医療制度の課題を議論 — Epoche C1
場面設定: オタワの政策研究所にて、加進歩派と米保守派の医療政策研究者が比較医療制度の共同報告書を協議。 ライアン先生、オタワへようこそ。比較医療制度研究会の共同報告書、いよいよ最終章の執筆段階に入りましたね。米国保守系シンクタンクとカナダ系進歩派研究所の共同執筆は、業界初の試みです。 エリザベス先生、こちらこそ。アメリカ側からは率直に申し上げて、カナダ式単一支払者制度は効率的に見えますが、待機時間の長さが致命的な欠点と認識しております。ヘリテージ財団の2023年調査では、カナダの膝関節置換手術待機期間は中央値20.2週、米国は1.8週です。 その数字を踏まえざるを得ません。ただ、比較の土俵が正確ではないと指摘せざるを得ません。米国の1.8週という数字は「保険未加入者」を分母から除外した結果です。無保険者3,270万人を含めると、中央値は「アクセス不可」、つまり無限大です。 ご指摘は正当です。ただ、カナダ側にも類似の問題があるのではないでしょうか。家庭医不足により650万人がプライマリケアへのアクセスから実質排除されている、というStatistics Canada 2024データがあります。 その数字は認めないわけにはいきません。両国ともそれぞれ異なる形の「見えないアクセス排除」を抱えているのが実態です。共同報告書では、この構造的共通点を隠さず直視すべきです。 賛同いたします。ただ、より踏み込んでお聞きしたいことがあります。カナダ式を絶対視するお立場の進歩派研究者として、一つ違和感があります。ケベック州のプライベート保険併用モデル、いわゆる「シャウリ対ケベック訴訟」以降の展開について、共同報告書で言及を避けたいとお考えですか。 ライアン先生、正直に申し上げて、ご指摘のとおりです。ケベックの二層制モデルは、待機時間を単一公的制度と比較して61%短縮する実証結果がありますが、私の所属するプレッシャーグループでは「米国式へのスリッパリースロープ」として議論を封じてきました。 そのご開示に感謝します。こちらも正直に告白せざるを得ません。ヘリテージ財団内部では、オレゴン州メディケイド実験の2008-2012年ランダム化対照試験結果について、「公的医療が健康アウトカムを統計的有意に改善した」部分を、公式レポートから体系的に除外してきました。私自身、その除外プロセスに加担した経験があります。 両者ともイデオロギー的圧力の下、不都合なエビデンスを隠蔽してきたというわけですね。 そのとおりです。この共同報告書が、両陣営のイデオロギー的歪みを超えた初の客観的比較研究となるためには、我々自身が率先してそれを暴露しなければなりません。 提案があります。報告書の序章に「著者からの告白」という前例のないセクションを設け、私からはケベック二層制モデルの封印、あなたからはオレゴン実験結果の除外を明記する。その上で、本文では両陣営の禁忌テーマを全面的に扱う、という構成です。 革新的な提案です。所属研究所の上層部からは反発が必至ですが、学術的誠実性を踏まえれば、退くわけにはいきません。 解説: イデオロギー対立から相互告白へ転じる和解型の落ち。両陣営が自陣の隠蔽を率先して暴露することで、初の真に客観的な比較研究の地平が開かれる。