共用廊下の私物 — Epoche C1
場面設定: 香港・九龍湾のマンション、夜。共用廊下に置かれた荷物について、夫婦が相談する。 メイ、廊下のあの段ボール、まだあるんだ。隣の七〇五号、もう二週間以上、放っぽらかしだよ。 あれね、私も毎朝、避けて通ってる。狭い廊下なのに、車椅子の人が来たら通れないよ。さすがに、どうにかしないと。 直接、七〇五号に言いに行くか、それとも、管理組合経由で正式に申し入れるか。どっちがいいかな。 直接行くと、揉めるかもよ。最初から管理組合経由のほうが、後々もやりやすいと思う。管理規約、共用部に私物は禁止のはず。 規約、確認してみよう。スマホで見られるはず。……ほら、第十二条、「共用廊下に私物を置くことを禁ず、違反時は十四日以内に撤去要求」って明記されてる。 じゃあ、もう違反してる期間に入ってるね。明日、管理事務所に文書で申し入れよう。隣家を直接責めるんじゃなくて、規約違反の事実を伝える形で。 あ、待って。今、管理事務所からのお知らせ、ドアに貼ってあったの、見落としてた。「七〇五号前の荷物は、引っ越し業者の手違いで取り残されたものです、本日撤去します」って。 えっ、引っ越し業者の手違い?じゃあ、隣家、悪くないってこと。とっくに気付いて、管理会社に伝えてたんだ。 ……我々、勝手に「ルール違反の隣家」って判断してた。この知らせ、お互い気付いてれば、二週間悩まずに済んだのに。 明日、隣家に「気付かずすみません」って一言、声をかけよう。我々、危うく無実の隣人を責めるところだった。 解説: 「迷惑な隣人」という思い込みの危うさ。情報共有の不足が、無実の住人を加害者にしてしまう構造。管理規約を盾に「正論」で攻めようとした矢先に、すでに事実関係が違っていたという皮肉。マンション生活の人間関係は、まず情報確認から——という教訓。