遺産相続について相談 — Epoche C2
場面設定: エルサレム旧市街近くの法律事務所で、イスラエル人弁護士がアメリカ人依頼者の国際相続案件を相談する。 マイケルさん、ニューヨークから遠路お越しいただき恐縮です。亡きアブラハム叔父様の遺産相続の件について、ご相談内容を整理させていただきます。エルサレムの旧市街に築120年の石造り建物、時価約420万ドルとの評価ですね。 ゴールドマン先生、宜しくお願いします。叔父は生前、この建物を「アメリカに住む甥のマイケルに譲る」と家族に公言していました。遺言書もあります。ただ、先月エルサレムの従兄ダビッドから突然、所有権を主張する訴状が届きました。単純に叔父の意思を実現していただければと。 お話を踏まえますと、単純な案件には見えません。三つの法的複雑性がございます。第一、この不動産がイスラエル国内にある以上、イスラエル1965年相続法が準拠法です。第二、旧市街の建物は歴史保全地区指定により外国人への所有権移転に制限があります。第三、そしてこれが最大の問題ですが、1948年以前の土地登記記録を確認する必要があります。 1948年以前の記録、とは。叔父が1962年にイスラエルに移住してから購入した建物のはずですが。 オスマン帝国登記簿とイギリス委任統治時代の記録を調べたところ、この建物は1946年までパレスチナ人ハディリ家の所有でした。1948年の離散で登記が不在者財産局管轄に移り、1961年にあなたの叔父様が当時のイスラエル政府から購入されたという経緯があります。合法な購入ではありますが、倫理的にも法的にも単純ではありません。 初耳です。叔父は一切そのような話をしなかった。率直に申し上げて、動揺しております。 さらに率直に申し上げねばなりません。2005年以降、ハディリ家の三代目の子孫ナビールさんがヨルダンから返還訴訟を準備中との情報があります。マイケルさんが相続し売却した場合、将来的に国際司法裁判所や欧州人権裁判所で係争となる可能性が高く、資産が凍結されるリスクがあります。 それでは、従兄ダビッドの所有権主張は何のため。 ダビッドさんの主張を精査しますと、実は彼も相続そのものより、「イスラエル国内で資産を処分し、ハディリ家との和解を模索したい」との意向です。ただ、彼は従来の親族間争いの形式でしか交渉を切り出せなかったというわけです。 つまり、従兄は対立しているように見えて、実は似たような悩みを抱えていると。 そのとおりです。そこで三段階の解決策を提案いたします。第一、マイケルさんとダビッドさんの代理人として、私が共同でハディリ家のアンマン在住のナビールさんと接触します。第二、建物を三者共有名義に移行し、「過去和解信託」を設立します。 三者共有ですか。具体的にはどのように運用を。 建物をパレスチナ・ユダヤ共同運営の文化交流施設として再整備し、収益の40%をハディリ家、30%をダビッドさん、30%をマイケルさんに配分。歴史保全地区の要件にも合致します。第三、ヘブライ大学とビルゼイト大学の共同研究拠点として無償利用枠を設けることで、イスラエル文化遺産当局と東エルサレム評議会の双方から認可を取り付けざるを得ない構造を作ります。 解説: 勘違いの発覚(叔父が買った物件は1948年離散のパレスチナ人家系の旧所有地)+予想外の返し(対立に見えた従兄も同じ和解志向)。歴史的不正を法的相続の枠組みで三者共有信託に転換する大局的解決。