9.23 まとめて書く — 要旨・本体・但し書き — Epoché
この課でできるようになること ★ 要旨・本体・但し書き の順に組める。 ★ 扱わないものを、先に宣言できる 。 ★ 外した理由を書ける 。 ★ 中心の事実は外さない と判じられる。 前提 : 9.22 まで。読は 8.192 まで。語は 4.76 まで。 道具 ★ 9.16 論編 から 9.19 論編 まで、 学術の文章の順 を置いてきました ——★ 序・先行研究・方法と結果・議論。 ★ この順は、 最後まで読む人 を相手にしています。 ★ 仕事の文書の読み手は、 最後まで読みません 。 ★ 読まないのが怠けだからではありません ——★ 同じ日に 十通読む から です。 ★四つの層 ★ だから、 どこで読むのをやめても困らない ように組みます。 どの層か どこでやめても困らないように ★ 一 要旨 ★ これだけで決められる ★ 二 本体 ★ 要旨の一つ一つを支える ★ 三 但し書き ★ どこまでの話かを閉じる ★ 四 付録 ★ 確かめたい人のためだけに置く ★ 8.191 読編 の四半期報告は、 そのとおりに組んであります 。 ★ 第 1 節が要旨、第 2 節から第 5 節が本体、第 6 節(危険)と第 7 節(見通し)が但し書き です。 要旨は、三文で足りる ★ 要旨に入れるのは、 三つだけ です。 何を書くか どんな文か ★ いちばん大きな数 ★ いくらで、何に対してどうか ★ いちばん大きな変わりめ ★ どこが、なぜ動いたか ★ 読む人が決めること ★ 何を決めてほしいか ★ 三つめを書かない要旨が、 いちばん多い欠け です。 ★ 「報告しました」で終わる文書は、 読む人の机の上に置きっぱなしになります 。 扱わないものを、先に書く ★ 9.19 論編 で 限界は範囲だ と置きました。 ★ 仕事の文書では、 範囲を最後ではなく先に 書くことがあります。 ★ 先に書くのは、 読む人が探しに行くのを止めるため です。 ★ 「これは入っていない」と先に言えば、 無いことを欠けだと思われません 。 実例 ★ 8.187 読編 のバジョットの第一段落は、 文書の組み方そのものを書いた文章 です。 ★ そこから五つ、 8.191 読編 から二つ取ります。 一つめ — 題そのものが、主張 ★ バジョットは、本の題を 「貨幣市場」ではなく「ロンバード街」 にしました。 ★ その理由を、 一行目に書きます 。 because I wish to deal, and to show that I mean to deal, with concrete realities [1] ★ 「具体の現実を扱いたいから。そして、扱うつもりだと示したいから」。 どちらの題か 何を約束するか ★ 貨幣市場 ★ 抽象の議論 ★ ロンバード街 ★ 実際の通りと、実際の銀行 ★ 題を読んだ人は、 それだけで中身を予想します 。 ★ だから、 題は要旨より前の要旨 です。 ★ 仕事の文書でも同じ ——★ 「六月の件について」ではなく、 「六月の納期を二週間延ばしたい」 。 二つめ — 難しいのは、書き手の落ち度 ★ 続けて、バジョットは 言い切ります 。 it is the writer's fault if what he says is not clear [1] ★ 「言うことが明らかでないなら、それは書き手の落ち度である」。 ★ これは、 当時としてはたいへん強い言葉 でした。 ★ 「この主題は難しいのだから難しく書いてよい」という考えが広まっていた と、直前に書いています。 ★ 8.181 読編 のヴェブレンの文章と 正面から対になります 。 ★ どちらも 同じ時代の、同じ主題 を扱っています。 三つめ — 扱わないものを、宣言する ★ バジョットは、当時いちばん争われていた話題—— 一八四四年の法 ——を、 扱わないと宣言します 。 in the ensuing pages I mean to speak as little as I can of the Act of 1844 [1] ★ 「続く頁では、一八四四年の法についてできるだけ語らないつもりである」。 ★ そして、 理由を並べます 。 For this I have several reasons [1] ★ 「これには、いくつかの理由がある」。 ★ そのあとに、 一つずつ 書いてゆきます。 どこまで書くか 読む人はどう受け取るか ★ 宣言しない ★ 触れていないのは、知らないからだと思う ★ 宣言だけする ★ 逃げたと思う ★ 宣言し、理由を並べる ★ 選んだと分かる ★ 三つめが、この課でいちばん使える形 です。★ 提案書でも、 「今回は扱わないこと」の節 を置くと、会議が短くなります。 四つめ — 都合のよい除外を、自分で認める ★ ここが、バジョットのいちばん見事なところ です。★ 自分に有利な除外だと、 自分で書きます 。 I admit that I am about to take perhaps an unfair advantage [1] ★ 「おそらく不公平な利を取ろうとしていると認める」。 ★ 難しいと言われてきたものの半分以上が その法をめぐる論争から来ていた ——★ それを外せば、残りは易しく書ける。 ★ 易しく書けたのは 腕のおかげだけではない と、先に言っている のです。 ★ 9.22 論編 で「自分に不利な引き算を自分でやって見せる」と置きました。 ★ これは、 その文章版 です。 五つめ — ただし、中心は外さない ★ 外してよいものと、 外してはならないもの の線も、同じ段落に引いてあります。 A writer on any subject must not neglect its cardinal fact, for fear that others may abuse him [1] ★ 「どんな主題についても、書き手は、人にそしられるのを恐れてその主題の中心の事実をなおざりにしてはならない」。 どういうものか 外してよいか ★ 争いが多いが、中心ではない ★ 外してよい——理由を書けば ★ 中心だが、叩かれる ★ 外してはならない ★ バジョットは、 この法は中心ではない と判じました。 ★ その判断も、 理由を付けて書いて います ——★ 一八四四年から四半世紀が過ぎ、世界が変わったから、と。 ★ つまり、 外す判断そのものが論証されています 。 ★ これが、 逃げと省略の違い です。 六つめ — 要旨の一文の形 ★ 8.191 読編 の第 1 節のはじめの一文 です。 Sales for the quarter were 4,180 million yen, an increase of six per cent on the same quarter last year [2] ★ 「当四半期の売上は四十一億八千万円で、前年同期に対して六パーセントの増加であった」。 どの部分か 何を置いているか ★ Sales for the quarter were … ★ 何の、いつの数か ★ an increase of six per cent ★ 率 ★ on the same quarter last year ★ 比べる相手 ★ 一文に 実数・率・基準 の三つが入っています ( 9.22 論編 )。★ 要旨の一文は、 この形で書けば迷いません 。 七つめ — 但し書きは、最後に閉じる ★ 報告書の最後の節は、 見通しの幅 で終わります。 We will narrow it in the report for the next quarter [2] ★ 「次の四半期の報告で、それを狭める」。 ★ 但し書きを 「次に何をするか」で閉じる ——★ これで、 読む人は宿題を持たされません 。 ★ 9.19 論編 の「限界を書いたら、その限界を外す手も書く」と同じ です。 言い回し ★ 要旨の形と、範囲を宣言する形 を置きます。 要旨を書く どんな形か 何を置くか Sales for the quarter were …, an increase of … on … ★ 実数・率・基準を一文で The fall in … came from … ★ いちばん大きな変わりめ We ask the board to decide … ★ 読む人が決めること ★ 三つめが、 いちばん書き落とされます 。 ★ 決めてほしいことを書かない文書は、 決まらないまま戻ってきます 。 範囲を宣言する どんな形か 何をしているか In the following pages I mean to … ★ これから何をするかを宣言する I shall say as little as I can of … ★ 扱わないものを宣言する For this I have several reasons ★ 理由を並べると予告する I admit that … ★ 自分に有利な点を先に認める ★ 四つを順に使うと、 第一段落がそのまま組めます 。 ★ バジョットの第一段落が、まさにその順 です。 ★ I admit that は、 使いどころを間違えなければいちばん強い形 です。 ★ 先に認めたことは、 あとから突かれません 。 やってみる ★ 自分の文書の題を書き直す 。★ 「〜について」を使わずに、 決めてほしいこと を題にする。 ★ 長くなってもよい。 ★ 要旨を三文で書く 。★ いちばん大きな数/いちばん大きな変わりめ/決めてほしいこと 。★ 三文を超えたら、 本体に移す 。 ★ 「今回は扱わないこと」の節を書く 。★ 三つ挙げ、 それぞれに理由 を一行ずつ付ける。 ★ 理由が書けないものは、 扱わねばなりません 。 ★ 自分に有利な点を一つ、先に認める 。★ 「この数がよく見えるのは、〜だからでもある」の形で一文書く。 もっと深く — 時間のあるときに じっくり取り組みたい人向けの、長めの講義や原典の解説です。この課を進めるのに見る必要はありません。長さを見て、興味のあるところだけ選んでください。 LEADERSHIP LAB: The Craft of Writing Effectively UChicago Social Sciences (81:51, 2014) 読む人のために書く。シカゴ大学の有名な講義。82 分 練習 「実例」に引いたバジョットの四文(題/落ち度/宣言/不公平)を 続けて音読 する。3 周する。3 周目は音声に重ねて シャドーイング する。 ★ it is the writer's fault if what he says is not clear を そらで言えるまで 音読する。 ★ fault に いちばん強い拍 を置いてください。 「言い回し」の七つの形を音読する。★ 範囲を宣言する四つは、 続けて一息で 読んでみる。 ★ それが、 第一段落の呼吸 です。 AI への頼み方 ★ 組み立ての検めは、 AI がよくできる仕事 です。 ★ ただし、 書かせてはいけません ——★ 要旨は、 何を決めてほしいかを知っている人にしか書けません 。 何を頼むか 頼み方の型 ★要旨だけで足りるか検めさせる 「 第 1 節だけを読んで 、何を決めればよいか分かりますか。分からないなら、何が足りないか挙げてください」 ★題と中身が合っているか見させる 「この題が約束していることと、 中身が扱っていること のずれを挙げてください」 ★扱っていないものを挙げさせる 「読む人が 当然あると思うのに入っていないもの を挙げてください」 ★ 一つめの「第 1 節だけを読んで」が要点 です。★ 全部読ませると、 全部から答えを作ります ——★ それでは、 要旨の検めになりません 。 ★ 三つめは、 「今回は扱わないこと」の節を作るための頼み方 です。 ★ 挙がったもののうち、 理由を書けるものだけ をその節に入れます。 この課のまとめ ★ 仕事の文書は結論が先 ——学術の順(序・先行研究・方法と結果・議論)とは逆。 ★ 四つの層で組む ——要旨・本体・但し書き・付録。どこでやめても困らないように。 ★ 要旨は三文 ——いちばん大きな数、いちばん大きな変わりめ、決めてほしいこと。 ★ 三つめを書かない要旨が、いちばん多い欠け 。決めてほしいことを書かない文書は、決まらないまま戻ってくる。 ★ 題は、要旨より前の要旨 。「〜について」ではなく、決めてほしいことを題にする。 ★ 難しいのは書き手の落ち度 (バジョット)。主題が難しいことは、難しく書いてよい理由にならない。 ★ 扱わないものは、宣言し、理由を並べる 。宣言だけでは逃げに見え、理由を並べると選択に見える。 ★ 自分に有利な除外は、自分で認める 。先に認めたことは、あとから突かれない。 ★ 中心の事実は、叩かれても外さない 。外すなら、外す判断そのものを論証する。 ★ 但し書きは「次に何をするか」で閉じる 。読む人に宿題を持たせない( 9.19 論編 )。 次の課へ 次の課は 9.24 、 第 7 期の論編の最後 です。★ この課では 一人で書く文書 を組みました。 ★ 次の課は、 何人かで決めたことを残す 話 です。★ 決まったこと、決まらなかったこと、そして 反対だった人の言い分 ——★ 三つとも残します。 答え 「やってみる」の四つの答えです。 ★ 題を書き直すと、 中身のほうが足りないと分かる ことがあります。 ★ 「六月の納期を二週間延ばしたい」と題に書いたのに、 延ばした場合の費用が書いていない ——★ 題が、 中身の検査になっています 。 ★ だから、 題を先に決める のが早道です。 ★ 三文に収めようとすると、 二文めで困る はずです。 ★ 変わりめが 二つ以上ある と思うから です。★ けれども、 いちばん大きな一つを選ぶ のが要旨の仕事 です。★ 選べないなら、 まだ分かっていません 。 ★ 理由が書けない除外は、たいてい 時間が足りなかったもの です。 ★ それなら、 そう書けばよい ——★ 「今回は時間の都合で扱わない。次の報告で扱う」。 ★ これは立派な理由 です。★ 書けないのは、 扱いたくなかったとき だけ です。 ★ 有利