about 77% of the developing world [1] ★ 「二〇五〇年までに、発展途上の世界のおよそ七十七パーセントが都市化されると予測されている」。 ★ 誰が予測したのか、本文には書かれていません。 ★ 8.127 読編 で「受け身の文に『誰が』を補ってみる」と置きました。 ★ この一文は、補えません。 ★「誰が言ったか」から「どこに書いてあるか」へ ★ 十九世紀までは、 誰が言ったか が根拠でした。 どの時代か 何が根拠か ★ 十八世紀まで ★ 古い書物にそう書いてある ★ 十九世紀 ★ 誰それが実験して、そう見た ★ いま ★ どこそこに、そう報告されている ★ 三つめでは、 報告した人が誰でもよくなります 。 ★ 大事なのは、 どこを見れば確かめられるか だから です。 ★ これは、 12.14 知編 で置いた「素人は権威では納得しない」の 行き着いた先 です。 ★ 権威をたどれる形に置き換えたら、権威そのものが要らなくなりました。 ★ けれども、代償もあります。 得たもの 失ったもの ★ 誰が書いても同じ形になる ★ 誰が責任を負うか見えない ★ 確かめに行ける ★ 弱いところを認める人がいない ★ 二つめが、 8.127 読編 でいちばん問題にしたところ です。★ 8.124 読編 のダーウィンは「この本は不完全である」と書きました。 ★ 百科事典には、そう書く人がいません。 ★定義が争われる語は、決められないまま残る ★ 8.128 読編 の「民主主義」の記事を思い出してください。 No consensus exists on a precise definition of democracy [2] ★ 「正確な定義について、合意は存在しない」。 ★ そして、形容詞が二千二百三十四あると数で示しました。 昔なら いまは ★ 権威ある学者が決める ★ 決める人がいない ★ 辞書が決める ★ 辞書ごとに違うと書く ★ 8.135 読編 のアンソニーは、三つの辞書が同じ定義をしていることを 証拠として 使いました(一八七三年)。 ★ いまの記事は、 辞書どうしが食い違う ことを前提に書かれています。 ★ 百五十年で、辞書の位置が変わりました。 ★英語が共通語になったのは、新しい ★ 十九世紀の科学は、 ドイツ語とフランス語 でも書かれていました。 いつか 学術の言葉は ★ 十七世紀まで ★ ラテン語 ★ 十八〜十九世紀 ★ 各国の言葉(英・独・仏) ★ 二十世紀の後半から ★ 英語に寄っていく ★ 8.122 読編 で、ハクスリーが白墨の言葉を ラテン語 と比べたのを思い出してください。 ★ 当時、ラテン語は 学問の言葉 としてまだ生きていました。 ★ そして、いま読む学術英語には大事な性質があります ——★ その多くは、 英語が母語でない人 が書いています。 そのために 何が起きるか ★ 言い回しが型どおりになる ★ 学びやすい ★ くだけた言い方が消える ★ 読み違えにくい ★ 文が長くなりがち ★ 3.34 型編 の解剖が要る ★ 一つめと二つめは、学ぶ側には 良い知らせ です。 ★ 学術英語は、 小説の英語より型が少ない のです。 ★規則の本が、型を決めた ★ 8.130 読編 ・ 8.131 読編 で読んだ『文体の要素』は、一九一八年にコーネル大学の教師が学生のために作った小さな本 です。 This is the usage of the United States Government Printing Office [3] ★ 「これは、合衆国政府印刷局の慣行である」。 ★ 規則の出どころを、 印刷所 に置いています。 誰が型を決めたか どういうことか ★ 印刷所 ★ 実際に刷る側の都合 ★ 大学出版局 ★ 学術の本を出す側 ★ 文法学者 ★ ここには出てこない ★ 三つめに注意してください。 ★ 英語の書き方の型は、 学者が決めたのではなく、出す側が決めました 。 ★ だから、いまも 出版社ごとに違います ——★ 8.130 読編 で読んだ「商号では最後のコンマを省く」のような細かい取り決めは、どこで出すかで変わります。 ★第 5 期の知編、三つ この期の三課で置いたものを、まとめておきます。 どの課 何を置いたか 12.13 知編 ★ アメリカの成り立ち 12.14 知編 ★ 十九世紀イギリスの科学 この課 ★ いまの学術英語 ★ 三つを並べると、一つの線が見えます ——★ 「誰が言うか」から「どこで確かめられるか」へ。 どの課か その線のどこか ★ 12.13 ★ 同じ文書を、誰がどう読み直したか ★ 12.14 ★ 権威では納得しない聞き手に話す ★ 12.15 ★ 権威をたどれる形にしたら、権威が消えた ★ そして、読 E の三十二篇で見たのは その線の上に並んだ文章 でした。 ★ 8.136 読編 で「年代も分野もばらばらの書き手が同じ作法を持っている」と置きました。 ★ その作法は、 誰かが決めたもの ではありません ——★ 読む人を相手にした結果、そこへ行き着いたのです。 ★ 三つの課に通っているのは、一つの問いです ——★ その文章は、 誰が誰に向けて書いたのか 。 ★ 建国の文書は、自分たちのことを書きながら外の国に読ませるものでした。 ★ 十九世紀の講義は、学者が素人に向けて話したものでした。 ★ いまの学術論文は、書き手が消えたように見せて、同じ分野の人だけに向けて書かれています。 ★ 読む側にとって大事なのは、どれが正しい書き方かではありません。 ★ いま読んでいる文章がどの型で書かれているかを見分けること です。★ 型が分かれば、何が省かれているかも分かります。 やってみる ★ 「私」を探す 。 8.119 読編 ・ 8.124 読編 ・ 8.127 読編 の三篇で、 書き手がどこにいるか を一行ずつ書く(日本語でよい)。 ★ 根拠の形を並べる 。 「誰が言ったか」で支えた箇所 と 「どこに書いてあるか」で支えた箇所 を読 E から一つずつ拾う。 ★ いま読む学術英語を一つ探す 。自分の関心のある分野の記事を一つ見て、 「私」が何回出るか を数える。 ★ 三課をつなぐ 。12.13〜12.15 を読んで、 いちばん驚いたこと を三行で書く。 この課のまとめ ★ 書き手のいない文章は、十九世紀には無かった。 文体の好みではなく、誰が書いたか本当に分からない。 ★ 「誰が言ったか」から「どこに書いてあるか」へ。 権威をたどれる形に置き換えたら、権威そのものが要らなくなった。 ★ 代償は、弱いところを認める人がいなくなったこと。 ダーウィンは「この本は不完全である」と書いた。百科事典には書く人がいない。 ★ 百五十年で、辞書の位置が変わった。 アンソニーは三つの辞書の一致を証拠にした。いまの記事は食い違いを前提にする。 ★ 英語が学術の共通語になったのは、二十世紀の後半から。 十九世紀にはドイツ語とフランス語でも書かれていた。 ★ いま読む学術英語の多くは、英語が母語でない人が書いている。 だから型が少なく、学びやすい——小説の英語よりも。 ★ 英語の書き方の型は、学者ではなく出す側が決めた。 だから、いまも出版社ごとに違う。 ★ 読 E で見た作法は、誰かが決めたものではない。 読む人を相手にした結果、そこへ行き着いた。 次の課へ 知編の第 5 期はここで終わりです。★第 5 期の学習順では、知の次は 復 です。次の課は 13.9 、 第 13 編「復」の第 5 期のはじめ です。★ 第 5 期の八十二課を、ひととおり通して確かめます。 答え 「やってみる」の四つの答えです。 ★ 書き手の居場所。 ★ ファラデーは 壇の上 、ダーウィンは 書斎 、都市化の記事は どこにもいない 。 ★ 三つめだけ、 場所が無い ことに気づいてください ——★ 時も場所も書かれていません。 ★ 根拠の形。 ★ 「誰が言ったか」 ——★ 8.106 読編 「この逸話は叔父から聞いた」、 8.135 読編 「ウェブスターもウースターも」。 ★ 「どこに書いてあるか」 ——★ 8.128 読編 「二つの指標によれば」。 ★ 後者では、 人の名が出てきません 。 ★ 「私」を数えたとき。 ★ 分野で差が出ます。 ★ 実験の報告では we が使われ、総説では書き手が消えます。 ★ そして、 I はほとんど出ません ——★ 一人で書いた論文でも we を使う分野があります。 ★ いちばん驚いたこと。 ★ 多くの人が挙げるのは、 「英語の型を決めたのは学者ではなく印刷所だった」 でしょう。 ★ 言葉の規則は上から降りてくるものだと思いがちですが、 実際に出す側の都合 からできたところが多い のです。 参考文献 原文の出所: English Wikipedia「Urbanization」, "wiki:Urbanization"。CC BY-SA 4.0。原文は 1 字も変えていない。https://en.wikipedia.org/wiki/Urbanization 原文の出所: English Wikipedia「Democracy」, "wiki:Democracy"。CC BY-SA 4.0。原文は 1 字も変えていない。https://en.wikipedia.org/wiki/Democracy 原文の出所: William Strunk Jr.『The Elements of Style』(1918), "strunk"。パブリックドメイン(Project Gutenberg)。原文は 1 字も変えていない。https://www.gutenberg.org/ebooks/37134