事故後に保険会社と手続きを進める — Epoche B2
場面設定: ムンバイの保険会社オフィス、自動車事故後の請求対応。「過失100%」と通告するインド人調査員チャンドラと、ドラレコ映像を持参するバングラデシュ人契約者ラヒム。 ラヒム様、先日の事故に関しまして、当社の調査結果をご報告申し上げます。過失割合は100:0、すなわちラヒム様側に全面的な過失があると認定され、保険金のお支払いはいたしかねるという結論でございます。 チャンドラ様、その結論の根拠を踏まえてご説明いただけますでしょうか。私は優先道路を走行しており、相手車が一時停止を無視して進入してまいりました。 相手側ドライバーの供述と当社調査員の現場写真判断では、ラヒム様側に速度超過があったという結論でございます。 恐れ入りますが、私の車両には前方・後方・車内の3チャンネル録画のドラレコが装着されております。こちらが事故当時の映像とGPSデータでございます。時速46km、制限速度50kmの道路で、相手車が一時停止無視と信号無視を重ねて進入していることが明確に確認できます。 ……映像は、提出いただいておりませんでした。ご提示を踏まえて、再度判定に入らざるを得ません。 加えまして、御社と相手側の保険会社がReliance Groupの同一持株会社下にあることを、IRDAI(インド保険規制開発局)の公開情報で確認いたしました。利益相反の可能性を踏まえますと、御社単独の判定では公正性が担保されないと申し上げざるを得ません。 ……その関係性をご存知でしたか。率直に申しますと、同一グループ内事故では相手側保険の支払いを最小化するよう、社内慣行がございます。これは本音でございます。 その本音をお話しいただけたこと、感謝いたします。ただ、バングラデシュ人契約者としてインドで事故被害に遭い、さらに不利な判定を甘受するわけにはまいりません。 ラヒム様、建設的な方向としてご提案させていただきます。独立第三者鑑定会社AITV社に事故解析を依頼し、同時にIRDAIに苦情申立を行う手続きを、当社側で進めさせていただきます。 貴社側がIRDAI申立を主導されるというのは、異例ではございませんか。 異例ではございますが、映像証拠を踏まえれば、隠蔽を試みれば当社自体がコンプライアンス違反で行政処分を受けるリスクがございます。ラヒム様と共に是正に動くほうが、長期的に当社の利益でもある、というわけです。 承知いたしました。AITV社鑑定とIRDAI申立の進捗次第で、最終的な過失割合が修正されるということですね。期間はどの程度を想定されますか。 鑑定に3週間、IRDAI審査に4週間、合計7週間を想定しております。ラヒム様の保有する映像証拠の強さから、暫定予測では過失割合は20:80、ラヒム様に有利に修正される見込みでございます。 承知いたしました。7週間後の再判定を待たせていただきます。また、この一連のやり取りは録音させていただいております。記録を踏まえた上で、誠実にご対応いただければ、苦情を超える訴訟には進まないことをお約束いたします。 解説: 同持株会社による身内企業保護という保険会社の本音の漏れと、独立鑑定とIRDAI苦情申立で過失比率が逆転する予想外の返し。「制度的圧力に対し正面手続きこそ最大の武器」――保険交渉の核心。