6.1 挨拶と名乗り — 初対面の 4 手 — Epoché
この課で言えるようになること 初対面の場で、声をかける・名乗り合う・相手のことを聞く・別れるの 4 手を、自分から順に運べる。 同じ用を足す文を、くだけた形と改まった形で言い分けられる。 相手の名前が聞き取れなかったときに、聞き返す・書いてもらうの 2 つの手で立て直せる。 命令の形を頼む形へ、 can を could へ、単純過去を現在完了へ替えて、丁寧さを一段上げられる。 前提 : 5.1 まで。 ここから話編 話が始まります。聞編 聞では、黙って耳だけを働かせていればよく、聞き落としても相手は待ってくれませんでした。この編ではそれが逆になり、 相手がこちらの言葉を待ちます 。だから話す編で最初に要るのは、語彙でも文法でもなく 手順 です。次に何をすればよいかが分かっていれば、言葉が出てこない時間は短くて済みます。 初対面の場は、その手順がいちばんはっきりしている場面です。声をかける、名乗り合う、相手のことを聞く、別れる。この 4 手の順番は、相手が誰でも場所がどこでも変わりません。変わるのは 丁寧さの段 だけです。段の上げ方には決まった型があり、語を足すのではなく形を替えます。この課ではその型を 3 つ決めます。 5.1 聞編 で聞き取った文のうちいくつかは、この課でそのまま自分が言う文になります。聞けた文は言えるようになるのが早い——聞の編と話の編を同じ期に置いたのはそのためです。 場面と話し手 対話 A は語学学校の入口で、前から通っている人(A)が今日から来た人(B)に声をかける場面です。初対面ですが同じ学校に通う者どうしなので、丁寧さは中くらいで足ります。 対話 B は友人の集まりで、共通の知り合い(C)が 2 人を引き合わせる場面です。相手がどういう人か分からないので、A も B も一段上の形を使います。 先に断っておきます。この課程の対話は固有名詞をよけて集めた文だけでできているので、自分の名前を言う「名乗る」行だけは表に置けません。置いたのは、名前を 尋ねる 側の言い方と、聞き取れなかったときの立て直し方です。名乗る側の文はごく短いので、練習で自分の名前を入れて作ります。 もう 1 つ。初対面の英語がつらいのは、語が出てこないからではなく 相手の名前が取れない からです。知らない語の並びは、耳を鍛えても一度では取れません。だから手を先に決めておきます。 もう一度言ってもらう 、それでも取れなければ 書いてもらう 。この 2 手だけです。 対話 A 話者 英文 日本語訳 A Are you new here? [1] こちらは初めてですか。 B This is my first time to be here. [2] ここに来るのは初めてなんです。 A Nice to meet you. [3] よろしくお願いします。 B Nice to meet you, too. [4] こちらこそ、よろしくお願いします。 A Do you live around here? [5] この近くにお住まいなんですか? B I live in a small town. [6] 小さな町に住んでいます。 A What do you do? [7] お仕事は何ですか。 B I work in a car company. [8] 私は自動車の会社に勤めています。 A Nice talking with you. [9] あなたとお話しできてうれしかったです。 B Have a nice day! [10] 良い1日を! 10 行を 4 つに割って見てください。1 行目と 2 行目が 声をかける 手、3 行目と 4 行目が 名乗り合う 手、5 行目から 8 行目が 相手を聞く 手、9 行目と 10 行目が 別れる 手です。どの手も 2 行、つまり 問いと答えの対 でできています。自分が先に口を開く側なら奇数行の 5 つを順に出し、相手が先なら偶数行の 5 つを返せばよい。どちらの役も練習しておきます。 3 行目と 4 行目の対は、初対面でいちばん強い定型です。言い切りの形をしていますが、意味の上では挨拶そのもので、日本語の「よろしくお願いします」がここに当たります。返しは 4 行目の形で決まっていて、後ろに付く語が「こちらこそ」に当たります。この 2 行は考えずに出るまで口に馴らしてください。 5 行目から 8 行目は、相手を聞く手です。問いは住まいと仕事の 2 つだけにしました。初対面で無難に聞けて、しかも話が続くのがこの 2 つだからです。8 行目は職種の名前を出さず、どういう所で働いているかで答えています。職種の名前は語彙の負担が大きいので、この期のうちは 場所で答える のが楽です。学生なら I'm a student. [11] の 1 文で足ります。 対話 B 話者 英文 日本語訳 C This is my friend. [12] こちらが私の友だちです。 A Nice to meet you. [3] よろしくお願いします。 B Nice to meet you, too. [4] こちらこそ、よろしくお願いします。 A Have we met before? [13] 以前お会いしたことがありますか。 B I've been here many times. [14] ここには何度も来ています。 A Do you come here often? [15] ここにはよく来られるんですか? B I work in a language school. [16] 語学学校で働いています。 A Do you live in the city? [17] 都会にお住まいですか。 B I live in a big city. [18] 大きな町に住んでいます。 A May I ask your name? [19] お名前を伺ってもよろしいでしょうか? B Can you say that again? [20] もう一度言ってもらっていいですか? A Can you write your name here? [21] こちらにお名前をご記入いただけますか? 12 行あり、対話 A より 2 行長くなっています。増えた 2 行は 名前をめぐるやりとり です。学校の入口で立ち話をするだけなら名前を聞かずに別れることは実際よくありますが、引き合わせられた場では、名前を聞かないほうが不自然です。 1 行目は引き合わせる人の台詞です。この 1 文が言えると、自分が 3 人目になったときに 場を作る側 に回れます。日本語で「こちら、友人の——」と名前を続けるのと同じで、この文のあとに名前が続きます。 4 行目と 5 行目は、この課で唯一 現在完了 が出るところです。4 行目の問いは「以前に会ったことがありますか」で、日本語話者はここを単純過去で言いたくなります。その差は下の丁寧さの節で扱います。現在完了は 3.9 で型として立てるので、この課では 4 行目と 5 行目の 2 文を 形のまま 覚えるので足ります。 10 行目から 12 行目が、名前をめぐる立て直しです。10 行目で A が名前を尋ねますが、集まりは声が通りにくく、11 行目で B が聞き返しています。大事なのは 聞き返すのは失礼ではない ということで、初めて聞く名前は母語話者どうしでも一度では取れません。12 行目で A が出した手が、この課のいちばん実用的な 1 文です。名前は一度で通らないものと決めて、紙に書いてもらう。音でだめなら文字にする——名刺を出すのも、この 1 文の代わりです。 言い回し 対話に出なかった言い方を足しておきます。同じ用を足す文が 2 つ以上あるときは、丁寧さの段が違うだけだと思ってください。 英文 日本語訳 使いどころ What's your name? [22] お名前は何ですか? 名前を尋ねる。友だちどうし・くだけた場 Could I have your name? [23] お名前を教えていただけますか? 名前を尋ねる。受付や電話。いちばん改まった形 I didn't get your name. [24] お名前が聞き取れなかったのですが。 名前が取れなかったとき。相手を責めない言い方 Nice to see you again. [25] またお会いできてうれしいです。 会うのが 2 度目のとき。初対面の言い方とは動詞が違う Thank you very much. [26] どうもありがとうございます。 別れぎわ。世話になったことがあれば必ず Have a nice day. [27] よい一日をね。 別れの締め。昼のうちに別れるとき 4 番目に印を付けておきます。会うのが 2 度目以降のときの形です。対話 A の 3 行目と見比べてください。動詞が違います。初対面のほうは「知り合いになる」の動詞、2 度目以降は「目にする」の動詞です。日本語ではどちらも「お会いできて」なので取り違えやすいところですが、 初対面かどうかで動詞を選ぶ ——この 1 点だけで間違えません。 言い換えと丁寧さ 丁寧さを上げる型を 3 つ決めます。3 つとも 語を足すのではなく形を替える ものです。日本語では「恐れ入りますが」と語を足して丁寧にできるので、英語でも please を足せば済むと思ってしまいます。足しても指示は指示のままです。 1 つ目は 命令の形を頼む形へ 。命令の形は動詞から始まる文です。日本語の「〜して」に当たると思っていると、実際には「〜しろ」に近く届きます。問いの形に替えると相手に断る余地が生まれ、そこが丁寧さになります。2 つ目は can を could へ 。問いの形のまま助動詞を 1 語替えるだけで段が上がります。下の表は、同じ用を足す 3 文を左から右へ段を上げて並べたものです。左は身内、真ん中は同僚、右は客や初対面——その見当で選んでください。 命令の形 頼む形 もっと丁寧な形 Say it again. (もう一度言ってください。) [28] Can you say that again? [20] Could you say that again? [29] Write your name here. [30] Can you write your name here? [21] Could you write your name here? [31] Tell me your name. (お名前を教えてください。) [32] Can you tell me your name? [33] Could you tell me your name? [34] 3 行とも、右へ行くほど文が長くなっています。英語の丁寧さはおおむね 文の長さ に比例し、ここは日本語と同じです。ずれるのは、日本語が語尾を替えて段を上げるのに対し、英語は 文の頭を替える ことです。頭の 1、2 語で段が決まるので、言い出す前に段を決めておく必要があります。 自分が助ける側に回るときも同じ型です。店や受付で相手に用を尋ねる 3 文を並べると、 Can I help you? [35] が中くらい、 Could I help you? [36] が一段上、 May I help you? [37] がいちばん上になります。3 つとも意味は同じで、替わっているのは助動詞 1 語だけです。 3 つ目は 単純過去を現在完了へ 。これだけは形の替え方ではなく、 選ぶ形そのものを間違えている という話です。日本語の「〜したことがありますか」は過去のことに見えるので、英語でも過去形で言いたくなります。ところが英語の過去形は「終わってしまって今とつながっていないこと」を指すので、「あのとき会いましたか」という別の問いになります。真ん中の列は Epoché の作例で、日本語につられて出てしまう形です。 言いたいこと つい出てしまう形 英語で言う形 以前に会ったことがありますか Did we meet before? Have we met before? [13] ここに来たことがありますか Did you come here? Have you been here before? [38] 真ん中の列の 2 文は文法としては壊れていません。壊れていないからこそ、相手は間違いだと気づかず、違う問いとして受け取ります。 通じない誤りより、別のことが通じる誤りのほうが厄介です。 「〜したことがある」と言いたくなったら過去形を使わない——いまはこの 1 つだけを覚えます。 この課で使う型 — 型編の復習 この課の 22 行は、型編で立てた型だけでできています。 型の名 この課での出方 戻る課 文の骨と be 動詞 住まいと仕事を言う答えの行はすべてこの形 3.1 型編 疑問文と丁寧さの段 対話の問いの行と、丁寧さの表の 3 段 3.2 型編 名詞の数と冠詞 町・学校・会社に付く冠詞の選び分け 3.3 型編 代名詞と所有 相手の名前を指す語と、自分の友だちを指す語 3.4 型編 前置詞 住んでいる所と働いている所を言う前置詞 3.5 型編 過去と未来 単純過去と現在完了の食い違い 3.6 型編 動画で見る この課の内容に近い解説動画です。押すと再生されます(再生は YouTube に接続します)。「画面に固定して見る」を押すと、本文を読みながら見られます。 How to introduce yourself: Easy English Conversations 💬 Episode 1 BBC Learning English (2:37, 2025) 初対面の 4 手 練習 対話 A を役で音読する。 まず A の 5 行だけを続けて 音読 し、音読判定にかける。次に B の 5 行だけを同じようにかける。そのあと 10 行を通して 1 人で 音読 し、もう一度かける。3 回とも綴りどおりに返らなかった行を書き出す。 名乗りを作って音読する。 My name is のあとに自分の名前を続けた 1 文と、 I'm のあとに自分の名前を続けた 1 文の、2 通りを作る。次に、住まいと仕事を言う 2 文を、対話 A の 6 行目と 8 行目の形をまねて作る。できた 4 文を続けて 音読 し、判定にかける。名