8.79 赤毛組合(3)— 語り手が矛盾を見落とす — Epoché
この篇でできるようになること ★ 語り手が矛盾を見落とす 書き方が分かる。 ★ 色の名を物の名で言う やり方に気づける。 ★ 条件が一点に絞られている ことを見抜ける。 ★ 問答の形が速さを変える ことが分かる。 前提 : 8.78 まで。型は 3.32 まで。語は 4.48 まで。 読む前に ★ 前の篇までのこと。 助手スポールディングが赤毛組合の広告を持ってきて、★ 条件を三つ足して本当らしくし、最後に引きました 。ウィルソンは応募することにします。 この篇では、 ウィルソンが助手を連れて出かけます 。★ 店は閉めていきます。 そして、事務所で ダンカン・ロスという赤毛の小男 に会い、★ その場で採用されます 。★ 仕事は、百科事典を写すこと です。 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。本文は 1170 語、文は 75 本、いちばん長い一文は 54 語です。 通りの様子を見ます。 Fleet Street was choked with red-headed folk ★ choked は 「つまった」 です。★ 通りが赤毛で息がつまっている。 ★ 人の多さを、道の側から言っています。 ★ そして、ここが大事です。 ★ 助手は「空きより人が少ない」と言っていました ( 8.78 読編 )。★ けれども、ウィルソンはそのことに一言も触れません。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 「さて、皆さん、ご覧のとおり、わたしの髪はたいそう濃くて豊かな色合いをしています。ですから、もしこの件で競い合いがあるなら、わたしはこれまで会ったどの男にも負けない見込みがあるように思えました。ヴィンセント・スポールディングはこのことによく通じているようでしたから、役に立ってくれるかもしれないと思い、その日は店の雨戸を閉めて、すぐにわたしと一緒に来るよう言いつけました。彼は喜んで休みを取りたがったので、わたしたちは店を閉め、広告に書いてあった所へ向かって出かけました。 「あんな光景は、もう二度と見ることはないでしょう、ホームズさん。北から、南から、東から、西から、髪に少しでも赤みのある男は一人残らず、広告に応じようと歩いて町へやって来ていました。フリート街は赤毛の人々でつまり、ポープス・コートは呼び売りのオレンジを積んだ手押し車のようでした。たった一つの広告で集まったほど多くの赤毛が、国じゅうにいるとは思いもしませんでした。色合いもいろいろで、わらの色、レモンの色、オレンジの色、れんがの色、アイリッシュ・セターの色、肝の色、粘土の色とありました。けれども、スポールディングが言ったとおり、本当に燃えるような色の者は多くありませんでした。待っている人の多さを見て、わたしはあきらめてしまうところでした。けれども、スポールディングはそれを聞き入れませんでした。どうやったのか見当もつきませんが、彼は押したり引いたり頭で突いたりして、とうとうわたしを人込みの中を通り抜けさせ、事務所へ上がる階段のすぐ下まで連れて行きました。階段には二つの流れがあって、望みをもって上る者と、がっかりして下りてくる者がいました。けれども、わたしたちはできるかぎり割りこんで、まもなく事務所の中に入っていました。」 「なかなか面白いご経験ですね」と、依頼人が話をやめ、大きくひとつまみの嗅ぎたばこで記憶を新たにしているあいだに、ホームズは言いました。「どうか、そのたいへん興味深いお話を続けてください。」 「事務所には、木の椅子が二つとモミ材のテーブルが一つあるだけで、テーブルの向こうには、わたしよりもさらに赤い頭をした小柄な男が座っていました。彼は志願者が前に出るたびに一言二言声をかけ、そのたびに、必ず何か不合格にする欠点を見つけ出しました。空きを得るのは、結局それほどたやすいことではなさそうでした。ところが、わたしたちの番が来ると、その小男はほかの誰に対してよりもずっとわたしに好意的で、わたしたちが入るとドアを閉めました。わたしたちと内々に話をするためです。 「『こちらはジェイベズ・ウィルソンさんです』と、わたしの助手が言いました。『組合の空きを埋めたいと望んでおられます。』 「『しかも、見事にふさわしい方ですね』と相手は答えました。『条件をすべて満たしています。これほど見事なものを見たのはいつ以来か、思い出せません。』彼は一歩下がり、首を片方へかしげて、わたしがすっかり恥ずかしくなるまでわたしの髪を見つめました。それから急に前へ飛び出してきて、わたしの手を固く握り、合格をあたたかく祝ってくれました。 「『ためらっては不公平というものでしょう』と彼は言いました。『ですが、当然の用心をすることは、きっとお許しいただけると思います。』そう言うと、彼は両手でわたしの髪をつかみ、わたしが痛さで叫び声を上げるまで引っぱりました。『目に涙が浮かんでいますね』と、わたしを放しながら彼は言いました。『すべて本物だと分かりました。けれども、用心しなければならないのです。これまでに二度かつらに、一度は染め粉にだまされましたから。靴屋の蝋の話をしたら、人間というものに愛想が尽きますよ。』彼は窓のところへ歩いていき、窓から声を張り上げて、空きは埋まったと叫びました。下からはがっかりしたうめき声が上がり、人々はみなばらばらの方へぞろぞろと帰っていき、とうとう赤毛はわたしと支配人のほかに一人も見えなくなりました。 「『わたしの名は』と彼は言いました。『ダンカン・ロスと申しまして、わたし自身も、わたしたちの気高い恩人が残した基金から年金を受けている一人です。ウィルソンさん、あなたは結婚していますか。ご家族はおありですか。』 「わたしは、いないと答えました。 「彼の顔はたちまち曇りました。 「『おやおや』と彼は重々しく言いました。『それは実にゆゆしいことです。そう聞いて残念です。もちろん、この基金は赤毛の人々を養うためだけでなく、赤毛を増やし広めるためのものでもあったのです。あなたが独り身だというのは、まことに不運なことです。』 「これを聞いて、わたしは浮かない顔になりました、ホームズさん。結局、空きはもらえないのだと思ったからです。けれども、彼は数分考えたあとで、それでかまわないと言いました。 「『ほかの人なら』と彼は言いました。『その差し支えは命取りになるところでしょう。けれども、あなたのような見事な髪の方のためなら、少し融通を利かせなければなりません。新しいお務めには、いつから就けますか。』 「『それが、少し困るのです。もう商売をしているものですから』とわたしは言いました。 「『いや、そのことはご心配なく、ウィルソンさん』とヴィンセント・スポールディングが言いました。『わたしがお店の面倒を見られますから。』 「『勤める時間はどうなりますか』とわたしは尋ねました。 「『十時から二時です。』 「さて、質屋の商売はたいてい夕方に行われるのです、ホームズさん。ことに給料日のすぐ前の木曜と金曜の夕方です。ですから、朝のうちに少し稼げるのは、わたしにはたいへん好都合でした。それに、助手はよくできた男で、何か起きても片づけてくれると分かっていました。 「『それならたいへん好都合です』とわたしは言いました。『それで、給料は。』 「『週に四ポンドです。』 「『それで、仕事は。』 「『ほんの名ばかりのものです。』 「『名ばかりとは、どういうことですか。』 「『つまり、そのあいだずっと事務所に、少なくともこの建物の中にいなければなりません。出ていったら、その職を永久にすべて失います。遺言はその点についてたいへんはっきりしています。その時間のあいだに事務所から少しでも動いたら、条件を守らなかったことになります。』 「『一日たった四時間ですし、出ていくことなど考えもしません』とわたしは言いました。 「『どんな言いわけも通りません』とダンカン・ロスさんは言いました。『病気でも、用事でも、ほかの何であっても。そこにいなければ、職を失います。』 「『それで、仕事は。』 「『ブリタニカ百科事典を書き写すことです。あの戸棚にその第一巻があります。インクとペンと吸い取り紙はご自分で用意していただきますが、このテーブルと椅子はこちらで用意します。明日から始められますか。』 「『もちろんです』とわたしは答えました。 「『では、ごきげんよう、ジェイベズ・ウィルソンさん。幸運にも手に入れられた大切な地位について、もう一度お祝いを申し上げます。』彼はおじぎをしてわたしを部屋から送り出し、わたしは助手と一緒に家へ帰りました。自分の幸運がうれしくてたまらず、何を言い、何をしたらよいのかほとんど分からないほどでした。 語釈 帯の外の語は 86 語です。★ 赤の色を言う語が七つ 入っています。★ どれも、もとは物の名です。 語(品詞) 意味 注 Britannica en 名 ブリタニカ。百科事典の名 Encyclopædia en 名 百科事典 She looked up the strange word in an old encyclopedia. 彼女はその奇妙な単語を古い百科事典で調べました。 Holmes en 名 ホームズ Irish en 形 アイルランドの。 Irish-setter は犬の一種 Our neighbor's Irish setter loves running through the tall grass. 隣人のアイルランドのセッター犬は背の高い草の中を走るのが大好きです。 Mr en 名 Mister の略 Oh en 間 ああ Oh, I completely forgot to bring my umbrella today! ああ、今日は傘を持ってくるのをすっかり忘れてしまいました! Pope’s en 名 ポープの。 Pope's Court は小路の名 Ross en 名 ロス。組合の事務所の男 Spaulding en 名 スポールディング。助手 Vincent en 名 ヴィンセント Wilson en 名 ウィルソン admirably en 副 みごとに He performed his difficult task admirably under great pressure. 彼は大きな重圧の下でその難しい仕事をみごとにやり遂げました。 avail en 動 役に立つ His years of experience did not avail him in the interview. 彼の長年の経験はその面接では役に立ちませんでした。 awkward en 形 都合が悪い The scheduling change came at an awkward time for everyone. その予定変更はみんなにとって都合が悪い時期に起こりました。 bachelor en 名 独り者 My uncle remained a cheerful bachelor throughout his entire life. 私のおじは生涯陽気な独り者のままでした。 backward en 副 後ろへ The startled cat suddenly jumped backward from the barking dog. 驚いた猫はほえる犬から急に後ろへ跳びました。 barrow en 名 手押し車。 coster's barrow は果物売りの車 The gardener pushed a heavy barrow full of fallen leaves. 庭師は落ち葉でいっぱいの重い手押し車を押しました。 bashful en 形 きまり悪い The bashful boy hid behind his mother when strangers approached. そのきまり悪がりの少年は見知らぬ人が近づくと母親の後ろに隠れました。 benefactor en 名 恵んでくれた人 The kind benefactor paid for every child's school books. その親切な恵んでくれた人がすべての子どもの教科書代を払いました。 billet en 名 職 After months of searching, he finally found a steady billet. 何か月も探した末、彼はついに安定した職を見つけました。 blotting en 名 吸い取り。 blotting-paper は吸い取り紙 She pressed the blotting paper firmly to dry the wet ink. 彼女は濡れたインクを乾かすために吸い取り紙をしっかり押し当てました。 bowed en 動 会釈して送り出した The butler bowed politely before showing the guest to the door. 執事はお客を戸口へ案内する前に丁寧に会釈しました。 brick en 名 れんが。れんが色 The old cottage was built entirely from weathered red brick. その古い小屋はすっかり風化した赤れんがで建てられていました。 budge en 動 動く The stubborn mule simply would not budge from the muddy road. その頑固なラバはぬかるんだ道からどうしても動こうとしませんでした。 butted en 動 体でぶつかって押し分けた He butted through the crowd to reach the front row. 彼は前列にたどり着くために人ごみを体でぶつかって押し分けました。 bye en 間 good-bye の一部 choked en 動 ぎっしり埋まった( be choked with ) Tears choked her voice as she tried to explain everything. 涙が彼女の声をつまらせ、すべてを説明しようとしました。 clay en 名 粘土。粘土色 The children