11.20 賈島 尋隱者不遇 — 雲深くして處を知らず — Epoché
この篇でできるようになること 少年の三つの答えに合う問いを、現代語で書けます。 言の後に続く少年の言葉の範囲を示せます。 去の古い意味を、現代語と日本語に照らして説明できます。 前提 :11.19「柳宗元 江雪 — 獨り釣る寒江の雪」。人の来歴を細かく書かない詩から、問いの中身を書かない詩へ進みます。 題が先に伝える結末 賈島の作として広く知られる五言絶句です。ただし、別の詩人の作とする本もあり、作者には異説があります。ここでは題と四句のつながりから読みます。 題は、隠者を訪ねたが会えなかった、という意味です。 不遇 は、遇わず、と読みます。恵まれない境遇という日本語の不遇とは違います。現代語なら 没遇到 と置き換えて考えられます。 結末を先に知らされても、読む意味がなくなるわけではありません。会えないと分かるまで、訪ねる人の期待がどう動くかを、少年の言葉から追います。 題は隠者が世に認められなかったという説明ではありません。訪ねた側が会えなかった、という出来事を述べています。 誰の言葉が続くのか 最初の 松下問童子 で、松の下にいる少年に尋ねる場面が置かれます。何と尋ねたかという問いの中身は書かれていません。続く 言 から、少年が言った中身を読みます。 かぎ括弧や 曰 がなくても、発言の引用は示せます。この詩では二句目から四句目までを少年の言葉として読みます。二句目で引用を切ると、誰が述べたのかを取り違えます。山の中にいることや場所が分からないことも、少年の言葉です。 書かれた答えから問いを考えられますが、問いの言葉を原文にあったかのように補うのではありません。現代語で問いを作る練習は、答えとつながるかを確かめるためのものです。 出かけて、ここにいない 採藥去 は、薬草を採りに出かけたと読めます。古い 去 の基本は、その場を離れることで、日本語の去るに近い意味です。現代語の 去 は、どこかへ行く意味でよく使います。 この場面では、ここを離れて薬草採りへ出かけたため、師はその場にいません。古い語と現代語の意味が、この場面の訳では重なるところがあります。方向が正反対だと覚える必要はありません。 また、薬を採ってから出かける、と時間順に固定しないでください。薬草を採ることが出かける目的です。動作の字が並んだときは、内容の関係から読みましょう。 いる場所と、分からない場所 只在此山中 の 在 は、いる場所を述べる動詞です。 型編 5課 の所在の言い方と比べられます。 只 は、その動詞より前にあります。 雲深不知處 では、雲が深いという形容詞の述語に、場所を知らないという否定が続きます。 處 は場所です。深い雲があるため、山のどこかまでは分からないと受け取れます。最後に正確な場所を補って終わらせないようにします。 二句目だけを少年の返事としないでください。この山の中だという返事も、場所が分からないという返事も、少年の言葉としてつなぎます。 遠のき、近づき、また遠のく 少年の答え 受け取れること 会えるという期待 採藥去 ここから出かけた その場にいないので遠のく 只在此山中 この山の中にいる 近くにいると思える 雲深不知處 山のどこか分からない また遠のく 少年がわざとはぐらかした、と断定する必要はありません。答えの順によって、近づいたように思えた相手が、もう一度遠くなります。最後まで場所が分からない点で、題の会えなかったという内容が確かめられます。 特別編 17篇 も、最後に問いの答えを置きませんでした。こちらは会えなかったという結末は題で分かりますが、相手の居場所は見えないままです。結末を知ることと、すべてを説明されることは同じではありません。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 童子 名詞 少年 尋ねる相手 問童子 少年に尋ねる 言 動詞 言う 後に発言の中身が続く 言師採藥去 先生は薬草採りに出かけたと言う 師 名詞 先生 少年が居場所を語る人 師採藥去 先生は薬草採りに出かけた 採 動詞 採る 薬草を採る動作 採藥 薬草を採る 去 動詞 その場を離れる ここでは採りに出かける 採藥去 薬草を採りに出かける 只 副詞 ただ 所在を述べる動詞の前 只在此山中 ただこの山の中にいる 此 代詞 この 山を指し示す 此山中 この山の中 處 名詞 場所 最後まで分からない対象 不知處 場所が分からない 練習 空欄を埋めて本文の句を書いてください。 松下_童子 空欄を埋めて本文の句を書いてください。 _師採藥_ 空欄を埋めて本文の句を書いてください。 __此山中 空欄を埋めて本文の句を書いてください。 雲深__處 少年の三つの答えに合う問いを、現代語で三つ書いてください。 言師採藥去。只在此山中,雲深不知處。 を、少年の現代語の返事にしてください。 漢文の 去 と現代語の 去 を、「その場を離れる」「どこかへ行く」に分け、日本語の去るに近い側を選んでください。 三つの返事で、会えるという期待はどう動きますか。 前の課で学んだ語( 松树 ・ 植物 ・ 独自 ・ 失望 )から二つ以上を使い、人を訪ねて会えなかった場面を現代語の二文で書いてください。一文目でどこでどう待ったかを言い、二文目で会えなかった結果と気持ちを言います。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 雲深不知處 ▶ の手本を聞いて声に出します。雲の深さと場所が分からないことの間( 雲深 / 不知處 )で区切り、ゆっくり結びます。 この篇のまとめ 言の後に続く少年の発言を、最後までつなげて読みました。古い去を離れる意味で捉え、返事から書かれない問いを考えます。 次の篇へ 次の11.21からは寓話と短い問答に入ります。列子の杞人憂天を読み、心配する人と説く人のやり取りから、問いと限定の結びを確かめます。 答え 松下問童子 言師採藥去 只在此山中 雲深不知處 你的师父在哪里? (答え: 採藥去 ) 他到哪里去了? (答え: 只在此山中 ) 他在山里的什么地方? (答え: 雲深不知處 ) 师父出门采药了。 他就在这座山里。 云很深,我不知道他在哪里。 漢文の基本はその場を離れる、現代語はどこかへ行くです。日本語の去るは前者に近く、この詩では薬草を採りに出かけたと読めます。 不在で遠のき、この山の中だと近づき、場所が分からず再び遠のきます。 我独自去松树下等师父。 师父不在,我很失望。 参考文献 賈島『尋隱者不遇』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文は全文。 出所: https://zh.wikisource.org/wiki/尋隱者不遇