11.22 列子 湯問 — 愚公、山を移す — Epoché
この篇でできるようになること 妻と智叟の問いから、同じ形と違う態度を読み取れます。 諸を二語に開き、対象と行く先を訳せます。 人の世代と山を比べる愚公の答えを説明できます。 前提 :11.21「列子 天瑞 — 杞人憂天」。間に対象を挟んで、どうするかを問う形を引き続き読みます。 山を崩す相談と反対 列子の湯問篇からの抄です。北山の愚公は、山で道がふさがれ、出入りが遠回りになるため、家族に山を平らにしようと相談します。ここに置かれた本文は、智叟が言い返せなくなる所までです。原典の後には、天帝の命によって山が移される結末があります。 愚公、その妻、隣家の子、河曲の智叟に注目します。 愚 と 智 という名は対になりますが、名だけで誰が賢いかを決めず、それぞれの言葉を追います。子や孫たちも作業に加わります。 妻は力や土石の置き場を問い、智叟は笑って止めようとします。同じく難しさを指摘していても、方法の相談と嘲りでは、返す言葉が違ってきます。 山をどうする、土石をどうする 如太形、王屋何 は、二つの山をどうするのかという問いです。 其如土石何 も、土や石をどうするのかと問います。どちらも 如…何 の間に、扱う対象を挟んでいます。 特別編 21篇 の 奈…何 と同じ組み立てで、現代語なら 怎么办 に当たります。ただし、形が同じでも話し手の態度は同じではありません。妻の 且焉置土石 は置き場への問いを示す根拠です。この 且 は「その上」の意味で、語釈の 年且九十 の「まもなく」とは違います。智叟の 笑而止之 は笑って止める態度を示す根拠です。 妻の問いの後には、みなが具体的な捨て場所を答えます。智叟に対して愚公は、自分一代の力ではなく、子孫へ続く時間を根拠に答えます。単に相手の問いを無視するのでなく、考える範囲を変えています。 一字で対象と場所を結ぶ 投諸渤海之尾 の 諸 は、ここでは 之於 の二語ぶんです。前の土石を、それを、と受ける働きがあります。どこに投げるかを結ぶ働きも持ちます。このような字を兼詞と呼びます。 特別編 5篇 で見た、そこにという場所を受ける字とも比べられます。訳は句ごとに確かめましょう。今回の句では、投げるものと行く先を両方訳して、それを渤海のはしに投げる、とします。 もろもろの物、と量を増やさないでください。この諸は、前に出た土石を受け、後ろの場所へ結ぶ一字です。 運ぶ前に道具を置く 箕畚運於渤海之尾 の 箕畚 は、土などを運ぶ道具です。運ぶ動詞より前に置き、その道具を使って、と手段を示します。名詞を動作の説明に使う、名詞の状語用法です。 現代語なら 用 の後ろに道具を置いてから、運ぶ動作を言えます。名詞を見つけても、運ばれる物だとすぐには決めず、動詞の前後と意味を合わせて読みます。 特別編 19篇 で見た、動詞の後ろに場所を置く形とは別です。 曾不能損魁父之丘 の 曾 は zēng と読み、小さな丘ひとつ削ることさえできない、と強めます。現代語の 曾经 の céng、かつて、という意味とは分けてください。 以前は削れなかったという過去の報告ではありません。小さな丘さえ無理なのに、と相手の力の不足を強く述べています。 一代の命と、続く世代 雖我之死 は、たとえ自分が死んでも、という譲歩です。現代語の 即使 ・ 也 を組にする形と比べられます。 我之死 では、私という主語と死ぬという述語の間に字を置き、まとまりにしています。 特別編 6篇 で見た働きです。 続く 子又生孫,孫又生子 では、同じ字を入れ替えながら世代をつなぎます。智叟は、愚公の残りの年と力だけで作業を測ります。それに対し愚公は、自分がいなくなった後も人が続くと述べています。 愚公が比べるもの 本文の根拠 答えの中での働き 人の世代 子子孫孫,无窮匱也 子孫へ続き、尽きない 山 而山不加增 それ以上増えない 最後の 河曲智叟亡以應 は、智叟に答えるすべがなかったという結びです。 特別編 13篇 の売り手が返答できなくなる場面とも比べられます。しかし、これだけで時代全体の議論は必ずこの終わり方だ、と一般化することはできません。本文にある二人のやり取りとして読みます。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 且 副詞 まもなく 年齢が近づくことをいう 年且九十 年はまもなく九十 迂 形容詞 遠回りである 出入りの不便 出入之迂 出入りが遠回りなこと 諸 兼詞 それを〜に ここでは之於の二語ぶん 投諸渤海之尾 それを渤海のはしに投げる 箕畚 名詞 土を運ぶ道具・もっこ 動詞の前で手段になる 箕畚運於渤海之尾 もっこで渤海のはしへ運ぶ 孀妻 名詞 夫を亡くした女性 隣家の子の母 孀妻有遺男 夫を亡くした女性に残された男児がいる 齔 動詞 乳歯が生え替わる 子の年ごろを示す 始齔 歯が生え替わり始める 曾 副詞 さえ ここでは強める読み 曾不能損魁父之丘 魁父の丘さえ削れない 雖 接続の語 たとえ〜でも 後の存続へつなぐ 雖我之死 たとえ私が死んでも 窮匱 動詞 尽きる 子孫が尽きないと述べる 无窮匱也 尽きることがない 練習 空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 _太形、王屋_ 空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 投_渤海之尾 空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 _我之死 空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 _不能損魁父之丘 投諸渤海之尾 の 諸 を二語に開き、さらに 把 を使って現代語にしてください。 妻と智叟の 如…何 の問いを、それぞれ 怎么办 を使って現代語にしてください。 子又生孫,孫又生子 を現代語にしてください。 妻と智叟の態度を、方法を問う、嘲る、に分け、本文から根拠を挙げてください。 妻の問いの後の返事と、智叟への愚公の返事の違いを説明してください。 前の課で学んだ語( 能干 ・ 笨 ・ 自信 )から二つ以上を使い、現代語の二文で書いてください。一文目で智叟が愚公をどう見ているかを言い、二文目で愚公がどういう人かを言います。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 子又生孫,孫又生子 ▶ の手本を聞き、愚公の返事を声に出します。子と孫の繰り返しを少しずつ速く読みます。息は無理に続けず、まとまりで継いでください。 この篇のまとめ 同じ問いの形でも、方法を尋ねる態度と嘲りは違いました。諸の対象と場所、道具を先に置く形を読み、世代が続くことを根拠とした答えを捉えます。 次の篇へ 次の11.23では莊子の朝三暮四を読みます。木の実を配る話から是非をめぐる議論へ進み、暮の意味の莫と、結論に名を付ける形を見ます。 答え 如太形、王屋何 投諸渤海之尾 雖我之死 曾不能損魁父之丘 投之於渤海之尾 把土石扔在渤海边上。 太形和王屋怎么办? 那些土石怎么办? 儿子又生下孙子。 孙子又生下儿子。 妻は方法を問い、 且焉置土石 と置き場を尋ねます。智叟は嘲り、 笑而止之 と書かれています。 妻の問いには、みなが土石を投げる場所を答えます。智叟には愚公が、子孫は続くが山は増えないと答え、一代の力から世代の長さへ考える範囲を変えます。 智叟觉得愚公很笨。 愚公很有自信,也很能干。 参考文献 列禦寇(伝)『列子 湯問』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文は抄。 出所: 当館所蔵の文書