手術の説明を受ける — Epoche C1
場面設定: サンパウロのアルベルト・アインシュタイン病院にて、ブラジル人外科医カルロスがアルゼンチンから来た患者ロドリゴへ術前説明を行う。 ロドリゴさん、本日は手術のご説明とインフォームドコンセントの時間を頂戴いたします。CT造影の結果、腹部大動脈瘤のサイズが5.7センチに達しており、破裂リスクを踏まえますと手術介入が不可避という状況でございます。 カルロス先生、ありがとうございます。アルゼンチンから治療のために参りました次第、しっかりご説明いただければと存じます。手術には具体的にどのような選択肢がございますでしょうか。 主要な選択肢は二つでございます。第一は従来型オープン手術、開腹して動脈瘤を人工血管に置換する方法。入院14日、回復8〜12週、30日死亡率3.2%でございます。第二は血管内治療EVAR、鼠径部から挿入したカテーテルでステントグラフトを留置する方法。入院3日、回復1〜2週、30日死亡率1.1%でございます。 死亡率、入院日数、回復期間のいずれもEVARが優れているように思えるのでございますが、先生のご推奨はオープン手術と承知しております。その根拠を伺えればと存じます。 率直に申し上げますと、ロドリゴさんの瘤形状に関してはEVARの方が医学的に第一選択と判断すべきでございます。瘤の首が十分長く、左右の腎動脈との位置関係も良好、EVAR適応の教科書的ケースでございます。 ……それでしたら、なぜオープン手術のご推奨でございましょうか。率直にご説明いただければと存じます。 私も率直に申し上げる次第でございます。当院でのEVAR年間症例数は12例でございます。欧米の基準に関して申しますと、EVAR実施施設は年間30例以上が術者習熟の目安とされております。私個人のEVAR経験は過去5年で通算39件、第一助手として実施した症例のほとんどはサンパウロ大学病院の指導医が執刀したものでございました。 つまり、先生ご自身がオープン手術の方が熟練度が高く、当院の体制もそちらに適しているというわけでございますね。 その通りでございます。私のオープン手術症例は過去5年で182件、成績は国際基準を上回っております。ただ、ロドリゴさんの症例に関しては、EVARが医学的第一選択である以上、当院でオープン手術を勧めるのは術者の都合を優先することにつながりかねません。それは医療倫理上許されないわけでございます。 ご率直なお言葉、かえって信頼を抱かせていただきます。それでは、どのような進め方をご提案いただけますでしょうか。 三つの選択肢をご提示いたします。第一に、サンパウロ大学病院へご紹介申し上げ、EVAR年間120例実績のシルヴァ教授にお任せする道。第二に、当院でオープン手術を私が執刀する道、30日死亡率3.2%を覚悟いただく次第でございます。第三に、シルヴァ教授を当院にお招きし、私が第一助手として共同執刀する道。これはアインシュタイン病院とサンパウロ大学病院間の既存協力体制で実現可能でございます。 三番目の共同執刀案に強く心惹かれます。EVARの熟練度を確保しつつ、先生との継続的関係も維持できる次第でございますね。手続き上の煩雑さ、費用面での変化、スケジュールへの影響はいかがでございますでしょうか。 費用はシルヴァ教授の執刀料が加算されまして総額約12%増、国際医療保険で通常カバー範囲内でございます。スケジュールはシルヴァ教授のご都合次第、概ね4〜6週間後の手術日を目安にしております。本日中にシルヴァ教授と直接連絡を取り、ご都合を確認した上でロドリゴさんに正式なご提案書をメールにてお送りいたします。 ご自身の症例数を正直に開示してくださった上で、より良い選択肢をご提示くださったことに、心から感謝いたします。共同執刀案でお願いできればと存じます。シルヴァ教授のご都合のご連絡を、ホテルでお待ち申し上げます。 解説: 外科医が自院EVAR症例数の不足を率直に告白する本音の漏れと、自己利益を超えた他院教授との共同執刀を提案する予想外の返しが、医療倫理の真髄を示す。