3.8 一致の総まとめと省略 — 型の段 I を閉じる — Epoché
この課でできるようになること 三つの一致(主語と動詞・名詞と形容詞・先行詞と関係代名詞)を文の中で確かめられる。 ラテン語が何を省き、何を省かないかを言える。 第 1 期の型(3.1〜3.8)を一覧で言え、統制作文を読む準備ができている。 前提 : 3.7 まで。 型の段 I(第 1 期ぶん)の最後の課です。新しい型はありません。ここまでの 7 課を 一致 と 省略 の二つの軸で束ね直します。一致は日本語に無い仕組み(日本語は何も一致させない)、省略は日本語にある仕組み(日本語は主語をよく省く)。日本語話者は前者を新しく覚え、後者は持っている感覚を確かめるだけです。 三つの一致 一致の種類 何を合わせるか 例文 主語と動詞 人称・数 Multī dīcent 多くの者が言うだろう(3 複)/ Ego sum (1 単) 名詞と形容詞 (所有・指示も) 性・数・格 omnis terra 全地 / haec omnia これらすべて / Deus meus 私の神 先行詞と関係代名詞 性・数(格は節の中で) homō quem videō 私が見る人 / Ego sum quī sum 一致は 離れた語を結ぶ糸 です。ラテン語は語順が自由なので、形容詞が名詞から 3 語離れていることがある。そのとき二つを結ぶのは位置ではなく一致—— magnā (女性単数奪格)を見たら、同じ性・数・格の名詞を探す。第 3 期の詩と長文で、この糸を辿る力が読解のすべてになります。いまのうちに、短い文で「どの語とどの語が一致しているか」を線で結ぶ癖をつけてください。 原文 日本語訳 見るところ Omnia mea mecum sunt ; [1] 私のものは全部、私と一緒にある。 omnia mea (中性複数主格)と sunt (3 複) Facta sunt omnia. [2] すべては成った。 facta (中性複数)と omnia と sunt Sunt haec magna, sed in alio; [3] これらは大きなことだ、だが別のところで。 haec magna ——指示と形容詞が一致。 sunt mea est enim omnis terra: [4] 全地は私のものだから。 omnis terra (女単主)と mea (女単主)と est Bona est via tua: [5] あなたの道は良い。 bona ・ via ・ tua ——3 語が女性単数主格 Tui sunt cæli, et tua est terra: [6] 天はあなたのもの、地もあなたのもの。 tuī caelī (男複)/ tua terra (女単)——同じ tuus が形を変える 三つの省略 省くもの いつ省くか 例文 主語の代名詞 いつも(動詞の形で分かる) Cōgitō, ergō sum —— ego は無い。置けば強調 コピュラ est ・ sunt 格言・標語・対句 Ars longa, vīta brevis / Dominus nōmen illī 自明な所有 主語自身の物・身内 patrem videt 彼は(自分の)父を見る 三つとも日本語話者には自然です。日本語も主語を省き(「考える、ゆえにある」)、対句で述語を省き(「術は長く、生は短し」)、自明な所有を言わない(「父を見た」)。英語話者はこの三つで苦労し、日本語話者は苦労しない。逆に、日本語話者が 省きすぎる ものがあります—— 目的語 です。日本語は「見た」だけで目的語を省けますが、ラテン語は他動詞に目的語(対格)が要る。 videō だけなら「私は見える(視力がある)」の意味になります。 第 1 期の型の一覧 課の番号 その課の型 3.1 語順は自由、基本は主語・目的語・動詞。文頭と文末が強調の席。返り読みの番号 3.2 奪格 8 用法(手段・様態・随伴/場所・時/分離・欠如・比較)。前置詞の有無が手がかり 3.3 属格 5 用法(所有・部分・性質・目的語的・主語的)、与格 4 用法(相手・利害・所有・与格動詞) 3.4 前置詞(対格・奪格・両方)。 in +対格は方向、+奪格は位置。都市名は前置詞なし 3.5 疑問( -ne・nōnne・num ・疑問詞)と否定( nōn・nēmō・nihil 。二重否定は肯定) 3.6 命令(2 人称)・禁止( nōlī +不定詞)・呼格・挨拶と手紙の型 3.7 現在・未完了(背景)・未来。時点は奪格、期間は対格。時の副詞 3.8 三つの一致、三つの省略。目的語は省かない この 8 課と、形編の 9 課の形、語編の語 I(上位 300 語)で、読編の 統制作文 8 篇 は範囲外の語も型も 0 で読めます(機械で検査してあります)。第 2 期では完了・受動・分詞・対格不定法・関係文が加わり、ウルガタとケンピスの本物の文に進みます。 背景 — 一致は「離れて置く」ための仕組み なぜラテン語は一致にこれほど手間をかけるのか。一致があるから 語を離して置ける からです。形容詞と名詞が性・数・格で結ばれていれば、間に何語入っても関係は切れない。キケロは magnā cum laude (大いなる称賛とともに)のように前置詞句の中に形容詞を先に出し、詩人は一行の最初と最後に形容詞と名詞を置いて、行全体を「抱え込む」枠を作ります(ウェルギリウス Arma virumque canō, Trōiae quī prīmus ab ōrīs —— prīmus は quī と一致して 4 語離れている)。一致は語順の自由の 代償 ではなく 条件 です。日本語にも英語にも無いこの力が、ラテン詩の織物のような語の配置を可能にしています。 一致の例外も知っておくと、あとで戸惑いません。① 性の異なる名詞を一つの形容詞が受ける とき、人なら男性複数、物なら中性複数( pater et māter bonī 父と母は良い)。② 集合名詞 ( populus 民・ pars 一部)は単数でも、意味に引かれて動詞が複数になることがある(意味上の一致)。③ 述語名詞 は主語と格が一致するが性は一致しない( Glōria umbra est ——たまたま両方女性だが、 Rēx noster est animus は男性同士)。第 1 期の統制作文にはこの例外を出さず、第 2 期の本物の文で一つずつ出会います。 省略については、ラテン語には日本語より 省かないもの が一つあることを強調しておきます——他動詞の 目的語 です。日本語では「もう読んだ?」「読んだ」で通じますが、ラテン語で Lēgistī? — Lēgī. と答えるとき、目的語は文脈に明らかなので省ける一方、動詞が本来他動詞であることは形の上で変わりません。問題は、日本語話者が 作文で目的語を落とす こと。 videō (私は見る)だけ書くと「私には視力がある」に読まれる。統制作文の練習で必ず目的語を置く癖をつけてください。逆に est の省略は日本語話者が思う以上に多く、格言・書名・対句・ウルガタの詩篇で頻出します。「動詞が見つからない」ときは、まず est / sunt の省略を疑うこと。 日本語ならどう言うか 一致を日本語に置き換えることはできません(日本語に一致は無い)。代わりに、 訳すときに一致を使う ——形容詞がどの名詞に掛かるかを一致で決めてから、日本語では名詞の前に置く。省略は逆で、日本語にするときは 補う ——主語を補い(「私は」)、 est を補い(「である」)、所有を補う(「自分の父を」)。返り読みの番号を振るとき、補った語には括弧を付けて区別すると、原文に何があって何が無いかが見えます。 Tuī sunt caelī , et tua est terra .(天はあなたのもの、地もあなたのもの) 語(順に) 意味 読む順 Tuī あなたのもの ② sunt である ③ caelī, 天は ① et そして ④ tua あなたのもの ⑥ est である ⑦ terra. 地は ⑤ 所有形容詞が補語の位置で文頭に来て強調されている。一致( tuī =男複・ caelī / tua =女単・ terra )で結び、日本語では主語を先に。 新出語 語(品詞) 意味 注 alius la 形容詞・第 1・2 変化( alia , aliud ;属格 alīus ) 他の、別の 日本語との差 alius … alius =ある者は…他の者は。英語 alias ・ alien alter la 形容詞( altera , alterum ;属格 alterīus ) (二つのうち)もう一方の 日本語との差 英語 alter ・ alternative 。 alter ego tōtus la 形容詞( -a , -um ;属格 tōtīus ) 全体の 日本語との差 omnis (すべての)と区別。英語 total sōlus la 形容詞( -a , -um ;属格 sōlīus ) ただ一人の、唯一の 日本語との差 英語 solo ・ sole ・ solitude Nihil novi sub sole. [7] 太陽のもとに新しいものなどはない。 Nihil sub sole novum. [8] 太陽の下に新しいものはない。 uterque la 代名詞( utraque , utrumque ) 両方の、どちらも 日本語との差 単数形で「両方」を言う quīdam la 代名詞( quaedam , quoddam ) ある〜、ある人 日本語との差 英語 a certain 。 quī + -dam quisque la 代名詞( quaeque , quidque ) 各々 日本語との差 suum cuique =各人に各人のものを tālis la 形容詞・第 3 変化( tāle ) そのような 日本語との差 tālis … quālis =〜のような tantus la 形容詞・第 1・2 変化( -a , -um ) それほど大きい 日本語との差 tantus … quantus 。英語 tantamount quot la 疑問・関係の数詞不変化 いくつ、〜と同じ数の 日本語との差 tot … quot =〜と同じだけ 練習 練習 1 — 一致を線で結ぶ 上の 6 文それぞれで、一致している語の組(形容詞と名詞、主語と動詞)を書き出してください。 練習 2 — 省略を補う Dominus nōmen illī. / Ars longa, vīta brevis. / Patrem videt. に、省かれた語を補って日本語に訳してください。 練習 3 — 本文を隠して復唱する 6 文を 3 段で読んでください。段 I の最後なので、第 3.1 課から 3.7 課の実文も 1 文ずつ通しで読み返すこと。 この課のまとめ 三つの一致: 主語と動詞(人称・数)、名詞と形容詞(性・数・格)、先行詞と関係代名詞(性・数)。 離れた語を結ぶ糸 。 三つの省略: 主語の代名詞、コピュラ、自明な所有。日本語と同じ。 目的語は省かない 。 第 1 期の型 8 課はこれで全部。統制作文はこの範囲で書かれる。 次の課へ 型の段 I はここまで。次は語編「語」の第 4.1 課——核心 1,000 語の 上位 300 語 を 6 課で。最初は 機能語 ( et・in・nōn・sed・cum・ut …)、どの文にも出る 50 語を池の実文と一緒に。 答え 練習 2 : Dominus nōmen illī [est] 「主が彼の名[である]」/ Ars longa [est], vīta brevis [est] 「術は長く[ある]、生は短く[ある]」/ [Is] [suum] patrem videt 「[彼は][自分の]父を見る」。 参考文献 Sen . Ep . 1.9.19( Omnia mea mecum sunt ; )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Plin . Ep . 7.27.3( Facta sunt omnia. )。 Perseus Digital Library ( phi 1318. phi 001)。 CC BY-SA 4.0 Plin . Ep . 3.11.7( Sunt haec magna, sed in alio; )。 Perseus Digital Library ( phi 1318. phi 001)。 CC BY-SA 4.0 Vulg . Exod . 19:5( mea est enim omnis terra: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Eccli . 37:11( Bona est via tua: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Ps . 88:12( Tui sunt cæli, et tua est terra: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Tatoeba 文 #364516( Nihil novi sub sole. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/364516 Tatoeba 文 #1385035( Nihil sub sole novum. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/1385035