「Aさん、転職するらしい」 — Epoche C1
場面設定: 大手町のオフィスビル一階のカフェ、平日の昼休み。同期入社の二人が、サンドイッチを片手に同期Aの転職を肴に話す。 由紀、聞いた?営業のAさん、来月いっぱいで辞めるらしいよ。スタートアップに移るんだって。本社の人事に直接、辞表を持って行ったらしい。 聞いたよ、私、人事だから。年収が今の1.5倍だって、Aさん本人から聞いた。さすが、うちの同期の中で一番優秀だったよね。 1.5倍か。すごいな。俺なんて、入社してから給料がほぼ横ばいだよ。会社が悪いとは言わないけど、なんか、こう、最近は「停滞」って言葉がしっくりくるんだよね。 分かる。人事って安定はしてるけど、これといって挑戦してるっていう感覚がないんだよね。Aさんの話を聞くと、自分の毎日がちょっと薄く見えちゃう。 「ちょっと薄い」って表現、リアルすぎ。でもさ、転職って簡単に言うけど、家族のこととか住宅ローンとか、いろいろあるから、なかなか踏み切れないんだよな。 そうだね。Aさんも奥さんと相当話し合ったらしいよ。1年前から準備して、エージェントとも何回も会って。覚悟が、たぶん私たちとは全然違ったんだろうね。 1年前から、か。動いてる人はちゃんと動いてるんだな。俺は口では「いつか転職したい」って言いながら、結局何も動いてない。Aさんに置いていかれた気分だよ。 いや、置いていかれたって思うのは、まだ早いよ。私たちだってこれからじゃない?刺激として受け取って、自分が動き出すきっかけにすればいい。 由紀、なんかいいこと言うね。さ、午後も頑張ろう。報告書、まだ3本残ってる。 ……拓也、私さ。実は半年前から、転職したいってずっと思ってたんだよね。今日Aさんの話を聞いて、もう先送りにはできないって気がしてる。 解説: 同期の転職を語っているうちに、聞き役だったはずの由紀のほうが、実は本気で動こうとしていた、という静かな反転。「弱いつながり」が刺激として機能する典型例。最後の一言で、噂の話が自分の人生の話に変わる。