「あの上司、来期辞めるって」 — Epoche C1
場面設定: 東京・霞が関のオフィスの給湯室、休憩時間。同僚の慎也と麻里が、上司の退職の噂を声を落として語る。 麻里さん、ちょっと耳に入れときたい話があって。例の中島部長、来期辞めるって、企画の鈴木さんが言ってたんだけど。 えっ、本当?でも、鈴木さん経由って、確かな話とは限らないよね。あの人、いつも情報、半分くらい盛ってない? 確かに半分は盛り癖あるけど、今回は妙に具体的でさ。後任の名前まで挙げてた。それ聞いて、ちょっと信憑性、上がった気がして。 具体的なほど怪しいって、言えなくもないよ。人事の正式発表は来月の役員会後、ってことになってるし、それまでは何も決まってないも同然。 そうなんだけど、もし本当だったら、こっちのプロジェクト、引き継ぎとか、結構大変になる。早めに知っておきたい、って気持ちが正直ある。 気持ちは分かる。でも、ここで広めると、慎也くんが情報源、ってことになっちゃうよ。役員会の前に噂が広がったら、出処を辿られる。 ……それは怖い。給湯室での雑談のつもりが、出処、っていう扱いになるのは勘弁してほしい。 うん。だから、ここで二人で聞いた、ってことに留めて、誰にも言わないことにしよう。引き継ぎの心配は、正式発表の直後でも遅くない。 了解、ここで止める。あ、ちょうど鈴木さんから追加情報が来てる。……ん? どうしたの?何て? 「ごめん、辞めるんじゃなくて、来期、うちらの部署が他部署に統合される、って話だった」、だって。中島部長、辞めない。辞めるのは、俺たちの部署の方。 解説: 退職という「他人事の噂」が、最後の一行で「自分たちの部署の解体」という当事者問題に裏返る。ゴシップ寸前で踏みとどまった節度と、組織再編の冷たさがすれ違いざまに同時に描かれる。