12.16 英米哲学の流れ — 経験から始めて、どこへ行ったか — Epoché
この課で分かるようになること ★ 経験論の出発点 が言える。 ★ 三人が別の場所へ行った 理由が分かる。 ★ 問いが二度変わった ことが分かる。 ★読 F の並びの 意味 が分かる。 前提 : 12.15 まで。読は 8.168 まで。論は 9.20 まで。 ★一本の線がある 読 F の三十二篇には、 古代ギリシアから十九世紀まで が入っています。★ その中に、 ひとつながりの議論 が埋まっています。 ★ ロック、バークリー、ヒューム、スミス、ミル、パース、ジェイムズ ——★ この七人は、 前の人を読んで書いています 。 ★ しかも、 同じ一つのところから始めています ——★ 「知識は経験から来る」。 どこから始めるか 何を認めないか ★ 経験から ★ 生まれつき持っている知識 ★ 理性から ★ 経験だけでは足りないとする ★ 前者を 経験論 ( empiricism )といいます。 ★ 語のもとはギリシア語の 「試してみること」 です。 ★ 面白いのは、 同じところから始めた三人が、まったく違う場所に着いた こと です。★ その道すじを、たどってみます。 ★ロック — まず、知識の出どころを問う 8.147 読編 ・ 8.148 読編 で読んだジョン・ロック(一六三二〜一七〇四)の『人間知性論』は、 一六九〇年 に出ました。 ★ ロックがやったのは、 問いの向きを変える ことでした。 それまでの問い ロックの問い ★ 世界はどうなっているか ★ 私たちはどこまで知れるか ★ 序の一文に、それがそのまま書いてあります。 The understanding, like the eye, whilst it makes us see and perceive all other things [1] ★ 「知性は、目のように、他のすべてを見させ知覚させながら」 ——★ そのあとに 「自分自身には気づかない」 と続きます。 ★ だから、 手間をかけて自分から離して置く 必要がある、と。 ★ これが、 近代の認識論のはじまり とされます。 ★ 世界を調べる前に、 調べる道具を調べる ——★ 9.18 論編 で「方法を先に書く」と置いたのと、同じ構え です。 ★ ロックの答えは、 すべての観念は経験から来る でした。 ★ 感覚と、 心が自分の働きを見ること ——★ この二つだけが材料だ、と。 ★バークリー — 徹底すると、物が消える 8.149 読編 で読んだジョージ・バークリー(一六八五〜一七五三)は、 アイルランドの聖職者 でした。★ 『人知原理論』は 一七一〇年 ——★ ロックの二十年後 です。 ★ バークリーは、 ロックに反対していません 。 ★ むしろ、 徹底しました 。 ★ 観念しか手元に無いのなら、 観念の向こうの「物」をどうやって知るのか ——★ 知れないではないか、と。 the existence of an idea consists in being perceived [2] ★ 「観念の存在とは、知覚されていることである」。 ★ そして、有名な一句が来ます。 Their ESSE is PERCIPI [2] ★ 「それらの 存在する とは、 知覚される ことである」。 ★ ラテン語です ——★ 当時の学術の言葉 ( 12.15 知編 )。 誰の考えか 物は何か ★ ロック ★ 観念の向こうに、ある ★ バークリー ★ 知覚されているあいだだけ、ある ★ これは奇妙に聞こえます が、★ 「経験から始める」を そのまま押し進めた結果 です。 ★ 途中で止める理由が、 経験論の中には無い から です。 ★ヒューム — 因果も、習慣だった 8.150 読編 ・ 8.151 読編 で読んだデイヴィッド・ヒューム(一七一一〜一七七六)は、 スコットランド の人です。★ 『人間知性研究』は 一七四八年 。 ★ ヒュームは、 別のところを押しました 。 ★ 物ではなく、 つながり のほう です。 All the objects of human reason or enquiry may naturally be divided [3] ★ 「人間の理性の対象はすべて、自然に二つに分けられる」 ——★ 観念の関係と、事実 。 どちらか 反対を考えられるか ★ 観念の関係 ★ 考えられない(矛盾になる) ★ 事実 ★ 考えられる ★ 明日太陽が昇らない、は 矛盾ではありません 。 ★ だから、 証明できません 。 ★ では、なぜ私たちは昇ると思うのか ——★ ヒュームの答えは 習慣 でした。 ★ 8.151 読編 の玉突き玉の話 です。★ 一つの玉が他の玉を動かすのを 見たことがあるから そう思うのであって、★ 理屈で出てくるのではない、と。 ★ これが、 経験論の行き着いた先 です。 ★ 物の存在も、原因と結果も、 証明できない ——★ それでも私たちはそう考えずにいられない。 ★行き詰まりから、「どう決めるか」へ ★ ここで、 問いが変わります 。 いつの問いか 何を問うか ★ ロックからヒュームまで ★ 何を知れるか ★ そのあと ★ では、どう決めるか ★ 知れないことが分かったあとも、 人は決めなければなりません 。 ★ 何をすべきか、どんな決まりを作るか。 ★ この問いに、 測れるものを持ち込んだ のが 功利主義 ( utilitarianism ) です。 ★ もとの語 utility は 役に立つこと ——★ いまの経済学でも同じ語が使われます ( 12.18 知編 )。 ★ 8.157 読編 のジョン・スチュアート・ミル(一八〇六〜一八七三)は、 この考えの三代目 です。 actions are right in proportion as they tend to promote happiness [4] ★ 「行為は、幸福を増やす度合いに応じて正しい」。 ★ ヒュームの行き詰まりと、つながっています ——★ 何が善かを 理屈で証明できない なら、★ 結果を見て測るしかない 。 ★ けれども、 ミル自身が困難に気づいていました ( 8.158 読編 ) ——★ 快楽には 質 があって、質は数えられない。 ★アメリカで、問いがもう一度変わった 8.163 読編 ・ 8.164 読編 のチャールズ・パース(一八三九〜一九一四)と、 8.160 読編 〜 8.162 読編 のウィリアム・ジェイムズ(一八四二〜一九一〇)は、 アメリカ の人です。 ★ 二人が立てたのは、 三つめの問い でした。 どの問いか 誰が立てたか ★ 何を知れるか ★ ロックからヒューム ★ どう決めるか ★ ベンサムからミル ★ その語は何を意味するか ★ パースとジェイムズ ★ パースの答えは、 行為の違い でした。 belief is a rule for action [5] ★ 「信念は、行為の規則である」。 ★ だから、 二つの考えが違う行為を生まないなら、それは同じ考えだ 、と。 ★ ジェイムズは、これを 三十年後に掘り出しました ( 9.17 論編 )。 This is the principle of Peirce, the principle of pragmatism [6] ★ 「これがパースの原理、プラグマティズムの原理である」。 ★ 語 pragmatism のもとはギリシア語の 「なされたこと・行い」 です ——★ 英語の practice と同じ親を持ちます。 ★ 8.160 読編 のリスの話が、 この方法の見本 です ——★ 「まわる」をどちらの意味で取るかで答えが決まり、★ それ以外に争うことは何も無い と示しました。 ★読 F を、なぜこの順に並べたか ★ 読 F の三十二篇は、 おおむね年代の順 に並んでいます。 ★ けれども、 年代だけではありません 。 どのあたりか 何が置いてあるか ★ はじめ ★ 問いの立て方(プラトン) ★ 中ほど ★ 何を知れるか(ロックからヒューム) ★ 後半 ★ どう決めるか(スミス・ミル) ★ 終わり近く ★ 語の意味(パース・ジェイムズ) ★ そして、 最後の四篇 が外から来ます ——★ ニーチェ、マルクス、エピクテトス、ショーペンハウアー。 ★ この四篇は、 線の外 に置いてあります。 ★ 理由は一つ ——★ 線の中だけを読むと、 線そのものを疑えなくなる から です。 ★ とりわけ 8.168 読編 のショーペンハウアーは、 読むことそのもの を疑いました ——★ 読 F の最後に、 読 F への反論 を置いてあります。 ★ これは、 9.19 論編 で置いた 「自分の側の弱点は自分で先に書く」 を、★ 課程そのものでやっている ということ です。 ★線の上の六つの一文 この課で引いた句を、原典の一文に戻して並べます。上から、経験論の三人、功利主義、そしてアメリカの二人です。行を押して上から順に聞くと、同じ出発点から問いが二度変わっていくのが分かります。 英文 日本語訳 見るところ The understanding, like the eye, whilst it makes us see and perceive all other things, takes no notice of itself; and it requires and art and pains to set it at a distance and make it its own object. [1] 知性は、目のように、ほかのすべてを見させ知覚させながら、自分自身には気づきません。自分から離して置いて、それ自体を対象にするには、技と手間が要るのです。 世界を調べる前に、調べる道具を調べる Their ESSE is PERCIPI, nor is it possible they should have any existence out of the minds or thinking things which perceive them. [2] それらの存在するとは知覚されることであって、それを知覚する心や思うものの外に存在することはできません。 経験から始める構えを、そのまま押し進めた先 All the objects of human reason or enquiry may naturally be divided into two kinds, to wit, Relations of Ideas, and Matters of Fact. [3] 人間の理性の対象、あるいは探究の対象はすべて、自然に二つに分けられます。すなわち、観念の関係と、事実の事柄です。 反対を考えられるかどうかで、二つに分ける The creed which accepts as the foundation of morals, Utility, or the Greatest Happiness Principle, holds that actions are right in proportion as they tend to promote happiness, wrong as they tend to produce the reverse of happiness. [4] 道徳の土台として効用、すなわち最大幸福の原理を採る教えは、行為は幸福を増やす度合いに応じて正しく、その逆を生む度合いに応じて誤っていると説きます。 何が善かを、結果を見て測る But, since belief is a rule for action, the application of which involves further doubt and further thought, at the same time that it is a stopping-place, it is also a new starting-place for thought. [5] けれども、信念は行為の規則であり、それを当てはめればさらに疑いと思考が生じます。ですから信念は、止まる場所であると同時に、思考の新しい出発点でもあるのです。 考えの違いは、行為の違いで決まる This is the principle of Peirce, the principle of pragmatism. [6] これがパースの原理、プラグマティズムの原理です。 三十年後に掘り出されて、名が付いた やってみる ★ 三人の道すじを、一文ずつ書く 。★ ロック/バークリー/ヒューム が同じ出発点からどこへ行ったかを、日本語で一文ずつ。 ★ 問いの変化を、表にする 。★ 「何を知れるか」「どう決めるか」「何を意味するか」 ——★ それぞれ、どんな問いに答えようとして生まれたかを書く。 ★ 線の外の四篇を読み直す 。 8.165 読編 / 8.166 読編 / 8.167 読編 / 8.168 読編 から一つ選び、★ この線のどこを疑っているか を一段落で書く。 ★ いまの自分の考えを置く 。★ 三つの問いのうち、 自分がいちばん気になるもの はどれか。 ★ 理由も一文。 この課のまとめ ★ 読 F には一本の線が埋まっている ——ロック・バークリー・ヒューム・ミル・パース・ジェイムズ。七人は前の人を読んで書いた。 ★ 出発点は同じ ——「知識は経験から来る」。それでも、三人はまったく違う場所に着いた。 ★ ロックは問いの向きを変えた ——世界を調べる前に、調べる道具を調べる。 ★ バークリーはロックに反対したのではなく、徹底した。 途中で止める理由が、経験論の中に無かった。 ★ ヒュームは因果を習慣に帰した。 物の存在も原因と結果も証明できない。それでも人はそう考えずにいられない。 ★ 知れないと分かったあとも、人は決めなければならない。 そこから功利主義が出た。 ★ アメリカで、問いがもう一度変わった ——「その語は何を意味するか」。答えは「行為の違い」。 ★ 読 F の最後の四篇は、線の外に置いてある。 線の中だけを読むと、線そのものを疑えなくなる。 次の課へ 次の課は 12.17 、 聖書とシェイクスピア です。★ この課で見たのは 考えの線 でした。 ★ 次に見