The Izumi Shikibu Diary — Izumi Shikibu
和泉式部日記 和泉式部日記 (群書類從) 群書類從卷第三百二十 日記部一 作者:和泉式部 編者:塙保己一 寬弘五年 1008年 姉妹プロジェクト:Wikipediaの記事, テキスト, データ項目 『和泉式部日記』(いずみしきぶにっき)は、和泉式部によって記された日記。女流日記文学の代表的作品である。冷泉帝第四皇子帥宮敦道親王と和歌や手紙などを取り交わし、最終的に帥宮邸に迎えられるまでの数ヶ月間の出来事をつづる。この間の和歌の取り交わしと、この恋愛に関する和泉式部のありのままの心情描写が本作品の大きな特色である。— ウィキペディア日本語版「和泉式部日記」より。 和泉式部日記 夢よりもはかなき世中を歎きつゝ。明し暮す程に。はかなくて四月(長保五)十日あまりにもなりぬれは。このしたくらかりもていく。はしのかたを眺むれは。ついひちのうへの草のあをやかなるも。ことに人はめとゝめぬを。あはれに眺むる程に。ちかきすいかいのもとに。人のけはひのすれは。誰にかと思ふほとに。さし出たるをみれは。故宮(爲尊)にさふらひしことねりわらはなりけり。あはれに物を思ふほとにきたれは。なとかいと久しう見えさりつる。とをさかる昔のなこりにはと思ふをなといはすれは。その こと 〳 〵 さふらはては。なれ 〳 〵 しきやうにやとつゝましうさふらふうちに。日比山寺にまかりありき侍るになむ。いとたよりなくつれ 〳 〵 に候へしかは。御かはりに見まいらせむとて。帥の宮(敦道)になむ參りて侍しと語れは。いとよき事にこそあなれ。其宮はいとあてにけちかうおはしますなるは。昔のやうにはえしもあらしなといへは。しかおはしませと。いとけちかうおはしましてまいるやとゝはせ給ふ。參りはへりと申侍つれは。これまいらせよ。いかゝ見給ふとて橘をとりいてたれは。昔の人のといはれて見る([にイ])まいりなむ。いかゝきこえ させんといへは。こと葉にきこえさせんもかたはらいたうて。なにかは。あた 〳 〵 しくも聞えさせ給はさるを。はかなきこともと思ひて。 かほる香によそふるよりは郭公きかはや同し聲やまさると さしいてたり。またはしにおはしましけるほとに。かのわらは。かくれのかたにけしきはみありけは。かくれのかたにて御覽しつけて。いかにそとゝはせたまふに。御文をさし出たれは。御覽して。 同しえになきつゝをりし郭公聲はかはらぬものとしらなん とかゝせ給て。わらはに給はすとて。かゝる事人にいふな。すきかましきことのやうなりとて。いらせ給ひぬ。持てゆきたれは。おかしと見れと。つねにはとて御ふみはきこえす。たまはせそめて。またの日。 うちいてゝもありにし物を中々に苦しきまても歎くけふ哉 との給はせたり。もとの心ふかゝらぬ人の。ならはぬつれ 〳 〵 のわりなくおもほゆるに。はかなき こと なれと。めとまる こと なれは。御かへしきこゆ。 けふのまの心にかへて思ひやれ詠めつゝのみすくす月日を かくしは 〳 〵 のたまはするに。御返もとき 〳 〵 きこゆ。又つれ 〳 〵 もすこしなくさむ心ちしてあるほとに。又御ふみあり。 こと はなとこまやかにて。 語らはは慰む方もありやせんいふかひなくは思はさらなむ あはれなる御ものかたりも聞えはや。しのひてくれにはいかゝとのたまはせたれは。 慰むときけは語らまほしけれとみの憂事にいふかひそなき おひたる足にては。かひなくやと聞えつくれは。思ひかけぬに。忍ひていかんとおほして。晝よりさる御こゝちして。日比も御文とりつきてたてまつる。右近のさうなる人しつめて忍ひてめして。ものへいかんとのたまはすれ は。さなめりとおもひてさふらふ。あやしき車にて。かくなんといはせ給へれは。女いとびなき心ちすれと。なしと聞ゆへきにもあらす。ひるも御返きこえさせつれは。ありなからは。さなからかへし奉らんもなさけなし。物はかりはきこえさせむとおもひて。にしのつまとにわらうた(圓座)さし出て入たてまつるに。世の人のいへはおほゆるにやあらむ。まことになへての御さまにはあらす。いとなまめかし。これも心つかひせられて。ものなと聞ゆるほとに。月さし出ぬ。いとあかし。ふるめかしうおくまりたるみなれは。かゝるところなとには居ならはぬを。いとはしたなきこゝちもするかな。そのおはする所にすへ給へ。よもさき 〳 〵 見給ふらん人のやうにはあらしとのたまへは。あやし。こよひのみこそきこえさすなとおもひ侍れ。さき 〳 〵 はいかてかはとはかなき こと きこゆるほとに。夜もやう 〳 〵 ふけぬ。かくてあかしつへきにやとて。 はかもなき夢をたにみて明しては何をか夏の夜語りにせむ とのたまへは。かくなむ。 よと共にぬるとは袖を思ふみものとかに夢を見る宵そなき まいてときこゆ。かろ 〳 〵 しきありきなとすへきにもあらす。なさけなきやうにおほすとも。まことにものおそろしきまてこそおほゆなとのたまひて。やをらすへりいり給ひぬ。いとわりなきこゝちすれと。いふかひなきに。事ともをいひちきりて。あけぬれはかへり給ぬ,いまのまはいかゝとあやしくこそとて。 戀といへはよの常のとや思ふ覽今朝の心はたくひたになし 御返し。 よの常の事ともさらにおもほえす初て物をおもふみなれは ときこえても。なをあやしかりける身かな。こはいかなる事そとあはれに。古宮のさはかり のたまひしものをとかなしう思ひみたるゝほとに。れいのわらはきたり。御文あらむとおもふほとに。さもあらねは。心うしとおもふほとも。すき 〳 〵 しや。かへりまいるに聞ゆ。 またましもかはかり社︀は有まし[か]思もかけぬけふの夕暮 宮御らんして。けにいとおしうもあるかなとおほせと。かゝる御ありきさらにせさせ給はす。北の方と。れいの人の中のやうにこそおはしまさねと。よことにいてんはあやしとおほしぬへし。故宮の御はて(六月十三日)まてはいたうそしられしとつゝむも。いとねんころにおほさぬにそ。くらき程にそ御返しありける。 ひたすらにまつ共いはゝ休らはて行へきものを妹か家路に をろかにやおほしめすらんとおもふこそくるしけれとあれは。たゝなにかこゝにはとて。 かゝれとも覺束なくも思ほへて是も昔のえにこそあるらめ とおもひ給ふれは。なくさめすはたへんやは。つゆをときこえたり。おはしまさんとおほしめせと。ひころに成ぬ。つこもりの日。女。 郭公よに隱れたる忍ひねをいつかはきかんけふしすきなは ときこえさせたれと。人々あまたさふらふほとなれは。御らんせさせてつとめて(五月一日)もてまいりたるを見たまひて。 忍ひねはくるしきものを郭公こたかき聲をけふよりはきけ とて。二三日ありてしのひてわたらせ給たり。女はものへまいらむとて。さうし(精進)なとしたるうちに。いとまとをなる御心さしのなきなめりかしと。なさけなからしとはかりにこそと見れは。 こと に物なともきこえて。佛に こと つけ奉りてあかしつ。つとめていとめつらかにあかしつるなとの給はせて。 いさやまたかゝる思を知ぬ哉あひてもあはて明るものとは あさましとあり。さそあさましきさまにおほしつらんといとおしくて。 よと共に物思ふ人は夜とてもうちとけてめのあふ時もなし めつらかにも覺え侍らすときこえつ。又の日けふやものに出給ふ。いつか歸り給へからん。いかにましておほつかなからんとあれは。 おりすきはさても社︀やめ五月雨の今宵菖蒲のねをやかけまし とこそ思給へ。かへりぬへけれと聞えて。まうてゝ。二三日はかりありてかへりたれは。宮よりいとおほつかなく成にけれは。まいりてとおもふを。いとこゝろうかりしにこそ。ものうくはつかしう覺えて。いとおろかにこそはおほされぬへけれ。日ころは。 つらけれと忘れやはする程ふれはいと戀しきにけふはまけ南 淺からぬ心のほとをさりともとあれは。 まくるともみえぬ物から玉葛とふ人すらもたえまかちにて と聞えたり。宮れいの忍ひておはしましたり。をんなさしもやはとおもふうちに。日ころのをとなひにくるしうて。うちまとろみたるほとに。かとたゝくをきゝとかむる人もなし。きこしめす事もあれは。人なとのあるにやとおほしめして。やをらかへらせ給ぬ。つとめて。 あけさりし槇の戶口に立なからつらき心のためしとそ見し うきはこれにやと思にも。哀になんとあり。よへおはしましたりけるなめりかし。心もなくね入にける哉と思ひて。 いかてかは槇の板戶もさし乍らつらき心のありなしをみん をしはからせ給ふへかめるこそ。みせたらはとあり。こよひもおはしまさまほしけれと。かかる御ありきを。人々もせいし聞ゆるを。內(公季)の大臣東宮(三條)なとのきこしめさんことも。かろかろしきやうなりなとおほしつゝむほとに。いとはるかなり。雨うちふりていとつれ 〳 〵 なるころ。女はいとゝ雲間なきなかめに。世中はいかに成ぬるならんとつきせすのみなかめて。すき事する人々はあまたあめれと。たゝい まもともかくも思はぬを。よの人は樣々いふへかめれと。身のあらはこそとのみ思ひてすくす。宮より。雨のつれ 〳 〵 はいかゝとて。 おほかたにさみたるゝとや思ふらん君戀渡るけふの詠めを とあれは。おりすくい給はぬをおかしと見る。あはれなるおりしもとおもひて。 忍ふらん物ともしらてをのかたゝみをしる雨と思ひける哉 とかきて。かみのひとへをひき返して。 ふれはよのいとゝ憂身のしらるゝを今日の詠めに水增ら南 待遠にやと書すさひたるを御覽して。立返り。 何せんにみをさへ捨てんと思らん天か下には君のみやふる たれもうきよをとあり。五月六日になりぬ。雨猶やます。ひとひの御返の。つねよりも物おもひたりしさまなりしをあはれとおほし出て。いたくふりあかしゝつとめて。こよひの雨のをとは。いとおとろ 〳 〵 しかりつるをなと。まめやかにの給はせたるを。 よもすから何事をかはおもひつる窓うつ雨の音をきゝつゝ かけも([にイ])居なからあやしきまてなむときこえさせたれは。なをいふかひなくはあらすかしとおほして。御かへし。 我もさそ思やりつる雨の音をさせるつまなき宿はいかにと ひるつかた。水まさりたりときゝて。人々見るに。宮も御覽して。いまのほといかゝ。水みになんいてはへりつる。 大水のきしつきたるにくらふれと深き心はなをそまされる さはしり給へりやとある。御返し。 今はよもきしもせしかし大水の深きこゝろは川と見せつゝ かひなしやと聞えさせたり。おはしまさむと思して。御火取なとめすほとに。侍從のめのとまうのほりて。出させおはしますはいつちそ。このこといみしう人々申すなるは。なにのやむことなき人にもあらす。めしつかはせおはしまさんとおほしめさは([むイ])かきりは。めしてこ そ使はせおはしまさめ。輕々しき御み([イナシ])ありきは猶いとみくるしき事。そか中にも。人々あまたいみしく通ふ所也。びなき事もいてまうてきなん。すへて 〳 〵 よからぬ こと は。この右近のそうなにかしか初むるなり。故宮もこれこそはゐてありき奉りしか。よる夜中とありかせ給ふては。よき事やはある。かゝる御ありきの御供にありかん人々は。大殿(道長)に申さむ。世中はけふあすともしらすかはりぬへかめり。殿のおほしをきてし事ともある物を。よのありさま御覽しはつるまては。かゝる御ありきなくてこそおはしまさめなと聞え給へは。いつちかいかむ。つれ 〳 〵 なれは。はかなきすさひ事なむとするにこそあれ。こと 〳 〵 しう人のいふへきにもあらすとはかりの給はせむには。あやしくすけなき物にこそあれ。さるはいと口おしからぬ物にこそあめれ。よひてやをきたらましと思せと。さてもまして聞にくき事そあらんなと思し亂るゝほとに。おほつかなく成ぬ。辛うしておはして。あさましう心より外に覺束なくなるを。をろかになおほしそ。御あやまとなん思ふ。かく參りくるをびなしと思ふ人々數多あるやうにきけは。いとおしくなん。おほかたもつゝましきうちにいとゝ程へぬると。まめやかに御物語し給ひて。いさ給へ。今宵はかり人もみぬ所あり。心のとかに物も聞えんとて。車をさしよせ給ひて。たゝのせにのせ給へは。われにもあらすのりても。人もこそきけと思ふ 〳 〵 いけは。いたう夜ふけにけれは。しる人もなし。やをら人もなきらうのあるにさしよせて。おりさせ給ひぬ。月もいと明けれは。おりねと忍ひての給へは。さまあ([あさまイ])しきやうなれはおりぬ。さりや([イニナシ])人もみぬ所そかし。今よりもかやうに聞えさせむ。人なとも あるおりにやと思へは。つゝましうてなむなと。物語あはれにし給ひ。明ぬれはくるまよせ給てのせ給て。御をくりにもまいるへけれと。あかう成ぬへけれは。ほかに有けると人のみむもあひなしとて。とまらせ給ぬ。女かへる道すから。あやしのありきや。いかに人思ふらんとおもへと。明ほのゝ御すかたの。なへてにはあらさりつる御さまもおもひいてられて。 よひことに返しはすれといかて猶曉おきは君になさせし くるしかりけれとあれは。 朝露におくる思ひにくらふれはたゝに歸らん宵はまされり さら 〳 〵 にかゝる事きかし。夜さりは方ふたかりなり。御迎へに參らむとあれは。あなくるし。常にはなと思へと。れいの車にておはしたり。さしよせて。はやはやとあれは。さも見くるしき事かなとおもふ 〳 〵 。ゐさり出てのりぬれは。よへのところにて物かたりなとし給うへは。院の御方にわたらせ給ふとおほす。あけぬれは鳥のねつらきとの給はせて。やをらうちのせておはしましぬれは。道すから。かやうならんおりはかならす 〳 〵 との給はすれは。常にはいかてかときこゆ。おはしまして歸らせ給ぬ。しはしありて御ふみあり。けさはうかりつる鳥の音におとろかされてつらかりつれはころしつ。み給へとて鳥のはねにかきて。 ころしても猶あかぬ哉ねぬ鳥の折ふししらぬ今朝の初聲 御返し。 いかゝとは我こそ思へ朝な 〳 〵 なきゝかせつる鳥を殺せは とおもひたまふるを。とりのとかならぬにやとあり。二三日ほとありて月いみしうあかき夜。はしに出ゐて見るほとに。いかにそや。月は見たまふやとて。 我ことくおもひはいつや山のはの月にかけつゝなけく心を れいのおりよりはおかしきうちにも。宮にて 月のあかゝりしに。ひとやみるらむとしのひたりし。おもひいた([てイ])らるゝほとに。ふと。 一夜見し月そと思へと詠れは心もゆかすめはそらにして と聞えても。なを獨なかめゐたるほとに。はかなくてあけぬ。又の夜おはしましたりける。こなたにはきかす。かた 〳 〵 に人のすむ所なりけれは。そなたに人の來