11.25 莊子 齊物論 — 莊周、胡蝶を夢む — Epoché
この篇でできるようになること 四つの與を、問い・詠嘆・と、に分けて読めます。 二者を並べた問いと、これを何というか述べる結びを訳せます。 夢の中と目覚めの後の、二度の不知の違いを説明できます。 前提 :11.24「莊子 秋水 — 濠梁の辯」。誰が何を知るかという問いから、自分が何であるかという問いへ進みます。 夢、目覚め、その後の問い 齊物論篇の最後に置かれた一段です。前に読んだ朝三暮四と同じ篇にあり、物事の違いや、その違いをどう受け取るかに関わる話です。 莊周は夢で蝶になり、夢の中では莊周であることを知りません。ふと目覚めると、はっきり莊周である。そこで終わらず、どちらが夢を見ているのかという問いが始まります。 目覚めればすべて分かるという流れではありません。夢の中の確かさと、目覚めの確かさを置いてから、二つを問い直します。夢と目覚めを区別せずに混ぜるのではなく、場面が変わる字を先に見つけましょう。 同じ字を位置で分ける 文末の 與 は yú と読み、問いや詠嘆の調子を添えます。 自喻適志與 は、思いのままであったことよ、という詠嘆です。後に並ぶ二つの問いと、同じ働きにしないでください。 一方、 周與胡蝶 では名詞と名詞の間にあり、と、の意味で二者を並べます。文末か、二つの名詞の間かを見分けると、訳し方が変わることが分かります。 本文のまとまり 位置 この場面の働き 自喻適志與 文末 詠嘆 周之夢為胡蝶與 文末 二つのうち一方を問う 胡蝶之夢為周與 文末 もう一方を問う 周與胡蝶 名詞と名詞の間 と、で二者を並べる 現代語でも文末の語が問いなどの調子を作りますが、文末の 與 を、現代語の 吗 ・ 呢 のどれか一つに決めて置き換えることはできません。また、二者を並べる所は 和 ・ 跟 と比べられます。位置と文の内容を両方確かめます。 夢で何になるのか 夢為胡蝶 の 為 は、なる、という動詞です。夢で蝶になることを述べています。現代語の 变成 ・ 成为 が手がかりになります。誰かのためにという 为 の読みを、そのまま当てはめないでください。 自喻適志與 の 喻 には、楽しむという字で読む説があります。自分でそう思う・悟ると読む説もあります。夢の中で思いのままであることは受け取れますが、細かな訳は説が分かれる字です。 俄然覺 が目覚めへの切れ目です。続く 蘧蘧然周也 で、はっきり莊周であることが示されます。動きの軽い蝶の場面から、目が覚めた自分へ、文の調子も変わります。 問いの中のまとまり 周之夢為胡蝶 では、周が主語で、夢で蝶になることが述語です。その間の 之 が、全体を一つのまとまりにします。 特別編 6篇 で見た主語と述語をまとめる働きです。 周の夢、と名詞だけを取り出して、夢そのものが蝶になると訳すと関係が変わります。周が夢で蝶になったのか、という内容全体を、分からないことの対象として読んでください。 ここでは、の、とつなぐだけでは読めません。誰が、夢で何になったのかという主語と述語に戻してから、全体をまとめます。 二度の分からない 最初の 不知周也 は、夢の中で自分が莊周だと知らないことです。目覚めの後の 不知周之夢為胡蝶與,胡蝶之夢為周與? は、どちらが夢なのかが分からないという問いです。 この問いは、書き下しでは「知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるかを」と読みます。「知らず」を先に読み、二つの問いを「〜か、〜かを」で受けて、最後に分からない対象としてまとめます。 二つの候補では、周と蝶が入れ替わります。形をそろえて並べることで、ここではどちらか一方に決めずに問い続けています。 夢の中では、自分が蝶であることに疑いがないように描かれています。その状態を読んだ後で目覚めの自分へ戻ると、今の確かさも問い返せるのか、と考えられます。二度の分からないは、同じ対象を繰り返したものではありません。 区別を残して、名を付ける 周與胡蝶,則必有分矣。 は、周と蝶には必ず区別がある、と述べています。境目が全くないと言っているわけではありません。二者を並べる 與 も、ここで二つを区別して捉える手がかりです。 その上で、互いに移り変わりうることを 物化 と名付けて結びます。 此之謂物化 は、これを物化という、という形です。 特別編 23篇 で読んだ、結論に名を付ける形と比べられます。 書き下しでは「此を之れ物化と謂ふ」と、 之 を「之れ」と読み、名付ける動詞を後に読みます。字を同じ順に並べた日本語訳と考えず、指すもの、付ける名、名付ける動作をつないで読みましょう。 周と蝶を並べる字を、周か蝶か、という問いにしないでください。その後には区別があると続き、二者を並べて述べています。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 昔者 時の語 むかし 物語の始まり 昔者莊周夢為胡蝶 むかし莊周は夢で蝶になった 栩栩然 形容の語 生き生きと舞う様子 夢の蝶の様子 栩栩然胡蝶也 生き生きと舞う蝶だった 適志 動詞 心にかなう 夢で思いのままの状態 自喻適志與 思いのままであったことよ 俄然 副詞 ふと・にわかに 目覚めへの切れ目 俄然覺 ふと目覚める 覺 動詞 目覚める ここでは眠りから覚める 俄然覺 ふと目覚める 蘧蘧然 形容の語 はっきり目覚めた様子 夢の蝶と対になる 蘧蘧然周也 はっきり莊周だった 分 名詞 区別 二者に区別がある 必有分矣 必ず区別がある 物化 名詞 物の移り変わり 結びで名付ける 此之謂物化 これを物化という 練習 空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 周_夢_胡蝶與 空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 此_謂物化 空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 不_周也 空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 周_胡蝶 次の書き下し文から、本文の字の順に二つの問いを書き戻してください。入れ替わった二つの名も挙げてください。「知らず、周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるかを」 練習 5 で書き戻した二者の問いを、現代語で言い換えてください。 四つの 與 を、詠嘆・問い・と、に分けてください。 二度の分からないの対象と、最後に区別があると言うことを説明してください。 前の課で学んだ 做梦 ・ 醒 ・ 宁静 ・ 放松 を使い、目覚めの場面を現代語の文で二つ書いてください。一文目は、目覚めた後も夢かどうか分からないことを 不知道 を使って言います。 此之謂物化 を、書き下し文「此を之れ物化と謂ふ」と字を対応させて訳してください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 周與胡蝶,則必有分矣。 ▶ の手本に続き、 周與胡蝶 で少し区切り、 則必有分矣 を言い切る調子で音読してください。 この篇のまとめ 同じ與でも位置と働きが違い、文末の三つも全て問いではありませんでした。目覚めを問いの始まりとして読み、区別を残した物化の結びへ進みます。 次の篇へ 次の11.26では庖丁が牛を解く場面を読みます。体の動きを並べた描写から、技よりも道を重んじる料理人の言葉へ進みます。 答え 周之夢為胡蝶與 此之謂物化 不知周也 周與胡蝶 周之夢為胡蝶與,胡蝶之夢為周與? 入れ替わるのは 周 ・ 胡蝶 です。 不知道 の後に、二者の問い 是周梦见蝴蝶,还是蝴蝶梦见周? を続けます。 不知道是…还是… の形は 汤姆不知道玛丽说的是真话还是假话。 [1] (トムはメアリーが本当のことを言っているのかどうかわからない)と同じです。 自喻適志與 は詠嘆です。 周之夢為胡蝶與 と 胡蝶之夢為周與 は問いです。 周與胡蝶 は、と、で二者を並べます。 夢の中では自分が莊周だと知らず、目覚めた後ではどちらが夢か分かりません。最後は二者の区別を消さず、区別がある上で移り変わることを名付けています。 醒了,不知道这是梦还是真的。 醒了以后,我心里很宁静。 これを物化という。 此 (此を)が指すもの、 之 (之れ)が指すものを受け直す字、 謂 (謂ふ)が名付ける動詞、 物化 が付ける名です。書き下しでは 謂 を最後に読みます。 参考文献 Tatoeba 文 #8765249( 汤姆不知道玛丽说的是真话还是假话。 )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/8765249 莊周『莊子 齊物論』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文は抄。 出所: 当館所蔵の文書