A Good Bargain — Wilhelm Grimm
あるお 百姓 ( ひゃくしょう ) さんが、 牝牛 ( めうし ) を 市場 ( いちば ) へ 追 ( お ) っていって、七ターレルで売ってきました。かえり道に、池のはたをとおらなければなりませんでした。まだ池までこないうちに、もう遠くのほうから、カエルたちが「アク、アク、アク」と、ないているのがきこえてきました。 「まったく、うるさくがなりたてやあがる。」 と、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんはひとりごとをいいました。 「おらのもらった 金 ( かね ) は 七 ( ジーベン ) だぞ。 八 ( アクト ) じゃねえや。」 お百姓さんは水ぎわまできますと、カエルたちにむかって、 「てめえたちゃ、なんてばかだ! わからねえのかよ。七ターレルだぞ。八じゃねえんだ。」 と、どなりました。 それでも、カエルたちは、やっぱり「アク、アク、アク」と、なきつづけています。 「ようし、ほんとにしねえんなら、てめえたちの目のまえで 勘定 ( かんじょう ) してみせてやらあな。」 こういって、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんはポケットから 金 ( かね ) をとりだして、二十四グロッシェンずつで一ターレルと、 合計 ( ごうけい ) 七ターレルをかぞえあげてみせました。 けれども、カエルたちは、そんな 勘定 ( かんじょう ) にはおかまいなしに、またもや、「アク、アク、アク」と、なきたてました。 「ええい。」 と、お百姓さんはすっかり 腹 ( はら ) をたててどなりつけました。 「これでも気がすまねえんなら、てめえたちで勘定しろい。」 そして、カエルたちのいる水のなかへ、金をそっくりほうりこみました。お百姓さんはそのまま立っていました。カエルたちが 勘定 ( かんじょう ) をすまして、金をかえしてくれるまで、 待 ( ま ) っているつもりだったのです。ところが、カエルたちはがんこで、ひっきりなしに、「アク、アク、アク」と、なきたてるばかりです。そして、金などはなげかえしてもくれませんでした。 お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんはなおしばらく 待 ( ま ) っていましたが、そのうちに日がくれてきましたので、うちへかえらなければならなくなりました。そこで、カエルたちを口ぎたなくののしって、どなりました。 「やい、やい、水んなかのバチャバチャ 野郎 ( やろう ) の、でか頭の、ぐりぐり目玉め。てめえたちゃ、ばかでっかい口をしてやがって、耳もいたくなるほどギャア、ギャア大さわぎしゃあがるくせして、七ターレルの 勘定 ( かんじょう ) もできねえじゃねえか。てめえたちの勘定がすむまで、おらがここで 待 ( ま ) ってるとでも思ってんのか。」 こういいすてて、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんは歩きはじめました。しかし、カエルたちは、あいかわらずそのうしろから、「アク、アク、アク」と、ないていました。で、お百姓さんはぷんぷん 腹 ( はら ) をたてて、うちへかえりました。 それからしばらくして、お百姓さんはまた 牝牛 ( めうし ) を一 頭 ( とう ) 買いました。お百姓さんはそいつを 殺 ( ころ ) して、さて、どのくらいになるだろうかと、 胸 ( むね ) で 計算 ( けいさん ) をしてみました。 肉 ( にく ) をうまく売れば、 牝牛 ( めうし ) 二頭ぶんぐらいの金にはなるでしょうし、それにまだ 皮 ( かわ ) ものこるというものです。そこで、お百姓さんは肉をかついで町へでかけました。町の門のまえまできますと、犬がひとかたまりになってかけてきました。みれば、大きな 猟犬 ( りょうけん ) が 先頭 ( せんとう ) にたっています。そいつが肉のまわりをとびまわって、くんくんかぎながら、「ワス、ワス、ワス、ワス」と、ほえたてました。 ところが、犬がいつまでたってもなきやまないので、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんは犬にむかっていいました。 「よしよし、わかった、わかった。おめえ、この肉がちっとばかしほしいもんだから、『ワス、ワス (すこしの意味) 』っていってんだな。だがな、おめえにこいつをくれちまったら、おらのほうがうまくいかねえでの。」 けれども、犬はやっぱり「ワス、ワス」とへんじをするばかりです。 「おめえ、ほんとに 肉 ( にく ) をみんなくっちまわねえか。そこらにいるおめえのなかまのことも、うけあえるか。」 「ワス、ワス。」 と、犬がいいました。 「ようし、おめえがそんなにまでいうんなら、おめえにまかせんべえ。おら、おめえをようく知ってる。おめえの 奉公 ( ほうこう ) さきも、ちゃあんとわかってる。だがな、いいか、三日たったら、きっと 金 ( かね ) をもらうぞ。 約束 ( やくそく ) をまもらなかったら、ただではおかねえぞ。とにかく、おめえがおれんとこへ金をもってきさえすりゃいいんだ。」 それから、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんは 肩 ( かた ) から肉をおろして、また、いまきた道をひきかえしました。犬どものほうは、たちまち肉をめがけておどりかかって、「ワス、ワス」と、大声にほえたてました。 お百姓さんはそれを遠くのほうできいて、ひとりごとをいいました。 「ほほう、あいつら、みんなちっとばかしほしがってやがる。だが、でっかいやつが、おらにうけあってるだ。」 三日たちますと、お百姓さんは、今夜は 金 ( かね ) が手にへえるぞと、考えて、ほくほくしていました。ところが、だれも金をはらいにはやってきませんでした。 「もう、だれも 信用 ( しんよう ) できねえ。」 と、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんはいいました。 とうとう、がまんができなくなって、お百姓さんは町の 肉屋 ( にくや ) へでかけていき、 金 ( かね ) をはらってくれとねじこみました。肉屋はじょうだんだとばかり思っていましたが、お百姓さんはいいました。 「じょうだんごとじゃあねえ。おら、金をもらうだ。三日めえに、おめえさんとこのでっかい犬が、ぶち 殺 ( ころ ) した 牝牛 ( めうし ) を、まるごともってこなかったかね。」 肉屋 ( にくや ) はおこって、そこにあったほうきの 柄 ( え ) をつかむと、いきなりお 百姓 ( ひゃくしょう ) さんをたたきだしてしまいました。 「だが、 待 ( ま ) てよ。 世 ( よ ) のなかにゃあ、まだ 道理 ( どうり ) ってものがあらあな。」 お百姓さんはこういうと、王さまのお 城 ( しろ ) へでかけていって、うったえごとをきいてください、と、ねがいでました。お百姓さんは、王さまのまえにつれだされました。王さまはお 姫 ( ひめ ) さまといっしょにすわっていましたが、お百姓さんを見ますと、どんなめにあったのかと、たずねました。 「ああ、犬とカエルがおらのものをとりましたで。そいから、肉屋のやつは、金のかわりにおらに 棒 ( ぼう ) をくらわしたでごぜえます。」 こういって、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんは、ことのしだいをくわしく話しました。それをきいたお 姫 ( ひめ ) さまは、大きな声でわらいだしました。すると、王さまはお百姓さんにいいました。 「いまここで、おまえのもうすことがただしいとはきめられぬが、そのかわり、おまえにはわしのむすめをよめにやろう。むすめは生まれてから [#「生まれてから」は底本では「生まれでから」] まだいちどもわらったことがない。それがいま、おまえをわらったのだ。わしは、むすめをわらわせたものに、むすめをやると 約束 ( やくそく ) してあるのだ。おまえは、 幸運 ( こううん ) のお 礼 ( れい ) を 神 ( かみ ) さまにもうすがよい。」 「いやあ、お 姫 ( ひめ ) さまなんぞいりませんや。うちにゃ、たったひとりのかかあがいますだが、あいつひとりでもおおすぎまさあ。うちへけえりゃ、あっちのすみにもこっちのすみにも、かかあが立ってるような気がしますだ。」 と、お百姓さんはこたえました。 すると、王さまはおこって、 「おまえは 礼儀 ( れいぎ ) を知らぬやつだ。」 と、いいました。 「でもなあ、王さま。」 と、お百姓さんはこたえました。 「牛からは、 牛肉 ( ぎゅうにく ) しかとることはできねえでごぜえますでな。」 「 待 ( ま ) て。」 と、王さまがまたいいました。 「おまえには、べつのほうびをつかわすことにする。いまはさがって、三日たったら、もういちどまいれ。そのとき、五百つかわそう。」 お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんがお 城 ( しろ ) の門のまえまできますと、 番兵 ( ばんぺい ) がいいました。 「おまえはお 姫 ( ひめ ) さまをわらわせたな。なにかそうとうのごほうびをいただいたろう。」 「うん、そのとおりだ。」 と、お百姓さんはこたえました。 「五百くださるってえことだ。」 「おいおい、おれにもちっとわけてくんなよ。おまえ、そんなにたくさんの 金 ( かね ) をもって、どうするんだ。」 「おめえのこったから、二百やらあ。三日たったら、王さまのところへ名のってでて、それだけもらいな。」 と、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんがいいました。 ひとりのユダヤ人がその近くにいて、この話をきいていました。ユダヤ人は、すぐにお百姓さんのあとを 追 ( お ) っていって、いいました。 「すばらしいことになりましたなあ。おまえさんは、なんてしあわせものなんだろう。わたしが 両替 ( りょうがえ ) して、 小銭 ( こぜに ) にかえてあげましょう。ターレルのような大きな金じゃ、しようがないでしょうから。」 「ユダ 公 ( こう ) かい。」 と、お百姓さんはいいました。 「おめえにゃ、まだ三百のこってら。いますぐ、 小銭 ( こぜに ) で三百くんな。あと三日たちゃ、王さまんとこで、それだけはらってくださらあ。」 ユダヤ人はちょっとしたもうけにほくほくして、 質 ( しつ ) のわるいグロッシェン 貨 ( か ) でこの 金額 ( きんがく ) をもってきました。グロッシェン貨なら、三 枚 ( まい ) でも、質のいい 金 ( かね ) の二枚ぶんの 値 ( ね ) うちしかないのです。 三日たったところで、王さまのいいつけどおり、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんは王さまのまえにでました。 「この男の 上着 ( うわぎ ) をはぎとれ。」 と、王さまがいいました。 「五百つかわすのだ。」 「あの、もうし。」 と、お百姓さんはいいました。 「その五百は、もうおらのもんではござりません。二百は 番兵 ( ばんぺい ) にくれてやりました。あとの三百は、ユダヤ人が 両替 ( りょうがえ ) してくれましただ。 法律 ( ほうりつ ) のうえからいや、おらのものは 一文 ( いちもん ) もねえでござります。」 そこへ、番兵とユダヤ人がやってきて、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんからうまくせしめたつもりの 金 ( かね ) を、いただきたい、ともうしでました。そのため、ふたりはまちがいなくその数だけうたれました。番兵はじいっとがまんしていました。もうまえから、この 味 ( あじ ) を知っていたからです。けれども、ユダヤ人はひいひい 泣 ( な ) きわめいて、 「ああ、いたっ。これが 約束 ( やくそく ) のターレル 金貨 ( きんか ) ですかい。」 と、いいました。 王さまは、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんをわらわずにはいられませんでした。そして、いままでの 腹 ( はら ) だたしさもすっかりきえてしまって、こういいました。 「おまえは、ほうびをもらわぬうちに、なくしてしまったから、わしがうめあわせをしてやろう。わしの 宝 ( たから ) ぐらへはいって、ほしいだけ 金 ( かね ) をもってくるがよい。」 お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんはすぐさまとんでいって、大きなポケットへ、はいるだけぎゅうぎゅうにつめこみました。それから、 茶店 ( ちゃみせ ) へいって、金をすっかりかぞえてみました。 ユダヤ人は、お百姓さんのあとからそっとついていって、お百姓さんがひとりでぶつぶついっているのをききました。 「王さまのとんちきめ、やっぱりおらをだましゃあがった。こんなに金をくれなきゃ、おらの金がいくらあるだか、ちゃんとわかるになあ。これじゃ、手あたりしだいにねじこんだやつが、いくらになるのか、 見当 ( けんとう ) もつきゃあしねえ。」 「とんでもねえ。」 と、ユダヤ人はひとりごとをいいました。 「あの 野郎 ( やろう ) 、王さまのことを、あんなにひどくいってやがる。ちょいと走ってって、おとどけしてこよう。そうすりゃ、このおれはごほうびがもらえるし、あいつは 罰 ( ばつ ) をくらうだろう。」 王さまは、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんのいったことをききますと、かんかんに 腹 ( はら ) をたてました。そして、ユダヤ人にむかって、おまえいって、そのふとどきものをひきつれてこい、といいつけました。 そこで、ユダヤ人はお百姓さんのところへかけつけました。 「おまえさん、ぐずぐずしないで、いますぐ王さまのところへいくんだよ。」 「どうすりゃええか、おらのほうがよく知ってら。」 と、お百姓さんがこたえました。 「まず、おらにあたらしい 着物 ( きもの ) をこせえさせてくんねえ。なあ、そうだろ、ポケットにこんなにたくさんの 金 ( かね ) をもってる男がよ、古いおんぼろ 服 ( ふく ) のまんまでいかれもしねえじゃねえか。」 ユダヤ人は、お 百姓 ( ひゃくしょう ) さんがほかの 上着 ( うわぎ ) をきないうちは、とてもつれていくことができないとみてとりました。それに、王さまのいかりがしずまったら、じぶんはほうびももらえなくなりますし、お百姓さんは 罰 ( ばつ ) をうけないでもすむかもしれません。そう思いますと、気が気でなくなりました。そこで、 「おまえさんは友だちだから、ちょっとのあいだだけ、おれがきれいな上着をかしてやろう。人間てのは、なんでも 愛 ( あい ) の気持ちでやるものさ。」 と、いいました。こういわれますと、お 百姓 ( ひゃくしょう )