9 道具箱 — 事典・講義・原典・学会 — Epoché
この道具箱の中身 ここには、本棚に並ばない道具を集めました。調べるための事典、無料で読める原典と講義、論文の探し方、学び続ける場としての学会、そして語学です。段階 1 から段階 4 まで、何度も開き直す種類の資料です。 本を通読するのとは違って、道具は必要なときに必要なところだけを引きます。この文書も、最初から読むより、困ったときに該当の節を開く使い方に向いています。どの段階で何が要るかは 学び方の道筋 — 初学者から専門家まで 、読む本そのものは 本棚 — 段階別のおすすめ が受け持ちます。 外部の資料の最終確認日は 2026 年 9 月 16 日です。学会の大会の年や会場、事典の項目の改訂日は毎年変わります。変わりやすいところは この案内について にまとめてあります。 事典と辞典 哲学の事典は、用語を引くためだけの道具ではありません。1 つの項目が論文ほどの長さを持ち、末尾に文献表が付くものもあります。段階 1 では読み物として、段階 2 以降は研究文献への入口として使えます。 資料 言語 何に使うか Stanford Encyclopedia of Philosophy 英語 項目が長く、末尾の文献表が次に読む論文の手がかりになる。無料で読める Internet Encyclopedia of Philosophy 英語 上の事典に項目が無いときの次の手。無料で読める Routledge Encyclopedia of Philosophy 英語 全体を読むには購読が要る(大学図書館から入れる)。選ばれた一部の項目は、期間を限って無料で公開される [1] 哲学中辞典 日本語 日本語で引ける現行の中規模の事典(知泉書館、2016 年) [2] 日本思想史事典 日本語 日本の思想を引く(丸善出版、2020 年) [3] 英語の 2 つの事典は、誰でも書き込める種類の資料ではありません。Stanford Encyclopedia of Philosophy は、すべての項目と実質的な更新が、公開の前に編集委員会の構成員による査読を受けると説明しています [4] 。原文は次のとおりです。 All entries and substantive updates are refereed by the members of a distinguished Editorial Board before they are made public. Internet Encyclopedia of Philosophy も、投稿が専門家による査読を受けると書いています [5] 。 Submissions are peer-reviewed by specialists according to strict criteria. 段階 1 の読者が英語の文献に触れる最初の場所としてこの 2 つを挙げているのは、この査読の仕組みがあるからです。よく使われる読み方の 1 つは、冒頭に置かれた要約でその項目が扱う問題をつかみ、目次から関係のある節だけを読み、最後に文献表を見る、という順です。全部を読み通さなくても、必要なところだけで働きます。 Stanford Encyclopedia of Philosophy の総目次を開くと、この事典が何を哲学として扱っているかが見えます。中国哲学・古典インド哲学・アラビアとイスラームの哲学・日本哲学・アフリカ系の哲学・ラテンアメリカの哲学が、それぞれ項目群として立っています [6] 。分野の区切りを確かめたいときにも使えます。 段階 2 以上の読者へ。事典の項目には、初めて公開された日と、実質的な改訂が入った日の両方が記されています。関心のある項目の改訂日を年に 1 度見ると、その領域が動いているかどうかの目安になります。たとえば「知識の分析」の項目は 2001 年の初出で、2026 年 1 月に実質的な改訂が入りました [7] 。 無料で読める原典と講義 原典と講義には、無料で読めるものがかなりあります。ただし「無料で読める」ことと「複製して配ってよい」ことは別です。この節では、その区別を先に置いてから、資料を並べます。 区別の言葉として、J-STAGE の説明が使えます。オープンアクセスとは「インターネット上に論文等を無料公開し、二次的利用の範囲に関するライセンス情報を明記することで、誰もが障壁なく閲覧・利用できること」だと書かれています [8] 。二次的な利用の範囲がライセンスとして明記されているかどうかが、ここでの分かれ目です。ライセンスの書かれていない資料は、読めるだけで、複製や再配布ができるとは限りません。 8 つの資料を、読めるものと、二次的な利用の条件で見比べます。 資料 読めるもの 利用の条件 青空文庫 著作権の切れた日本語の著作 自由に複製・再配布できる Perseus Digital Library ギリシア・ローマ世界の資料 CC BY-SA 3.0 US Chinese Text Project 漢文の原典 記載なし・一括取得は不可 国立国会図書館デジタルコレクション デジタル化された日本語の資料 資料により館内限定 京都大学OCW 大学の講義と公開講義 CC BY-NC-SA 4.0 UTokyo Channel 東京大学の授業と講演 素材ごとに違う・転載不可あり History of Philosophy without any gaps 英語の哲学史(音声) 表示なし・聴く読むだけ Stanford Encyclopedia of Philosophy 英語の哲学事典 著作権は放棄されていない 条件の出所と、表に収まらない中身を、表と同じ順に書きます。 青空文庫 :西田幾多郎の作品リストもあります [9] 。著作権の切れたファイルは「有償・無償であるかを問わず、自由に複製・再配布・共有することができます」と明記されています [10] 。許諾つきの作品は、その許諾の範囲内です。 Perseus Digital Library :ギリシア・ローマ世界の資料を集めた電子図書館です [11] 。本文の語を押すと、その語の辞書と文法の解析に移ります。本文の頁には「This work is licensed under a Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 United States License.」と表示されます [12] 。 Chinese Text Project :無料で読めるようにするための費用を購読でまかなっている、とトップ頁に書かれています。二次利用の条件はこの頁に書かれていません。自動での一括取得は利用規約に反する、と明記されています [13] 。 国立国会図書館デジタルコレクション [14] :西田幾多郎『 善の研究 』(弘道館、1911 年)のように、近代日本の哲学書の原本が読めるものがあります [15] 。著作権の保護期間が満了した資料などはインターネットで公開され、それ以外は承認を受けた図書館の館内か、国立国会図書館の館内の端末に限られます [16] 。 京都大学OCW :部局(文学部・文学研究科)と種別(公開講義)で絞り込めます。利用の条件は、クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利-継承 4.0 国際と明示されています [17] 。 UTokyo Channel :シリーズ一覧と検索から絞り込みます。素材ごとに扱いが違い、転載できないものを含みます [18] 。 History of Philosophy without any gaps :英語で、イスラーム世界・インド・アフリカ・中国を含む哲学史です [19] 。第 1 回はタレスから始まります [20] 。利用条件の表示が見当たらないので、聴く・読むにとどめ、複製や再配布はしません [19] 。 Stanford Encyclopedia of Philosophy :英語の事典の全項目が読めます [4] 。無料で読めますが、著作権は放棄されていません。 この区別は、レポートや発表で資料を使うときに効いてきます。読めた資料をそのまま配ると条件から外れることがあるので、引用の形にして出所を示すほうが、どの資料でも通ります。引用の作法そのものは 引用と参考文献 が扱います。 日本語話者にとっての利点も 1 つあります。日本哲学の原典の一部は、青空文庫で無料で読めます [9] 。訳を介さずに原典に触れられる伝統が手元にある、ということです。 論文と本の探し方 段階 3 からは、本より論文が主な読み物になります。日本語の論文は、無料で読めるものがかなりあります。探す道具は 4 つ覚えておくと足ります。 道具 探せるもの 使いどころ CiNii Research 日本語の論文・図書・博士論文など [21] まず日本語の先行研究を横断して探す J-STAGE 日本の学会誌の全文 [22] 学会誌から入る。公開の状態の表示を読み分ける [8] 国立国会図書館サーチ 図書と雑誌記事の所在 [23] 所在を調べる。書誌の出版社と刊行年を手元の本と突き合わせる PhilPapers 英語圏の哲学の文献索引 [24] 英語の研究文献を分野ごとに探す J-STAGE では、論文ごとに公開の状態が表示されます。誰でも読めるものと、認証が要るものが同じ画面に並ぶので、表示を見てから開くと空振りが減ります。文献の探し方そのものは、横断ガイドの 文献の探し方 が詳しく扱っています。 探した論文をどう読むかは 論文の読み方 に、集めた文献をどう管理するかは 文献の管理 にまとめがあります。 本のほうは、版を特定するところが要になります。同じ題の本でも、単行本・文庫・改訂版で出版社も刊行年も頁も変わり、引用した箇所の位置が合わなくなります。国立国会図書館サーチは図書と雑誌記事の所在を調べる道具です [23] 。書誌には出版社・刊行年・請求記号が載るので、手元の本の奥付と突き合わせれば、同じ版かどうかを自分で確かめられます [15] 。レポートで本を挙げるときにここを済ませておくと、あとで出典を探し直さずに済みます。この案内の本棚のカードに出版社と刊行年が載っているのも、同じ理由からです。 近代日本の哲学書は、原本そのものが読めることがあります。西田幾多郎『 善の研究 』(弘道館、1911 年)は、国立国会図書館サーチの書誌からデジタルコレクションの画像に進めます [15] 。ただし、インターネットで公開されているのは著作権の保護期間が満了した資料などで、それ以外は図書館の館内に限られます [16] 。開く前に、その資料の公開範囲の表示を見てください。 学会と学会誌 学会は、いま何が論じられているかが最も速く分かる場です。大会は非会員でも参加できることがあり、学会誌は無料で読めるものが多くあります。ここでは、この案内で扱う範囲に対応する 9 つの団体を挙げます。 学会 学会誌 メモ 日本哲学会 [25] 『哲学』(査読、無料。1,269 本) [26] 第 85 回大会は 2026 年 5 月 16・17 日、龍谷大学大宮キャンパス。参加費は会員が無料、非会員が 500 円 [27] 日本倫理学会 『倫理学年報』(査読、オープンアクセス。83 本) [28] 学会誌の頁を入口にする [28] 日本科学哲学会 [29] 『科学哲学』(査読、無料。891 本) [30] 科学基礎論学会とは別の団体。日本哲学会のリンク集は両方を別に載せている [31] 中世哲学会 [32] 『中世思想研究』 第 75 回研究大会は 2026 年 11 月 14・15 日、清泉女子大学。会員数は約 190 名 [32] 日本現象学会 [33] 『現象学年報』 第 48 回研究大会は 2026 年 11 月 14・15 日、早稲田大学 [33] 西田哲学会 [34] 『西田哲学会年報』 第 24 回年次大会は 2026 年 7 月 25・26 日、京都工芸繊維大学 [34] 日本印度学仏教学会 [35] 『印度學佛教學研究』(無料。14,747 本) [36] 学会誌は J-STAGE で全文が読める。リンク集の URL とは別の、現行の公式サイトを挙げた [31] 日本イスラム協会 [37] 『イスラム世界』(無料。948 本) [38] 一般社団法人 [37] 。公開講演会がオンラインで開かれている [39] 日本中國學會 [40] 『日本中國學會報』 — この一覧は、日本哲学会のリンク集を入口にして作りました [31] 。そこには 15 の団体が載っており、そのうち 3 つ(日本シェリング協会・日本ジラール協会・日本ヘーゲル学会)は、特定の哲学者を扱う学会です [31] 。この案内では、 この案内について で線を引いた分野の学会と、特定の哲学者に対応する学会を外したうえで、地図の各文書に対応する範囲まで数を絞りました。日仏哲学会・科学基礎論学会・唯物論研究協会・American Philosophical Association を挙げていないのは、この 3 つ目の理由によります。逆に、リンク集に無い 2 団体(日本イスラム協会・西田哲学会)は、公式サイトを直接開いて確かめたうえで加えました [37][34] 。関心が定まったら、リンク集から自分の分野の学会をたどる道があります。 学会に入らなくても使えるものが 3 つあります。学会誌、大会への参加、公開講演会です。日本哲学会の大会は非会員も参加でき [27] 、日本イスラム協会は公開講演会をオンラインで開いています [39] 。入会の条件は団体ごとに違うので、各学会の案内を見てください。 日本倫理学会は、2026 年 9 月 16 日の時点で公式サイトを開けなかったので、学会誌の頁を入口にしています [28] 。 表で『倫理学年報』だけ「オープンアクセス」と書いたのは、J-STAGE の表示がそうなっているからです [28] 。ほかの 4 誌は「フリー」と表示されます。どちらも無料で読めますが、二次利用の範囲がライセンスとして示されているのは、前の節で見たとおりオープンアクセスのほうです [8] 。この節の区別が、学会誌にもそのまま効きます。 学会誌の本数は 2026 年 9 月 16 日の時点の数