リハビリの相談 — Epoche C1
場面設定: コペンハーゲンのリハビリテーションセンターで、デンマーク人理学療法士がシリア人難民患者の術後リハビリプログラムを策定する。 カリムさん、先月の右膝前十字靭帯再建手術から6週経過しました。術後経過は良好で、本日から本格的なリハビリプログラムを策定いたします。カルテによれば、負傷原因は建設現場での転落、とのことですね。 イェンス先生、宜しくお願いいたします。早く職場復帰せざるを得ない状況です。家族4人を妻の在宅ワークだけで支えており、私の失業手当も来月で切れます。通常6か月かかるリハビリを3か月に短縮していただけないでしょうか。 ご事情は理解しますが、医学的には慎重にならざるを得ません。ACL再建術後3か月での復帰は再断裂率が32%、6か月まで待つと8%まで下がります。建設現場での再負傷は、今度は再建不可能で人工関節になる可能性が高いのです。 それは理解しております。しかし、デンマーク福祉制度は素晴らしいと伺っておりましたが、シリアからの難民認定保持者には制約が多く、民間保険の休業補償も対象外です。選択肢がないのです。 制度的な問題は私も把握しております。ただ、もう一段踏み込んでお聞かせください。カリムさんの現職は本当に建設現場でなければならないのですか。カルテに書かれた「前職:ダマスカス大学工学部准教授」という記述が気になっています。 それは12年前の話です。デンマーク語のレベルが業界標準に達しておらず、学位認定の手続きにも3年かかると言われ、諦めて建設現場に入りました。私の年齢でゼロから学び直すのは、家族を養いながらでは不可能です。 実は私は5年前から「医療連携キャリア復帰プログラム」の理学療法側を担当しております。このプログラムは、術後リハビリ期間中に患者の前職スキルを再評価し、VIA大学校や産業界と連携して復職支援を行います。カリムさんの工学博士号は、AAU(オールボー大学)の学位認定委員会なら9か月で認定可能と思われます。 9か月ですか。3年と言われて諦めた判断は、情報不足による誤りだったと認めざるを得ません。ただ、その間の生活費はどうすれば。 正直に申し上げて、この制度を建設労働者のカリムさんに案内しなかったのは私たち医療側の怠慢でした。難民背景の患者には「建設現場復帰」を前提にリハビリを組んでしまう傾向があり、デンマーク医師会が昨年指摘した構造的課題というわけです。 先生、そこまで率直にお話しいただけるとは。 では具体的な提案です。第一に、リハビリは医学的標準の6か月をそのまま守ります。第二に、その6か月間に週20時間のリモート学術支援業務をAAU工学部の難民研究員プログラムで提供できるよう、私から連絡いたします。時給380クローネ、月収約30,400クローネです。 月3万クローネあれば家計は成り立ちます。第三は何でしょうか。 解説: 本音の漏れ(医師側が難民患者を建設復帰前提でリハビリ設計してきた怠慢を告白)+予想外の返し(工学博士の前職を活かす学術復帰経路提案)。患者の身体だけでなく社会的可能性まで診るリハビリの再定義。